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第一章 《第一部》ヒーラー 少年篇
第3話 「才能は一つだけ──剣を極める理由」
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十歳になった俺に、初めて友達ができた。
可愛い猫耳の少女、レイラ・セレスティア。
彼女は毎日のように家に訪ねてきた。そしてそのたび、俺の父親が彼女の母親に鼻の下を伸ばしているのを見て、心の中でため息をついていた。
彼女の母親は妖艶という言葉がぴったりな人だ。腰まで届く長い黒髪、どこか危険な香りを漂わせる瞳、そしていつも薄手の服を着ている。それを見ている父の態度はどう見ても普通ではなかった。むしろ見え透いていて滑稽に思えるほどだった。
「今日もよろしくお願いします」
「もっちろん!任せてくださいよ!」
父親のこの張り切りようだ。母親もさすがに気付いていた。
「あなた?浮気は許しませんよ?」
「え?あはは、ま、まさか!」
母さんの笑顔が恐ろしいほど冷たい。それでも父は無駄な抵抗を見せる。いや、むしろその怯えた姿こそ、普段の父親らしい。
---
「さて、じゃあ今日も始めるぞ」
「「はいっ!」」
レイラが来てから剣術の特訓が一気に本格化した。理由は簡単だ。彼女の剣術の才能が桁違いだったからだ。
初日の稽古で、五歳から剣を握ってきた俺が彼女に一蹴されたとき、悔しさと衝撃が混じった気持ちが湧いた。これが『才能』の差かと。
この世界では才能は『祝福』とも呼ばれている。神から授けられる特別な力。持つ者は羨望の的であり、持たざる者はそれをただ見上げるしかない。
「レイラ!身のこなしはいいが、剣に力が入ってないぞ」
「はい!」
特訓の時の父はいつもの頼りなさが一切なく、頼もしい剣士そのものだった。俺もつい見とれてしまうくらいにだ。
「アスフィ!お前もぼーっとしてないで参加しろ!」
「は、はい!」
だが正直、俺には二人の動きについていくのがやっとだった。いや、ついていけていない。剣術の才能がない俺と、剣術の天才であるレイラ。その差は歴然としていた。
---
「ふぅ、今日はここまでだ」
「「ありがとうございました」」
「……よし!お前ら風呂入ってこい!汗でびしょびしょだろう」
「はい!!」
「はい!……え?」
レイラが微妙な顔をしているのが分かった。俺はそれどころじゃなく、むしろ胸を高鳴らせていたけど。
「レイラ早くしてよ」
「……レ、レイラは恥ずかしいのでいいです」
「で、でも、父さんが一緒に入れって言ってただろう!?師匠の言うことは絶対だろ!?」
俺は興奮気味で言った。友達と一緒に風呂に入ることなんて初めての経験だ。それに彼女は……その……女の子だし。
「で、でも……」
「早くしてよ!お湯冷めちゃうよ!?」
レイラは渋々服を脱ぎ始めたが、顔を真っ赤にしている。そんな彼女を見ていると、なんだか自分が悪いことをしている気分になってきた。だが好奇心には勝てなかった。
簡易的な大きな木の桶。
そこに熱いお湯が溢れんばかりに入っている。
「……分かりました」
「さあはやく!はやく!」
父の遺伝子が濃すぎたのか俺は自分を制御出来ずにいた。
服を脱いでいくレイラと俺。
一枚、また一枚と脱ぐ度にレイラが顔を赤らめていた。
「ねぇ!その手をどけて!見えな……ゴホンッ!……隠していたら一緒に入れないじゃないか!」
「……隠しながらでも入れ……ます」
「ダメだよ!父さ……師匠は隠しながら入っちゃだめって言ってたよ?」
「分かり……ました」
俺は咄嗟に嘘をついた。まぁこれでバレても母さんに怒られるのはどうせ父さんだしいいか。
それよりも、とうとうレイラの胸が……!!レイラの胸は十一歳とは思えない程大きい。
年齢にそぐわないものだ。俺は興奮が止まらない。鼻息が止まらない。俺もまたとても十歳とは思えない子供だった。
そんなことを思っていたら母さんが入ってきた。
「コラ!二人で入っていいって私言った?」
「……えっと父さんが……」
「あの人の仕業ね……後でお仕置きしておくから1人ずつ入りなさい!」
「はーい」
「……分かりました奥様」
あと少しだったのに……。
俺は残念でならなかった。
次の日、父は気まずそうな顔をしていると思ったら、以外にも元気だった。どころか何だか母と距離が近い。
仲良さげである。昨日の夜やけに騒がしかったが、何があったんだろう。十歳の俺は知る由もない。
