真面目だと思っていた幼馴染は変態かもしれない

火野 あかり

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第六話 比翼の鳥 前編

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 美術室で楽しんだ後、外はすっかり暗くなりそのまま帰宅した。
 結局一回で収まることはなく、三回ほどいちゃいちゃと交わってしまい、すっかり夜になってしまった、というわけである。
 途中何度か人の足音が近づいた。お互いに口に手を当て声を抑えたが、それでも俺の腰は動きを止めることができず、ガタガタと机が音を出す。その音で見つかると思ったのか、サクヤは何度か絶頂していた。
 見られるかも、というのが最高に興奮するらしい。俺としては絶対見られたくないものだ。

 そして帰り道、俺たちの家の方まで続く暗い一本道を二人横並びで歩く。
 いつもの帰り道であり、いつもの学校へ行く道だ。結局寄り道をする時間はなかった。

「あの、さ。聞きたいんだけど、あの甘えてくるのって、素なのか?」

「ええ、甘えたい年頃なのよ。抱き着きたいし、抱きしめられたいの。でも普段は恥ずかしくて……」

「変態発言の方がよっぽど恥ずかしいと思うんだけど……」

「あれは勢いというのか、そういうものが大きいから言えるのよ。性衝動に体を任せて発言しているというわけね。ただ甘えるのは……やっぱり恥ずかしいの」

「俺はもっとあれを見たいんだけどな。気づいているかはわからないけど、あれ、すごい可愛いぞ」

 サクヤは一瞬足が止まり、その後ゆっくりと歩きだす。一歩分だけサクヤが後ろにいる状態になる。俺はサクヤと歩き慣れているため、歩幅が同じだ。小さいころから一緒に過ごしていたせいか、自然とそうなっていた。そのため俺は男としては歩くのが遅い。
 サクヤは上からオレンジ色の街灯に照らされ、顔の上半分は陰になり、その目元はよく見えない。
 だが、その口元は、ほんの少しだけ緩んでいた気がした。

「め、面と向かってそんなことを言うなんて、いつからそんなプレイボーイになったのかしら」

 右肩にかけているスクールバッグの紐部分を右手でグッと掴み、左手で眼鏡をクイッとあげ、取り繕うようにそう返答する。顔は少し赤い気がする。

「俺も成長している、ということだな。いつまでもやられっぱなしじゃないぞ」

「そうね。今のはきゅんきゅん♡してしまったわ。愛を語りたい気分ね」

「語るか? 俺もたくさんあるぞ」

「止まれなくなってしまうわよ。どちらの愛が大きいか、という終わりのないループに巻き込まれることになるわ」

「それは不毛だな……」

「でも、そういうのも素敵だとは思うわ。そういう不毛な時間も青春よね」


 家の近所までやってきて、二人とも冷静になる。
 電気はついているし、車もあるので父も帰ってきている。

「サクヤ、俺、お前に告白した時くらい緊張してる」

「私も、まぁそれでも性癖を暴露しているときよりは緊張していないけれど」

 一応は緊張してるんだ……そう思って、現実に向き直る。

 ドアの前で、俺たちは二人して突っ立ったままだ。もう五分ほど経っていた。
 両親の反応と、昨日の夜のことがどこまで知られているのか、それが気がかりだったからだ。
 何せ一晩中盛っていたのだから。二人して声を上げて、何度も何度も。

「行くわよ。覚悟を決めるのよ、ユウ」

「お、おう……」

 サクヤの男らしさに少し驚き、ドアに手をかける。
 ガチャリと棒のような形のドアノブを引っ張り中に入ると、俺たちを待っていたのは意外な反応だった。

 パァーンッ! と大きな音が四つ響く。
 それと同時に、色とりどりの攻撃が俺たちを襲う。

 それはクラッカーだった。ビスケット的な方ではなく、パーティーの時のあれである。

「「「「おめでとう!」」」」

 俺の両親と、サクヤの両親がそこにいた。
 嬉しそうに、浮かれているような表情である。隣にいるサクヤを見ると、冷めたような表情をしていた。頭には紙吹雪や長く細い色とりどりの紙がぶら下がっている。気持ちは痛いほどわかる。

「さ、早く入って入って! 色々用意してあるんだから!」

「いやぁユウくん、ついにやったね! 下世話な意味ではないよ、そこは勘違いしないでくれると嬉しいな」

 嬉しそうにそう話すのはサクヤの両親である。
 サクヤの父はどことなく遺伝を感じさせる、そんな話し方をする。

「……どういうこと?」

 唐突すぎて理解が追い付かない。何やらにぎやかではある。だが当の本人たちのテンションは今日一番の低さだ。

「君達がついに結ばれたからね、それの記念パーティーだよ。いつまでもくっつかないもんだから心配してたんだけど、よくやってくれたね。これからは僕のこともお父さんと呼んでいいんだよ!」

