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異世界転生者マリー編
第29話 思わぬ声
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すっかり見入ってしまったマリーの腕を、ミドリがそっと引っ張った。
ガーベラを抱くのに夢中な今の状況なら、気づかれずに部屋を出る事が出来るだろう。
ミドリは視線だけでそれを伝えると、ゆっくりと扉へと近づき取っ手に手をかける。
我に返ったマリーはそれに頷いて答え、ミドリに続いて扉の横へとついた。
一番の問題はバーミリオンだ。
大きな体を通すためには扉をほぼ全開にする必要があり、余計な注意を引いたり音を立てる可能性がある。
ミドリは扉を開いている時間の事も考慮して、まずはバーミリオンを先に行かせる事とした。
一度だけ大きく扉を開き、それが閉じる前に素早くすり抜ける。
扉を開いた時点で何者かに気づかれたなら、部屋の角でやり過ごせば良い。
幸いにもこの部屋は暗く、いくら目の良い兵士でも闇に目が慣れるまではこちらに気づかないはずだ。
バーミリオンを扉のすぐ前に立たせ、マリーとミドリは扉の真横で待機する。
ガーベラの嬌声と卑猥な水音が大きくなったその瞬間に、バーミリオンは扉を一気に開いた。
直後、三人は風のように部屋を飛び出す。
運の良い事に廊下には誰もおらず、扉も音を立てる事無く開かれた。
ミドリが閉じる扉の取っ手を後ろ手に掴み、ゆっくりと閉める。
カチッ、と扉が枠へと収まったのを確認すると、ミドリの合図で素早く城の中庭へと出た。
中庭には風が吹いており、静かな城内に比べれば環境音がある分気づかれにくい。
サーッという木の葉が擦れる音や、虫の鳴き声がマリーたちの隠れ蓑となる。
また、視界の良い場所ほど一点を集中して見る事は少なくなり、意識を分散させるミドリのスキルとは相性が良かった。
「はずれだったか……」
バーミリオンが囁いた。
緊張からか額に汗を浮かべ、疲れた顔をしている。
「魔力探知はバイオレットの領域だから。 私じゃ詳細はわからない」
ミドリの使う隠密術も元は魔力にあるらしく、魔力を感知し、その大きさを判断する程度の能力は持っていた。
ガーベラが入ろうとしていた部屋の中から大きな魔力を感知し、転生術の術者である可能性も考慮して一緒に部屋へと入ったのだが、さすがに何度もこんな事を続けていてはいずれ見つかってしまう。
闇雲にでは無く、ある程度目星をつけて術者を探すのが重要だ。
マリーは己の中へと意識を向けて、習得可能なスキル一覧を確認する。
魔力探知など魔法に関するスキルもあったが、役に立ちそうな物は何も無い。
どうやらマリーには魔法の適性が無いらしく、習得出来るものはほとんどが自己強化だ。
「私も魔法に関しては何も出来ないです」
マリーが残念そうにそう言うと、ミドリは顎に手をやって考え出した。
この問題を解決出来れば良いのだが、マリーとバーミリオンにはその方法が浮かばない。
そうして黙り込んでいると、突然脳内に声が響いた。
「待たせてごめん、こっちはもう大丈夫。 洞窟は抜けられなかったけど何とか近くに着いたわ」
この声はバイオレットだ。
久しぶりに聞くその声は疲れ果てているように思えるが無事で何よりだ。
三人はお互いの顔を見合わせて、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「さすがに街には入れないけど精一杯サポートするわね。 まず、シルバーたちは城の中、地下に居る。 シアンとシルバーと…… もうひとり誰か。 マリーたちは中庭ね。 マリーとミドリとバーミリオン。 合流するなら中庭の角にある水路を進むのが一番近いわ」
バイオレットに出来るのは声の伝達までであり、双方向での会話は出来ない。
そのため、バイオレットは自分にわかる事を事細かに説明し、聞いただけで次の行動に移れるようサポートしていた。
「術者っぽい強い魔力は同じ地下にあるから、そっちで合流した方が良さそう。 魔力的に危険なのはその地下と、城の角の部屋。 多分私以上の能力者だから、十分警戒して」
角の部屋とはマリーたちがつい先程まで居たあの暗い部屋の事だろう。
バイオレット以上の魔法能力者となると相当なものであり、もし戦闘になれば苦戦は避けられない。
