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天丼は2回で十分 2
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「あとは殿下のおっしゃるように外堀を埋めるためですね。サザーランド様からもそれとなくヴィンセント様がギリアン卿を気にしてることを伝えてもらうんです。それと二人がお似合いだとか、いい伴侶になれるとか言ってもらって、ドーン!とあっちからも背中を押してもらうわけですよ!」
ドーン!という言葉に合わせて背中を押すジェスチャーをするシャルル。それを横でクリスが嬉しそうに見ている。こういう無邪気さというのが僕にはないものだな。かと言って見習いたいわけじゃないが。
しかし、そうか。第三者からそそのか……言ってもらうという手もあるな。僕と見合いをした後ギリアン卿の耳に入れて貰えば信憑性もある。彼も察してくれるかも知れない。
「というより、私が王命を出すよう頼むのが一番早いと思うのだがどうしてそうしないんだ?私との婚約解消の詫びとして望む相手……つまりコンラッドを指名して婚姻を結ぶことは可能だと思うぞ」
今までずっと疑問だった、と首を傾げたクリスは言う。僕だってそれは考えた。けれどそれは僕の求めるものではなくて、緩く頭を振って否定する。
「それは駄目だ」
「なぜ?これならこんな手間暇をかける必要ないのに」
「わかってるけど、違うんだよ」
僕の答えに納得がいかないクリスは眉を顰めて考え込んでいる。シャルルは一度僕と視線を交わし、彼の手に触れて穏やかな調子で口を開いた。
「僕たち、愛する人に愛されたいんです。同じだけ求められたいんです。そのために協力しようと手を取り合いました。命令じゃなくて、相手にも心から望んでほしいんですよ」
「あなたたちは『そう』だろう?だから僕だって『そう』なりたい。あなただって愛する人と結ばれてほしいと言ったじゃないか」
「シャルル、ヴィンセント……」
僕らが手を組んだのはそのためだと改めてクリスに説明する。
そりゃあ、結果だけを見れば王命を出してもらうのが一番の近道だ。国王陛下に命令されてはギリアン卿に逆らうことはできないのだから。だがそれでは愛のない婚姻になってしまう。そんなことをしてしまったら、僕が望んでもいないのにゼラム公爵に嫁がされるのと一緒じゃないか。
シャルルはクリスを振り向かせることができた。ゲームの知識というちょっと狡い手を使いはしたが、クリスがシャルルを愛したのは彼自身の意思だ。それなら僕だって、と思うのは間違いではないだろう。
とはいえ、無理だったら素直に諦めるのかと言われたらそれはそれでちょっと微妙なところなわけで。
「ま、最終的に駄目ならその手を使うからそのつもりで」
「使うんだ……」
「僕は悪役令息だしな」
「うん?あくやく?」
聞きなれない言葉に首を傾げるクリスに何でもないと頭を振る。この辺の事情はクリスは知らなくていいことだ。
「結婚してから芽生える愛もありますからね……」
結婚した後に恋をして、愛し合うようになる伴侶同士も素敵です、とうっとりと目を細めるシャルル。僕も大概だが、お前も本当夢見がちだよな……
「でも、あくまでそれは最終手段。彼が少しでも僕を恋愛対象として意識してくれれば、告白しても望みが出てくるはず」
「その意気です!僕も全力でサポートします!」
「私も。その最終手段も含めて力になるよ」
二人がかりで慰められて、貴賓室に入った時に死にそうな顔をしていた僕はもういない。話を聞いて、一緒になって考えてくれる相手がいるというのはいいものだなと思う。
こんな風に先行きの分からない恋愛に振り回されているのはシャルルが原因だが、シャルルがいたからこそ諦めるしかなかったこの感覚を存分に味わうことができている。何だか今の状況も楽しく思えて僕は小さく微笑みを浮かべた。
