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物語のはじまり
引きこもりを宣言します
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────翌朝。
「お母さん、弟よ。聞いて下さい、私、山に引き籠ることにしました」
私は、ずらりと並んだ朝食を食べる前に、テーブルに付いた途端、昨日決心したことを声高々に宣言した。が、
「はぁ?」
「はぁ!?」
という素っ頓狂な返事をいただくことになってしまった。
ま、まぁ………引き留められることもなく、どうぞお好きにと言われても寂しいもの。なので、これは想定内ということにしよう。
ちなみに、よりでっかい声を出したのは、隣に座る弟のジェイクだった。でも、すぐにそれをも凌駕する一喝が我が家のダイニングに響き渡る。
「馬鹿言ってんじゃないわよ!!」
────バッシーン!
向かいの席に座っていた母が、力任せに両手をテーブルをに叩きつけた。
「………ひぃぃっ」
「……あー、母ちゃん、ミルクが零れたよ……」
その衝撃というか風圧で、私は、情けない声を上げながら身体を反らせる。
視界の端に、勢い余って零れた飲み物を拭き拭きする弟が入り込む。が、それは一瞬、再び母が大声を張り上げた。
「あんたねぇ、この1年、うちの手伝いをまったくしないで、散々好き勝手なことをしてた挙句、山に引き籠るですって!?本当に馬鹿言ってんじゃないわよっ」
「母ちゃん、そんな怒んなよぉー。姉ちゃん、失恋したんだぜぇー。ちったぁ優しくしてやんなよぉー」
テーブルを拭き終えた弟は、すかさずフォローをしてくれる。
が、ちょっと待て。弟よ、なんでお前が私が失恋したことを知っている?私、そっちの方が気になるんですけど………。
思わず弟に、いつどこで誰に聞いたんだと問い詰めようとしたけれど、絶賛激怒中の母は、そんなことを許してくれるわけもなかった。
「お、だ、ま、り、な、さ、いっ!!」
今度はテーブルを叩きつけることはなかった母だけれど、その分声量は3倍に増した。ダイニングの窓から、鳥が一斉に羽ばたいたのが見えた。
鳥さん、なんかごめんね。あと、私もこの状況、バサバサッと逃亡したい。
ちなみに弟は自分の朝食だけはちゃっかり隅に寄せていた。さすが末っ子。要領が良い。
と、再び意識をよそに向けた途端、母はの胸が大きく膨らんだ。あ、お説教始まるのですね。
「我が家の家訓は働かざるもの食うべからずっ。失恋したからといっても太陽が西から昇るわけでもなければ、魚が空を飛ぶこともありませんっ。世界規模で見たら些末な事っ。それより、引きこもりを抱えることの方が、我が家では重大事件、いえっ超が付く程あり得ないことです!」
そこで母はふぅーっと息を付く。でも、再び胸が大きく膨らんだ。
ああ、そうですか。まだ続くのですね。
「だいたいシンシア、あなたはいつも考え方が安直なんですっ。どうせ失恋しちゃったから、恥ずかしくて街なんか歩けないし、元彼にも会いたくない。んでもって、家は裏山に薬草園があるから、じゃ丁度良いーやぁー。そのまま引きこもっちゃえっ的なノリでそんな馬鹿なこと言ったんでしょ?甘いわ。我が家の大事な大事な薬草園は、あんたの引きこもりの為にあるんじゃないのよ」
………うっ。反論の余地なし。
突然だけれど、我が家は代々調剤屋を営んでいる。
そして代々受け継がれてきた薬草園は、かなり広くて我が家の一番の財産と言っても過言ではない。ちなみに第二の家訓は『自分の命より、薬草園を守れ』だ。
ま、ま、まぁ……まぁね、そんな大事な薬草園を引きこもり場所に使う私が罰当たりなのかもしれない。でも、決心は未だに揺らいでいない。っていうか、絶対、何が何でも引きこもりたい。
ならば仕方がない。奥の手だ………使いたくはなかったけれど。
「じゃあ、私、調剤屋を継ぐ!結婚もしないっ。だから薬師の修行の為に、裏山に引き籠るっ。3年経ったら、迎えに来て」
私のこの問題を除けば、我が家の目下の悩みは弟が軍人を志望しており、この調剤屋の跡取りをどうするか揉めているのだ。
だからここで長女である私が、跡取り宣言をすれば、まさに一挙両得。ウィンウィンってものだ。
という思惑で、ドヤ顔を決めて言った私に、弟はとても言いにくそうに口を開いた。だが若干、顔が緩んでる。
「姉ちゃんごめん。俺が継ぐことになったわ」
「はぁああああ!?何で!?あんた軍人になるって言ってたじゃんっ」
「それがさぁ………」
む?なんかコレ、嫌な予感がする。そしてそれは悲しいことに的中した。
「彼女ができちゃったんだ」
「!!!!!!!!!!!」
テヘッと照れながらカミングアウトする弟をぶん殴りたい。
「お母さん、弟よ。聞いて下さい、私、山に引き籠ることにしました」
私は、ずらりと並んだ朝食を食べる前に、テーブルに付いた途端、昨日決心したことを声高々に宣言した。が、
「はぁ?」
「はぁ!?」
という素っ頓狂な返事をいただくことになってしまった。
ま、まぁ………引き留められることもなく、どうぞお好きにと言われても寂しいもの。なので、これは想定内ということにしよう。
ちなみに、よりでっかい声を出したのは、隣に座る弟のジェイクだった。でも、すぐにそれをも凌駕する一喝が我が家のダイニングに響き渡る。
「馬鹿言ってんじゃないわよ!!」
────バッシーン!
