玉の輿だったはずなのに!

木島

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ルキーノの気遣い

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 って言うのが大体1年前の話。色々と思い悩んだが、結局俺はルキーノに賭けることに決めた。再度訪れたルキーノに求婚を受け入れることを告げ、楼主との話し合いを済ませる。スムーズに話が纏まった後彼は珍しく、非常に珍しく口角を上げてこう言った。

「さて。これでお前と私は一蓮托生。裏切ればどうなるか……わかっているな?」
「ひぇ」

 そう言う彼の目は全く笑ってなかったし圧が凄い。正直めちゃくちゃ怖かった。ほとんど脅迫の勢い。
 いや確かにこの4年で色々と口外できないことも聞いてしまったけど、それは娼館ではよくある話。相手が出ていけば何もかも忘れるのがマナーというものだ。その信用と信頼を裏切るつもりはありませんよと何度も激しく頷いてアピールする。

「ならば良い。お前が良き伴侶でいるなら、私もお前に不自由はさせない」
「はぁい……」

 騙されたかもしれない。そんな風に思った俺は悪くないと思う。

 とまあそんな感じで嫁いできたのがベネディクティス辺境伯家。ちょっとしたプレッシャーはありつつも彼を裏切るつもりは更々ない俺は娼館でのうんざりする生活から脱出し、悠々自適な第二の人生!玉の輿だ!と思っていた。それなのに結婚初日に最悪の記憶が蘇ってしまったわけである。
 精霊のギフトに文句を言うわけじゃないけど、もう少し早くこの記憶が蘇っていたらと思わなくもない。そうしたらルキーノに近寄らず、深入りせず過ごせたかもしれないのに。
 ま、今更なんだけどね。

「ブリジッタ、ルキーノ様は?」
「ネロ様がお休みの間に勤めに出られましたよ」
「ありゃ、もう?起こしてくれたらよかったのに」

 たっぷりイチャイチャした初夜が明けた朝、目が覚めたらベッドには俺一人だった。既に日は高く、慌ててブリジッタを呼べば彼は仕事に出たと言う。
 夜遅くまで盛り上がっていたからルキーノも休みだろうと思っていたのにどうやら違ったらしい。ワーカホリックかな?見送りも伴侶の勤めだろうに、やってしまったと反省していると着替えを持ってきたアンジェラが教えてくれた。

「ネロ様はお疲れのご様子でしたので休ませておくようにと旦那様が仰ったのですよ。だからお気になさらずいてくださいませ」
「えっ、あ、そうなの?」
「はい」

 そう言われるとちょっと照れる。俺の体調を気遣ってくれたのか。まあ、疲れるようなことをしたのはルキーノなんだけどね。

「それなら仕方ないね。明日は頑張って起きよ。起きてこなかったら起こしてね」
「畏まりました」

 俺のお願いに2人は頷いてくれる。娼館は朝が遅いから早起きが苦手なのだ。でもこれで明日は早起きできるだろう。
 2人の手を借りて着替えを済ませ、朝食を食べようと食堂に出る。そこにはステファノとジュリエッタがいて、3人で和やかに食事を摂った。

「ステファノ様、ジュリエッタ様、お2人の今日のご予定は?」
「僕は午前中はかていきょうが来てマナーレッスン、午後は体力づくりだ」
「わたしもおべんきょう」
「へぇ!すごい」

 9歳になるステファノはともかく、まだ4歳のジュリエッタも勉強する時間があるのか。さすがは貴族だと感心してしまう。平民の4歳なんて家事を多少手伝えるようになるくらいだったな。勉強なんてできる環境にない奴がほとんどだ。

「ジュリエッタ様のお勉強は何をするんですか?」
「えっと、じをよんだりかいたりするれんしゅう、するの」

 興味本位で聞いたらジュリエッタは嬉しそうに笑って教えてくれる。絵本を読みながら練習するらしい。読み書きは確かに基本中の基本だもんな。なるほど。

「2人とも偉いですね。俺も頑張らないと」
「ネロも今日は勉強するのか?」
「ええ、そのつもりです。勉強してきたとはいえ俺は平民です。まだまだ貴族の常識に疎いですからね」
「うむ、それはいい心がけだ。父上のかおにどろをぬらないように励むんだぞ」
「はい」

 俺の前向きな言葉に満足そうにしているステファノ。
 俺はまだまだ知らないことだらけだ。例えば1日何回も着替えるとかね。そんな面倒な常識知らなかった。これからもそういう細々した違いに遭遇するんだろう。

 朝食を食べ終えると話したようにそれぞれ勉強のために部屋へと引き上げる。去り際に昼食と午後のお茶は一緒に摂ろうねとジュリエッタが言ってくれたのでめちゃくちゃ頑張るつもりだ。

「よし、やるか」

 まずは今後の社交のために貴族の名前と領地を一致させる。娼館にいる時もある程度覚えてたけど、夫人や子女の名前までは知らない。俺がこれから付き合うのは主にそちらになるだろうから、しっかり覚えないとな。俺は貴族名鑑を開き、領地が隣接している貴族から覚え始めた。
 時々ブリジッタとアンジェラに答え合わせをしてもらいながら覚えること2時間。一旦休憩だ。頭パンクしそう。

「うーん……後でルキーノ様に家庭教師も頼まないとな」
「あら、大丈夫ですわ。既に手配は済ませてありますよ」
「本当?助かる」

 俺の呟きにお茶をサーブしていたアンジェラが反応する。家庭教師は近いうちにうちに来る予定らしい。

「ん、これ。俺の好きなお茶だ」

 ふんわりと鼻に抜ける香りは慣れ親しんだもの。娼館で俺が好んで飲んでいたお茶だ。嬉しくなって思わず笑みが溢れる。

「お口に合いましたでしょうか」
「美味しいよ。ありがとう」
「勿体無いお言葉にございます」

 俺の言葉に柔らかく微笑むアンジェラ。彼女が淹れてくれたお茶は自分で淹れたやつより断然美味しい。勉強で疲れた脳味噌をほぐすように一口含んで、あることに気がついた。

「もしかしてこれも、ルキーノ様が?」
「はい、旦那様から用意するようにと申しつかりました」
 
 もしかしてと思ったけど、やっぱりそうか。俺がこのお茶が好きなんて彼しか知らないもんな。

 ひょっとして俺、結構ルキーノに好かれてるのかな?そうだったらいいなと思いながら俺は機嫌よくカップを傾けた。



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