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第2夜 古都大和
第8話 教えて、唖雅沙先生!
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古より陰陽師の聖地として栄えている都“大和”。
四方を山に囲まれ、中央には都市の半分を占める“黎明湖”と呼ばれる湖があった。
その湖には島が浮かんでおり、“陰陽寮”と呼ばれる陰陽師の学舎を中心とした学園都市が形成されている。
そして、大和で一番高い山には、陰陽院の本部でもある城が、大和を一望出来る位置に建っていた。
「──ここまでは知っているよな?」
「初めて聞きました」
「貴様は本当になにも知らないのだな」
はあ、と唖雅沙が呆れたようにため息を吐く。すると、今度はホワイトボードに組織図と書かれた模造紙を貼りつけた。
平安時代より陰陽師を束ねる組織は“陰陽院"と呼ばれていた。
そして陰陽師を育てるために作られた学習院が“陰陽寮"である。
現在は“星命学園"と名乗っている。
「これが貴様が入学する学園だな。ここでは、二つの学科が存在する。なにかはさすがにわかるだろう? 受験生だものな」
「はい! 鬼狩科と妖怪科です」
「よろしい、正解だ。それでは、どの学科がどの組織に所属するかわかるか?」
「……陰陽院ですか?」
「大まかにいえばそうだ。だが、厳密にいうと違う」
首を傾げると、ホワイトボードに貼られた組織図の隣に資料が加えられた。
陰陽院から直線が伸びた妖怪科は、妖怪から一般人の守護を主な活動としている。
そして、その隣には、緋鞠の知らない名前が書かれていた。
「あかつき……?」
「そうだ。月鬼を狩るための組織、月鬼討伐隊“暁"。鬼狩科は、暁の所属となる。それも、試験合格後すぐだ」
唖雅沙が左手の甲を見せる。そこには丸い円に三日月と梅花の紋様が刻まれていた。
「これは封月と呼ばれる武器を呼ぶための契約の印だ。月鬼を狩るために、月の裁定者と契約をした証である」
「なるほど……」
昔、兄の左手に刻まれていた印を思い出す。彼に描かれていたのは、月と菊花だった。
「封月って一人一人、紋様が違うんですか?」
「ああ。月と共に、それぞれ何かしらの意味を持つ紋様が刻まれる」
「花の他には、弓や剣などの武具の類いもあるんですよ」
唖雅沙の言葉に追加するように、桜木が口を開く。
「桜木さんは?」
緋鞠がたずねると、桜木は左手の甲を見せてくれた。
桜木に刻まれていたのは、蝶だった。
「綺麗。だけど、ちょっと意外でした。桜とか、松かと思ってました」
そういうと、よく言われますと微笑まれた。
「そして、月の裁定者と契約するには、儀式が必要になる。それが、今夜貴様が受ける鬼狩りの試験だ」
儀式に必要なものは、鬼石と呼ばれる鬼の力を封印した石と、契約するための術式である。
試験は、星名学園に隠されたその二つを探し出し、裁定者との契約を完了させることだった。そうすることで、月鬼を倒す力を手に入れることが出来るのだ。
「ただ探すだけではない。妨害のために傀儡を使用させてもらう。そいつらを術や武器で倒してもいいし、逃げてもいい。あらゆる妨害から身をかわし、契約を完了させた者を合格者とする」
「……よくわかりました」
緋鞠はぎゅっと拳を握って、緊張した面持ちで唖雅沙を見た。これまで、緋鞠が独自の方法で頑張って来た成果が試されるときだ。
顔が強ばっている緋鞠を、桜木が安心させるように目を細めた。
「緋鞠さんなら大丈夫ですよ。制限時間は二時間もありますし、それに怪我もしませんから」
「え?」
「鬼狩り試験は、夢繋ぎという術を使用して、霊体で参加していただくんです。霊体で受けた傷ならば、身体には直接の影響はありません。それに、学園には結界が張られているので、月鬼も侵入出来ません」
「そうなんですか」
緋鞠はほっと息を吐き、肩の力を抜いた。
怪我もしないし、月鬼の脅威もない。
何も心配はいらない。
全力で頑張るだけだ。
拳をぎゅっと握った。
