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柑橘島の甘い恋 -oranje eiland- 8
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「しかしマルハちゃん…少しは自分自身の未来を考えても良い気はするのですよ」
preek tijdというべきでしょうか。
ワイの前にはベラ子陛下、そしてアルトさんがおります。
「まぁ、それはそうなのですがなぁ…」
かつて、ここでワイとウィレミーナが使っておった寝台には、事を終えて眠るレオノールにサリムの実質夫婦と、彼らの娘であるラウシュミ。
更には下の部屋で寝てるはずのメフラウとカルノ、そしてベテハリとアニサ。
でまぁ、ここはどこかと申しますと…ジョクジャカルタ駅から見て南にある広大な芝生広場の先にあるジョクジャ宮殿敷地の南側を占める通称・花離宮です。
これまたさんざんにこのお話の中でここの光景描写が出ておるかと存じますが、このジョクジャ宮殿はいくつかの建物または建物群に分けられておりまして、ここな花離宮は北側の一般女官寮舎や食堂と、そして宮殿騎士の南側衛舎を兼ねた宿舎に挟まれております。
https://ncode.syosetu.com/n6615gx/137/
で、これまた既報の通りで回廊型の二階建て外周構造と中庭のプールを備えている建物ですが、塔を備えた地上三階塔屋一階構造を持つ北側の一角が王居とされています。
で、実はこの塔屋の部屋が、元々は下のプールで水浴びや水遊びをしている愛妾を眺めて楽しんだり品定めするために用意されたそうですが、同時にワイ…マルハレータと妹ウィレミーナの子供部屋でもありまして、ワイらとカルノが遊ぶ部屋でもあったのです。
そう…オモチャの件について色々考える出来事もここで起きていたのですよ…。
(マルハレータはまず僕が遊ぶのを見ていた。で、僕が何を考えるのかや、おもちゃの構造や遊び方に疑問を持つか、心を読んでいたんだ…オリューレから言われたからじゃなくて、僕の成長度合いを気にしてくれていたんだよ…)
更にはこの部屋、ぱそこんもありましたからワイらで自習学習めいた事も出来たのです。
「恐るべき子供たち…」
「いや陛下、それ普通ちゃいますんか…」
「まぁ、ここでのマルハのカルノに対する接し方、真剣にカルノのために色々してるって事が広まったがために皆のマルハへの信頼が強まったというのはありますよ陛下」
と申すのは橙騎士団長で、ボロブドゥール寺院騎士担当者のディードリアーネ。ちなみにワイはこのジョクジャ宮殿担当騎士ですねん、一応。
「しかし、マリーちゃん2世という評価も出てますからね…捕虜身分からの大出世を果たしたという意味ですが」
「マリーセンセイも強引というか、機を見るに敏な御仁だとはコープシェフからお聞きしましたが」
「殴り方が上手いのよ、あの子は…暴力の程度ははっきり言って私より上、乳上も大概だったけど」
「叩く理由を絶対に正当化しているのですよマリーちゃんは…ただ、叩かれた理由よりも叩かれた記憶が鮮烈な女官が多かったから、悪評に繋がったんですけどねぇ…」
「そーいや、マルハは叩かない子よねぇ」
「ワイは叩くキャラやおまへんから。その代わりに査定とか配転とか違う意味で実力行使しますからな」
そう…ワイは本気で怒ったら、殴る以外の手で言うこと聞かせるのを考える部類。
ウィレミーナが最近ぎゃあぎゃあ言わないのも、メーテヒルデ支部長から「今度何か問題起こしたら南洋行政局長実務代行でヘット・ロー宮殿を接収します」という通告を入れて頂いたからです。
それと後述しますが、ライン川水運やドイツ北部の港湾開発問題が絡んでおりまして、メーテヒルデ支部長、ワイとものすごく協調路線なのです、実務面で。
「では、今般の殴る以外の方法とやらは何なのでしょうか」
「はっきり申し上げてウィレミーナに任せておっては、球根詐欺支部の経営は成り立ちまへん」
「ああ、ウィレミーナちゃんはたしかに…クレーニャもそうもうしておりました。ただ…クレーニャのたんとうからすると、きゅうこん詐欺国は球根さぎ国で独立しておいてもらうほうがありがたいとも」
で、本当にウィレミーナ任せで困っている例として、くだんのメーテヒルデ支部長が絡む話、ベラ子陛下他の皆に披露して差し上げます。
「あそこは人魚姫国のユトランド半島やらフュン島やシュラン島っちゅう邪魔なもんが存在しますからなぁ。あれでキール側はバルト海はまだしも大西洋に出づらいんですわ」
「ドイツとオランダの国境の辺に港はないのでしょうか。確かハンブルクがあったはず…」
「陛下…あっこ、エルベ川を遡る必要があるんですわ。それに海に出たところで東フリージア諸島が存在しますやん…更にはあの列島の近辺、水深が浅いんですわ」
と、ベラ子陛下に現地事情をご理解頂こうとするワイ。
(ほれほれ室見局長、あそこ連邦世界やと局長の好みの趣味的な物件が存在しますやん…)
(…ある!ある!ヴァンゲローゲ島とランゲオーク島とボルクム島には残ってるのよ…桟橋鉄道!)