「ありがとう。クリスがいてくれると心強いよ」
「えっ?!僕は?!」
「お前は煩い」
酷い!とまた大声を出してクリスに泣きつくシャルルを見て、僕とクリスは顔を見合わせて噴き出した。
ドーン!という言葉に合わせて背中を押すジェスチャーをするシャルル。それを横でクリスが嬉しそうに見ている。こういう無邪気さというのが僕にはないものだな。かと言って見習いたいわけじゃないが。
しかし、そうか。第三者からそそのか……言ってもらうという手もあるな。僕と見合いをした後ギリアン卿の耳に入れて貰えば信憑性もある。彼も察してくれるかも知れない。
「というより、私が王命を出すよう頼むのが一番早いと思うのだがどうしてそうしないんだ?私との婚約解消の詫びとして望む相手……つまりコンラッドを指名して婚姻を結ぶことは可能だと思うぞ」
今までずっと疑問だった、と首を傾げたクリスは言う。僕だってそれは考えた。けれどそれは僕の求めるものではなくて、緩く頭を振って否定する。
「それは駄目だ」
「なぜ?これならこんな手間暇をかける必要ないのに」
「わかってるけど、違うんだよ」
僕の答えに納得がいかないクリスは眉を顰めて考え込んでいる。シャルルは一度僕と視線を交わし、彼の手に触れて穏やかな調子で口を開いた。
「僕たち、愛する人に愛されたいんです。同じだけ求められたいんです。そのために協力しようと手を取り合いました。命令じゃなくて、相手にも心から望んでほしいんですよ」
「あなたたちは『そう』だろう?だから僕だって『そう』なりたい。あなただって愛する人と結ばれてほしいと言ったじゃないか」
「シャルル、ヴィンセント……」
僕らが手を組んだのはそのためだと改めてクリスに説明する。
そりゃあ、結果だけを見れば王命を出してもらうのが一番の近道だ。国王陛下に命令されてはギリアン卿に逆らうことはできないのだから。だがそれでは愛のない婚姻になってしまう。そんなことをしてしまったら、僕が望んでもいないのにゼラム公爵に嫁がされるのと一緒じゃないか。
シャルルはクリスを振り向かせることができた。ゲームの知識というちょっと狡い手を使いはしたが、クリスがシャルルを愛したのは彼自身の意思だ。それなら僕だって、と思うのは間違いではないだろう。
とはいえ、無理だったら素直に諦めるのかと言われたらそれはそれでちょっと微妙なところなわけで。
「ま、最終的に駄目ならその手を使うからそのつもりで」
「使うんだ……」
「僕は悪役令息だしな」
「うん?あくやく?」
聞きなれない言葉に首を傾げるクリスに何でもないと頭を振る。この辺の事情はクリスは知らなくていいことだ。
「結婚してから芽生える愛もありますからね……」
結婚した後に恋をして、愛し合うようになる伴侶同士も素敵です、とうっとりと目を細めるシャルル。僕も大概だが、お前も本当夢見がちだよな……
「でも、あくまでそれは最終手段。彼が少しでも僕を恋愛対象として意識してくれれば、告白しても望みが出てくるはず」
「その意気です!僕も全力でサポートします!」
「私も。その最終手段も含めて力になるよ」
二人がかりで慰められて、貴賓室に入った時に死にそうな顔をしていた僕はもういない。話を聞いて、一緒になって考えてくれる相手がいるというのはいいものだなと思う。
こんな風に先行きの分からない恋愛に振り回されているのはシャルルが原因だが、シャルルがいたからこそ諦めるしかなかったこの感覚を存分に味わうことができている。何だか今の状況も楽しく思えて僕は小さく微笑みを浮かべた。
「ありがとう。クリスがいてくれると心強いよ」
「えっ?!僕は?!」
「お前は煩い」
酷い!とまた大声を出してクリスに泣きつくシャルルを見て、僕とクリスは顔を見合わせて噴き出した。
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