上 下
12 / 45
二章 死神養成学校

三話

しおりを挟む

 アロウはひらと俺の前に飛び降りると、俺の体を抱えて空に飛び上がった。俺はアロウの首にしがみ付く。
「アロウ……?」
 アロウはチラリと俺の方を見たが、何も言わずにそのまま夜空を翔ける。満天の星空の中、流れ星のように銀の光が零れた。

 やがて前方に、小さな家が見えてきた。二階建ての赤い屋根、窓辺に花が植えてある。


 アロウは俺を抱えたまま玄関の前に下りて、そのまま家の中に入ってゆく。
 可愛らしいキッチン、ギンガムチェックのテーブルクロス、リビングのテラスには白いレースのカーテン。俺はアロウの腕の中から部屋の中を見回した。俺を抱いたまま、アロウは二階に上る。

 二階はベッドルームで、ピンクの水玉模様の、フリルが一杯付いたベッドカバーの上に、アロウは俺を下ろした。

「どうだ?」と、その綺麗だが、無表情な人形のような顔を、少し傾けて聞いた。濃い紫の瞳の中に、嬉しげな俺の顔が映っている。
 この無表情な獅子人形の死神は、どうも、少女趣味というか、こういう可愛げなピンクのフリルとかが好みらしい。

「ステキだけど、此処は……?」
 ベッドに下ろされても、アロウの首に腕を回したまま俺は聞いた。アロウはその俺の唇を、チョンと啄ばんで囁いた。
「私とお前の新居だ。早く死神になって来い」

 そうか、死神にも家があるのか。ここは俺とアロウの新居なのか。ここで俺とアロウは、新婚生活を営むわけか──っ!!

 俺はアロウに抱きついてキスをした。
「嬉しいよアロウ。俺、頑張るからね」
 もう後は、余計な言葉なんか要らなかった。


 俺たちは身に着けているものをお互いに脱がしあい、深く深く唇を重ねた。
 アロウのモノに手を伸ばし「ねえ、キスさせて」とせがむと、アロウはベッドに横になって、俺を跨がせ、頭をアロウの足元に向くようにしたんだ。

 アロウのモノに手を沿え、舌やら唇やらで丁寧に奉仕すると、アロウも俺のモノを口で愛撫しながら、俺の蕾を丹念に解し始めた。指が増えて何度も抽挿されると、俺の口の方が段々お留守になる。

「うん……、アロウ……、もう……」
 堪らなくなって催促すると、アロウは起き上がり、俺の背中に覆い被さって、ゆっくりと俺の中にその勃ち上がったモノを沈めた。

「ああ……ん、んふ……」
「動くぞ」
 アロウは俺に覆い被さったままゆっくりと、次第に激しく俺を突き上げた。
「ああん……アロウ、アロウ……」
 伸ばした手をアロウが上から掴んだ。そのまま身体を起こされて、胡坐を組んだアロウの上に座らされた。

 アロウは俺の身体に手を回し、乳首をクネクネと揉み上げ、もう一方の手で俺のモノを扱いた。下から何度も突き上げられて、俺は何度も上り詰めて弾けた。


「ねえ、アロウ」
「何だ」
「俺、何で実体化しないんだ?」

 ベッドの中で、俺はこうしてアロウに腕を絡めて、横たわっているけれど、俺の身体は魂のままだ。
 アレだけ感じたら、二時間は実体化するんじゃないか?

 アロウは俺の肩に腕を回したまま、しばらく黙って天井を見ていたが、そのまま、おもむろに言った。
「あれは嘘だ」
「……? 何が…?」

 アロウの口角が少し上に上がったように感じた。その途端、俺はベッドの下にごろりと転がり落ちた。
「イタ……、アロウ……」

 俺はベッドの下からアロウを見上げたが、何処にもアロウの姿は見えない。俺は立ち上がってキョロキョロと辺りを見回した。そしてベッドの上に行こうとしたが、弾き返されてしまった。

「アロウ!?」
 泣きそうになった俺の背後から、ゆっくりと手が伸びて抱き締められた。銀色の髪がサラリと俺の視界を横切った。
「悪かった」
「悪かったって、何だよ!」

 振り向いてアロウの身体にしがみ付いた。銀の髪と、アロウの腕が、俺を優しく抱き締めた。
 一体どういうことなんだ? 嘘って何が? 見上げると濃い紫の瞳の中に、不安そうに揺れる俺の顔が映っていた。


 * * *


「アロウ……」
「七斗、また来る」

 明け方、アロウはそう言い残し、俺を学校の中庭に置いて行ってしまった。
 とりあえず新居が待っていることだし、余計なことは考えないで頑張らなければ……。


 しかし、俺が部屋に戻った途端、余計な事を俺にぼんぼん吹き込む奴が、てぐすね引いて待っていたんだ。


「きゃあぁぁ──!! 七斗──!! あんたヴァルファ様とどういう関係!?」
 部屋のドアを開けた途端、入り口一杯に広がって、両手を頬に持って行き、嬉しげに叫んだのは鬼のロクだった。

「へ……?」
「銀のヴァルファ様よー!! あたしたち鬼族の憧れの的♪」
 ロクはそう言って、手を首の横で重ねて「うふ」と嬉しそうに笑った。

「あたしねえ、あの方に憧れて死神になる事にしたの~」
 ロクはとってもミーハーな鬼のようだが……。
「ええと、そのヴァ…何とかって人って……?」

「ヴァルファ様よぉ~。ずっと、冥界にいらっしゃったんだけどぉ、最近、地上に転勤なさったの~~~」
 何処から見たのか知らないが、どうもロクは人違いしているようだ。

「人違いじゃないか? さっきの奴はアロウといって……」
 俺がそう言いかけると、ロクはけたたましく俺を遮った。
「あらー、あんなお綺麗な方は、二人といらっしゃらないわ~~~!! 七斗、どういうお知り合い? 一晩ご一緒だったでしょ」

 鬼のロクがひとつしかない目を輝かせ、俺を肘でこのこのと突付く。俺は立っていられないでよろめきながら、どういうことだと考えた。

「ちょっと待てよ! ヴァルファが本当に、こいつを送って来たって?」
 そこに鬼を掻き分けて現れたのは、美しい天使だった。光り輝く美貌をキラキラと振り撒きながら、俺を睨み付けた。

 天使のオセはその青い瞳でキッと俺を睨みつけ、白い羽をパタパタとはためかせて言った。
「許せない! ヴァルファは俺のものだ」


しおりを挟む

処理中です...