(パイセン、なんですかそれ…)
(あまりに船が着けられないので沖合に桟橋作ったり、必死で浚渫して開いた港と、島の中心部を結ぶアシに小型鉄道を敷いたのよ…最初は波に洗われるくらいひどい場所を馬車鉄道敷いたとか、そりゃもう冬のバルト海のキツい海域だから開発に苦労したようよ…)
「せやから大型の船、島の近くに入れられん上に近辺を通過する航路も限定されまくるのです。ならいっそロッテルダムまで来てもらう方が外航船には面倒がないし、そこでライン川に入るか、積み替えるかしたらライン沿岸の荷運びは出来まっしゃろ」
(メーテヒルデです。陛下、有り体に申し上げますとですね…人魚姫国しばくより、球根詐欺を経由して船通す方が面倒がないんですよ…)
そう、連邦世界のドイツとオランダの関係とほぼ同様の事態が起きているのです。
そして…ロッテルダムを大規模港湾として整備する計画、元来なら球根詐欺支部が主導してウィレミがガンガン進めるべきなんです。なんですが…。
(若いから仕方ないとは思うけど…私の補佐をさせてるんだけどね…)
ええ、このメーテヒルデ支部長の口調で全てをお悟り下さい。
そして、ロッテルダムを整備出来んと、対欧州、特にドイツ南部にスイスとストラスブール方面行きの貨物が滞貨するのです…無論、ライン下りで搬出されてきた貨物については申し上げるまでもなく。
(分かったかウィレミ…わしが口やかましく言うまでもなく、皆様から文句言われまくるんじゃ…次の定例支部長会議までにカイゼンの兆候がなかったらお前、真剣に海綿菓子国どころとちゃうからな…ほんまに球根詐欺と通路、取り上げられても知らんぞ…)
しかもポルトガルはいくら痴女皇国にあまり協力的ではないといっても、懲罰やり過ぎの件で逆に手厚い支援を受けることになった一環で一時的遷都が決まった状況です。
球根詐欺のように、単純に仕事が出来なくて物流拠点の開発が進まずに他所様から具体的な怒りを買っているのではないのです…わかるなウィレミ…。
(せめて港湾建設申請だけでも出してくれたら、あとは国土局で何とかできるんだけど…)
(いや、せめて退去住民との利害調整くらいは経験させるべきですわ…)
「確かに、この状況ではマルハちゃんにもちつけと言うのは厳しいかも知れません…」
「陛下。このオレンジキュラソーにしてもそうです。ほんまならこれ、オレンジの皮の醸成乾燥工程があるんで、船で球根詐欺まで持って来て醸造した方が元来の味になるんでっせ?」
これも少し説明しておきます。
元来はキュラソーという酒、度数のきっつい蒸留酒にオレンジの皮を漬けて風味を移して作るのです。
ですので、出来ればお酒を作る際の発酵不良による腐敗事故を防ぐためにも、ウィスキーやウォッカなどを作っている場所と同じか類似の気候の地域で作る方がええのです。
ですが、ワイの話でお分かりでしょう。
ええ…灸場東部の山の中の涼しい場所に設けられた大規模醸造所、あそこにオレンジの皮運んで作ってもろとるのです!
「しかもフランセクローザックがグランマルニエとか似たようなもん作りやがって…ボルス…キュラソー醸造会社の支配人にワイは頭を下げましたよ…」
(マリーですけどね、マルハちゃん…そのグランマルニエ…今、廃地がえらいことになって泣いている模様。オレンジ畑全滅でしてよ…)
(レラレス・マリー…ええ機会やからキュラソーオレンジ使え言うといてください。地中海沿岸の食えるオレンジの皮やと、あいつらもワイらもあの酒の味は出せんはずですわ)
(味が同じって泣くと思いますわよ…)
(いや、レラレス、奴らはベースにコニャックを使いよるから、ビターラムを使っとるボルスとは明らかに味は変わりますで。キュラソー産の皮を使っても差別化はできますわ…何ならラベル変えてグランマルニエ・キュラサオっちゅう別ブランドで売るくらいやったらうちもガタガタ言いませんわ。それよりキュラソーの名前が売れる方が結果的に長期で安定して儲かりますやろ)
(大丈夫ですの?)
