チャラ男に囚われた忌み子の僕は

蓮恭

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32. 入院して

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 廊下に出た時、僕は薬のせいで頭がクラクラとした。
 だけど、そんなこと言ってられない。
 そおっと歩いて靴を履き、玄関のチェーンに手をやるとそっと外した。

 チャリチャリと鳴るチェーンがものすごく憎らしくて、何とか外せた時にはフウっと息を吐いた。
 次に鍵をゆっくり回す。
 ガチャリ……。
 これもまた憎らしいくらいに静かな部屋に音が響いた。

 もう僕は後ろを振り向かずに、そのままガチャっと音を立ててドアを開いて外へ飛び出した。

 まだ吐き気とクラクラする感じは残っていたけど、それよりも早くこの場から離れたくて。
 来た時は動揺してたから道は覚えていないけど、少し離れたところに見えた職場が方角を教えてくれる。

 とにかく職場の方へ、そこからは知った道だ。

 真っ暗な道は街頭だけがぼんやりと光り、人っ子一人いない。
 アパートから少し離れると、僕はわざと狭い路地に入り込んだ。

 息を潜めて、鈴木さんが追いかけて来ないか確かめた。
 足音がしないか、息遣いがしないか……。

 幸い、僕の息遣い以外は聞こえない。
 そっと路地を出て、未だ見えている職場の建物の方へと向かう。
 もちろん今職場には電気も点いていないし誰もいないが、知った場所へ出たら安心出来る。

「はぁ……はぁ……」

 薬のせいで身体は力が入らない。
 少し歩くと息切れがした。
 それでもやっと僕は職場の敷地を少し出たところまで辿り着いた。

 ここからはとにかく人の居るところを目指そう。
 あ、そういえば少し行ったところに交番があったはずだ!

 交番目指して力の入らない身体を引き摺るようにして、僕は足を進めた。

「す、すみません……」
「どうなさいましたか?」
「あの、拉致されて……。刃物と薬で……」
「えっ⁉︎」

 僕は何とか辿り着いた交番で事情を話した。
 被害届の提出と、薬を飲まされているということで救急車で病院に運ばれることになった。

 そして、救急車が到着するまではまだ鈴木さんが追いかけて来るんじゃないかと怖かったけれど、優しい警察官が話を聞いてくれたから安心できた。

「あの、これからどうなりますか?」
「とにかく今から警察官をそのアパートに向かわせます」

 そうして僕はホッとしたせいで薬の効果が出てきたのか、机に突っ伏してしまった。

 遠くの方で救急車のサイレンが聞こえる。
 ああ、こんなことで来てもらって救急隊には申し訳ないな。

「高羽伊織さんですね? 大丈夫ですか? 分かりますか?」
「……わかります」
「今から病院に行きますからねー」
「おねがいします……」

 もうそこからは記憶が定かではない。
 
 目が覚めたら、天井はいやに白くてそこからベージュ色のカーテンが吊るされている。
 ピッピッピッというモニターの音が響いているから、きっともうここは病院だ。

 ゆっくり頭を動かすと、忙しなく動く医師や看護師が見えた。

 声を出そうとするけど、何故か出なくて。
 何とかそばに見えたナースコールを押してみた。

「あっ! 高羽さん! 大丈夫ですか? 分かりますか?」
「……病院ですか?」
「そうですよ! 先生、高羽さん意識が戻りました!」

 医師が近づいてきて、問診と簡単な診察を済ませたら病棟に移動することになった。
 どうやらここは救急外来だったようだ。

 宗次郎、どうなったんだろう……。
 鈴木さんは?

 僕は色々考えてはみたが、スマホも壊れたし宗次郎の連絡先はLIMEしか知らないから電話も出来ない。

 とりあえず、医師の説明では検査も含めて三日ほど入院することになると言われた。
 あとで警察が来るということも。

 とりあえず、病棟の個室に移された僕は目を閉じて身体を休ませることにした。

「高羽さん、おはようございます。お熱測りますね」

 朝になったようで、看護師が検温にやってきた。
 簡単に声をかけて去って行った看護師の背中を見ながら、僕は早く警察官と話がしたいと思った。

 鈴木さんはどうなったんだろう?

「高羽さん、おはようございます。桜台警察署の者ですが……」

 何度目かのうたた寝をした後に、刑事だという男が二人やってきた。
 普通のサラリーマンのようなおじさんと若い男性に、僕は聞かれたことを答えていった。

 僕は最後にずっと気になっていたことを聞いた。

「あの……鈴木さんは?」
「……実は、自殺を図って睡眠薬を飲み過ぎたようです。しかし致死量には至らず、警察官が訪れた時にはぐっすりと眠ってました。今は署に連行して話を聞いています」
「自殺を……」
「『王子が死んだのは私のせいだ』とか『私も後を追うから』とか、意味の分からないことを言っているようです」

 おじさんの刑事は首をかしげながら苦笑いしている。
 若い男性の方はじっと真面目な顔で特に何も喋らない。

「とりあえず、早くお身体を治してください。それでは、我々はこれで……」

 病室にはまた僕一人になった。
 職場には連絡しないといけないし、とりあえず電話をかけに行こう。

 ……あ、財布も何もないや。
 どうしよう……。

「あの、職場に電話掛けたいんですけど財布も荷物も警察に預けてて。どうしたら良いですか?」

 とりあえずだめ元で看護師に聞いてみたら、職場に掛けることを許してくれた。
 車椅子でナースステーションまで行って電話を借りる。

 とりあえず、上司の橋下さんに話さないと。
 僕はもう流石に何度も看板を見たりして覚えているデイサービスの電話番号を押した。
 


 
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