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24 愛しさと切なさと猫上戸と
しおりを挟む私が離宮で必死にラーニングしていた時、キリルは私のゲーム話を実戦で使うべく武器屋や魔道具屋に行って開発をしていたのだ。
きっとお見舞いしたのは閃光弾だけじゃないと思う。だって、攻撃チャンスってヤツだもの。ゲームではそういう使い方をした。
「我々は工廠で魔道エアライフルをできるだけ作らせた。ハルデンベルク侯爵が郵便馬車に詰め込んでボーツェンから送らせて、新兵が使えるように指導して──」
呆れた。開いた口が塞がらない。侯爵家まで係わっていたなんて。
「弾はまだ実験段階で、実戦で試し撃ちをする羽目になったが、お陰で我々は虎口から脱出できたわけだ。君には礼を言うしかない。軍の集合場所には何とか辿り着いたが時間に遅れて司令官には叱責されたけれど、みんなが無事の方がいいと思わないか」
ヴィリ様が笑っている。私の言った適当なゲーム話でそんな事を考え付くなんてキリルの方が凄いと思うけれど、きっとこれがご都合主義ってやつだわ。
「いつ戦争に行かれたのですか?」
「君に会ってすぐだな」
王宮舞踏会の後なのか。何と軍隊とは人使いが荒い所なのだ。酷い。
「お怪我されませんでしたか? みんな無事でしたか?」
「無事だ」
そうなんだ。よかったな、みんな無事なんだ。
そろそろ時間が気になる。聞きたい事はあるけれど私は居候の身の上だ。
「あの、学校に馬車が迎えに来てくれるので、あまり遅くなるのは──」
「大丈夫だ、連絡しているから、急な事で君には悪かったね。ちゃんと侯爵邸まで送らせて貰うよ」
ずっと私は侯爵家に押し付けられた居候で他所者のオバサンという認識でいたのだけれど、この方はちゃんと私を令嬢として扱って下さる。
「しばらくこの国に滞在するから、君と過ごしたい。いいだろうか」
こ、これは異世界王都観光旅行、しかもイケメンというか、美しオーラ満載の金持ち紳士のパトロン付きだ。どや。
それでハルデンベルク侯爵邸まで送って頂いたのだけれど、普通に屋敷の玄関まで送られて、馬車を降りる前にローブを返そうとしたら「次に会う時もそれを着ておいで」と言われた。着心地の良いウール生地で表地は濃いグレー、裏地はシルクっぽい臙脂色で可愛い。
お屋敷ではハイデとカチヤが普段通りに出迎えてくれた。
◇◇
『ピィーーールルルルーーー!』
小鳥が迎えに来ると、密会の小道に行く。そこには彼がベンチで待っていたり、私がベンチで待っていると彼が来たり、密会って心が浮き立つものなのかしら。
キリルの姿は見ていないけれど彼は何処にいるのだろう。武器をヴィリ様と作ったと聞いたけれど、冒険者で腕の立つ人なら武器にも詳しいだろうし、手伝いなんかもするんだろうな。友人だと言ったし、ちょっと顔を見たいような気がする。三人セットで。いや、あのゴツイ人も入れて四人セットだな。
その日は、馬車が一台しか通れないような狭いレンガ道を通って、木立に囲まれた隠れ家のようなレストランに行った。特別室でビールとクネーデルとソーセージを頂く。庶民派なのか、お貴族様なのか分からないチョイスだわ。
あ、でもこのソーセージ美味しい。カプッと食べると口に広がるアツアツの肉汁。この丸いポテトのお団子も美味しい。モチモチの食感でソースと絡めていくらでもいける。そしてビールはフルーティでマイルドな味。クイクイいける。
「あの、こういう物もお食べになるんですね」
「私は兵士だから何でも食べるよ」
「そうなのですか。ヴィリ様は何をなさっても上品で優雅です」
「そうだね、敵が来ても呑気に最後まで食事してそうなのかな?」
あ、何か地雷を踏んだかな。
「そういう意味じゃないです」
「君もとても優雅に食事しているよ。小さな口でどこに入っているかってくらい食べるし」
「あら、でも美味しいんですもの」
「うん、見ていて気持ちがいい。一緒に食べると食事が進む」
「それは良かったです」
「そうだね、いいことだと思う」
なんだか意味深にニッコリとする。そのお顔は反則だわ。彼の前で私はどんな風に見られているのかしら。
「これはジャガイモでできているんだ。私の国ではまだ栽培していないから、ぜひ取り入れたいと思っているんだ」
そうか、小麦だけじゃ天候などで不作の時があると食料不足になるから、ジャガイモを栽培するという話は読んだような気がする。
「君が前にいた世界にはあったのかい?」
「ありましたよ。色んなお料理やお菓子に使いました。ポテトチップ、肉じゃが、コロッケ、ポテトサラダ、それから、それから、カレー……」
ポロン……と涙が転がり落ちた。
「エ、エマ?」
ヴィリ様が慌ててハンカチを出す。
「カレー食べたい……にゃ」
ポロポロポロ……ン。
「私は何でこんなところにいるにゃ
戻りたいにゃ
みんな苛めるにゃ
独りぽっちにゃ」
ポロポロ……。
「帰りたいにゃ」
「エマ」
ポロポロポロポロ……涙を転がす私の顔に、ヴィリ様がハンカチを宛がう。いつの間にか隣にいるヴィリ様が、私を抱いて宥めるように頭や背中を撫でて下さる。彼に縋って泣いてしまった。
ああ、ふんわりと守られているよう、暖かい巣の中にいるひな鳥のよう。ココなら安全安心だわと無意識に思う。そのまま眠ってしまった。
私は帰りの馬車の中で目を覚ました。ハッと起きて首を左右に振ると隣にヴィリ様がいた。
「目が覚めたのかい、エマ」
「あ、私眠ってしまって、ごめんなさい」
「いや、もうすぐ侯爵邸に着くよ」
「えと、あまり覚えていないのですけれど、何かご無礼をしませんでしたか?」
「いや、君は泣き上戸で猫上戸なんだな」
ヴィリ様は少し苦笑気味に言う。そして急に真剣な顔になった。
「エマは他の人間とお酒を飲んではいけないよ。私がいる時だけにしなさい」
いいかいと念を押された。
「はい」
私、何かしたのかしら。猫上戸って何?
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