(むしろ潰して欲しい言うたらコアントローですわ。あそこフランス国産オレンジの皮使うてますから…)
「マルハちゃんが悪党な顔になってます…」
「まぁまぁ陛下、これがまずオレンジキュラソー、球根詐欺のボルス社が作った純正キュラソーとでも言うべきモノですねん」
と、ワイは海賊酒場にいたバーテンさんから教えてもらった方法で軽くステアしたお酒を出します。
「ええっ、マルハちゃんにそんなことが出来るとは…」
「陛下陛下、海賊酒場に能代さん言うたかな、ほら、トウキョウにいてはって、どういう訳かオッパブの店員してたいう人、おらはりましたやん。あの人、元バールマンで色々出来はる人なんですよ。流石にワイの滞在中に全てを吸い上げるのは無理でしたけど…」
そう、ワイは結構、こうして人様の知識を頂く事も多いのですよ。
ただ…実際に自分の手が動いたり、混ぜ物の分量やステアする秒数とか回数を自分の技術にするためには、何度かの実践が必要だと理解はしとりますが。
でまぁ、グランマルニエとかコアントローの瓶も用意して、ちょいちょいとオレンジジュースカクテルなんぞに仕上げてベラ子陛下とアルトさんとディードに振舞って行くワイでございます。
(こうして作ったらワイ程度の下手くそでも充分に、違いが分かりますやろ…)
(確かに…そしてきついお酒がベースなので、あたしたちが痴女種でなければ酔わされているであろうことも…)
(言うときますが、ワイに他意はおまへん。むしろ酔い潰れてもろたら困るのです)
(な、なじぇに…)
(この手のカクテルが流行るのは、はっきり言えば冷蔵庫なるものが普及して氷や酒を割るジュースを安定保管保存できるようになってからでっしゃろ…。すなわち、連邦世界のカクテルのようにおなごに飲ませてええ気分にさせるためには、雰囲気を盛り上げるための環境整備、特に電化が必要かも知れまへんで…)
(ぬぬぅっ…流石にバーカウンターのふいんきを作るためには蝋燭や魚油、更にはランプだけでは…)
(ガス燈にしても、そもそもガスという火災発生要因を要するしろものですやん…雰囲気は最高なんですけどなぁ)
と、ここで部屋の中を見渡すワイでございます。
その理由は…エマニエル部長にお願いしまして、貴賓客車製造時に余った木材や調度を使って、ちょっと大人の雰囲気にしてもらったのですよ、ワイのお部屋。
そして白熱電球やガス灯風味の照明を入れたり、シーリングファンとやらを付けたり。
(離宮のあたしのお部屋より趣味がいいです…)
「で、この調度を見せたのは何も自慢やおまへんのや…こうした風合いの部屋を、キュラソーの総督室なり司祭居室なりに用意することで、言うなれば客の目をくらますことは出来んかいなと」
「なるほど…マルハ、あんた、部屋の調度に目が利くような客が来るって思ってるわけね…」
「ディード、考えても見てや…あっちは欧州の帆船の船長室の近所に部屋もらったり充てがわれてる客が訪ねて来ることは十分に考えられるやろ…サリム、一応言うと、痴女皇国仕様の動力帆船でも受け継いでるけどな、帆船というのは風の吹いてくる向きに進むやろ…つまり、トイレの臭気が一番風上になる船尾に船長室なり提督室、えらいさんの部屋を置くのが設計の基本やったんや…ただ、今後は完全な動力船が主体となるから、その構造はまた変わってくるやろう…しかし、上級船員と下級船員、そして船客もより金を払う奴がええ場所を占めるのが基本なのや…」
「マルハちゃんが何か詳しい気が」
「へーか、これまた、北方帝国の初代皇帝がどこの造船所に紛れ込んで船大工の修行をしたかですわ…球根詐欺は海運国家でもありましたからな…」
(そう言えばマルハレータ、君はフグーやクレマンソーに乗艦した際も構造や船室配置を気にする素振りを示していたな…なるほど、海面下国の出だけはあるものだ)
(コープシェフ…あの船、確か船橋に船長室がありましたな。その代わりに船橋自体が有事には半没または全没するとかも)
(オリジナルのテンプレスよりはテンプレス2世に寄せているな。確かテンプレスはラッツィオーニ閣下の接待用室を設ける関係で船体内上側部に提督室があったはずだ)
(最初はあの慰労室、ママの店というかクラブジュネス・テンプレス店として営業するとか恐ろしい構想があったらしいのですよ…)
(軍艦内で風俗店を営業するのはどの軍もしていないはず。陛下、是非宇宙初を目指して)
(カエル女に店舗責任者をさせるならば)
売春婦を乗せるのはまだしも、売春窟を営業する事例や、売春船を航行させる事例はなかったはずですよ。
まぁ、フグー号やテンプレスのように船内で電気や水を作れる上に、旅館を開けるほど大きな船ならば出来なくもないでしょうけど…。
ま、その辺に近いもん、ワイの構想にはあるのですよ…実のところは。
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で、それをお教えするためにも、翌朝の「朝礼」の後でワイはVABなる装甲車に赴任者の皆様を詰め込んでアジスチプト飛行場に向かうことにします。
既にテンプレスと、同じ船は救援物資や仮説住居などを積んでカリブと連邦世界を往復していたり、あるいは現地の島に行って食料や真水の提供場所となっていたり、場合によっては仮の住まいとして停泊しているようです。
つまり、今回のカリブ赴任、ワイらはスケアクロウで行くことになります。
