夢幻世界

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第一章 0番の世界

第9話 仕組み

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 ラークが帰った後、セリーナのことをアルバートに任せてバルは中心の島、レストラクト島へと帰ってきていた。

「世界番号3120……。もし俺に何か恨みがあるなら、俺に攻撃を仕掛けてくるはずだよなー。別の世界に移動させようとするってことは、この世界に敵を送り込むのは、俺の仲間が多いから太刀打ちできないと考えてのことか、それとも、この世界に妖怪を送り込むという動作を連続してはできないからか。いろいろ考えられるけど、今は行くしかないか」

 あの伝言を聞く限り、従わなければこの世界が危険な目に合うことは容易に想像ができた。
 バルがそんなことを考えていると、アースが書類を持ってきた。

「調べてきましたよ。世界番号3120はIASBと呼ばれる世界のようです」
「アイエーエスビー?」
「【Infinite Ability & Strange Background】というものの略称のようですね。無限の能力と奇妙な背景という意味らしいです」
「イン……? それどういう言語?」
「世界番号3番の人間の世界にある『英語』と呼ばれる言語です。1番は神、2番は妖怪、3番は人間の世界で、この3個の世界からすべてが始まった、というのは一年程前に話しましたよね」
「おーそれは覚えてる」
「この人間の世界が、豊かな想像力で空想の絵や物語を作り出し、世界を急速に増やしていったとされているんです」
「へえー」
「一つの世界に一人の神とよく言われますが、これは正直間違っていて、人間の世界では同じ作者がいくつもの世界を生み出すこともあります。その場合、生み出された世界には神はついていません。一つの世界に一人の神は、神が創った世界にのみ通用する常識ということです。それと、神が創ってそれが大神に認められたら番号が割り振られる、それが世界番号だという認識、これも間違っているとも言えますね」
「ほお?」
「人間が作り出した空想の世界にも、しっかりと世界番号はつきますし、これらを全て大神が管理するなんて不可能です。まあ、だから0番とかいうこの世界の異例さが目立つのですが……。大神に認められていないからという理由では説明がつかないので」
「うんうん」
「さらに言うと、作者がいれば世に出ていない、もしくは作者以外の誰にも認知されていなくても、世界は生み出されます」

 「え」と、先ほどまで適当に相槌を打つだけだったバルが声を上げた。

「それ、ちょっと頭の中で物語作ったら、すぐにその世界が創られるってことだよね? ものすごい速さで世界の数が増えていくんじゃ……」
「その通り。だから世界は無限にあるんですよ。しかもその無限のうち80%以上が神がいない、即ち人間の作者によって作られた世界というわけです」
「なるほど」

 神の世界の小屋にあった書物には、その事が一切載っていなかった。全ての世界は神から生まれると思っていたバルにとっては、初耳の事実だ。

「しかし、作者の作った物語と実際にできた世界は、必ずしもその物語と全く同じように話が進むとは限りません」
「というと?」
「妖怪や神がその世界に介入することがあるからです」
「あー、俺たちが3120の世界に介入すると3120の作者が描いた、もともとの物語の内容とは変わってくるもんな」
「そういうことです。あとは、世界の中でも更に並行世界が誕生したり、別宇宙が存在したりと結構複雑なんですよ。ちなみに世界は消滅することもありますが、その話はまた今度。さてと、世界の仕組みの勉強を理解したところで、話を戻しましょうか」

 そういうとアースは世界番号3120の情報が載った書類を、バルの前に置いた。

「これが世界番号3120の情報です」
「おー、字がいっぱいだ」
「奇妙な背景と呼ばれている理由が、この部分」

 書類の一部分を指差す。

「作者不明……?」
「この3120の世界に神はいません。そのため人間が創ったということは確かなので、作者が存在するはず。普通こんなことは起こらないんです。世界が生まれると同時に作者に関しても記録に残るはずなのに、この3120だけは作者が記録にない」
「だから奇妙だと」

 アースは首を縦に振り、「そして」と言葉をつづけた。

「無限の能力ですが、どうやらこの世界は『クラリス』と呼ばれる能力を持った人間達の世界のようで、その能力が様々あることから無限の能力という意味をつけたのかと」
「なーるほどね。となるとIASBってその物語の題名じゃなくて、あとからつけられた適当な呼び名ってこと?」
「そうなりますね。書類を見ての通り、この世界には名前がないので、誰かが勝手につけたのでしょう。神がいないから人間の世界で作られた。それならとりあえず、その人間の世界にある言語で適当な名前を付けよう。といった感じで」
「それで英語ってやつが選ばれて、勝手に名前が付けられてIASBになったと」
「ええ、おそらく」

 話を聞きながら、バルは書類を軽く流し見していく。

「たまに能力を持っていない人もいるのか。面白いね。にしてもなんでこの世界を指定してきたんだろう」
「深い意味はないと思いますけど、考えられる理由としては、神がいないため妖怪たちが動きやすい。能力を持った人たちの世界だから妖力を使っても違和感がない。とかだと思います」
「あり得るね」





 アースの説明に納得した後、バルは書類を置いて伸びをする。そして「さてと」と言って椅子から立ち上がった

「この世界の結界を強化しておかないとね。もうすでに行きと帰りで二回も穴をあけられたし。それに俺が指示に従ったとしても攻めて来る可能性もある。あーそれと、俺がいない間、統治を任せる奴を決めないとね」
「そうですね。とりあえず先に結界を強化しておきましょう」

 現在の結界は二重結界で、あまり強度がない。この国全体を囲うように四重結界にするのだ。
 バルとアースはレストラクト島の中心に生えている巨大な世界樹の内部から出て、その頂上を見上げる。結界の構成の中心部分となっているのがこの世界樹だった。

「下から見ると首が痛いな。まあこんなにデカいから内部に空間作って暮らせるんだけど」
「この木は初めて私とエンドがこの世界に来た時からありますね。もとからこれくらいの大きさでしたけど」
「俺が勢いで創ってたからな。よし、登るか」

 そう言って、アースを影に戻し、足に力を加えて地面を蹴った。一回のジャンプで、世界樹の一番下にある横に伸びた太い幹へと軽々と飛ぶ。一番下と言っても、巨大な世界樹での一番下のため、50mは優に超えていた。

 その調子でどんどん上の幹や枝に飛び移り、頂上までたどり着く。
 そこには少し広い空間が広がっており、丸い水晶のようなものが浮かんでいた。これが結界の本体だ。
 一見むき出しのように見えるが、バルが一週間かけて作り出したため、並大抵の力では絶対に破壊できない代物となっていた。また、結界が破れても数秒もすれば回復するようになっている。

 バルは、水晶玉に手をかざし、神力を流し込んだ。先ほどまでは透明だった玉が徐々に光を増していく。そして世界樹全体を包み込むように広がった後、何事もなかったように元の透明な水晶玉に戻った。
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