***
今日も今日とて剣術特訓。だが、実際のところ、それはほとんど父さんとレイラの二人の時間だ。
レイラが来てから半年が経った。その間、彼女の剣術の腕は驚くべきスピードで伸びていった。今や俺がついていけるレベルではなくなっている。いや、正確に言えば、最初から俺は彼女に追いつけなかった。
「レイラ!力みすぎだ!」
「はい!」
剣術の時のレイラは普段とはまるで別人だ。彼女の表情は鋭く、動きは流れるようで迷いが無い。その姿は父さんの影響を強く受けているのだろう。二人の動きは、まるで踊るような連携を見せていた。剣士は剣を握ると性格が変わるという話を聞いたことがあるが、本当だったんだなと実感する。
一方、俺はというと――その光景をただ眺めているだけだった。二人のスピードについていけず、体は動かず、剣を握る手も汗で滑る。目の前で繰り広げられるその世界に、自分が全く関与できていない無力感が押し寄せる。そんな自分が嫌になる。
「アスフィ!また止まってるぞ!」
「……父さん!!!」
その瞬間、俺の中に溜め込んでいたものが爆発した。もう黙っている理由はどこにもなかった。俺は自分の気持ちをぶつけることにした。
「なんだ?」
「……僕は剣術の才能がありません。
二人のスピードについて行くことができません。なので、僕はもうここら辺でやめたいと思います」
そう言った瞬間、胸の奥が締め付けられるような感覚がした。本当は、俺だって剣を振り回して二人に追いつきたかった。でも、現実を前にして自分を奮い立たせることはできなかった。
「……すまない。悪かった。アスフィの才能は回復だということをすっかり忘れていた。父さんを許してくれ……」
「いえ、そんな……」
まさか父さんがこんな風に謝るなんて思ってもみなかった。だが、そんな風に謝って欲しい訳ではなかった。ただ、わかって欲しかっただけなのだ。俺の限界と、俺が感じている焦りと劣等感を。
そんな風に思っていると――
「甘えるな!」
「……え?」
その言葉に、俺も父さんも唖然としていた。なぜなら、それを言ったのがレイラだったからだ。
普段の彼女は大人しく、人見知りで控えめな印象が強い。もちろん、剣術の時だけは凛々しくて強い彼女の一面を見ることができる。でも、それが終わるとすぐにいつもの内気な彼女に戻ってしまう。そんな彼女が、俺に向かって「甘えるな」と言ったのだ。
最後は少し声が弱々しくなっていたけど、それでもその言葉の重みは俺の胸に突き刺さった。
「ご、ごめん……」
「いえ……こちらこそごめん……なさい」
気まずい空気が流れる中、父さんがその場を仕切るように言葉を発した。
「いや!レイラの言う通りだ。アスフィ!才能が無くても頑張る気持ちが大事だ!前にも言っただろ、ヒーラーと言えど自分の身は自分で守れるに越したことはないと」
「うん……」
そうだ。前にも父さんに言われたんだった。でも、その言葉を本当の意味で理解していなかったのかもしれない。
「たしかに剣術の才能を持った相手には勝てないかもしれない。だが、相手が魔法の才能を持った者ならどうだ?」
「……あっ!」
そうか!才能は一つだけだ!もし相手が魔法を使う者なら、剣術を極めた俺が有利になるんじゃないか!剣術を極めることで、戦える幅は広がる。そんな簡単なことに気づけなかった自分が恥ずかしい。
「分かったか?」
「うん!分かったよ、父さん!」
俺は素直に頷いた。父さんの言葉に、心が軽くなるのを感じた。
「分かったならいい。後、特訓の時は『はい』だ」
「はい!……レイラもありがとう」
「……いえ、こちらこそごめんなさい」
俺は、レイラに向かって頭を下げた。彼女の一言が無ければ、このモヤモヤした気持ちを晴らすことはできなかったかもしれない。
その後、父さんは俺の特訓内容を見直してくれた。俺のレベルに合わせたメニューで特訓を進めてくれるようになり、二人の速さに振り回されるだけの時間は無くなった。
「アイタッ!」
とはいえ、痛みが増えたのも事実だ。俺がついていけるレベルになった分、父さんの容赦のない指導が直撃する。だが、この痛みは嫌なものじゃない。自分が少しずつ前に進んでいると実感できる、嬉しい痛みだ。
俺は剣術を続ける覚悟を決めた。剣を握る手に、未来への希望が宿るような気がした。
俺は二人の本気のスピードについて行くことは出来ないが、父も俺のことを分かってくれたようで、
俺のレベルに合わせて特訓をしてくれるようになった。俺が言ったのも無駄では無かったようだ。
「アイタッ!」
俺がついていける様になったその分痛みも増えた。