今夜の試験に合格すれば、また一歩兄に近づける。
緋鞠は決意を固めて、まっすぐ前を見据えたのだった。
四方を山に囲まれ、中央には都市の半分を占める“黎明湖”と呼ばれる湖があった。
その湖には島が浮かんでおり、“陰陽寮”と呼ばれる陰陽師の学舎を中心とした学園都市が形成されている。
そして、大和で一番高い山には、陰陽院の本部でもある城が、大和を一望出来る位置に建っていた。
「──ここまでは知っているよな?」
「初めて聞きました」
「貴様は本当になにも知らないのだな」
はあ、と唖雅沙が呆れたようにため息を吐く。すると、今度はホワイトボードに組織図と書かれた模造紙を貼りつけた。
平安時代より陰陽師を束ねる組織は“陰陽院"と呼ばれていた。
そして陰陽師を育てるために作られた学習院が“陰陽寮"である。
現在は“星命学園"と名乗っている。
「これが貴様が入学する学園だな。ここでは、二つの学科が存在する。なにかはさすがにわかるだろう? 受験生だものな」
「はい! 鬼狩科と妖怪科です」
「よろしい、正解だ。それでは、どの学科がどの組織に所属するかわかるか?」
「……陰陽院ですか?」
「大まかにいえばそうだ。だが、厳密にいうと違う」
首を傾げると、ホワイトボードに貼られた組織図の隣に資料が加えられた。
陰陽院から直線が伸びた妖怪科は、妖怪から一般人の守護を主な活動としている。
そして、その隣には、緋鞠の知らない名前が書かれていた。
「あかつき……?」
「そうだ。月鬼を狩るための組織、月鬼討伐隊“暁"。鬼狩科は、暁の所属となる。それも、試験合格後すぐだ」
唖雅沙が左手の甲を見せる。そこには丸い円に三日月と梅花の紋様が刻まれていた。
「これは封月と呼ばれる武器を呼ぶための契約の印だ。月鬼を狩るために、月の裁定者と契約をした証である」
「なるほど……」
昔、兄の左手に刻まれていた印を思い出す。彼に描かれていたのは、月と菊花だった。
「封月って一人一人、紋様が違うんですか?」
「ああ。月と共に、それぞれ何かしらの意味を持つ紋様が刻まれる」
「花の他には、弓や剣などの武具の類いもあるんですよ」
唖雅沙の言葉に追加するように、桜木が口を開く。
「桜木さんは?」
緋鞠がたずねると、桜木は左手の甲を見せてくれた。
桜木に刻まれていたのは、蝶だった。
「綺麗。だけど、ちょっと意外でした。桜とか、松かと思ってました」
そういうと、よく言われますと微笑まれた。
「そして、月の裁定者と契約するには、儀式が必要になる。それが、今夜貴様が受ける鬼狩りの試験だ」
儀式に必要なものは、鬼石と呼ばれる鬼の力を封印した石と、契約するための術式である。
試験は、星名学園に隠されたその二つを探し出し、裁定者との契約を完了させることだった。そうすることで、月鬼を倒す力を手に入れることが出来るのだ。
「ただ探すだけではない。妨害のために傀儡を使用させてもらう。そいつらを術や武器で倒してもいいし、逃げてもいい。あらゆる妨害から身をかわし、契約を完了させた者を合格者とする」
「……よくわかりました」
緋鞠はぎゅっと拳を握って、緊張した面持ちで唖雅沙を見た。これまで、緋鞠が独自の方法で頑張って来た成果が試されるときだ。
顔が強ばっている緋鞠を、桜木が安心させるように目を細めた。
「緋鞠さんなら大丈夫ですよ。制限時間は二時間もありますし、それに怪我もしませんから」
「え?」
「鬼狩り試験は、夢繋ぎという術を使用して、霊体で参加していただくんです。霊体で受けた傷ならば、身体には直接の影響はありません。それに、学園には結界が張られているので、月鬼も侵入出来ません」
「そうなんですか」
緋鞠はほっと息を吐き、肩の力を抜いた。
怪我もしないし、月鬼の脅威もない。
何も心配はいらない。
全力で頑張るだけだ。
拳をぎゅっと握った。
今夜の試験に合格すれば、また一歩兄に近づける。
緋鞠は決意を固めて、まっすぐ前を見据えたのだった。
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