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第一章 0番の世界
第5話 復元
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解散した後、バルは白いドラゴンへと姿を変え、クオムカンス島へと向かっていた。
クオムカンス島はラキシノーゼ島から、普段バルたちが生活しているレストラクト島を挟んで反対側にあるため、少し時間がかかるが、ドラゴンの姿ではゆっくり飛んでも十分ほどで着く距離だった。
しばらく飛んでいると、砂に覆われた島が見えてきた。
「あそこか」
周りには島を覆うように砂が舞い上がって渦のようになっていて、島の様子は外からは見えなかった。
ある意味神秘的ともいえるが、不便でしかない。
「すごい砂埃ですね」
「ここに突っ込むのか……」
「防御くらいできるだろ? たかが砂だ。防御壁で全身覆っておけば痛くないし、目にも入らないから大丈夫だ。まあでもここに突っ込むのは、少し気が引けるが」
言われるがままに全身を防御壁で囲う。透明な壁が光を反射して一瞬キラリと光ったのが見えた。
バルは深呼吸をして、とりあえず比較的砂の少ない上空に上がる。中心から一気に落下していった方が風に流されにくい。
「二人とも影に戻ってね。結構なスピードで突っ込むから」
バルがそう言うと、二人は黒い液体のようになって白い竜にできた黒い影に消えていく。
(いいですよ)
頭の中に響くように流れた同意を聞いてから、狙いを定め大きく翼を動かす準備をする。普通に落下するより数倍の速さは出るため着地が心配だったが、考えている暇があったら動いた方がいいと判断した。
そして落下と同時に思いっきり真下に向かって羽ばたいた。一瞬で砂の中に突っ込む。視界がとてつもなく悪い。
その直後少し視界が開けたところでスピードを落とした。
「やばい……かも」
少しブレーキが遅れたようで、そんなにスピードが落ちてない状況で地面が迫ってくる。
体を地面と平行にして、垂直離陸をするときの要領でもう一度大きく翼を動かす。
一瞬体が重くなり、その後ふわっと軽くなった。何とかスピードは落とせたようだ。そのままゆっくり地面に足をつけた。
「あっぶねぇ……」
相当高くからスタートしたため結構な距離があったのだが、思っていたよりスピードが速かったようだった。
バルは久々に感じた焦りに、少しだけ荒くなった呼吸を落ち着かせる。
「もう出てきていいぞー」
そう言うと白い竜と砂だらけの地面にできた影から再び二人が姿を現した。
「あのままスピードを緩められずに地面に突っ込んでいたら、この島今頃二つに割れてましたよ」
「流石に直すといった島を破壊したら、面目丸つぶれだったな」
「え、二人とも島の心配? 俺のことは?」
「どうせこんなことじゃ貴方死なないでしょ」
「ああ、ちょっと頭が痛いくらいだろうな」
「え、あ、はい」
十三年も共に過ごして、お互いのことに詳しくなったために、少しの心配もしない二人と共に、バルは辺りを見渡した。
「にしても酷いありさまだねー、ここ」
あるのは、砂とところどころ落ちている何かの骨、壊れて石の塊となっている元建物くらいだ。
「こんなんになるまで放置してたのは誰でしょうね」
「二族の争いの原因にもなったしな」
「……それにはぐうの音も出ません。説教は後でじっくりお茶でも飲みながら聞くから、今はこっちを終わらせよ」
軽く流してから、砂だらけの地面に右手をつく。目を閉じて完成図をしっかりと頭にイメージし、右手のひらに神力を送った。
瞬間、手と地面の境目から黄色い光が漏れ出し、そこを中心にして外に向かって風が吹き抜けた。一瞬にして今までの砂嵐は消え去り、視界がクリアになる。
その後も神力を流し続けると、今度は砂だった地面が緑色に代わり、草が生え始めた。そこから数秒でその緑は島全体に広がり、木々や山を生成した。
