玉の輿だったはずなのに!

木島

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よくある昔話……?

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「それは……俺を身請けしてくれるって、こと?」
「そうなるな」

 ぽかんと間抜け面を晒しながら確認すれば当たり前のようにルキーノは頷いた。

「でも、どうしてですか?こんな男娼なんかと結婚しなくてもベネディクティス様なら相手はいくらでもいるでしょ?」
「いくらでもいるのは確かだが」
「いくらでもいるんだ」
「だがお前が良いと思った」

 あまりにあっさり認められたが、そんなの信じられない。
 だってそうだろ?健康な体も金もあってまだ30代の彼に嫁の来てがないなんて思えない。俺を選ぶ理由がない。すると難しい顔をした彼はいつもより深く眉間に皺を刻みながら持論を展開した。

「私の求める条件に達する者は限られている。その限られた中で最も優秀だったのがお前だった」
「条件って……ちなみにどんな?」

 ルキーノの主張はこうだ。
 1年ほど前に亡くなった先妻の間に2人の子がいる。そして長男はおそらくアルファだ。後継問題で揉めるのは面倒なので先妻の実家である伯爵家と張り合うような家柄の者は却下。これだけでかなり相手は絞られる。
 ふたつ目に自分に対して愛情を求めないこと。執着や束縛など以ての外。そんなものには付き合いきれない。
 みっつ目にオメガであること。抑制剤があるとはいえ、フェロモンに感情を左右されるのは面倒で仕方がない。先妻はベータ女性だったのでアルファの自分は常日頃から抑制剤が欠かせなかった。次の相手は番になれる者がいい。
 あとは一般的な知識と教養があり、辺境伯夫人として働ける能力があることだ。

 多い。条件が多いな。でもまあ、実現不可能な無茶苦茶な条件ってわけじゃない。オメガがいいってところがネックだったのかな。オメガって本当に数が少ないから。
 しかし、いやしかしと腕を組んで首を傾げる。

「でも……愛人ならともかく、伯爵夫人なんて。絶対ベネディクティス様が後ろ指さされますよ」
「言いたい者には言わせておけばいい。その手のことを言う者は誰を選んでも要らぬ口を叩くものだ」
「まあそれはそうですね」

 おっといかんいかん。納得しちゃった。

「妻が亡くなった途端後妻にどうだと四方から縁談を持ちかけられていい加減面倒だ。さっさと身を固めてしまいたいが下手を打ちたくはない。その点お前なら問題ないと判断した。雇ってほしいと言うならこの役職が最適だ」

 心底うざったそうに髪をかきあげるルキーノ。余程周りから言われるのが嫌だったんだろう。
 でもこれで彼がよく来るようになった理由はわかった。本当に俺は試されてたってわけだ。
 めちゃくちゃ不遜。だけど貴族と男娼、上位アルファと底辺オメガなんてこんなものだ。しかし俺は言う時は言うオメガである。
 だって、俺は姐さんみたいになりたくない。

「そんな理由で番なんて言うんですか?アルファと違ってオメガの番は生涯に1人だけなんですよ?簡単に言わないでください」
「簡単に言ったつもりはない。番うなら一生だ。お前が私を裏切らないなら、だが」

 何なら公的に有効な証書を書いてもいいと彼は言う。
 これがベッドの中だけの睦言なのか本気なのか、俺には判断できない。でもこの4年の付き合いで彼は安っぽいリップサービスなんてしない人だとわかってる。もしかしたら本当に俺に価値を見出してくれたのかもしれない。
 でも人間、上辺なんかいくらでも取り繕える。

「まあいい。私も先ほどのお前の言葉で決めたばかりだからな。あまり長く待つつもりはないが、しばらく考えるといい」
「はい……」

 ぐるぐる迷ってベッドの上で固まっているとルキーノがするりとうなじを撫でる。真っ直ぐに見つめてくる青い瞳がランプの灯りを受けてゆらゆらと美しく揺れている。さっきまでの余韻を残した体はそれだけでふるりと快感に震えた。
 ずるいなぁ、こんなの。

「色良い返事を期待している」

 そう言ってルキーノは帰っていった。
 一人になった部屋でベッドに寝転がり、何の変哲もない天井をぼんやりと眺める。頭を占めるのはルキーノのことばかりだ。

「番うなら、一生……」

 それは俺が憧れた言葉だ。人生でたった一人の人。俺だけがいいと言ってくれる人。それが淡い好意を抱く彼なら申し分ない。しかも彼は伯爵で既に後継もいる。食うに困ることもないだろうし、戦争なんかが起きない限りは平穏な生活を送れるはず。最高の転職先だ。

 目を閉じれば彼の感情の読めない青い目が過ぎる。想像だけで胸がどきりと高鳴るのだから、本能はもう答えを出しているようなものだった。




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