向かいの席に座っていた母が、力任せに両手をテーブルをに叩きつけた。
「………ひぃぃっ」
「……あー、母ちゃん、ミルクが零れたよ……」
その衝撃というか風圧で、私は、情けない声を上げながら身体を反らせる。
視界の端に、勢い余って零れた飲み物を拭き拭きする弟が入り込む。が、それは一瞬、再び母が大声を張り上げた。
「あんたねぇ、この1年、うちの手伝いをまったくしないで、散々好き勝手なことをしてた挙句、山に引き籠るですって!?本当に馬鹿言ってんじゃないわよっ」
「母ちゃん、そんな怒んなよぉー。姉ちゃん、失恋したんだぜぇー。ちったぁ優しくしてやんなよぉー」
テーブルを拭き終えた弟は、すかさずフォローをしてくれる。
が、ちょっと待て。弟よ、なんでお前が私が失恋したことを知っている?私、そっちの方が気になるんですけど………。
思わず弟に、いつどこで誰に聞いたんだと問い詰めようとしたけれど、絶賛激怒中の母は、そんなことを許してくれるわけもなかった。
「お、だ、ま、り、な、さ、いっ!!」
今度はテーブルを叩きつけることはなかった母だけれど、その分声量は3倍に増した。ダイニングの窓から、鳥が一斉に羽ばたいたのが見えた。
鳥さん、なんかごめんね。あと、私もこの状況、バサバサッと逃亡したい。
ちなみに弟は自分の朝食だけはちゃっかり隅に寄せていた。さすが末っ子。要領が良い。
と、再び意識をよそに向けた途端、母はの胸が大きく膨らんだ。あ、お説教始まるのですね。
「我が家の家訓は働かざるもの食うべからずっ。失恋したからといっても太陽が西から昇るわけでもなければ、魚が空を飛ぶこともありませんっ。世界規模で見たら些末な事っ。それより、引きこもりを抱えることの方が、我が家では重大事件、いえっ超が付く程あり得ないことです!」
そこで母はふぅーっと息を付く。でも、再び胸が大きく膨らんだ。
ああ、そうですか。まだ続くのですね。
「だいたいシンシア、あなたはいつも考え方が安直なんですっ。どうせ失恋しちゃったから、恥ずかしくて街なんか歩けないし、元彼にも会いたくない。んでもって、家は裏山に薬草園があるから、じゃ丁度良いーやぁー。そのまま引きこもっちゃえっ的なノリでそんな馬鹿なこと言ったんでしょ?甘いわ。我が家の大事な大事な薬草園は、あんたの引きこもりの為にあるんじゃないのよ」
………うっ。反論の余地なし。
突然だけれど、我が家は代々調剤屋を営んでいる。
そして代々受け継がれてきた薬草園は、かなり広くて我が家の一番の財産と言っても過言ではない。ちなみに第二の家訓は『自分の命より、薬草園を守れ』だ。
ま、ま、まぁ……まぁね、そんな大事な薬草園を引きこもり場所に使う私が罰当たりなのかもしれない。でも、決心は未だに揺らいでいない。っていうか、絶対、何が何でも引きこもりたい。
ならば仕方がない。奥の手だ………使いたくはなかったけれど。
「じゃあ、私、調剤屋を継ぐ!結婚もしないっ。だから薬師の修行の為に、裏山に引き籠るっ。3年経ったら、迎えに来て」
私のこの問題を除けば、我が家の目下の悩みは弟が軍人を志望しており、この調剤屋の跡取りをどうするか揉めているのだ。
だからここで長女である私が、跡取り宣言をすれば、まさに一挙両得。ウィンウィンってものだ。
という思惑で、ドヤ顔を決めて言った私に、弟はとても言いにくそうに口を開いた。だが若干、顔が緩んでる。
「姉ちゃんごめん。俺が継ぐことになったわ」
「はぁああああ!?何で!?あんた軍人になるって言ってたじゃんっ」
「それがさぁ………」
む?なんかコレ、嫌な予感がする。そしてそれは悲しいことに的中した。
「彼女ができちゃったんだ」
「!!!!!!!!!!!」
テヘッと照れながらカミングアウトする弟をぶん殴りたい。
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