「こんなもんか」
手に付いた砂をはらって、再びあたりを見渡す。
山の頂上には雪が積もっていて、雪解け水が川となり流れている。その川は山のふもとの大きな湖と合流していた。木々の間には既に野生動物が生まれていて、生きていくには何の申し分もない完璧な島。ここがあの砂漠だったクオムカンス島だとは誰もわからないだろう。
「見違えるくらい綺麗になったな」
「それに、こんなに神力使ったのに倒れないあたり、さすがですね」
「そりゃどーも、最強の幻獣達から賞賛してもらえるなんて光栄極まりないね。気に入ったなら、ここで少しのんびりしていこうか」
珍しく褒めてくる仲間と共に、バルは草原に腰を下ろした。島を丁寧に作りすぎたためか、力自体はほとんど減っていないのにいつもより少し疲れた気がする。
「そういえば、影の中ってどんな感じなの?」
先程やった影に入るというのは、最近編み出したものだった。簡単で比較的目立たずにエンドとアースを呼び出したり隠したりできる。
いちいち紫の輪を通して呼び出すという工程をすべて無くすことができた優れものだ。
「影の中っていうくらいだからやっぱ何も見えない?」
「いや、移動方法が変わっただけであの紫の輪を使っていた時と内側は変わらない」
「内側? そこに何かしらの空間ってあるの?」
「影でも輪でも、入ると小さな島一個分くらいの広さの空間があって、俺もアースもその空間にいる。さらに、入ってきた場所が扉になっていて、その扉が開きっぱなしになっているから外の世界が見れる。呼び出す意志を持って名前を呼ばれると、体が自然に扉の外に引っ張られるんだが、自分たちの意思で出ることもできる」
「へー、知らなかった。その扉が閉まると君らは外で何が起きてるか分からないし、出てくることもできないってことね。今まで閉まってたことは?」
「今のところないですね。どういう条件下で閉まるのかも、実はよく分かってないんです」
そんな話をしながら、疲労感に任せて草原に寝転んでいると、「ドンッ」と鈍い音が、遠くから微かに聞こえた。
クオムカンス島はラキシノーゼ島から、普段バルたちが生活しているレストラクト島を挟んで反対側にあるため、少し時間がかかるが、ドラゴンの姿ではゆっくり飛んでも十分ほどで着く距離だった。
しばらく飛んでいると、砂に覆われた島が見えてきた。
「あそこか」
周りには島を覆うように砂が舞い上がって渦のようになっていて、島の様子は外からは見えなかった。
ある意味神秘的ともいえるが、不便でしかない。
「すごい砂埃ですね」
「ここに突っ込むのか……」
「防御くらいできるだろ? たかが砂だ。防御壁で全身覆っておけば痛くないし、目にも入らないから大丈夫だ。まあでもここに突っ込むのは、少し気が引けるが」
言われるがままに全身を防御壁で囲う。透明な壁が光を反射して一瞬キラリと光ったのが見えた。
バルは深呼吸をして、とりあえず比較的砂の少ない上空に上がる。中心から一気に落下していった方が風に流されにくい。
「二人とも影に戻ってね。結構なスピードで突っ込むから」
バルがそう言うと、二人は黒い液体のようになって白い竜にできた黒い影に消えていく。
(いいですよ)
頭の中に響くように流れた同意を聞いてから、狙いを定め大きく翼を動かす準備をする。普通に落下するより数倍の速さは出るため着地が心配だったが、考えている暇があったら動いた方がいいと判断した。
そして落下と同時に思いっきり真下に向かって羽ばたいた。一瞬で砂の中に突っ込む。視界がとてつもなく悪い。
その直後少し視界が開けたところでスピードを落とした。
「やばい……かも」
少しブレーキが遅れたようで、そんなにスピードが落ちてない状況で地面が迫ってくる。
体を地面と平行にして、垂直離陸をするときの要領でもう一度大きく翼を動かす。
一瞬体が重くなり、その後ふわっと軽くなった。何とかスピードは落とせたようだ。そのままゆっくり地面に足をつけた。
