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第一章 0番の世界
第6話 暴走
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疲れに身を任せて草原に寝転んでいると、「ドンッ」と鈍い音が遠くから微かに聞こえてきた。
「んぁ? なんだ、今の音」
眠りにつきかかっていた体を起こしてバルが言う。
「爆発音……ですかね。この方向だと、ラキシノーゼの方です」
「あいつらがまた喧嘩でも始めたか?」
そう言った後、少し別の『なにか』の雰囲気を感じた。
「いや違うな、これは……」
「感じますか」
そちらの方にもう一度意識を集中させる。すると明らかにおかしな空気が風に乗って流れてきているのが感じられた。
「これは妖力だね」
「しかし誰のものでしょう」
「間違いなく外部からの何かだよ。この世界にいる仲間たちの妖力とは雰囲気が違う」
「とりあえず早く向かった方がよさそうだ。バルが疲れているなら俺が乗せる。アース、お前も乗れ」
エンドはいつの間にか黒竜の姿に代わっていた。
「助かるよ。なるべくスピードを出してくれ」
「了解」
風の抵抗を受けないよう、バルが自身とアースを囲む空気のドームを作ると同時に、エンドが離陸しラキシノーゼ島のほうへ飛び始めた。結構なスピードのため、三分もすればつくだろう。
「どう思う」
「この妖力ですか。この世界の生き物たちも持ってはいますが、それとは確かに雰囲気が違います。さっき言っていた通り外部の何者かですね」
「だけど、どうやってこの国に部外者が入ってきたんだ」
「この世界には結界を張ってますし、入ってくるのは困難なはずです。入れるとしたら……」
「相当な力を持った妖怪か、神」
「そうなりますね。しかし先ほど感じたのは妖力なので妖怪でしょう。それに、この国に入れるほどの強さではない、むしろものすごく弱かった。おそらく下級レベルです」
「まあ、そうだよね。妙だけど、とりあえず行ってみるしかないか」
あそこには結構な数の竜族とグリフォン族がいたため、一人くらい何が起きたのか説明できるやつもいるだろう
(着くぞ)
エンドから声が届く。見えてきたラキシノーゼ島は何やら騒がしく、バルの予想していたような喧嘩とは違い、協力して何かと戦っているようだった。
「そのまま近づいて、島の端に降りるよ」
島に近づくにつれ、何かが暴れているのが見えてきた。周りにいるのはおそらくあの二族。暴れている何かを止めようとしているようだ。
バルは島に降り、近くにいたグリフォン族の兵士を捕まえる。
「どういう状況だ?」
「主様! それが、セリーナ様が今までよりも格段に強い力で急に暴走しだしたんです! 何とか止めようとしているのですが歯が立たず……」
「暴走?」
聞き返したとき、また別の声が聞こえた。
「隊長、もう限界です! 怪我人が多すぎます!」
「わかった、すぐ行く! ……失礼します」
兵士が走り去っていくのを見送る。
急な暴走、今まで以上の力、分からない事だらけではあったが緊急事態だということは明らかだった。
「急いで向かうぞ!」
そう言ってバルは、アースとエンドを連れて森の中へ走り出した。
だんだんと音や声が大きくなる。そして音のもとへたどり着いたとき、目の前には普通より大きいグリフォンが一体と、そのグリフォンの動きを止めようとしている竜族とグリフォン族が見えた。
あの兵士の言っていたことから、あの大きいグリフォンがセリーナだということが一目でわかる。
我を失ったかのように暴れまわり、先ほどまで一緒に戦っていたはずの同族でさえ襲っていた。
「ひとまず動きを止めないと。流石にセリーナと知った上で殴って止めることはできないからなあ……。結構大きいけど、あの程度なら氷で少しくらいは止めれるかな。動ける奴は全員ここから離れて負傷者の手当てをよろしく」
バルが指示を出すと、今まで戦っていた兵士たちがグリフォンの周りから離れ、怪我人を遠くへ運び出した。
「アース、エンド、俺が凍らせて動きを止める。その後は俺にヘイトが向かないようにセリーナの気を散らして。精神安定の効果のある術でも使えば落ち着くだろうから」
「「了解」」
二人の了承と共に、出力を減らした妖力を右手に集め地面に打ち付ける。
すると、打ち付けたところから水色の線が伸び、氷柱が連立しだした。その氷柱はグリフォンの足元まで立ち並び、最終的に足を飲み込んだ。
すべての足が氷漬けになり動けなくなったグリフォンは、氷の発生源をにらみつけ、威嚇するように翼を広げて大声で鳴いた。
「貴方の相手はこっちですよ」
その声に反応して、グリフォンはバルと反対の方向へ振り向くが、その声の主を捉えることはできなかった。