(その一般兵員輸送用VABなら対汚染防護機能の一部として簡易空調が設備されているから、暑さで死ねることはないはずだ…)
ええ、皆から無骨だ乗り心地が悪いくらいの苦情ならば黙殺しようと思っておりましたが、暑いのは流石に困ります。
悪いことにこの車、扉の窓または屋根上の蓋くらいしか開けられる窓がないのです…。
でまぁ、アルトさんや朝礼のせいで死にかけているベラ子陛下はともかく、後ろの家族3人はなるべく体調不良とかにはなって欲しくないのです。
何故ならばアジスチプトからキュラソーまでは「最短経路でもまともに飛んで行けば2万キロ近い距離を移動することになる」からなのです…。
(偏西風の存在を鑑みると東に飛んでパナマ上空を通過するのが一番、距離も時間も早いですね…)
しかし、それにしても20時間以上飛行することになるため、ニューギニア上空で転送をかけてパナマ上空に転移するずるを行って現地到着時刻を調整するのだそうです。
(現地時間で午前6時ごろ到着するように飛行時間を調整しますから…)
(あまりに大変なようなら、サリムの分だけでも寝台とかないんですやろか…)
(操縦室の屋根裏部屋に2名分のバチェローテルみたいなクルーバンクという寝台が存在します…それ以外は貨物室の壁に担架めいた布を展開してそこで寝るのです…)
そうですよね…フグー号の中とか見せてもらいましたけど、軍隊の使うもんですよね…。
とりあえず、アジスチプトにスケアクロウを回航して来たエマニエル部長と操縦席を交代するベラ子陛下。
で、エマ子部長は右側の席に…。
「今回は転送もいるし、あたしが分体出してコパイをするわ」
ええ、マリアリーゼ陛下がお越しに。
この方とベラ子陛下は、このように「複数の場所に同時に現れる」事が出来るそうです。
(本体は既にカリブだ。ただ、あたしたちはまず、何はともあれキュラソーに向かうから。差し当たってレオノールさん一家をキュラソーに送るのを優先して飛ばすから心配すんな)
ありがとうございます。
そして、ディードの運転でワイが走らせた装甲車の後をついて来たセコイや号から、メフラウとカルノ、そしてアニサとベテハリが降り立ちます。
「マルハレータ、大変だろうけどこの子たちをよろしくね…レオノール、そしてサリムとラウシュミ…今からあなたたちが向かう島には、まず間違いなく南洋島ともマドゥラともまた違う世界が広がるでしょう。しかし、聖母教会とて慈母寺と同じく人に愛と慈悲を与える存在です。その基本を忘れなければ道は開けるでしょう」
メフラウの訓示に、深く一礼するワイら。
そして装甲車をスケアクロウの荷室の空いた場所に何とか納めようとするワイ以外の3人は機内の人となります。
お尻の蓋を閉めたエマ子部長に手招きされますが、瞬間、ワイはメフラウに咥えられます。
何を、とか言わないように。
(いいですかマルハレータ。これは、ウサギ号をあなたの棺としないために起きた出来事なのかも知れません。南洋王国のことが気になるとは思いますが、レオノールたちと同様、あなたにも新天地となるかも知れないのです…差し当たってはあなたの思いついたことを形にするためにも、頑張るのですよ…)
と、今度は立ち上がってワイを抱きしめるメフラウ。
「…行って参ります、メフラウ…」
今度こそスケアクロウの機内の人となりますと、後ろの席に座ったら肉眼ではメフラウたちの様子は伺えません。
しかし、特殊視覚を併用すれば、機外で手を振るメフラウやアニサ、そしてカルノとベテハリの姿が見えます。
ええ、スケアクロウが見えなくなるまで、メフラウたちは見送って下さいました。
緑多い南洋島の地面を離れたスケアクロウは、一路東へ向かって高度をあげて行きます。
(サリムとレオノール、左側に見えるかな。スラバヤを過ぎたらマドゥラ島や、東の端の突き出た半島の付け根の港がスメネプの港町。んで、そこの上の方で工事して更地が見えてるのが旧・マドゥラ王都で元・百姓村の一部や…)
そう、サリムには生まれ故郷が見えるコースを飛ぶのです。
窓こそありませんが、前の席の画面には早朝のスメネプの町…漁を終えた漁師町はこれから寝入る者も少なくありませんが、逆に百姓村ではこれからが朝の始まりです。
(レオノールせんせー、いってらっしゃぁああああい)
(サリムもげんきでなぁあああああああ)
(まるはせんせいのえろほん、まだうってるよーーーー)
なんか聞こえた気もしますが、とりあえずアンジャニや住職たちが、我々がスメネプ沖合を飛んで行くと告げたのでしょう。
(青とか赤の光が点滅してなかったらわからんね…まぁ、これならどう見たって鳥には思いませんわ。スメネプのもんで起きてる奴は南の空を見てますよ、全員)
(いや、そこまでせんでも…まぁええか。なんか困った事があったら住職にゆうてくれよアンジャニ。最悪はパメカサンのカーティカかスピカならワイに直接話が来るから)
(まぁ、マルハさまの手ぇはなるべく煩わせんようにします。マルハ様と…レオノール先生、行ってらっしゃい)
アンジャニ他、スメネプの連中の見送りを受けて高度を上げるスケアクロウ。
後ろの席でレオノールとサリムが目から汁を出している気もしますし、感情醸成が進んでいるラウシュミもその、故郷や馴染みの地を離れる悲しみを理解してもらい泣きしております。
しかし、この子らは新たなる居場所を切り拓かねばなりません。
