『R18』バッドエンドテラリウム

Arreis(アレイス)

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異世界転生者マリー編

第30話 地下研究所

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 階段を降りた先は暗い通路になっており、脇を水が流れている。
 上流こそ噴水の水がほとんどで綺麗な物だが、途中から様々な生活排水が合流するためか、濁った汚い水へと変化し悪臭を放っていた。
 そんな暗く狭い道を三人は進んでいる。
 途中、いくつか鉄格子のついた檻のようなスペースがあったが、人の居る物はひとつも無かった。
 ベッドすら置いていなかったのと入口の大きさから見て、もしかすると人間以外のなにかを入れるためのスペースなのではないかとマリーは考えていた。
 下水道のような場所とはいえ、城内には違いない。
 汚水が流れる管にすら鉄格子がはめられており、外部からの侵入を防ぐ構造をしている。
 こんな場所にシルバーたちが居るなんて、もしかして捕まってしまったのだろうか。
 暗闇の中を注意しながら進んでいると、壁を照らす微かな灯りに気がついた。
 その揺らめき方からして、ろうそくやランタンのような火によるものだろう。
 そこはちょうど道に面した小部屋のような場所で、覗き込めば中の様子が伺える。
 先頭を歩いていたマリーに代わりミドリが前に出ると、気配を殺しながらそっと顔を出した。

 ミドリが見たのは男の背中だった。
 革のローブを着た男がベッドに向かって何かをしており、傍らに置かれたランタンが灯りを放っている。
 フードのおかげで詳細はわからないが、その長細い体つきと背の高さ、体の動かし方から見て男だとミドリは判断していた。
 その男の手が動くたび、ぴちゃっという水音のような物が聞こえてくる。
 他に聞こえるのは男の鼻歌くらいで、何をしているのかはわからない。
 ただ、その男がとても上機嫌なのは間違いない。

 ミドリはマリーたちの方を向き、指を一本立てる。
 言わんとする事を察したふたりは、出来るだけ音を立てないよう息を殺した。
 潜入するにあたり、騒ぎになりそうな行動は慎まなければならない。
 あの男を殺してしまうのも考えたが、城内で証拠を残せば後々自分たちの首を絞める結果になりかねない。
 まずは状況を確認しようと、ミドリは能力を使いながら静かに男へと近づいた。
 男は手に何かの結晶を持ち、スライムの中へと埋め込んでいた。
 その結晶は微かにだが光を放っており、魔力の気配を感じる。
 魔力そのものが凝固した魔石に近い物だと思われるが、それにしては魔力が弱すぎる。
 その魔石もどきを、男は次々とスライムの中へと沈めていく。
 スライムはそれを溶かし、吸収しながら徐々に大きくなり、魔力の気配が濃くなっていく。
 ミドリは少しだけその様子を観察すると背後へと忍び寄り、男の頭をスライムの中へと押し込んだ。
 
 「んぶっ!? ぼぼぼっ」

 男はもがきながら頭を抜こうとスライムへと手をやるが、スライムの体を押す事が出来ない。
 スライムは男の両手を取り込んでしまうと、ぷるぷると小さく揺れていた。
 顔全体をスライムに包まれた男はがっちりと首を掴まれているようなもので、どうもがこうともスライムから離れる事が出来なかった。
 しばらくすると、あれだけ動いていた男が静かになった。
 完全に動かなくなったのを確認すると、ミドリは男の足を引っ張って下水へと捨ててしまった。
 スライムも一緒に下水へと落ちたが問題ないだろう。
 スライム研究中の不慮の事故。
 誰も加害者の存在に気付かないはずだ。

 「もう大丈夫、男は処理した」

 淡々とそう言い放つミドリにマリーは背筋が冷たくなった。
 仲良くなった気がしていたが、やはりこの人たちは人を殺す事に躊躇がない。
 どれたけ覚悟を決めても手が震えてしまうマリーとは異なる、人を殺せる人種だ。
 ありがとうと答えるバーミリオンもまたその人種であり、お礼を言えてしまう事にもマリーは違和感を覚えていた。
 そんなマリーの様子に気づいてか、ミドリは一瞬目を合わせた後、無言で先へ進んで行ってしまう。
 この道の先に待ち構えていたのが衛兵だった時、剣を振る事が出来るのか。
 マリーは今一度自分の覚悟を確かめて、強く剣を握る。
 いくら異世界とはいえそこに生きる人たちは当然生きていて、作り物の世界なんかじゃない。
 友達、恋人、家族、幼なじみ、隣人、同じ村の仲間。
 人との関わりだって普通にあって、普通に人生を送っているはずだ。
 そんな人を、自分たちの目標のために殺す。
 殺さなければ殺される、という極限の状態ならマリーもためらいなく殺すだろう。
 しかし人間は魔物とは違い、殺し合う以外の方法が取れる。
 そう考えているマリーに、果たして人が殺せるのか。
 すぐには出ないその答えがマリーの覚悟を揺るがし、集中を削いでいる。
 マリーはその事で頭をいっばいにしたまま、ミドリたちの後を追った。

 そこから先は目を疑うような光景が広がっていた。
 大小様々な瓶にスライムやら触手やらの魔物が詰められており、それぞれにラベルが貼られている。
 催淫、溶解、妊娠、寄生と、見ただけで鳥肌が立つような内容だ。
 どうやらここは魔物の研究所だったようで、誰が書いたのかもわからない観察記録や、何を原料としてどう生み出したかの生産レシピのような本が置かれていた。
 広いスペースには手足を拘束するためのベルトがつけられたベッドが並んでおり、それぞれに数字が振られている。
 観察記録にある数字はどうやらその時ベッドに寝かされていた被験者を指しているようで、その後には発狂やら死亡やら、悲惨な末路が記録されていた。
 これにはさすがのミドリたちも嫌悪感がにじみ出るような顔をしており、本を持つ手にも力が入っている。
 魔物の研究の噂はマスターから聞かされていたが、まさかその研究所が城の地下にあったとは。
 マリーは驚くと共に、噂の詳細を思い出す。
 魔物の実験に転生者を利用している。
 魔物の研究がここで行われているとして、本当に転生者たちを実験材料にしていたのだろうか。
 それに関しての記載は見つからず、それらしい証拠も出てこない。
 しかし、この先にシルバーたちが居るという事がマリーには不安で仕方ない。
 もしかしてシルバーたちは、実験材料にされてしまったのだろうか。

 本を読んでいたマリーの下へと、バーミリオンがやってきた。
 ミドリと先行していたはずなのだが、その顔には焦りが見える。

 「何かあったんですか?」
 「シルバーたちが居たんだが様子がおかしい」

 マリーは本を置き、バーミリオンの案内で研究所の奥へと進む。
 すると見えてきたのは、ぐったりとした様子で檻の中に寝転ぶシルバーとシアン。
 そして、グリズリーの姿だった。
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