その代わりに、自慢の立派な嘴の上に軽々と立ち、グリフォンの目をのぞき込むアースを捉える。
「ずいぶんと興奮してますね、らしくない。あんまり暴れると、せっかくの綺麗な翼が傷つきますよ。ここ狭いんですから」
振り払おうとするグリフォンの頭を軽快に移動しながら、アースは何事もないかのように話しかける。
そこにエンドの広域テレパシーが聞こえてくる。
『耐性があるか、鼓膜を破りたい奴以外は全員耳をふさげ』
その言葉の後、グリフォンの前にエンドが飛んで姿を現した。
「やるのはいいですけど加減してくださいよ、セリーナの耳が聞こえなくなったりでもしたら大問題なんで」
「わかってる、お前も離れとけ」
アースは言われたとおりにグリフォンから離れ、距離をとる。それを見てエンドはグリフォンに向き直った。
「悪いな、少し頭が痛くなるかもしれないが我慢してくれ」
そう言ってエンドは小型の黒竜へと姿を変えて口を開いた。すると、口の前に紫の魔法陣が形成される。
同時に超音波のような奇妙で甲高い音が大音量で響いた。草木が揺れ、水面には波が立つ。十秒ほど鳴ったところで、その音は止んだ。
さすがのグリフォンもこの音には耳を痛くしたようで、苦しそうな鳴き声と共にひるんで動きが鈍くなった。
「やっぱりこれは痛いな。面倒がらずに耳ふさいでおけばよかった」
この機会を逃さない様に、バルはグリフォンに近づく。そして動きが鈍くなった体に手を当てた。
「さてと、おねんねの時間だよー。さっきの音で頭も痛いだろうし、ちょうどいいでしょ」
当てた手から回復魔法をかける。するとグリフォンはそのまま倒れこみ、全く動かないほどの深い眠りについた。
「相変わらず便利だなあ、回復って。傷の治療だけじゃなくて快眠に精神安定、体力回復、何でもありじゃん」
眠っているグリフォンを見ながらバルはつぶやく。
「まあ、普通は傷を治す程度ですけどね」
「結局使い魔契約しても、俺たちそんなにお前のこと知れてないからな。見るたびに驚きしか襲ってこないが、正直もう驚くことすらやめた」
アースとエンドが合流してくる。
「そういうけど、さっきの二人も相当だったよ。アースはどうやってあんな一瞬で顔まで移動したんだよ、その後もあんなに揺れる足場でよくもまあ軽快に動けたもんだね。エンドも手加減してあの音は絶対おかしい。俺でも耳が痛かった。セリーナなんて、目チカチカさせてたよ」
そんな話をしている間に、眠っているグリフォンは人の姿に戻っていた。
「んぁ? なんだ、今の音」
眠りにつきかかっていた体を起こしてバルが言う。
「爆発音……ですかね。この方向だと、ラキシノーゼの方です」
「あいつらがまた喧嘩でも始めたか?」
そう言った後、少し別の『なにか』の雰囲気を感じた。
「いや違うな、これは……」
「感じますか」
そちらの方にもう一度意識を集中させる。すると明らかにおかしな空気が風に乗って流れてきているのが感じられた。
「これは妖力だね」
「しかし誰のものでしょう」
「間違いなく外部からの何かだよ。この世界にいる仲間たちの妖力とは雰囲気が違う」
「とりあえず早く向かった方がよさそうだ。バルが疲れているなら俺が乗せる。アース、お前も乗れ」
エンドはいつの間にか黒竜の姿に代わっていた。
「助かるよ。なるべくスピードを出してくれ」
「了解」
風の抵抗を受けないよう、バルが自身とアースを囲む空気のドームを作ると同時に、エンドが離陸しラキシノーゼ島のほうへ飛び始めた。結構なスピードのため、三分もすればつくだろう。
「どう思う」
「この妖力ですか。この世界の生き物たちも持ってはいますが、それとは確かに雰囲気が違います。さっき言っていた通り外部の何者かですね」
「だけど、どうやってこの国に部外者が入ってきたんだ」
「この世界には結界を張ってますし、入ってくるのは困難なはずです。入れるとしたら……」
「相当な力を持った妖怪か、神」
「そうなりますね。しかし先ほど感じたのは妖力なので妖怪でしょう。それに、この国に入れるほどの強さではない、むしろものすごく弱かった。おそらく下級レベルです」
「まあ、そうだよね。妙だけど、とりあえず行ってみるしかないか」
あそこには結構な数の竜族とグリフォン族がいたため、一人くらい何が起きたのか説明できるやつもいるだろう
(着くぞ)
エンドから声が届く。見えてきたラキシノーゼ島は何やら騒がしく、バルの予想していたような喧嘩とは違い、協力して何かと戦っているようだった。
「そのまま近づいて、島の端に降りるよ」
島に近づくにつれ、何かが暴れているのが見えてきた。周りにいるのはおそらくあの二族。暴れている何かを止めようとしているようだ。
バルは島に降り、近くにいたグリフォン族の兵士を捕まえる。
