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◇
てっぺんをかなり超えて友達と飲んで朝帰りしたら、いつもよりも部屋ががらんとしていたが酔っていたこともあってそんなに気にならなかった。
次の日も二日酔いで痛い頭を抱えながら出勤して、帰宅して、やっぱり物が少なくなってる気がしたけど、彩綾が掃除でもしていったんだろうと思った。
1週間、2週間経って、彩綾から連絡が来ないことに違和感を覚えた。
それでも焦りは感じなかった。彩綾には俺だけだから。ちょっとぐらい構わなくてもまた向こうから連絡が来るだろう。
だが、全くもって音沙汰がない。流石におかしいと気づいて、彩綾にメッセージを入れても既読がつかない。電話も繋がらなくなっていた。
彩綾の住んでるアパートに行こうと思ったけど行ったのはかなり前で場所を覚えていなかった。頭を抱えて思い出そうとしても断片的にしか思い出せない。メッセージの検索機能を使っても住所が出てこず、必死になってメッセージの履歴を遡る。
やっと住所を見つけて、彼女の住んでいるアパートを訪ねてみたら、空室で少し前に引越したと言うことだった。
引越し先を聞き出そうと大家さんに話しても、そもそも知らないし個人情報だから知っていたとしても教えられないよと言われた。まぁそれは当然だよな。
職場に連絡を入れたら捕まるだろうと、この時まだ少しだけ余裕があった。彩綾の職場に電話して、彩綾が辞めたと知って、目の前が真っ暗になった。
その日のことはよく覚えてないけど、電話を切った後、いつも通りに職場にいって帰ってきたはずだ。職場での行動は全く覚えていない。
部屋に帰ってきた俺は、ベッドの上で呆然と座っていた。心にポッカリと穴が空いたような感覚に陥った。自分の大事な一部が欠けてしまった、そんな感覚。
失って初めてわかった。彩綾は俺にとってかけがえのない存在だったんだ。全てを許してくれて、尽くしてくれて、包み込んで俺のことをいつまでも待っていてくれる。
友人たちや会社からはひっきりなしに電話やメッセージが来ていたが返信する気も起きなかった。そんなどうでもいい奴らを優先して、なんで彼女を大事にしてこなかったんだ。
こんなクソ野郎のことを好きだと、一途に思ってくれていたのに。その思いを踏みにじって、蔑ろにして、挙句の果てに俺は彼女に見捨てられて捨てられた。
ふと顔を上げると冷蔵庫に見慣れない紙切れが貼ってあったのに、今気がついた。彩綾からのメッセージかと、立ち上がる時に足を滑らせてこけそうになりながら冷蔵庫の前に駆け寄った。
何だこれ……、ありがとう?さよなら?
何でだよ。どうして……。
思わずぐしゃりと手の中で彼女の最後に書いただろう俺宛のメッセージを握りつぶす。
勝手に出て行ってしまった彼女を責めるような声が、頭の中で聞こえる。あぁ、おかしくなりそうだ。
とりあえず探そう。そう思っても共通の友達などおらず、行方をたずねる相手がいない。ここでぼーっとしてても仕方ないと、外に出て闇雲に彩綾を探し求める。
付き合っていた時に一緒に訪れた場所を思い出しながら、街を徘徊する。2人で行った思い出の場所なんてほとんどないに等しく、それに対して思い出せもしなかった。
彼女の住むアパートに行ったのは数えるほどで、最後に行った日も覚えていない。大体は俺の部屋に来て過ごしていた。デートに連れて行ったことも記憶にはない。
(つくづく最低な男だな俺は)
だんだんと身体がぼろぼろになって、飯も睡眠もろくに取れなくなっていった。
彩綾が全然見つからない。
どれくらい経ったのかもよくわからない。
(彩綾に会いたい)
あの優しい彩綾に会いたい、会って抱きしめたい。家に帰ったら彩綾がいて、俺の好物のオムライスを作っておいてくれて、一緒に食べたい。「美味い」なんて一度も言ってやったことなかったな。
たまに出かけた時に手を繋いで、繋いだ手を嬉しそうにギュッと握り返してくる彼女。
彼女の嬉しそうな顔を鮮明に思い出すと、愛おしいという気持ちのすぐ後に、もう完全に失ってしまったんだという喪失感と自分への失望感で胸が苦しくなって、心臓を掻きむしりたい衝動に駆られた。