そして、ワイはそのお手伝いをしてやらねばならんのです。
この子たちの居場所を作らないと、ワイが考えている復興計画も先に進みませんから、まずはキュラソー、なのですよ…。
(そうそうマルハちゃん。その計画に絶対必要なもんの手配も順次つけてるんだが…差し当たってシーマックス型4隻を1ヶ月以内にキュラソーに配船できると思う。カリブ海の水中生物との衝突事故問題があるからボーイング929のような水中翼船はちょっと試験してからだな…場合によっちゃ、オーストラリアからトリマラン型高速フェリーのライセンスを受けるか…)
preek tijdというべきでしょうか。
ワイの前にはベラ子陛下、そしてアルトさんがおります。
「まぁ、それはそうなのですがなぁ…」
かつて、ここでワイとウィレミーナが使っておった寝台には、事を終えて眠るレオノールにサリムの実質夫婦と、彼らの娘であるラウシュミ。
更には下の部屋で寝てるはずのメフラウとカルノ、そしてベテハリとアニサ。
でまぁ、ここはどこかと申しますと…ジョクジャカルタ駅から見て南にある広大な芝生広場の先にあるジョクジャ宮殿敷地の南側を占める通称・花離宮です。
これまたさんざんにこのお話の中でここの光景描写が出ておるかと存じますが、このジョクジャ宮殿はいくつかの建物または建物群に分けられておりまして、ここな花離宮は北側の一般女官寮舎や食堂と、そして宮殿騎士の南側衛舎を兼ねた宿舎に挟まれております。
https://ncode.syosetu.com/n6615gx/137/
で、これまた既報の通りで回廊型の二階建て外周構造と中庭のプールを備えている建物ですが、塔を備えた地上三階塔屋一階構造を持つ北側の一角が王居とされています。
で、実はこの塔屋の部屋が、元々は下のプールで水浴びや水遊びをしている愛妾を眺めて楽しんだり品定めするために用意されたそうですが、同時にワイ…マルハレータと妹ウィレミーナの子供部屋でもありまして、ワイらとカルノが遊ぶ部屋でもあったのです。
そう…オモチャの件について色々考える出来事もここで起きていたのですよ…。
(マルハレータはまず僕が遊ぶのを見ていた。で、僕が何を考えるのかや、おもちゃの構造や遊び方に疑問を持つか、心を読んでいたんだ…オリューレから言われたからじゃなくて、僕の成長度合いを気にしてくれていたんだよ…)
更にはこの部屋、ぱそこんもありましたからワイらで自習学習めいた事も出来たのです。
「恐るべき子供たち…」
「いや陛下、それ普通ちゃいますんか…」
「まぁ、ここでのマルハのカルノに対する接し方、真剣にカルノのために色々してるって事が広まったがために皆のマルハへの信頼が強まったというのはありますよ陛下」
と申すのは橙騎士団長で、ボロブドゥール寺院騎士担当者のディードリアーネ。ちなみにワイはこのジョクジャ宮殿担当騎士ですねん、一応。
「しかし、マリーちゃん2世という評価も出てますからね…捕虜身分からの大出世を果たしたという意味ですが」
「マリーセンセイも強引というか、機を見るに敏な御仁だとはコープシェフからお聞きしましたが」
「殴り方が上手いのよ、あの子は…暴力の程度ははっきり言って私より上、乳上も大概だったけど」
「叩く理由を絶対に正当化しているのですよマリーちゃんは…ただ、叩かれた理由よりも叩かれた記憶が鮮烈な女官が多かったから、悪評に繋がったんですけどねぇ…」
「そーいや、マルハは叩かない子よねぇ」
「ワイは叩くキャラやおまへんから。その代わりに査定とか配転とか違う意味で実力行使しますからな」
そう…ワイは本気で怒ったら、殴る以外の手で言うこと聞かせるのを考える部類。
ウィレミーナが最近ぎゃあぎゃあ言わないのも、メーテヒルデ支部長から「今度何か問題起こしたら南洋行政局長実務代行でヘット・ロー宮殿を接収します」という通告を入れて頂いたからです。
それと後述しますが、ライン川水運やドイツ北部の港湾開発問題が絡んでおりまして、メーテヒルデ支部長、ワイとものすごく協調路線なのです、実務面で。
「では、今般の殴る以外の方法とやらは何なのでしょうか」
「はっきり申し上げてウィレミーナに任せておっては、球根詐欺支部の経営は成り立ちまへん」
「ああ、ウィレミーナちゃんはたしかに…クレーニャもそうもうしておりました。ただ…クレーニャのたんとうからすると、きゅうこん詐欺国は球根さぎ国で独立しておいてもらうほうがありがたいとも」
で、本当にウィレミーナ任せで困っている例として、くだんのメーテヒルデ支部長が絡む話、ベラ子陛下他の皆に披露して差し上げます。
「あそこは人魚姫国のユトランド半島やらフュン島やシュラン島っちゅう邪魔なもんが存在しますからなぁ。あれでキール側はバルト海はまだしも大西洋に出づらいんですわ」
「ドイツとオランダの国境の辺に港はないのでしょうか。確かハンブルクがあったはず…」
「陛下…あっこ、エルベ川を遡る必要があるんですわ。それに海に出たところで東フリージア諸島が存在しますやん…更にはあの列島の近辺、水深が浅いんですわ」
と、ベラ子陛下に現地事情をご理解頂こうとするワイ。
(ほれほれ室見局長、あそこ連邦世界やと局長の好みの趣味的な物件が存在しますやん…)
(…ある!ある!ヴァンゲローゲ島とランゲオーク島とボルクム島には残ってるのよ…桟橋鉄道!)