「どういう状況だ?」
「主様! それが、セリーナ様が今までよりも格段に強い力で急に暴走しだしたんです! 何とか止めようとしているのですが歯が立たず……」
「暴走?」
聞き返したとき、また別の声が聞こえた。
「隊長、もう限界です! 怪我人が多すぎます!」
「わかった、すぐ行く! ……失礼します」
兵士が走り去っていくのを見送る。
急な暴走、今まで以上の力、分からない事だらけではあったが緊急事態だということは明らかだった。
「急いで向かうぞ!」
そう言ってバルは、アースとエンドを連れて森の中へ走り出した。
だんだんと音や声が大きくなる。そして音のもとへたどり着いたとき、目の前には普通より大きいグリフォンが一体と、そのグリフォンの動きを止めようとしている竜族とグリフォン族が見えた。
あの兵士の言っていたことから、あの大きいグリフォンがセリーナだということが一目でわかる。
我を失ったかのように暴れまわり、先ほどまで一緒に戦っていたはずの同族でさえ襲っていた。
「ひとまず動きを止めないと。流石にセリーナと知った上で殴って止めることはできないからなあ……。結構大きいけど、あの程度なら氷で少しくらいは止めれるかな。動ける奴は全員ここから離れて負傷者の手当てをよろしく」
バルが指示を出すと、今まで戦っていた兵士たちがグリフォンの周りから離れ、怪我人を遠くへ運び出した。
「アース、エンド、俺が凍らせて動きを止める。その後は俺にヘイトが向かないようにセリーナの気を散らして。精神安定の効果のある術でも使えば落ち着くだろうから」
「「了解」」
二人の了承と共に、出力を減らした妖力を右手に集め地面に打ち付ける。
すると、打ち付けたところから水色の線が伸び、氷柱が連立しだした。その氷柱はグリフォンの足元まで立ち並び、最終的に足を飲み込んだ。
すべての足が氷漬けになり動けなくなったグリフォンは、氷の発生源をにらみつけ、威嚇するように翼を広げて大声で鳴いた。
「貴方の相手はこっちですよ」
その声に反応して、グリフォンはバルと反対の方向へ振り向くが、その声の主を捉えることはできなかった。
その代わりに、自慢の立派な嘴の上に軽々と立ち、グリフォンの目をのぞき込むアースを捉える。
「ずいぶんと興奮してますね、らしくない。あんまり暴れると、せっかくの綺麗な翼が傷つきますよ。ここ狭いんですから」
振り払おうとするグリフォンの頭を軽快に移動しながら、アースは何事もないかのように話しかける。
そこにエンドの広域テレパシーが聞こえてくる。
『耐性があるか、鼓膜を破りたい奴以外は全員耳をふさげ』
その言葉の後、グリフォンの前にエンドが飛んで姿を現した。
「やるのはいいですけど加減してくださいよ、セリーナの耳が聞こえなくなったりでもしたら大問題なんで」
「わかってる、お前も離れとけ」
アースは言われたとおりにグリフォンから離れ、距離をとる。それを見てエンドはグリフォンに向き直った。
「悪いな、少し頭が痛くなるかもしれないが我慢してくれ」
そう言ってエンドは小型の黒竜へと姿を変えて口を開いた。すると、口の前に紫の魔法陣が形成される。
同時に超音波のような奇妙で甲高い音が大音量で響いた。草木が揺れ、水面には波が立つ。十秒ほど鳴ったところで、その音は止んだ。
さすがのグリフォンもこの音には耳を痛くしたようで、苦しそうな鳴き声と共にひるんで動きが鈍くなった。
「やっぱりこれは痛いな。面倒がらずに耳ふさいでおけばよかった」
この機会を逃さない様に、バルはグリフォンに近づく。そして動きが鈍くなった体に手を当てた。
「さてと、おねんねの時間だよー。さっきの音で頭も痛いだろうし、ちょうどいいでしょ」
当てた手から回復魔法をかける。するとグリフォンはそのまま倒れこみ、全く動かないほどの深い眠りについた。
「相変わらず便利だなあ、回復って。傷の治療だけじゃなくて快眠に精神安定、体力回復、何でもありじゃん」
眠っているグリフォンを見ながらバルはつぶやく。
「まあ、普通は傷を治す程度ですけどね」
「結局使い魔契約しても、俺たちそんなにお前のこと知れてないからな。見るたびに驚きしか襲ってこないが、正直もう驚くことすらやめた」
アースとエンドが合流してくる。
「そういうけど、さっきの二人も相当だったよ。アースはどうやってあんな一瞬で顔まで移動したんだよ、その後もあんなに揺れる足場でよくもまあ軽快に動けたもんだね。エンドも手加減してあの音は絶対おかしい。俺でも耳が痛かった。セリーナなんて、目チカチカさせてたよ」
そんな話をしている間に、眠っているグリフォンは人の姿に戻っていた。
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