友人に呼ばれたらすぐにそっちへ行って、彼女と一緒にいたとしても友達を優先した。彼女の顔は聞き分け良く送り出そうとしていても、笑顔が引き攣っていた。少し歩き出してから振り返り、いつも彼女の顔を確認していた。涙をいっぱいためて下唇を噛んで我慢する彼女の顔があった。
後悔ばかりで、自分のクズな所ばかりが目につく。当たり前だった彩綾との平凡な日常を思い出しては、彼女のことを愛おしく思った。
何で今さら気づくんだ。
彼女への想いがこんなにも俺の中で膨れ上がっていることに。
もう一度会うことが出来たら、もう絶対に悲しませたりなんかしない。ちゃんと態度で、言葉で彩綾への愛情を示したい。
彩綾がいなくなったとわかってからもうどれくらい経ったのかわからない。
何度か一番仲の良い友達の春間が来てくれたのはわかったけど、彩綾のこと以外何も考えられない俺にはあいつの言っていることは全部雑音にしか聞こえなかった。
もうダメだ。狂いそう。狂ってる。
辛いよ。苦しい。
もう、彩綾がいないなら生きてても仕方ないかもしれない。
そんなことを思いながら腹の空かないお腹に酒を無理矢理注ぎ込み、煙草の煙を肺に入れる。そうすると苦しみが少しだけ紛れるから。
そうやって酒と煙草の匂いの充満する部屋で、頭も鼻も利かなくなって、ぼんやりと時間が過ぎていった。
そうやって全てを諦めかけていた所に、また俺のこの手の中に舞い戻ってきてくれた。こんな男の元に戻ってくるなんて本当に彩綾は馬鹿だ。
次は間違えない。大事に大事にして。
俺に堕として、
俺だけのものに
だからずっと、ずっとそばにいさせて。
てっぺんをかなり超えて友達と飲んで朝帰りしたら、いつもよりも部屋ががらんとしていたが酔っていたこともあってそんなに気にならなかった。
次の日も二日酔いで痛い頭を抱えながら出勤して、帰宅して、やっぱり物が少なくなってる気がしたけど、彩綾が掃除でもしていったんだろうと思った。
1週間、2週間経って、彩綾から連絡が来ないことに違和感を覚えた。
それでも焦りは感じなかった。彩綾には俺だけだから。ちょっとぐらい構わなくてもまた向こうから連絡が来るだろう。
だが、全くもって音沙汰がない。流石におかしいと気づいて、彩綾にメッセージを入れても既読がつかない。電話も繋がらなくなっていた。
彩綾の住んでるアパートに行こうと思ったけど行ったのはかなり前で場所を覚えていなかった。頭を抱えて思い出そうとしても断片的にしか思い出せない。メッセージの検索機能を使っても住所が出てこず、必死になってメッセージの履歴を遡る。
やっと住所を見つけて、彼女の住んでいるアパートを訪ねてみたら、空室で少し前に引越したと言うことだった。
引越し先を聞き出そうと大家さんに話しても、そもそも知らないし個人情報だから知っていたとしても教えられないよと言われた。まぁそれは当然だよな。
職場に連絡を入れたら捕まるだろうと、この時まだ少しだけ余裕があった。彩綾の職場に電話して、彩綾が辞めたと知って、目の前が真っ暗になった。
その日のことはよく覚えてないけど、電話を切った後、いつも通りに職場にいって帰ってきたはずだ。職場での行動は全く覚えていない。
部屋に帰ってきた俺は、ベッドの上で呆然と座っていた。心にポッカリと穴が空いたような感覚に陥った。自分の大事な一部が欠けてしまった、そんな感覚。
失って初めてわかった。彩綾は俺にとってかけがえのない存在だったんだ。全てを許してくれて、尽くしてくれて、包み込んで俺のことをいつまでも待っていてくれる。
友人たちや会社からはひっきりなしに電話やメッセージが来ていたが返信する気も起きなかった。そんなどうでもいい奴らを優先して、なんで彼女を大事にしてこなかったんだ。
こんなクソ野郎のことを好きだと、一途に思ってくれていたのに。その思いを踏みにじって、蔑ろにして、挙句の果てに俺は彼女に見捨てられて捨てられた。
ふと顔を上げると冷蔵庫に見慣れない紙切れが貼ってあったのに、今気がついた。彩綾からのメッセージかと、立ち上がる時に足を滑らせてこけそうになりながら冷蔵庫の前に駆け寄った。
何だこれ……、ありがとう?さよなら?