(パイセン、なんですかそれ…)
(あまりに船が着けられないので沖合に桟橋作ったり、必死で浚渫して開いた港と、島の中心部を結ぶアシに小型鉄道を敷いたのよ…最初は波に洗われるくらいひどい場所を馬車鉄道敷いたとか、そりゃもう冬のバルト海のキツい海域だから開発に苦労したようよ…)
「せやから大型の船、島の近くに入れられん上に近辺を通過する航路も限定されまくるのです。ならいっそロッテルダムまで来てもらう方が外航船には面倒がないし、そこでライン川に入るか、積み替えるかしたらライン沿岸の荷運びは出来まっしゃろ」
(メーテヒルデです。陛下、有り体に申し上げますとですね…人魚姫国しばくより、球根詐欺を経由して船通す方が面倒がないんですよ…)
そう、連邦世界のドイツとオランダの関係とほぼ同様の事態が起きているのです。
そして…ロッテルダムを大規模港湾として整備する計画、元来なら球根詐欺支部が主導してウィレミがガンガン進めるべきなんです。なんですが…。
(若いから仕方ないとは思うけど…私の補佐をさせてるんだけどね…)
ええ、このメーテヒルデ支部長の口調で全てをお悟り下さい。
そして、ロッテルダムを整備出来んと、対欧州、特にドイツ南部にスイスとストラスブール方面行きの貨物が滞貨するのです…無論、ライン下りで搬出されてきた貨物については申し上げるまでもなく。
(分かったかウィレミ…わしが口やかましく言うまでもなく、皆様から文句言われまくるんじゃ…次の定例支部長会議までにカイゼンの兆候がなかったらお前、真剣に海綿菓子国どころとちゃうからな…ほんまに球根詐欺と通路、取り上げられても知らんぞ…)
しかもポルトガルはいくら痴女皇国にあまり協力的ではないといっても、懲罰やり過ぎの件で逆に手厚い支援を受けることになった一環で一時的遷都が決まった状況です。
球根詐欺のように、単純に仕事が出来なくて物流拠点の開発が進まずに他所様から具体的な怒りを買っているのではないのです…わかるなウィレミ…。
(せめて港湾建設申請だけでも出してくれたら、あとは国土局で何とかできるんだけど…)
(いや、せめて退去住民との利害調整くらいは経験させるべきですわ…)
「確かに、この状況ではマルハちゃんにもちつけと言うのは厳しいかも知れません…」
「陛下。このオレンジキュラソーにしてもそうです。ほんまならこれ、オレンジの皮の醸成乾燥工程があるんで、船で球根詐欺まで持って来て醸造した方が元来の味になるんでっせ?」
これも少し説明しておきます。
元来はキュラソーという酒、度数のきっつい蒸留酒にオレンジの皮を漬けて風味を移して作るのです。
ですので、出来ればお酒を作る際の発酵不良による腐敗事故を防ぐためにも、ウィスキーやウォッカなどを作っている場所と同じか類似の気候の地域で作る方がええのです。
ですが、ワイの話でお分かりでしょう。
ええ…灸場東部の山の中の涼しい場所に設けられた大規模醸造所、あそこにオレンジの皮運んで作ってもろとるのです!
「しかもフランセクローザックがグランマルニエとか似たようなもん作りやがって…ボルス…キュラソー醸造会社の支配人にワイは頭を下げましたよ…」
(マリーですけどね、マルハちゃん…そのグランマルニエ…今、廃地がえらいことになって泣いている模様。オレンジ畑全滅でしてよ…)
(レラレス・マリー…ええ機会やからキュラソーオレンジ使え言うといてください。地中海沿岸の食えるオレンジの皮やと、あいつらもワイらもあの酒の味は出せんはずですわ)
(味が同じって泣くと思いますわよ…)
(いや、レラレス、奴らはベースにコニャックを使いよるから、ビターラムを使っとるボルスとは明らかに味は変わりますで。キュラソー産の皮を使っても差別化はできますわ…何ならラベル変えてグランマルニエ・キュラサオっちゅう別ブランドで売るくらいやったらうちもガタガタ言いませんわ。それよりキュラソーの名前が売れる方が結果的に長期で安定して儲かりますやろ)
(大丈夫ですの?)
