11 / 74
よくある昔話
しおりを挟む
俺の名前はネロ。25歳のオメガ男性。
ネロという名前は祖父が付けてくれた。家業を起こしたひいひい爺さんの名前を貰ったもので、祖父は俺が商人として成功するようにと願ってくれたのだと思う。
俺は生まれも育ちも平民だけど、そう願って生を受けた時はそこら辺の男爵家より裕福な商家の長男だった。欲しいものは与えられ、家族に愛されて何不自由なく暮らしていたのだ。
それが変わったのは祖父が亡くなって、父の代に変わってからだ。
父は頭の硬い人だった。正直商売人には向いてなくて人付き合いも下手。その頑固さで貴族の反感を買って経営が傾くほどの締め付けを食らった。その上友人だと思っていた人間に裏切られ、莫大な借金を背負わされた父は絶望して首を吊ったのだ。
借金まみれで残された母は裏切った友人に店の権利と共に無理矢理連れて行かれた。そいつは昔から母のことが好きだったらしい。
でも、そいつは父の血を引いた俺はいらなかった。母には養子先を探したと嘘を吐いて引き離し、実際は娼館に売られた。俺はまだ12歳の何も知らない子供だったし、そこそこ整った顔にバース性がオメガだとわかったばかりだったから高く売れたのだろう。
「いい生活をしたければ教養を身に付けろ。ここではより頭のいい奴が上に行ける。オメガに胡座をかく奴は生き残れない。肝に銘じておけ」
連れてこられた初日に言われたのがこの言葉。
俺の運が良かったのは売られた先が高級娼館だったことだ。主に貴族を相手にするため十分な教養が必要で、教育係が良しとしなければホールに立つことも許されない。できなければもっと格下の娼館に払い下げられるので、それを恐れた俺は必死で勉強した。
貴族が相手でも無礼ではない振る舞いを身に付け、話題に付いていくためあらゆるジャンルの基礎知識を叩き込み最新情報も漏れなく収集。歌やダンス、楽器の練習をして、床の中での奉仕の仕方も習得した。
15歳で初めての発情期が来て、よくわからないうちに初めての行為は終わっていた。それで水揚げが終わったことになっていて、発情期が明けたら客を取るようになった。
「ここは綺麗な地獄よ。上っ面だけ綺麗に着飾って、中身はクソ。ここから出るには金持ちの貴族の馴染みになって身請けしてもらうしかない。年期明けで放り出されたってこんな生活しかしてこなかったオメガのアタシらに普通の生活なんてできっこないんだからね」
そう言っていたのは俺の姐さん。ブルネットのふわふわの癖毛がチャームポイントの笑顔がかわいい人だった。彼女は子爵家の次男に気に入られ、番になって出て行った。ここを出ていく日の姐さんの晴れやかな顔が忘れられない。
「俺も番が欲しい。俺だけの人を見つけて、こんな生活さっさとおさらばしたいよ」
うちは貴族相手が基本。妊娠や番事故の危険性がある発情期は客を取らない。ま、金積めばできるんだけどね。どっちにしろ毎日違う人間相手に媚と体を売って一銭も自分のものにならない金を稼ぐ日々は同じだ。全く嫌になる。
1回目は広いホールで俺以外の男娼も含めた何人かで芸を披露して会話と酒を楽しむだけ。2回目は2人で酒と食事を。3回目以降でようやく床入りになる。売れれば多少の選り好みや床入りまでの引き伸ばしは許された。それでもこの10年で数え切れないくらいの人と関係を持ったのは事実だ。
でも、それでも。いつか俺だけがいいと言ってくれる人が現れるかもしれない。魂まで繋がる番を持って、こんな苦しみなんかない穏やかな生活を送りたい。姐さんのように笑いたい。
それなのに。
「僕たちみたいな人間と番になろうなんて奴はロクな奴じゃないよ。番になったって後できっと捨てられる。現実見な?ネロ。貴族にとっては僕たちなんて都合のいい穴と変わらないんだ。夢見るだけ無駄だよ」
「そうかな……そうかも」
あんなに幸せそうだった姐さんが貧民街で見つかった。子爵家次男の本妻に存在が知られて、姐さんは捨てられたらしい。心も体もボロボロでいつ死んでもおかしくない姿だったと。
心の支えだった姐さんの幸せがまやかしだったと聞いて、俺の心は折れる寸前だった。
「夢見るだけ無駄、か。本当にそうかもね。手垢だらけのオメガなんて、誰が欲しがるんだって」
もう嫌だ。疲れた。いつまで続くの?絶望にも似た気持ちで日々を過ごす中、その時はやってきた。
「ネロちゃん、今日は私の大事なお客人を招待したんだ。君なら大丈夫だと思うけど、粗相のないようにどうか頼むよ」
「勿論です。誠心誠意努めさせていただきますのでご安心ください」
ルキーノと出会ったのは5年前。常連の子爵が接待目的で連れてきたのがきっかけだった。
ネロという名前は祖父が付けてくれた。家業を起こしたひいひい爺さんの名前を貰ったもので、祖父は俺が商人として成功するようにと願ってくれたのだと思う。
俺は生まれも育ちも平民だけど、そう願って生を受けた時はそこら辺の男爵家より裕福な商家の長男だった。欲しいものは与えられ、家族に愛されて何不自由なく暮らしていたのだ。
それが変わったのは祖父が亡くなって、父の代に変わってからだ。
父は頭の硬い人だった。正直商売人には向いてなくて人付き合いも下手。その頑固さで貴族の反感を買って経営が傾くほどの締め付けを食らった。その上友人だと思っていた人間に裏切られ、莫大な借金を背負わされた父は絶望して首を吊ったのだ。
借金まみれで残された母は裏切った友人に店の権利と共に無理矢理連れて行かれた。そいつは昔から母のことが好きだったらしい。