見つからずに出てこられたのは幸運だった。
三人は頷き、バイオレットに言われた水路へと向かう。
中庭の噴水から繋がる水路は床の鉄格子へと繋がっており、その横にある長い階段と共に闇の中へと伸びている。
まるで奈落の底にでも繋がっていそうなその狭い道には、錆びた松明掛けがいくつもついていた。
これも恐らく避難道のひとつで、長い事使われていないのだろう。
苔むした壁と張られた蜘蛛の巣がそう伝えてくる。
最も警戒すべきなのは罠と魔物。
バベルの用意周到さなら、この避難道にも何かが仕組まれていると考えるべきだ。
三人はあの醜悪な女王の姿を思い出し、足が止まる。
あんなに強力な媚毒を持つ魔物がまた現れたら、次も同じように退治出来るとは思えない。
心身共に万全な状態とは程遠く、体の奥には微かな疼きも残っている。
こんな状態で媚毒を浴びれば、瞬く間に快楽に溺れてしまうだろう。
想像しただけでぞくぞくとした感覚がミドリの体を襲い、バーミリオンの男根を勃たせる。
そんな様子を見て、マリーは一歩前へ出た。
「一番元気なのは私ですね。 私が安全を確認してきます」
ミドリもバーミリオンも、マリーが心配で仕方ない。
戦闘中とは別人のようなその頼りなさが心配を抱かせているのだが、当のマリーは自信に満ちていた。
回復の早くなった体に、強化されたスキル。
それに催淫耐性も加わって、よほど魔物相手には遅れをとらないだろう。
マリーが強い事はふたりともわかっているが、それでも心配なのは経験不足からくる要素だ。
マリーは圧倒的に戦闘経験が少なく、純粋な戦闘ならまだしも搦め手が来た場合どうなるかわからない。
予想外の事態が起きた時の混乱や判断の遅れが、そのまま命取りとなる事も少なくない。
バーミリオンは最後の解毒剤をミドリへと渡すと、小さく一度頷いた。
「全員一緒に動こう。 合流したらどうせ目的地は地下なんだ。 それに、誰かがひとりになるのは危険すぎる」
ミドリはバーミリオンに頷き返し、マリーの方を見る。
その決意に満ちた目で見つめられ、マリーは自分に拒否権が無いことを悟った。
「……わかりました。 でも先頭は私ですよ」
マリーの顔から甘さが消え、真剣な表情になる。
ミドリとバーミリオンがマリーへと真剣な眼差しを返して頷くと、マリーは鉄格子を外し闇への階段を降りていった。
ガーベラを抱くのに夢中な今の状況なら、気づかれずに部屋を出る事が出来るだろう。
ミドリは視線だけでそれを伝えると、ゆっくりと扉へと近づき取っ手に手をかける。
我に返ったマリーはそれに頷いて答え、ミドリに続いて扉の横へとついた。
一番の問題はバーミリオンだ。
大きな体を通すためには扉をほぼ全開にする必要があり、余計な注意を引いたり音を立てる可能性がある。
ミドリは扉を開いている時間の事も考慮して、まずはバーミリオンを先に行かせる事とした。
一度だけ大きく扉を開き、それが閉じる前に素早くすり抜ける。
扉を開いた時点で何者かに気づかれたなら、部屋の角でやり過ごせば良い。
幸いにもこの部屋は暗く、いくら目の良い兵士でも闇に目が慣れるまではこちらに気づかないはずだ。
バーミリオンを扉のすぐ前に立たせ、マリーとミドリは扉の真横で待機する。
ガーベラの嬌声と卑猥な水音が大きくなったその瞬間に、バーミリオンは扉を一気に開いた。
直後、三人は風のように部屋を飛び出す。
運の良い事に廊下には誰もおらず、扉も音を立てる事無く開かれた。
ミドリが閉じる扉の取っ手を後ろ手に掴み、ゆっくりと閉める。
カチッ、と扉が枠へと収まったのを確認すると、ミドリの合図で素早く城の中庭へと出た。
中庭には風が吹いており、静かな城内に比べれば環境音がある分気づかれにくい。
サーッという木の葉が擦れる音や、虫の鳴き声がマリーたちの隠れ蓑となる。
また、視界の良い場所ほど一点を集中して見る事は少なくなり、意識を分散させるミドリのスキルとは相性が良かった。
「はずれだったか……」
バーミリオンが囁いた。
緊張からか額に汗を浮かべ、疲れた顔をしている。
「魔力探知はバイオレットの領域だから。 私じゃ詳細はわからない」
ミドリの使う隠密術も元は魔力にあるらしく、魔力を感知し、その大きさを判断する程度の能力は持っていた。
ガーベラが入ろうとしていた部屋の中から大きな魔力を感知し、転生術の術者である可能性も考慮して一緒に部屋へと入ったのだが、さすがに何度もこんな事を続けていてはいずれ見つかってしまう。
闇雲にでは無く、ある程度目星をつけて術者を探すのが重要だ。
マリーは己の中へと意識を向けて、習得可能なスキル一覧を確認する。
魔力探知など魔法に関するスキルもあったが、役に立ちそうな物は何も無い。
どうやらマリーには魔法の適性が無いらしく、習得出来るものはほとんどが自己強化だ。
「私も魔法に関しては何も出来ないです」
マリーが残念そうにそう言うと、ミドリは顎に手をやって考え出した。
この問題を解決出来れば良いのだが、マリーとバーミリオンにはその方法が浮かばない。
そうして黙り込んでいると、突然脳内に声が響いた。
「待たせてごめん、こっちはもう大丈夫。 洞窟は抜けられなかったけど何とか近くに着いたわ」
この声はバイオレットだ。
久しぶりに聞くその声は疲れ果てているように思えるが無事で何よりだ。
三人はお互いの顔を見合わせて、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「さすがに街には入れないけど精一杯サポートするわね。 まず、シルバーたちは城の中、地下に居る。 シアンとシルバーと…… もうひとり誰か。 マリーたちは中庭ね。 マリーとミドリとバーミリオン。 合流するなら中庭の角にある水路を進むのが一番近いわ」
バイオレットに出来るのは声の伝達までであり、双方向での会話は出来ない。
そのため、バイオレットは自分にわかる事を事細かに説明し、聞いただけで次の行動に移れるようサポートしていた。
「術者っぽい強い魔力は同じ地下にあるから、そっちで合流した方が良さそう。 魔力的に危険なのはその地下と、城の角の部屋。 多分私以上の能力者だから、十分警戒して」
角の部屋とはマリーたちがつい先程まで居たあの暗い部屋の事だろう。
バイオレット以上の魔法能力者となると相当なものであり、もし戦闘になれば苦戦は避けられない。
見つからずに出てこられたのは幸運だった。
三人は頷き、バイオレットに言われた水路へと向かう。
中庭の噴水から繋がる水路は床の鉄格子へと繋がっており、その横にある長い階段と共に闇の中へと伸びている。
まるで奈落の底にでも繋がっていそうなその狭い道には、錆びた松明掛けがいくつもついていた。
これも恐らく避難道のひとつで、長い事使われていないのだろう。
苔むした壁と張られた蜘蛛の巣がそう伝えてくる。
最も警戒すべきなのは罠と魔物。
バベルの用意周到さなら、この避難道にも何かが仕組まれていると考えるべきだ。
三人はあの醜悪な女王の姿を思い出し、足が止まる。
あんなに強力な媚毒を持つ魔物がまた現れたら、次も同じように退治出来るとは思えない。
心身共に万全な状態とは程遠く、体の奥には微かな疼きも残っている。
こんな状態で媚毒を浴びれば、瞬く間に快楽に溺れてしまうだろう。
想像しただけでぞくぞくとした感覚がミドリの体を襲い、バーミリオンの男根を勃たせる。
そんな様子を見て、マリーは一歩前へ出た。
「一番元気なのは私ですね。 私が安全を確認してきます」
ミドリもバーミリオンも、マリーが心配で仕方ない。
戦闘中とは別人のようなその頼りなさが心配を抱かせているのだが、当のマリーは自信に満ちていた。
回復の早くなった体に、強化されたスキル。
それに催淫耐性も加わって、よほど魔物相手には遅れをとらないだろう。
マリーが強い事はふたりともわかっているが、それでも心配なのは経験不足からくる要素だ。
マリーは圧倒的に戦闘経験が少なく、純粋な戦闘ならまだしも搦め手が来た場合どうなるかわからない。
予想外の事態が起きた時の混乱や判断の遅れが、そのまま命取りとなる事も少なくない。
バーミリオンは最後の解毒剤をミドリへと渡すと、小さく一度頷いた。
「全員一緒に動こう。 合流したらどうせ目的地は地下なんだ。 それに、誰かがひとりになるのは危険すぎる」
ミドリはバーミリオンに頷き返し、マリーの方を見る。
その決意に満ちた目で見つめられ、マリーは自分に拒否権が無いことを悟った。
「……わかりました。 でも先頭は私ですよ」
マリーの顔から甘さが消え、真剣な表情になる。
ミドリとバーミリオンがマリーへと真剣な眼差しを返して頷くと、マリーは鉄格子を外し闇への階段を降りていった。
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