ホライズン 〜影の魔導士〜

かげな

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魔道帝国学院 入学①

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   鼻歌を歌いながら、少女が軽い足取りで歩く。
   毛先につれて水色になっていき、緩くカーブのかかった銀髪はハーフアップにされ、青と白で刺繍された黒いリボンで結ばれている。左にかけて長くなっていく前髪の下からは空の色をした目が覗き、胸元には小さな上から下にかけて夕空のように青から赤に変わっていく石の嵌められたネックレスが揺れていた。
   黒を基調としたワンピース型の制服に瞳と同じ青色のリボンを胸元と腰に結び、魔導科の象徴である月光花が描かれたバッジが歩く度に左胸でキラリと光を反射した。
   左手には手のひらと甲しか覆わず、指を隠さない黒い手袋をつけており、人差し指には装飾の無い黒い指輪が嵌められている。
   エミリアンヌ・M・へーヴェル。今日から魔道帝国学院に通う新入生だ。

   彼女は両手で寮に持っていく軽い物を詰めた革製の旅行鞄を大切そうに持ち、服や本などのかさばる物は後で業者が届けてくれるのだと隣を歩く少年に話している。
   少年は旅行鞄を代わりに持とうかと提案したが、エミリアンヌは自分で持ちたいと断った。

   隣を歩く少年はエミリアンヌを微笑ましそうに見守り、制服の上に黒のマントを羽織っている。全国魔道戦の優勝者を示す耳飾りが歩くのに合わせ左耳で揺れている。
   少年の名前はダークライド・ヴァーライヌ・ヴォルフ。
   エミリアンヌの一つ上の学年で、兄と慕われているが、黒髪に赤目で顔立ちもエミリアンヌに似ていなく、血も繋がっていない。
   だが、エミリアンヌを見つめる目には慈愛が見て取れ、絵になる二人が醸し出す家族の雰囲気に、登校している生徒達は注目し、全く似ていない兄妹だと納得してしまう。


「ダーク兄は今日お仕事無いの?この時間に一緒に来ても間に合う?」

   機嫌良く鼻歌を歌っていると、確か案内役になるって言ってたよね?と、ふと気付いたようにエミリアンヌは首を傾げた。

「大丈夫。俺の仕事は皆がホームルームを受けてからだからね。それまでの俺の仕事はエミリーをクラスに送り届ける事だ。」

   にかりと笑ってダークライドは言った。
   髪型を崩さない程度に撫でるとエミリアンヌは花開くようにふわりと笑う。
   それを見ていた登校中の生徒達、特に弟妹のいる生徒はぐぅっと胸を押さえた。「反抗期中の弟のデレを思い出した。」と呟いた男子生徒に周りは同調し、ダークライドに羨ましそうな視線を向ける。
   男女関係なく向けられる羨望と嫉妬にダークライドは苦笑した。
   視線に気付かなかったエミリアンヌは、苦笑するダークライドを不思議そうな目で見ると首を傾げた。


   正門をくぐり抜け、十分ほど歩くと、校舎が見えてきた。
   寮から登校してくる上級生や、家が学院から離れており、寮の来客用の部屋を一時的に借りている新入生も合流して、校舎に着く頃には先程の倍くらいの人数が歩いていた。

「あの棟がエミリーのホームルーム教室がある棟だ。魔法学を教えてるから、魔法学棟。で、反対の左の棟は普通授業を教えてるから、座学棟。」

「おおぅ。安直なネーミングセンス。分かりやすいね。」

「だな。」

   正面は3階まであり、左右は7階まである立派な建物を二人は見上げる。流石大陸随一の魔導帝国学院と言うべきか、城のように大きく、装飾がしっかりとしている。

「授業は選択制なんだっけ?」

   ダークライドが学校生活の話をしていたのを思い出して尋ねた。ダークライドはこくりと頷いてそうだな、と言う。

「魔士、剣士、技士って分けた後に更に魔術科、魔導士だとか分けてるけど、受けられる授業には特に制限はかかってないんだ。
    強いて言うと、例えば錬金術で、上級、中級、下級って分けられてる時に上の級の授業を受けたい時は、先に試験を受けないといけないってところかな?細かいところは更に下級A、下級B、下級Cって分けられてる。
    こういうのは知識や実力が足りないまま受けると危険だからある措置なんだ。ほら、錬金術って爆発する事があるだろう?爆発の可能性を減らすために、試験では授業で使う薬草と混ぜちゃいけないものが分かっているか試すんだ。」