でもこれは嬉しい痛みだ。
可愛い猫耳の少女、レイラ・セレスティア。
彼女は毎日のように家に訪ねてきた。そしてそのたび、俺の父親が彼女の母親に鼻の下を伸ばしているのを見て、心の中でため息をついていた。
彼女の母親は妖艶という言葉がぴったりな人だ。腰まで届く長い黒髪、どこか危険な香りを漂わせる瞳、そしていつも薄手の服を着ている。それを見ている父の態度はどう見ても普通ではなかった。むしろ見え透いていて滑稽に思えるほどだった。
「今日もよろしくお願いします」
「もっちろん!任せてくださいよ!」
父親のこの張り切りようだ。母親もさすがに気付いていた。
「あなた?浮気は許しませんよ?」
「え?あはは、ま、まさか!」
母さんの笑顔が恐ろしいほど冷たい。それでも父は無駄な抵抗を見せる。いや、むしろその怯えた姿こそ、普段の父親らしい。
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「さて、じゃあ今日も始めるぞ」
「「はいっ!」」
レイラが来てから剣術の特訓が一気に本格化した。理由は簡単だ。彼女の剣術の才能が桁違いだったからだ。
初日の稽古で、五歳から剣を握ってきた俺が彼女に一蹴されたとき、悔しさと衝撃が混じった気持ちが湧いた。これが『才能』の差かと。
この世界では才能は『祝福』とも呼ばれている。神から授けられる特別な力。持つ者は羨望の的であり、持たざる者はそれをただ見上げるしかない。
「レイラ!身のこなしはいいが、剣に力が入ってないぞ」
「はい!」
特訓の時の父はいつもの頼りなさが一切なく、頼もしい剣士そのものだった。俺もつい見とれてしまうくらいにだ。
「アスフィ!お前もぼーっとしてないで参加しろ!」
「は、はい!」
だが正直、俺には二人の動きについていくのがやっとだった。いや、ついていけていない。剣術の才能がない俺と、剣術の天才であるレイラ。その差は歴然としていた。
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「ふぅ、今日はここまでだ」
「「ありがとうございました」」
「……よし!お前ら風呂入ってこい!汗でびしょびしょだろう」
「はい!!」
「はい!……え?」
レイラが微妙な顔をしているのが分かった。俺はそれどころじゃなく、むしろ胸を高鳴らせていたけど。
「レイラ早くしてよ」
「……レ、レイラは恥ずかしいのでいいです」
「で、でも、父さんが一緒に入れって言ってただろう!?師匠の言うことは絶対だろ!?」
俺は興奮気味で言った。友達と一緒に風呂に入ることなんて初めての経験だ。それに彼女は……その……女の子だし。
「で、でも……」
「早くしてよ!お湯冷めちゃうよ!?」
レイラは渋々服を脱ぎ始めたが、顔を真っ赤にしている。そんな彼女を見ていると、なんだか自分が悪いことをしている気分になってきた。だが好奇心には勝てなかった。
簡易的な大きな木の桶。
そこに熱いお湯が溢れんばかりに入っている。
「……分かりました」
「さあはやく!はやく!」
父の遺伝子が濃すぎたのか俺は自分を制御出来ずにいた。
服を脱いでいくレイラと俺。
一枚、また一枚と脱ぐ度にレイラが顔を赤らめていた。
「ねぇ!その手をどけて!見えな……ゴホンッ!……隠していたら一緒に入れないじゃないか!」
「……隠しながらでも入れ……ます」
「ダメだよ!父さ……師匠は隠しながら入っちゃだめって言ってたよ?」
「分かり……ました」
俺は咄嗟に嘘をついた。まぁこれでバレても母さんに怒られるのはどうせ父さんだしいいか。
それよりも、とうとうレイラの胸が……!!レイラの胸は十一歳とは思えない程大きい。
年齢にそぐわないものだ。俺は興奮が止まらない。鼻息が止まらない。俺もまたとても十歳とは思えない子供だった。
そんなことを思っていたら母さんが入ってきた。
「コラ!二人で入っていいって私言った?」
「……えっと父さんが……」
「あの人の仕業ね……後でお仕置きしておくから1人ずつ入りなさい!」
「はーい」
「……分かりました奥様」
あと少しだったのに……。
俺は残念でならなかった。
次の日、父は気まずそうな顔をしていると思ったら、以外にも元気だった。どころか何だか母と距離が近い。
仲良さげである。昨日の夜やけに騒がしかったが、何があったんだろう。十歳の俺は知る由もない。
***
今日も今日とて剣術特訓。だが、実際のところ、それはほとんど父さんとレイラの二人の時間だ。