「あっぶねぇ……」
相当高くからスタートしたため結構な距離があったのだが、思っていたよりスピードが速かったようだった。
バルは久々に感じた焦りに、少しだけ荒くなった呼吸を落ち着かせる。
「もう出てきていいぞー」
そう言うと白い竜と砂だらけの地面にできた影から再び二人が姿を現した。
「あのままスピードを緩められずに地面に突っ込んでいたら、この島今頃二つに割れてましたよ」
「流石に直すといった島を破壊したら、面目丸つぶれだったな」
「え、二人とも島の心配? 俺のことは?」
「どうせこんなことじゃ貴方死なないでしょ」
「ああ、ちょっと頭が痛いくらいだろうな」
「え、あ、はい」
十三年も共に過ごして、お互いのことに詳しくなったために、少しの心配もしない二人と共に、バルは辺りを見渡した。
「にしても酷いありさまだねー、ここ」
あるのは、砂とところどころ落ちている何かの骨、壊れて石の塊となっている元建物くらいだ。
「こんなんになるまで放置してたのは誰でしょうね」
「二族の争いの原因にもなったしな」
「……それにはぐうの音も出ません。説教は後でじっくりお茶でも飲みながら聞くから、今はこっちを終わらせよ」
軽く流してから、砂だらけの地面に右手をつく。目を閉じて完成図をしっかりと頭にイメージし、右手のひらに神力を送った。
瞬間、手と地面の境目から黄色い光が漏れ出し、そこを中心にして外に向かって風が吹き抜けた。一瞬にして今までの砂嵐は消え去り、視界がクリアになる。
その後も神力を流し続けると、今度は砂だった地面が緑色に代わり、草が生え始めた。そこから数秒でその緑は島全体に広がり、木々や山を生成した。
「こんなもんか」
手に付いた砂をはらって、再びあたりを見渡す。
山の頂上には雪が積もっていて、雪解け水が川となり流れている。その川は山のふもとの大きな湖と合流していた。木々の間には既に野生動物が生まれていて、生きていくには何の申し分もない完璧な島。ここがあの砂漠だったクオムカンス島だとは誰もわからないだろう。
「見違えるくらい綺麗になったな」
「それに、こんなに神力使ったのに倒れないあたり、さすがですね」
「そりゃどーも、最強の幻獣達から賞賛してもらえるなんて光栄極まりないね。気に入ったなら、ここで少しのんびりしていこうか」
珍しく褒めてくる仲間と共に、バルは草原に腰を下ろした。島を丁寧に作りすぎたためか、力自体はほとんど減っていないのにいつもより少し疲れた気がする。
「そういえば、影の中ってどんな感じなの?」
先程やった影に入るというのは、最近編み出したものだった。簡単で比較的目立たずにエンドとアースを呼び出したり隠したりできる。
いちいち紫の輪を通して呼び出すという工程をすべて無くすことができた優れものだ。
「影の中っていうくらいだからやっぱ何も見えない?」
「いや、移動方法が変わっただけであの紫の輪を使っていた時と内側は変わらない」
「内側? そこに何かしらの空間ってあるの?」
「影でも輪でも、入ると小さな島一個分くらいの広さの空間があって、俺もアースもその空間にいる。さらに、入ってきた場所が扉になっていて、その扉が開きっぱなしになっているから外の世界が見れる。呼び出す意志を持って名前を呼ばれると、体が自然に扉の外に引っ張られるんだが、自分たちの意思で出ることもできる」
「へー、知らなかった。その扉が閉まると君らは外で何が起きてるか分からないし、出てくることもできないってことね。今まで閉まってたことは?」
「今のところないですね。どういう条件下で閉まるのかも、実はよく分かってないんです」
そんな話をしながら、疲労感に任せて草原に寝転んでいると、「ドンッ」と鈍い音が、遠くから微かに聞こえた。
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