「へえ。」

   詳しくは学校のしおりに書いてあるから読んでみるといいよ、とダークライドは付け足した。
   新入生に配られるしおりには全学科の授業が一覧になって載っている。ダークライドも昨年はお世話になった。
   それに加え、しおりには学園の地図や教室の説明、図書室や闘技場の利用方法なども載っているので、最初の数ヶ月は新入生は必ず持ち歩いている。

   エミリアンヌは分かった。後で読むね、と頷いて頬を緩める。
   そして、これからは同じ学校に通うんだよね?と目を輝かせて今日だけで何回もした質問をするエミリアンヌにダークライドは微笑み、楽しみだなと答える。
   こくこくとエミリアンヌは嬉しそうに頷いた。
   立派な玄関を通り二人は校舎に足を踏み入れた。


「はい、到着。魔導科の教室だよ。」

   ダークライドに案内されて着いたのは、魔法学棟の2階にある教室。入り口には『魔術21』の札が掛かっていた。

「教室にはそれぞれ名前が付いていて、基本的には魔術、技術、そして武術の3種類の教室があるんだ。魔術の教室には魔法耐性がかかっていたりして、授業が受けやすいようにそれぞれ造りが違う。
    番号は十の位に階の数、一の位は見分けるために適当に数字が振られてる。」

   一階あたり最大で9つの教室があるって事だな、と言いながらダークライドは扉をガラリと開けた。
   教室は黒板を背後にした教卓を中心に弧を描くように60個ほど机が並べられ、後ろの列に行くにつれて高い位置になっていき、黒板が見やすくなっている。


「わぁ、広いね。」

   魔導科は魔術科などの他の科より人が少ないが、他の科はいくつかの教室に生徒を分けている為、結果的に魔導科の教室が一番生徒数が多くなる。
   そして一の位の数は部屋が大きい教室に“1”の数字が振られる事が多いため、これから学年が変わっても魔導科は6年間“1”の数字のついた教室でホームルームを受ける事になる。
   そう説明したダークライドだったが、別にそこまで重要じゃないから忘れても良いと数ヶ月前に話していた事をエミリアンヌは思い出した。

「これが2階で一番大きい教室って事かな?」

   ダークライドはよく知ってるな、と驚いていたが、エミリアンヌはダーク兄から聞いたんだよ、と答えた。

   既に6人程ちらほらと座っていた。ホームルームまでの過ごし方はそれぞれで、机に置いてある学校のしおりを読む人も居れば、しおりに手を触れずに本を読む人や、きょろきょろと周りを見回す人もいる。

「席が黒板に書かれてるから、確認しよう。」

   そう促されてエミリアンヌは教卓に近づき自分の名前を探した。
   どうやら席は名前順では無いようで、エミリアンヌは一つずつ四角に囲まれた名前を確認していった。

「んーっと...あった。」

   先に声をあげたのはダークライドだった。ダークライドは指を窓側の列の方へ指した。
   一番窓側の、後ろから3つ目の席だった。

   席に着いたエミリアンヌは持っていた旅行鞄を机の横に置いた。

「じゃあ、俺は行くよ。また後でな。」

   軽くエミリアンヌの頭を撫でて教室から出て行ったダークライドを見送り、エミリアンヌは席に着いた。

   窓の外を見ると、登校している生徒達が歩いている姿が見えた。
   エミリアンヌは机に置いてあったしおりを開き、これからの学校生活に思いを馳せた。
新しい学校、新しい生活。楽しみだと思いながらエミリアンヌは口元を緩めた。
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