レイラが来てから半年が経った。その間、彼女の剣術の腕は驚くべきスピードで伸びていった。今や俺がついていけるレベルではなくなっている。いや、正確に言えば、最初から俺は彼女に追いつけなかった。
「レイラ!力みすぎだ!」
「はい!」
剣術の時のレイラは普段とはまるで別人だ。彼女の表情は鋭く、動きは流れるようで迷いが無い。その姿は父さんの影響を強く受けているのだろう。二人の動きは、まるで踊るような連携を見せていた。剣士は剣を握ると性格が変わるという話を聞いたことがあるが、本当だったんだなと実感する。
一方、俺はというと――その光景をただ眺めているだけだった。二人のスピードについていけず、体は動かず、剣を握る手も汗で滑る。目の前で繰り広げられるその世界に、自分が全く関与できていない無力感が押し寄せる。そんな自分が嫌になる。
「アスフィ!また止まってるぞ!」
「……父さん!!!」
その瞬間、俺の中に溜め込んでいたものが爆発した。もう黙っている理由はどこにもなかった。俺は自分の気持ちをぶつけることにした。
「なんだ?」
「……僕は剣術の才能がありません。
二人のスピードについて行くことができません。なので、僕はもうここら辺でやめたいと思います」
そう言った瞬間、胸の奥が締め付けられるような感覚がした。本当は、俺だって剣を振り回して二人に追いつきたかった。でも、現実を前にして自分を奮い立たせることはできなかった。
「……すまない。悪かった。アスフィの才能は回復だということをすっかり忘れていた。父さんを許してくれ……」
「いえ、そんな……」
まさか父さんがこんな風に謝るなんて思ってもみなかった。だが、そんな風に謝って欲しい訳ではなかった。ただ、わかって欲しかっただけなのだ。俺の限界と、俺が感じている焦りと劣等感を。
そんな風に思っていると――
「甘えるな!」
「……え?」
その言葉に、俺も父さんも唖然としていた。なぜなら、それを言ったのがレイラだったからだ。
普段の彼女は大人しく、人見知りで控えめな印象が強い。もちろん、剣術の時だけは凛々しくて強い彼女の一面を見ることができる。でも、それが終わるとすぐにいつもの内気な彼女に戻ってしまう。そんな彼女が、俺に向かって「甘えるな」と言ったのだ。
最後は少し声が弱々しくなっていたけど、それでもその言葉の重みは俺の胸に突き刺さった。
「ご、ごめん……」
「いえ……こちらこそごめん……なさい」
気まずい空気が流れる中、父さんがその場を仕切るように言葉を発した。
「いや!レイラの言う通りだ。アスフィ!才能が無くても頑張る気持ちが大事だ!前にも言っただろ、ヒーラーと言えど自分の身は自分で守れるに越したことはないと」
「うん……」
そうだ。前にも父さんに言われたんだった。でも、その言葉を本当の意味で理解していなかったのかもしれない。
「たしかに剣術の才能を持った相手には勝てないかもしれない。だが、相手が魔法の才能を持った者ならどうだ?」
「……あっ!」
そうか!才能は一つだけだ!もし相手が魔法を使う者なら、剣術を極めた俺が有利になるんじゃないか!剣術を極めることで、戦える幅は広がる。そんな簡単なことに気づけなかった自分が恥ずかしい。
「分かったか?」
「うん!分かったよ、父さん!」
俺は素直に頷いた。父さんの言葉に、心が軽くなるのを感じた。
「分かったならいい。後、特訓の時は『はい』だ」
「はい!……レイラもありがとう」
「……いえ、こちらこそごめんなさい」
俺は、レイラに向かって頭を下げた。彼女の一言が無ければ、このモヤモヤした気持ちを晴らすことはできなかったかもしれない。
その後、父さんは俺の特訓内容を見直してくれた。俺のレベルに合わせたメニューで特訓を進めてくれるようになり、二人の速さに振り回されるだけの時間は無くなった。
「アイタッ!」
とはいえ、痛みが増えたのも事実だ。俺がついていけるレベルになった分、父さんの容赦のない指導が直撃する。だが、この痛みは嫌なものじゃない。自分が少しずつ前に進んでいると実感できる、嬉しい痛みだ。
俺は剣術を続ける覚悟を決めた。剣を握る手に、未来への希望が宿るような気がした。
俺は二人の本気のスピードについて行くことは出来ないが、父も俺のことを分かってくれたようで、
俺のレベルに合わせて特訓をしてくれるようになった。俺が言ったのも無駄では無かったようだ。
「アイタッ!」
俺がついていける様になったその分痛みも増えた。
でもこれは嬉しい痛みだ。
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