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 スキンケアとかの消耗品は残しておいても良かったんだけど、他の女が使うかも、と思ったら置いておくのが嫌になって、ゴミ箱に捨てた。

 色違いで買った歯ブラシも、お揃いっぽくしたくて買った彼が使ってるのと似たような形のグレーのスウェットも捨てた。

 彼がアイスが好きだからいつも誕生日はアイスケーキを買っていて、私の誕生日だけど、今回は色んな味が楽しめるアイスケーキを買っていた。

 残していったら、彼が全部食べるのかな。それとも、仲のいい友達と一緒に食べるかな。それともあの日に来ていた女と食べるのかも。

 そう思ったらすごく嫌な気持ちになって、女と2人で食べられるくらいならっ!とむしゃむしゃとアイスを食べた。

 流石に1人じゃ食べきれなくて半分くらい残ってしまった。捨てるのはやっぱり勿体無いと思って冷凍庫の奥に押し込んだ。

 彼は冷凍庫はたまにアイス食べるくらいであまり利用しないからしばらくは気づかないかもしれない。今は寒いし、アイスもあまり食べないかも。


――今までありがとう さようなら さあや


 そう書いたメモ紙を冷蔵庫に貼りつけて、鍵を閉めてポストに入れた。

 ゴミ箱がいっぱいになってしまったので、出て行く時についでにゴミ捨て場に捨てた。私の気持ちも一緒に捨てられたらいいのに。


 自分の部屋に帰って荷物を置いて、お風呂に入ったら、急に別れた現実味を帯びてきてシャワーを流しながらえぐえぐと汚い顔で泣いた。

 次の朝酷い顔になっていて、身体も心も辛すぎて出勤したくなく、初めて仮病を使って休んだ。

 そしたら次の日も次の日も行きたくなくなって、1週間も休んでしまった。もうどうせなら転職しよう!とテンションが上がった勢いに乗っていつの間にか会社を辞めることを伝えていた。急すぎて引き継ぎのために1週間は出勤して欲しいとお願いされて、確かにそうだよなと了承した。

 業務の引き継ぎも終えて、あとは有給を消化し終えたら退職ということになった。落ち着いた所でケータイも変えて、新しい番号にして、それならもういっそ引越しもしようと、すぐに不動産へ行って内見もせずに次の部屋を即決した。
 こんなに勢いに任せてアクティブに動いたのは初めてかもしれない。意外と思い切りのいい所があったんだと自分で自分に驚いた。



 
 ◇

 
 彼と別れて2ヶ月半、次の仕事はそんなにパッと見つからなかったけれど、中小企業で中途採用を募集している会社に応募したら、面接まで行って運良く受かった。
 
 受かってよかった。
 貯金にはまだ余裕があったけど無職のままっていうのは自分の精神衛生上良くないな……。

 別れてそれを忘れたいがために全て新しくして自分で自分を忙しく動かしていたら、彼のことを考えてうじうじする時間は思ったより少なく済んだ。

 むしろ、別れられてスッキリしているかもしれない。彼のことで悩むことも苦しくなることもない。時々ふと彼の屈託のない笑顔を思い出して胸が軋むけれど。

 新しい職場で忙しくしていたらそんな彼を思い出すことも減っていくだろう。最後には彼を思い出しても苦しくなくなるといい。

 彼を完全に忘れるには新しい恋をするべきなんだろうけど、当分恋愛はいいや。そんな気になれない。

 とりあえず新しい職場で仕事を頑張って覚えよう。
 そう決心した。


 
 
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