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二章 死神養成学校
三話
しおりを挟むアロウはひらと俺の前に飛び降りると、俺の体を抱えて空に飛び上がった。俺はアロウの首にしがみ付く。
「アロウ……?」
アロウはチラリと俺の方を見たが、何も言わずにそのまま夜空を翔ける。満天の星空の中、流れ星のように銀の光が零れた。
やがて前方に、小さな家が見えてきた。二階建ての赤い屋根、窓辺に花が植えてある。
アロウは俺を抱えたまま玄関の前に下りて、そのまま家の中に入ってゆく。
可愛らしいキッチン、ギンガムチェックのテーブルクロス、リビングのテラスには白いレースのカーテン。俺はアロウの腕の中から部屋の中を見回した。俺を抱いたまま、アロウは二階に上る。
二階はベッドルームで、ピンクの水玉模様の、フリルが一杯付いたベッドカバーの上に、アロウは俺を下ろした。
「どうだ?」と、その綺麗だが、無表情な人形のような顔を、少し傾けて聞いた。濃い紫の瞳の中に、嬉しげな俺の顔が映っている。
この無表情な獅子人形の死神は、どうも、少女趣味というか、こういう可愛げなピンクのフリルとかが好みらしい。
「ステキだけど、此処は……?」
ベッドに下ろされても、アロウの首に腕を回したまま俺は聞いた。アロウはその俺の唇を、チョンと啄ばんで囁いた。
「私とお前の新居だ。早く死神になって来い」
そうか、死神にも家があるのか。ここは俺とアロウの新居なのか。ここで俺とアロウは、新婚生活を営むわけか──っ!!
俺はアロウに抱きついてキスをした。
「嬉しいよアロウ。俺、頑張るからね」
もう後は、余計な言葉なんか要らなかった。
俺たちは身に着けているものをお互いに脱がしあい、深く深く唇を重ねた。
アロウのモノに手を伸ばし「ねえ、キスさせて」とせがむと、アロウはベッドに横になって、俺を跨がせ、頭をアロウの足元に向くようにしたんだ。
アロウのモノに手を沿え、舌やら唇やらで丁寧に奉仕すると、アロウも俺のモノを口で愛撫しながら、俺の蕾を丹念に解し始めた。指が増えて何度も抽挿されると、俺の口の方が段々お留守になる。
「うん……、アロウ……、もう……」
堪らなくなって催促すると、アロウは起き上がり、俺の背中に覆い被さって、ゆっくりと俺の中にその勃ち上がったモノを沈めた。
「ああ……ん、んふ……」
「動くぞ」
アロウは俺に覆い被さったままゆっくりと、次第に激しく俺を突き上げた。
「ああん……アロウ、アロウ……」
伸ばした手をアロウが上から掴んだ。そのまま身体を起こされて、胡坐を組んだアロウの上に座らされた。
アロウは俺の身体に手を回し、乳首をクネクネと揉み上げ、もう一方の手で俺のモノを扱いた。下から何度も突き上げられて、俺は何度も上り詰めて弾けた。
「ねえ、アロウ」
「何だ」
「俺、何で実体化しないんだ?」
ベッドの中で、俺はこうしてアロウに腕を絡めて、横たわっているけれど、俺の身体は魂のままだ。
アレだけ感じたら、二時間は実体化するんじゃないか?
アロウは俺の肩に腕を回したまま、しばらく黙って天井を見ていたが、そのまま、おもむろに言った。
「あれは嘘だ」
「……? 何が…?」
アロウの口角が少し上に上がったように感じた。その途端、俺はベッドの下にごろりと転がり落ちた。
「イタ……、アロウ……」
俺はベッドの下からアロウを見上げたが、何処にもアロウの姿は見えない。俺は立ち上がってキョロキョロと辺りを見回した。そしてベッドの上に行こうとしたが、弾き返されてしまった。
「アロウ!?」
泣きそうになった俺の背後から、ゆっくりと手が伸びて抱き締められた。銀色の髪がサラリと俺の視界を横切った。
「悪かった」
「悪かったって、何だよ!」
振り向いてアロウの身体にしがみ付いた。銀の髪と、アロウの腕が、俺を優しく抱き締めた。
一体どういうことなんだ? 嘘って何が? 見上げると濃い紫の瞳の中に、不安そうに揺れる俺の顔が映っていた。
* * *
「アロウ……」
「七斗、また来る」
明け方、アロウはそう言い残し、俺を学校の中庭に置いて行ってしまった。
とりあえず新居が待っていることだし、余計なことは考えないで頑張らなければ……。
しかし、俺が部屋に戻った途端、余計な事を俺にぼんぼん吹き込む奴が、てぐすね引いて待っていたんだ。
「きゃあぁぁ──!! 七斗──!! あんたヴァルファ様とどういう関係!?」
部屋のドアを開けた途端、入り口一杯に広がって、両手を頬に持って行き、嬉しげに叫んだのは鬼のロクだった。
「へ……?」
「銀のヴァルファ様よー!! あたしたち鬼族の憧れの的♪」
ロクはそう言って、手を首の横で重ねて「うふ」と嬉しそうに笑った。
「あたしねえ、あの方に憧れて死神になる事にしたの~」
ロクはとってもミーハーな鬼のようだが……。
「ええと、そのヴァ…何とかって人って……?」
「ヴァルファ様よぉ~。ずっと、冥界にいらっしゃったんだけどぉ、最近、地上に転勤なさったの~~~」
何処から見たのか知らないが、どうもロクは人違いしているようだ。
「人違いじゃないか? さっきの奴はアロウといって……」
俺がそう言いかけると、ロクはけたたましく俺を遮った。
「あらー、あんなお綺麗な方は、二人といらっしゃらないわ~~~!! 七斗、どういうお知り合い? 一晩ご一緒だったでしょ」
鬼のロクがひとつしかない目を輝かせ、俺を肘でこのこのと突付く。俺は立っていられないでよろめきながら、どういうことだと考えた。
「ちょっと待てよ! ヴァルファが本当に、こいつを送って来たって?」
そこに鬼を掻き分けて現れたのは、美しい天使だった。光り輝く美貌をキラキラと振り撒きながら、俺を睨み付けた。
天使のオセはその青い瞳でキッと俺を睨みつけ、白い羽をパタパタとはためかせて言った。
「許せない! ヴァルファは俺のものだ」
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