(むしろ潰して欲しい言うたらコアントローですわ。あそこフランス国産オレンジの皮使うてますから…)
「マルハちゃんが悪党な顔になってます…」
「まぁまぁ陛下、これがまずオレンジキュラソー、球根詐欺のボルス社が作った純正キュラソーとでも言うべきモノですねん」
と、ワイは海賊酒場にいたバーテンさんから教えてもらった方法で軽くステアしたお酒を出します。
「ええっ、マルハちゃんにそんなことが出来るとは…」
「陛下陛下、海賊酒場に能代さん言うたかな、ほら、トウキョウにいてはって、どういう訳かオッパブの店員してたいう人、おらはりましたやん。あの人、元バールマンで色々出来はる人なんですよ。流石にワイの滞在中に全てを吸い上げるのは無理でしたけど…」
そう、ワイは結構、こうして人様の知識を頂く事も多いのですよ。
ただ…実際に自分の手が動いたり、混ぜ物の分量やステアする秒数とか回数を自分の技術にするためには、何度かの実践が必要だと理解はしとりますが。
でまぁ、グランマルニエとかコアントローの瓶も用意して、ちょいちょいとオレンジジュースカクテルなんぞに仕上げてベラ子陛下とアルトさんとディードに振舞って行くワイでございます。
(こうして作ったらワイ程度の下手くそでも充分に、違いが分かりますやろ…)
(確かに…そしてきついお酒がベースなので、あたしたちが痴女種でなければ酔わされているであろうことも…)
(言うときますが、ワイに他意はおまへん。むしろ酔い潰れてもろたら困るのです)
(な、なじぇに…)
(この手のカクテルが流行るのは、はっきり言えば冷蔵庫なるものが普及して氷や酒を割るジュースを安定保管保存できるようになってからでっしゃろ…。すなわち、連邦世界のカクテルのようにおなごに飲ませてええ気分にさせるためには、雰囲気を盛り上げるための環境整備、特に電化が必要かも知れまへんで…)
(ぬぬぅっ…流石にバーカウンターのふいんきを作るためには蝋燭や魚油、更にはランプだけでは…)
(ガス燈にしても、そもそもガスという火災発生要因を要するしろものですやん…雰囲気は最高なんですけどなぁ)
と、ここで部屋の中を見渡すワイでございます。
その理由は…エマニエル部長にお願いしまして、貴賓客車製造時に余った木材や調度を使って、ちょっと大人の雰囲気にしてもらったのですよ、ワイのお部屋。
そして白熱電球やガス灯風味の照明を入れたり、シーリングファンとやらを付けたり。
(離宮のあたしのお部屋より趣味がいいです…)
「で、この調度を見せたのは何も自慢やおまへんのや…こうした風合いの部屋を、キュラソーの総督室なり司祭居室なりに用意することで、言うなれば客の目をくらますことは出来んかいなと」
「なるほど…マルハ、あんた、部屋の調度に目が利くような客が来るって思ってるわけね…」
「ディード、考えても見てや…あっちは欧州の帆船の船長室の近所に部屋もらったり充てがわれてる客が訪ねて来ることは十分に考えられるやろ…サリム、一応言うと、痴女皇国仕様の動力帆船でも受け継いでるけどな、帆船というのは風の吹いてくる向きに進むやろ…つまり、トイレの臭気が一番風上になる船尾に船長室なり提督室、えらいさんの部屋を置くのが設計の基本やったんや…ただ、今後は完全な動力船が主体となるから、その構造はまた変わってくるやろう…しかし、上級船員と下級船員、そして船客もより金を払う奴がええ場所を占めるのが基本なのや…」
「マルハちゃんが何か詳しい気が」
「へーか、これまた、北方帝国の初代皇帝がどこの造船所に紛れ込んで船大工の修行をしたかですわ…球根詐欺は海運国家でもありましたからな…」
(そう言えばマルハレータ、君はフグーやクレマンソーに乗艦した際も構造や船室配置を気にする素振りを示していたな…なるほど、海面下国の出だけはあるものだ)
(コープシェフ…あの船、確か船橋に船長室がありましたな。その代わりに船橋自体が有事には半没または全没するとかも)
(オリジナルのテンプレスよりはテンプレス2世に寄せているな。確かテンプレスはラッツィオーニ閣下の接待用室を設ける関係で船体内上側部に提督室があったはずだ)
(最初はあの慰労室、ママの店というかクラブジュネス・テンプレス店として営業するとか恐ろしい構想があったらしいのですよ…)
(軍艦内で風俗店を営業するのはどの軍もしていないはず。陛下、是非宇宙初を目指して)
(カエル女に店舗責任者をさせるならば)
売春婦を乗せるのはまだしも、売春窟を営業する事例や、売春船を航行させる事例はなかったはずですよ。
まぁ、フグー号やテンプレスのように船内で電気や水を作れる上に、旅館を開けるほど大きな船ならば出来なくもないでしょうけど…。
ま、その辺に近いもん、ワイの構想にはあるのですよ…実のところは。
------
で、それをお教えするためにも、翌朝の「朝礼」の後でワイはVABなる装甲車に赴任者の皆様を詰め込んでアジスチプト飛行場に向かうことにします。
既にテンプレスと、同じ船は救援物資や仮説住居などを積んでカリブと連邦世界を往復していたり、あるいは現地の島に行って食料や真水の提供場所となっていたり、場合によっては仮の住まいとして停泊しているようです。
つまり、今回のカリブ赴任、ワイらはスケアクロウで行くことになります。
(その一般兵員輸送用VABなら対汚染防護機能の一部として簡易空調が設備されているから、暑さで死ねることはないはずだ…)
ええ、皆から無骨だ乗り心地が悪いくらいの苦情ならば黙殺しようと思っておりましたが、暑いのは流石に困ります。
悪いことにこの車、扉の窓または屋根上の蓋くらいしか開けられる窓がないのです…。
