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五章 離宮にて
22 ぬいぐるみとファスナー
しおりを挟むその時「クロチルド嬢を僕にくれないか」と、フォルカーがいきなり問題発言をぶちかました。クリス殿下は少し目を瞬かせたが「私はもう婚約破棄した身だ。フォルカーが望むのなら、行って迫ってみたらどうか。弟も立候補するだろうが、まあ頑張れ」と励ました。
それから思い付いたように殿下は立ち上がって、フォルカーと少し内緒話をする。「それは使えるけど、一歩間違えると──」彼は腕を組んで考え込んだ。
隣でジョサイアがそろっとスチュアートに聞いている。
「俺、どこまで報告したらいいんだ?」
ジョサイアは頭を抱えている。魔族とか魔王とか自分の手に余る。
「誰にだ」
「将軍に……」
将軍ってあの貫禄のある人だろうか。
スチュアートはジョサイアの腕を掴んで詰め寄った。
「いいか、あの方は過去の栄光にこだわっておられる。確かにこの国の危機に際して抜群の功名を立てられた」
「スチュアート、お前その言い方は──」
「聞け。過去の栄光に対して、今のお立場では物足りないと思っておられるのだ」
「なっ、なにを、そんな──」
ジョサイアには受け入れられない。子供のころから憧れた英雄なのだ。
「あの方はこの国の武力の要だからなあ」
フォルカーが溜め息のように言葉を吐き出す。
「それを笠に着ているとでも──」
「着ていないと言えるか」
「きさまは武力の何たるかを知らん! 威圧がなければ皆を押さえられん、言葉も届かん。武威があればこそ鎮まるのだ」
「きさまこそ知略の何たるかを知らん! 剣を抜き放つ前に、頭で少しでも考えろ。その剣がどこに向かうか、その剣で何をなすべきか」
「いうまでもない事、考えている!」
二人は互いの襟首を掴んで睨み合った。一歩でも引かないつもりだ。
「ジョサイア、スチュアート。武力と知略は国の両輪だ。どちらも失えない」
クリス殿下が睨み合ったふたりの間に立つ。
「いい機会だ、国の在り方について考えるのも、論じるのも。まったく新しい国の在り方を、未来を、自分の出来る事を考えてみないか」
ふたりは言い合いを止めて、クリス王子の言った言葉の意味を飲み込もうと考え込んだ。
殿下は魔王様と話して、違う未来を見つけたのだろうか。
「シドニー、ダールグレン副長官に時間を作って頂きたいと」
「分かりました。私はしばらく先生の所で謹慎しますね」
シドニーがひらひらと手を振って出て行く。
「じゃあ僕はラフォルス公爵家を覗いてみるか」
フォルカーは頑張るようだ。
「俺はしばらく親父に付いているかな」
スチュアートは情報を集めるようだ。
「騎士団で鍛錬してくる」
ジョサイアは魔王様に挑戦したいのだろうか。
いや、ジョサイアはランツベルク将軍に報告するのを躊躇ったのだ。だから言わでもな事をスチュアートに口走ってしまった。
何故、と自分自身に問う。
「リナ、この前言ったクマのぬいぐるみというのは作れるか」
皆さんを送って戻ると、クリス殿下が言う。
「私、裁縫とか得意じゃないです」
「ミランダに手伝ってもらって、作ってみろ」
「うっ……」
(クマにクマを作れと)
殿下は梨奈をミランダに任せると、テーブルの向かい側で何かを作り始めた。
「リナ様、お入り用の物はございますか」
「ええと、裁縫道具一式と布と綿かしら」
王子に紙を貰って、一応の出来上がり絵を描いて。
「型紙ってこんな感じかしら。頭は丸いのよ、手と足と胴と、耳があったわ」
二人で手やら足やら作っていく。ひっくり返して綿を詰めると、ミランダがなるほどという風に頷いた。
「目と鼻をボタンにして、口周りって出っ張ってたかしら、尻尾はうーん」
いざ作るとなると何も覚えていない。それでも何とか、手と足と頭を縫い付ければ出来上がった。ほとんどミランダに作ってもらったが。
「もっと、もこもこした布がいいわね。フェルトとか毛糸とか。可愛いリボンつけよう」
梨奈がリボンをつけていると、ミランダが感心したように言う。
「こんなに大きいのですね」
「そう、抱っこして一緒に寝るの」
「ああ、そういう使い方をするんですね。小さい子供は喜ぶでしょうね」
「ええ」
小さい子供じゃないけど、嬉しくて離せないわ。
「リナ、ちょっとここはどうなるんだ」
「はい」
ミランダにぬいぐるみを預けて、クリス殿下の側に行く。殿下はファスナーを作っていた。コレはちょっと梨奈には分からない。そこらを見回してテーブルの下にいるジェリーを見つけた。
「ジェリー、ちょっと手伝ってくれる?」
『はーいー』
エルフがテーブルの下から出てきた。
「えーと、そのままで着ぐるみになれる?」
『なるー』
後ろ頭にスライダーの取っ手が出来た。
「殿下、どうぞ」
「ああ、こうなっているのか」
スライダーを動かして、殿下が言う。
ジェリーの中は、どうなっているのかと覗き込んだけど、中はスライムのうにゃうにゃだった。
それからしばらくして来客があった。
「殿下、エルマー商会の会頭が参っております」
「ああ、こちらに通してくれ」
「私、ここに居ていいの?」
「別に構わないだろう」
やがて執事が、クルクルの黒髪で日に焼けた三十がらみの男を案内して来た。
「お呼びだと伺い、参りました」
「呼びつけてすまない。謹慎中なものでな」
エルマーはクリス王子の側に目立たない栗色の髪の少女がいるのに気付いた。王子は簡単に「リナだ」と紹介する。
しかし、エルマーはさすが商会の会頭をするだけあって目利きであったので、梨奈に認識阻害の魔道具が装着されている事に気付く。チラリとクリス王子を見た。
魔法庁のダールグレン教授に師事して、魔道具など数々の装備品を作ってしまう王子だ。この王子が作ったのだろう。という事は──。
「早速だがこういう物は作れるか?」
クリス殿下はエルマーの前に先ほど作ったファスナーを置いた。
「はあ、金具を交互にして、止め金具で開いたり閉じたりする。ははあ、この金具の所がみそですな」
「用途は、バッグとか服とか色々ありそうだと思うが」
「さようですね。なかなか面白そうです」
「それから、人形なんだが」
殿下が梨奈とミランダが作った人形と、書いた要望書のようなものを渡す。
「こんな感じのを作ってくれるか。出来たら持って来て欲しい」
「分かりました。職人に作らせましょう」
少し世間話をして、男は帰って行った。
クリスティアン殿下はずっと人払いをしていて、気付かなかったが、梨奈はこの離宮で初めて貴族の生活を思い知る事になる。
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