何でだよ。どうして……。
思わずぐしゃりと手の中で彼女の最後に書いただろう俺宛のメッセージを握りつぶす。
勝手に出て行ってしまった彼女を責めるような声が、頭の中で聞こえる。あぁ、おかしくなりそうだ。
とりあえず探そう。そう思っても共通の友達などおらず、行方をたずねる相手がいない。ここでぼーっとしてても仕方ないと、外に出て闇雲に彩綾を探し求める。
付き合っていた時に一緒に訪れた場所を思い出しながら、街を徘徊する。2人で行った思い出の場所なんてほとんどないに等しく、それに対して思い出せもしなかった。
彼女の住むアパートに行ったのは数えるほどで、最後に行った日も覚えていない。大体は俺の部屋に来て過ごしていた。デートに連れて行ったことも記憶にはない。
(つくづく最低な男だな俺は)
だんだんと身体がぼろぼろになって、飯も睡眠もろくに取れなくなっていった。
彩綾が全然見つからない。
どれくらい経ったのかもよくわからない。
(彩綾に会いたい)
あの優しい彩綾に会いたい、会って抱きしめたい。家に帰ったら彩綾がいて、俺の好物のオムライスを作っておいてくれて、一緒に食べたい。「美味い」なんて一度も言ってやったことなかったな。
たまに出かけた時に手を繋いで、繋いだ手を嬉しそうにギュッと握り返してくる彼女。
彼女の嬉しそうな顔を鮮明に思い出すと、愛おしいという気持ちのすぐ後に、もう完全に失ってしまったんだという喪失感と自分への失望感で胸が苦しくなって、心臓を掻きむしりたい衝動に駆られた。
友人に呼ばれたらすぐにそっちへ行って、彼女と一緒にいたとしても友達を優先した。彼女の顔は聞き分け良く送り出そうとしていても、笑顔が引き攣っていた。少し歩き出してから振り返り、いつも彼女の顔を確認していた。涙をいっぱいためて下唇を噛んで我慢する彼女の顔があった。
後悔ばかりで、自分のクズな所ばかりが目につく。当たり前だった彩綾との平凡な日常を思い出しては、彼女のことを愛おしく思った。
何で今さら気づくんだ。
彼女への想いがこんなにも俺の中で膨れ上がっていることに。
もう一度会うことが出来たら、もう絶対に悲しませたりなんかしない。ちゃんと態度で、言葉で彩綾への愛情を示したい。
彩綾がいなくなったとわかってからもうどれくらい経ったのかわからない。
何度か一番仲の良い友達の春間が来てくれたのはわかったけど、彩綾のこと以外何も考えられない俺にはあいつの言っていることは全部雑音にしか聞こえなかった。
もうダメだ。狂いそう。狂ってる。
辛いよ。苦しい。
もう、彩綾がいないなら生きてても仕方ないかもしれない。
そんなことを思いながら腹の空かないお腹に酒を無理矢理注ぎ込み、煙草の煙を肺に入れる。そうすると苦しみが少しだけ紛れるから。
そうやって酒と煙草の匂いの充満する部屋で、頭も鼻も利かなくなって、ぼんやりと時間が過ぎていった。
そうやって全てを諦めかけていた所に、また俺のこの手の中に舞い戻ってきてくれた。こんな男の元に戻ってくるなんて本当に彩綾は馬鹿だ。
次は間違えない。大事に大事にして。
俺に堕として、
俺だけのものに
だからずっと、ずっとそばにいさせて。
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