でまぁ、アルトさんや朝礼のせいで死にかけているベラ子陛下はともかく、後ろの家族3人はなるべく体調不良とかにはなって欲しくないのです。
何故ならばアジスチプトからキュラソーまでは「最短経路でもまともに飛んで行けば2万キロ近い距離を移動することになる」からなのです…。
(偏西風の存在を鑑みると東に飛んでパナマ上空を通過するのが一番、距離も時間も早いですね…)
しかし、それにしても20時間以上飛行することになるため、ニューギニア上空で転送をかけてパナマ上空に転移するずるを行って現地到着時刻を調整するのだそうです。
(現地時間で午前6時ごろ到着するように飛行時間を調整しますから…)
(あまりに大変なようなら、サリムの分だけでも寝台とかないんですやろか…)
(操縦室の屋根裏部屋に2名分のバチェローテルみたいなクルーバンクという寝台が存在します…それ以外は貨物室の壁に担架めいた布を展開してそこで寝るのです…)
そうですよね…フグー号の中とか見せてもらいましたけど、軍隊の使うもんですよね…。
とりあえず、アジスチプトにスケアクロウを回航して来たエマニエル部長と操縦席を交代するベラ子陛下。
で、エマ子部長は右側の席に…。
「今回は転送もいるし、あたしが分体出してコパイをするわ」
ええ、マリアリーゼ陛下がお越しに。
この方とベラ子陛下は、このように「複数の場所に同時に現れる」事が出来るそうです。
(本体は既にカリブだ。ただ、あたしたちはまず、何はともあれキュラソーに向かうから。差し当たってレオノールさん一家をキュラソーに送るのを優先して飛ばすから心配すんな)
ありがとうございます。
そして、ディードの運転でワイが走らせた装甲車の後をついて来たセコイや号から、メフラウとカルノ、そしてアニサとベテハリが降り立ちます。
「マルハレータ、大変だろうけどこの子たちをよろしくね…レオノール、そしてサリムとラウシュミ…今からあなたたちが向かう島には、まず間違いなく南洋島ともマドゥラともまた違う世界が広がるでしょう。しかし、聖母教会とて慈母寺と同じく人に愛と慈悲を与える存在です。その基本を忘れなければ道は開けるでしょう」
メフラウの訓示に、深く一礼するワイら。
そして装甲車をスケアクロウの荷室の空いた場所に何とか納めようとするワイ以外の3人は機内の人となります。
お尻の蓋を閉めたエマ子部長に手招きされますが、瞬間、ワイはメフラウに咥えられます。
何を、とか言わないように。
(いいですかマルハレータ。これは、ウサギ号をあなたの棺としないために起きた出来事なのかも知れません。南洋王国のことが気になるとは思いますが、レオノールたちと同様、あなたにも新天地となるかも知れないのです…差し当たってはあなたの思いついたことを形にするためにも、頑張るのですよ…)
と、今度は立ち上がってワイを抱きしめるメフラウ。
「…行って参ります、メフラウ…」
今度こそスケアクロウの機内の人となりますと、後ろの席に座ったら肉眼ではメフラウたちの様子は伺えません。
しかし、特殊視覚を併用すれば、機外で手を振るメフラウやアニサ、そしてカルノとベテハリの姿が見えます。
ええ、スケアクロウが見えなくなるまで、メフラウたちは見送って下さいました。
緑多い南洋島の地面を離れたスケアクロウは、一路東へ向かって高度をあげて行きます。
(サリムとレオノール、左側に見えるかな。スラバヤを過ぎたらマドゥラ島や、東の端の突き出た半島の付け根の港がスメネプの港町。んで、そこの上の方で工事して更地が見えてるのが旧・マドゥラ王都で元・百姓村の一部や…)
そう、サリムには生まれ故郷が見えるコースを飛ぶのです。
窓こそありませんが、前の席の画面には早朝のスメネプの町…漁を終えた漁師町はこれから寝入る者も少なくありませんが、逆に百姓村ではこれからが朝の始まりです。
(レオノールせんせー、いってらっしゃぁああああい)
(サリムもげんきでなぁあああああああ)
(まるはせんせいのえろほん、まだうってるよーーーー)
なんか聞こえた気もしますが、とりあえずアンジャニや住職たちが、我々がスメネプ沖合を飛んで行くと告げたのでしょう。
(青とか赤の光が点滅してなかったらわからんね…まぁ、これならどう見たって鳥には思いませんわ。スメネプのもんで起きてる奴は南の空を見てますよ、全員)
(いや、そこまでせんでも…まぁええか。なんか困った事があったら住職にゆうてくれよアンジャニ。最悪はパメカサンのカーティカかスピカならワイに直接話が来るから)
(まぁ、マルハさまの手ぇはなるべく煩わせんようにします。マルハ様と…レオノール先生、行ってらっしゃい)
アンジャニ他、スメネプの連中の見送りを受けて高度を上げるスケアクロウ。
後ろの席でレオノールとサリムが目から汁を出している気もしますし、感情醸成が進んでいるラウシュミもその、故郷や馴染みの地を離れる悲しみを理解してもらい泣きしております。
しかし、この子らは新たなる居場所を切り拓かねばなりません。
そして、ワイはそのお手伝いをしてやらねばならんのです。
この子たちの居場所を作らないと、ワイが考えている復興計画も先に進みませんから、まずはキュラソー、なのですよ…。
(そうそうマルハちゃん。その計画に絶対必要なもんの手配も順次つけてるんだが…差し当たってシーマックス型4隻を1ヶ月以内にキュラソーに配船できると思う。カリブ海の水中生物との衝突事故問題があるからボーイング929のような水中翼船はちょっと試験してからだな…場合によっちゃ、オーストラリアからトリマラン型高速フェリーのライセンスを受けるか…)
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