異世界ゆるゆる開拓記

夏樹

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その7 彼の正体

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「目、覚めたか?」

 声の方へ顔を向けると、そこには青年がいた。
 服装なんかはレナと同じくみずぼらしいものの、深い緑色の髪の毛を目の部分まで伸ばしていて、とても特徴的だ。

「ここは……?」

「さっき農場でぶっ倒れた人がいたってレナから聞いたんだ。んで、そこから俺ン家まで運んだってわけ。俺はグラッドってンだ」

「あ、ありがとうございます。グラッドさん」

「気にすんなよ。それで、なんでまたあの畑跡地の雑草を抜いていたんだと言いたいところだが、どうせ何か作物でも育てようとかそんな感じだろ?」

「そんな感じです」

「俺もそこまで詳しいわけじゃないんだが、多分あそこで何か育てるのってめちゃくちゃ大変だぜ?姉ちゃんがやってたがもう全然ダメだったからさ」

 グラッドは首を横に振る。呆れた、といった感じだろうか。
 でも、この村でも農業を復活させようとした人はいたんだ、とむしろ俺は嬉しくなった。

「グラッドさんのお姉さんは?」

「レナの母親でもあるが、姉ちゃんは作物を育てる前に流行り病で死んじまったンだよ。まあ無茶はしなさんなってことだ」

 確かにグラッドは自身の姉について話している。
 だが、その言葉は俺に言っているように聞こえた。

 この村で作物を作るというのを諦めている。育たない土地だと思っているのだろうか。

「お姉さんは……」

「これはアドバイスだ。気合だけで食べ物は生えてこねえ。そんなんだったら今頃俺たちは苦労してねえんだ」

「気合だけで育てようなんて虫のいい話はしていません。でも、しっかりとした知識と技術があれば必ず作物は育ちます!」

 思わず言い返してしまった。
 別にグラッドと口論などするつもりはなかったのに。

 だが、その言葉を聞いてグラッドは笑った。

「そうそう、姉さんもそんな目をしてたよ。別に反対する気はねえんだ。ちょっと試したというか、姉さんの跡を継ぐっていうなら相応の覚悟を示してほしかったンだよ」

 そう言ってグラッドは立ち上がった。

「んじゃ、頑張れ。……と言いたいところだが、とりあえず体は鍛えろ。あと、姉さんが遺していったモンがあるから、それも使ってやってくれ。家の外の物置に色々あったはずだ」

 グラッドはにやりとこちらに目を向け、戸の向こう側へと去っていった。

 俺はすぐさま立ち上がろうとし、そして急激な激痛に身悶えする。

「これは、全身筋肉痛だわ……」

 それから俺は数日の間動けないのであった。


 数日後、俺は再び畑へとやってくることになる。
 手には少し錆びたスコップを持って……。
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