 サクヤの父も抑揚が少ないしゃべり方であり、軽く無表情であるから非常に怖い。娘に手を出したのだから怒っていてもおかしくはないのだ。

「まぁとにかく二人とも、入りなさい。そしてお風呂に入ってきなさい。あなたたち外でしてきたでしょ、そういう臭いがするわよ」

 俺の母は無神経にそう言った。そういう人、という認識は全員にあるのだろう、誰も突っ込まなかった。

「え!? そんなにおいする!?」

 自分の服を嗅いでみても、さっぱりわからない。
 サクヤと言えば、何とも言えない表情に変わり、力なく立ちすくんでいた。
 空気よめ、そう言いたそうな顔である。

「本人たちにはわからないんだよね、そういうの。これからはどっちかの家の中でするといいわ。邪魔はしないから」

 サクヤの母はうんうん、と腕を組んで頷きながらそう言った。

「みんな、理解ありすぎじゃない……?」

 子供の性事情に理解がありすぎる。どう考えたって普通じゃない。普通は隠れてするもののはずだ。

「気持ちは分かるからな。ユウ、それでもサクヤちゃんを傷つけることだけは絶対に許さん。もしそんなことがあれば、お前の股間は二度と使えないと思え」

 珍しく真面目に、厳しくそう言った。
 怒られるようなことをそもそもあまりしない俺は、父に怒られたことが少ない。
 内容が内容なので真面目かは分からないが。

「……そんなことしないよ。一途さにだけは自信があるんだ」

「それは全員が知ってるんだが、それでも注意しろということだな。まぁとりあえず風呂に入りなさい。サクヤちゃんの着替えも用意してあるから、二人一緒でもいいからとりあえず」
「盛るんじゃないぞ。これからお祝いなんだからな」

「親が言うセリフじゃないな! 普通別々だろ!?」

「一緒の方が嬉しいだろ? それに昔はそうだったじゃないか」

「だいぶ昔だよ! 十年くらい前!」

「今朝も一緒に入ったくせに」

 父はボソッと、なぜ知っているのか、と突っ込みたいセリフを吐いた。
 もしかして、監視カメラでもあるのか?そう思うほど確信めいたセリフだった。



「……みんな嬉しそうだったわね」

「俺たちの両親も変態なんじゃないか、もしかしてだけど」

「私たちの親だもの、可能性は否定できないわね」

 俺たちは言われるがまま、結局二人で風呂に入っている。
 それよりもよほど過激な行為をした後だというのに、恥ずかしい、という空気がある。

 先に体を洗い終えた俺は湯船に入り、サクヤが髪を洗っている所を見ていた。
 湯船の淵に両腕を置き、風呂場の入り口の方、洗い場を眺める。
 うちの風呂場は標準的なもので、二人が一緒に体や髪を洗えるほどは広くない。そのため脱ぐのが早い俺が先に入り、その後サクヤが入ってきた形である。

 風呂のお湯はちょうどいいくらいのぬるさで、秋口で少し冷えた体をゆっくりと温める心地のいい、長く入っていられる温度だった。

 風呂場の椅子に座り、少し体をかがめ髪を洗っているサクヤは、何とも生活感のある、そんな動きをしていた。粗雑に洗っていた俺とは違い、サクヤは丁寧に上品な所作で髪を洗う。
 綺麗な長い黒髪が上部に纏められていくかのように丸くなる。
 やっぱり長いと大変だよな、と思い、視線が胸にいく。
 ぷるぷる、とサクヤが腕を動かすたびにそれは揺れる。
 柔らかさを知ってしまっている俺はそれに触れたくなるが、父の言葉を思い出し、自制する。

 髪の泡を落とす際に、サクヤはこちらに後頭部を向けた。
 今朝も見たが、女子ってこういうふうに洗うんだ、と感心した動きである。
 固定されたシャワーに頭を向け、長い髪から少しずつ泡を落としていく。


 トリートメントまでをしっかりと終え、サクヤも湯船に入ってくる。
 その際に股間に目が行ってしまう。ちょうど目線の高さであり、視線を逸らすことはできない。

「えっち」

 サクヤは一言そういって笑みを浮かべる。
 下から見上げたその顔は、照明で影になり、くっきりと見える。
 笑顔というものをあまりしないサクヤのそれは不意打ちであり、思わずドキリとする。

 湯船に入ってきて、背中側をこちらに向けたまま座る。
 俺は端の方に移動しており、なぜかそれに寄り添う形である。
 密着しており、とても恥ずかしい。俺の股間が暴れないよう、全神経を集中させる。

 足の間に座り、まるで俺がいないように、自然な動きで湯を肩にかけていた。

「見とれているのかしら」

「……うん。綺麗だ」

 シミも痣も傷も。そのどれもが存在しない、白い綺麗な体。
 芸術品のような存在感であり、思わず見とれてしまう。
 首も肩も細く、折れてしまいそう、という表現はきっとこういう時に使うのだと思った。

 ほっそりとした体で、それでいて弾力を感じさせる柔らかさ。

「嬉しいことを言ってくれるのね。男らしいというか、もっと早く聞きたかったというか」

「思ってはいたんだけどな。言えないさ。知ってるだろ」

「そうね、ユウはそういう男よ。そうじゃなかったらもう少し違う関係だったかもしれないわね」
「ユウに彼女が出来て、私と少し距離ができて。そうなっていたらと思うと、少し切なくなるわ」

 後ろからでも、なんとなく表情がわかる、そんな声だった。
 寂しそうな、悲しそうな。そんな声だ。

 その気持ちは痛いほどにわかる。なにせ、俺はずっとそれを心配してきたのだから。
 行動しないくせに心配など片腹痛い、というのは理解していても、やはり怖かったのだ。
 唯一すがってきた可能性を自ら壊すというのは、耐えがたいほどの恐怖だったのである。

「……それはないだろ。モテるほうじゃないし」

「意外とそうでもないのよ。ユウが好きだ、って子は小学校も中学も高校も、一人いたわよ」

「マジか!? 誰だ?」

「私よ」

「あ、そういう。でもやっぱり嬉しいな、なんというか」

 自分を好いていてくれたなんて。そう言えないところが、俺のダメなところなんだろう。

「両想い、というやつね。実際、小さな頃の恋心なんて、殆どは成就しないもの。私たちは幸せなんでしょうね」

「まぁ親まで喜んでくれてるんだからそうなんだろうな。
 これから勉強して、大学入って。その後に就職して、サクヤと一生過ごせるんだと思うと、楽しみだ」

「ちゃんと養ってくれる気なのね。嬉しいわ。だけど私が養ってあげてもいいのよ」

「いやぁ、それは男としてはやっぱりな」

「私は豪勢な生活を求めているわけじゃないから、その辺は気負わなくてもいいのよ。毎日一緒に生活できるならそれでいいわ。残業で遅いうちのお父さんのような、ああいう生活よりはユウの家が理想ね」

「大変そうだもんな、おじさん」

「それで、子供は欲しいのかしら? 何十人でも構わないけれど」

「少なくともそんな人数は無理だ。俺が過労死しても養えないから」

「────子供ね、正直何とも言えないんだよな」

「ユウは子供が嫌いだったの? そうは見えなかったけれど。ああ、ロリコンだとか言っているわけではないのよ。どちらかというと偏執的に胸に興味があるのは知っているから」

「嫌いじゃないけど、その、サクヤを独り占めしたいというか────嫉妬する」

 サクヤがこちらに向き直り、満面の笑顔を向ける。
 俺でも殆ど見ない、そんな顔だ。大きく開いた口からは歯並びのいい真っ白な歯が見える。

「ユウ、愛してるわ。本当に、本当に愛しているわ」

「ど、どうした急に!」

 うっすらと笑みを浮かべたまま、俺の肩に両手を置き、距離を詰めてくる。
 そしてその手をゆっくりと俺の背中に回し、抱き着いてくる。

「急じゃないわ、確信しただけ。ああ、やっぱりユウなんだって」

「愛が溢れてくるわ。それは精神的にも物理的にも」

 サクヤは俺に抱き着き、耳元でそう呟く。
 風呂の反響も相まって、不思議な聞こえ方をする。頭からは良い匂いがして、くらくらと、のぼせたような感覚に陥る。

「好きよ。大好きよ。この上ないほど愛しているわ。だから、だから大事にしてくれると嬉しいの」

「するよ、一生。死が二人を分かつまで、っていうだろ。俺はそれを誓える」

「私も誓います。ユウ、ずっと一緒にいてね」

 すっと起き上がり、目を合わせて簡易の結婚式のような真似をする。
 だけど指輪などはないので、指切りをした。
 思えば、小さい頃、幼稚園の時だったかに同じことをしたことがあるのを思い出す。
 あの時約束したのだった。大きくなったら結婚すると。

「ユウも思い出しているのかしら。昔もやったわね、この約束」

 くすっと、小さく笑う。俺もつられて笑ってしまう。

「ちゃんと守れそうで良かったよ」

「ユウ、キスをしましょう。結婚式といえばキスよ」

「そうだな。サクヤ」

 とろんとした目をしたサクヤに顔をもっと近づける。
 元々くっつきそうな距離だったものをさらに。

 そして唇を重ねようとした瞬間────

「そろそろ上がりなさいよ!」

 と、うちの母親が声をかけてくる。

「見てんのか……?」

 俺は思わずそう呟いた。


 風呂から上がり、体をふき、服を着る。

 今回は下着まで用意されていたようで、サクヤはめでたくノーパンを卒業した。

「履いていることに違和感があるわ」

 と、やっぱり変態かもしれない、と思わせる発言をしていた。

 リビングに行くとパーティーの準備がされていた、と思っていたのに、現実は少し違った。
 食卓テーブルには両母親だけがおり、父たちはソファの方で酒を飲んでいた。
 二人ともがすでに出来上がっており、どんなペースで飲んだのか、既に缶は山積みだった。
 当然のごとく、用意されていた料理もある程度減っており、これは何の集まりなのだろうと冷静になる。

「お父さんたちがね、待ちきれないって先に食べちゃったのよ」

 俺の母は察したようで、質問の前に回答した。

「気合入ってたんだね、だいぶ削がれちゃったみたいだけど」

 ケーキやチキンなど、クリスマスのような料理が並んでいた形跡があった。
 だがその大半は酒の肴になってしまったらしい。

「一応止めたんだけどね、祝いの席だ、気にするな! って」

 父は比較的適当な人だ。というより両親ともにそうである。
 なのでその光景は容易に想像できた。

「まぁいいけどさ……サクヤ、食べよう」

「あら、すっかり男らしくなったわね、ユウ君。私のこともお母さんと呼んでくれていいのよ」

 サクヤの母も茶化す。サクヤの母はアパレル系のデザイナーであるため、服装はおしゃれだ。
 娘であるサクヤとは違い、派手である。だが汚い派手さではなく、上品な派手さだ。
 サクヤはあまり関心がないらしく、というかセンスがなく、家では比較的適当な格好をしていることが多い。
 だが外出の際は母のファッションチェックを受けているらしい。
 可愛い娘に変な格好で出歩いてほしくない、という母として、デザイナーとしてのプライドなのだろう。

「みんなして茶化すね……」

「茶化しているわけではなくて、喜んでいるのよ。あなたたちが結ばれるのは私たちの夢だったんだから」

「そうよ、同じ学年になる様に出産時期まで合わせたんだから」

 母二人は大変だったわよねー、と笑っている。

「つまり、生まれた時からこうなる様に仕組んでた、ってこと?」

「そうよ。勿論上手くいかないかも、とは思ってたんだけど」

「でも二人してお互いをオカズにし始めた時は、あ、これはいけるって」

 二人は何とも下品な、食事時にする話じゃないことを言う。

「待って、何で知っているの」

 サクヤついに口を挟む。顔は赤くなり、動揺していた。
 あたふたしている様子は隙が見えて、とても可愛いものだった。
 普段は隙が無く、そこが魅力でもあるのだが、やはりこういうのもいい。

「「そりゃあ、ねぇ?」」

 母二人は同時に同じことを言う。母親同士も長い付き合いの友人だからか、こういう時は多い。

「サクヤ、一応言っておくけど、あなた声大きいわよ。部屋にいる時いつも『ユウ、ユウ』って切なげな声を出しているじゃない。それに部屋には写真貼ってるし、バレバレよ」

 サクヤは顔をカーッと赤くし、下を見て、口をキュッと閉じる。
 自分で言うのはいいけれど、人に言われるのは恥ずかしいのだろう。
 俺はというと第三者からそれを聞いて実感が増し、少し興奮していた。

「ユウもいっつも『サクヤ、サクヤ』って言いながらしてるし」

 だが俺の方にも飛び火し、サクヤと同じ状態になる。


 部屋に戻る。
 いたたまれない空気の中食事をしたが、喉が侵入を拒否しているように入らなかった。
 サクヤも一緒なのだが、先ほどの件もあり、二人ともおとなしい。

 そして最悪なことに今日は夜通し飲むらしい。
 サクヤの両親もうちの父親も有休を使ったらしく、明日は休みなのだそうだ。
 つまり、今日は静かにしなければならない。

「……人に言われるとこんなに恥ずかしいものなのね」

「ホントな……」

 二人でベッドに座るが、完全にお通夜状態だった。
 ちなみにサクヤは昨日のパジャマではなく新しいものを着ている。
 薄い水色のもので、やっぱりまともなものを着ていた方が見栄えは良い。
 そもそもが美少女なのだから、本来はこちらが普通な気もするが。

「ユウ、今日はできないのかしら」

「難しいんじゃないか。下に全員いるし」

「だったら私の部屋に行けばいいんじゃないかしら」

 その手があった。だが問題がある。二人でわざわざ行くということは、そういうことだと伝えているのも同義なのだから。

「もうバレているのだから、私は開き直ることにしたわ。それに、好きな人の体を求めて何が悪いの」

 ムスッとした顔でサクヤはそう言った。
 所々で好きというアピールをされるとたまらなくなる。
 そもそもが長い間溜めてきた感情だ。だから一回爆発してしまうと、もうどうにも止まらない。

「……そうだな! 開き直ろう!」

 俺は恥を捨てることにした。どうせこの後も何度も起こるだろう状況だ。


「サクヤの家に行ってくる」

 俺はリビングにいる四人に宣言する。
 俺の人生でも有数の男らしい状況である。

「「言うねぇ!」」

 父たちも同時に反応する。
 すでに酔っぱらっており、大爆笑である。

「お盛んね。ただほどほどにしなさいよ。明日も学校なんだからね」

 母は冷静にそう言った。急に現実に引き戻された気がして、少し落ち込む。


 一年ぶりほどにサクヤの家に入る。
 自分の家とは違う臭いがして、少し緊張する。

「久しぶりでしょう。といっても変化はないから部屋に行きましょう。もう待ちきれないの」

「俺も限界だ。正直」

 風呂の段階でだいぶ限界だった。
 早くいちゃつきたくてたまらないのだ。

 二階にあるサクヤの部屋に向かう。
 階段の途中にはサクヤの家の飼い猫、「ウニ」がおり、何とも言えない表情で俺を見ていた。猫にまでこれからすることがばれているのでは、と思うような神妙な面持ちだった。窓伝いに結構な頻度で俺の部屋に来ているため、嫌われているわけではないとは思うのだが、それでも警戒気味だ。

「ウニ、おいで」

 サクヤが文字通りの猫なで声でウニに話しかけるが、そっぽを向いて一階に降りて行ってしまった。
 行っちゃった、と寂しそうな声を出すサクヤにきゅんとしてしまう。
 猫と美少女というのは、数ある組み合わせの中でも最高レベルだと俺は思った。

 部屋の入り口には「サクヤ」と書かれたプレートがぶら下がっており、それは俺の部屋にかかっているものと同じ仕様だ。昔どこかへ買い物に行った際にお互いがお互いのものを作ったのだ。
 俺の不器用さが全面に押し出されたセンスではあるのだが、それがまだ使われているというのは嬉しいものだった。もしかすると、サクヤも同じことを思っていたのかもしれない。

 部屋に入るとサクヤの匂いで充満していた。勿論それは甘い、いい匂いである。
 正面には勉強机、そしてその隣にベッドがあり、ベッドの上には窓がある。俺の部屋と向き合っている窓だ。
 左側には本棚やたんすなどがあり、これは俺の部屋からも見えるものだ。
 唯一見えない家具、勉強机の横の壁にはコルクボードがあり、それにはいくつかの写真が貼られていた。
 サクヤの母が言っていた俺との写真である。
 小学校の頃のもの、中学の修学旅行や家族旅行、そういったものである。
 一番最近の写真は高校の入学式の時のツーショットだった。

「あまり見ないでくれると嬉しいわ。恥ずかしいから」

「恥ずかしいの基準がわからなくなってきた」

「そうね、ユウに対する好意がバレる時は恥ずかしいわ。でもそれ以外はある程度我慢できるわ。それがどんな羞恥プレイでも。ユウの持ち物だって、首輪にリードをつけて登校してもいいわよ」

「そういうところだよね、普通恥ずかしいのって」

「でも、こんな変態な私でも受け入れてくれるんでしょう?」

「ああ、逃がさないぞ」

「本当に男らしくなったわね。濡れるわ。というより濡れているわ」

 いつものようにそう話すサクヤをグッと引き寄せ、今度こそキスをする。
 眼鏡をかわし顔を横向きにして。腰のあたりに手を回し、しっかりと固定する。
 唐突なそれに驚いたのか、サクヤの体はびくっと強張る。
 だが舌を入れ、じっくりとキスをすると、ゆっくり力が抜けていく。
 そしてそのまま俺の背中に下から手を回し、二人で抱き合った。
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