でも、そいつは父の血を引いた俺はいらなかった。母には養子先を探したと嘘を吐いて引き離し、実際は娼館に売られた。俺はまだ12歳の何も知らない子供だったし、そこそこ整った顔にバース性がオメガだとわかったばかりだったから高く売れたのだろう。
「いい生活をしたければ教養を身に付けろ。ここではより頭のいい奴が上に行ける。オメガに胡座をかく奴は生き残れない。肝に銘じておけ」
連れてこられた初日に言われたのがこの言葉。
俺の運が良かったのは売られた先が高級娼館だったことだ。主に貴族を相手にするため十分な教養が必要で、教育係が良しとしなければホールに立つことも許されない。できなければもっと格下の娼館に払い下げられるので、それを恐れた俺は必死で勉強した。
貴族が相手でも無礼ではない振る舞いを身に付け、話題に付いていくためあらゆるジャンルの基礎知識を叩き込み最新情報も漏れなく収集。歌やダンス、楽器の練習をして、床の中での奉仕の仕方も習得した。
15歳で初めての発情期が来て、よくわからないうちに初めての行為は終わっていた。それで水揚げが終わったことになっていて、発情期が明けたら客を取るようになった。
「ここは綺麗な地獄よ。上っ面だけ綺麗に着飾って、中身はクソ。ここから出るには金持ちの貴族の馴染みになって身請けしてもらうしかない。年期明けで放り出されたってこんな生活しかしてこなかったオメガのアタシらに普通の生活なんてできっこないんだからね」
そう言っていたのは俺の姐さん。ブルネットのふわふわの癖毛がチャームポイントの笑顔がかわいい人だった。彼女は子爵家の次男に気に入られ、番になって出て行った。ここを出ていく日の姐さんの晴れやかな顔が忘れられない。
「俺も番が欲しい。俺だけの人を見つけて、こんな生活さっさとおさらばしたいよ」
うちは貴族相手が基本。妊娠や番事故の危険性がある発情期は客を取らない。ま、金積めばできるんだけどね。どっちにしろ毎日違う人間相手に媚と体を売って一銭も自分のものにならない金を稼ぐ日々は同じだ。全く嫌になる。
1回目は広いホールで俺以外の男娼も含めた何人かで芸を披露して会話と酒を楽しむだけ。2回目は2人で酒と食事を。3回目以降でようやく床入りになる。売れれば多少の選り好みや床入りまでの引き伸ばしは許された。それでもこの10年で数え切れないくらいの人と関係を持ったのは事実だ。
でも、それでも。いつか俺だけがいいと言ってくれる人が現れるかもしれない。魂まで繋がる番を持って、こんな苦しみなんかない穏やかな生活を送りたい。姐さんのように笑いたい。
それなのに。
「僕たちみたいな人間と番になろうなんて奴はロクな奴じゃないよ。番になったって後できっと捨てられる。現実見な?ネロ。貴族にとっては僕たちなんて都合のいい穴と変わらないんだ。夢見るだけ無駄だよ」
「そうかな……そうかも」
あんなに幸せそうだった姐さんが貧民街で見つかった。子爵家次男の本妻に存在が知られて、姐さんは捨てられたらしい。心も体もボロボロでいつ死んでもおかしくない姿だったと。
心の支えだった姐さんの幸せがまやかしだったと聞いて、俺の心は折れる寸前だった。
「夢見るだけ無駄、か。本当にそうかもね。手垢だらけのオメガなんて、誰が欲しがるんだって」
もう嫌だ。疲れた。いつまで続くの?絶望にも似た気持ちで日々を過ごす中、その時はやってきた。
「ネロちゃん、今日は私の大事なお客人を招待したんだ。君なら大丈夫だと思うけど、粗相のないようにどうか頼むよ」
「勿論です。誠心誠意努めさせていただきますのでご安心ください」
ルキーノと出会ったのは5年前。常連の子爵が接待目的で連れてきたのがきっかけだった。
162
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~
TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】
公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。
しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!?
王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。
これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。
※別で投稿している作品、
『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。
設定と後半の展開が少し変わっています。
※後日譚を追加しました。
後日譚① レイチェル視点→メルド視点
後日譚② 王弟→王→ケイ視点
後日譚③ メルド視点
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます
日色
BL
「ぼく、あくやくれいそくだ」弟の誕生と同時に前世を思い出した七海は、悪役令息キルナ=フェルライトに転生していた。闇と水という典型的な悪役属性な上、肝心の魔力はほぼゼロに近い。雑魚キャラで死亡フラグ立ちまくりの中、なぜか第一王子に溺愛され!?
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる