ある雪の降る日に

喜市

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28話

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「今日は日差しも暖かいねー!」

「そうだね、僕も今日は軽めのカーディガンで来たけど正解だったよ。」

うん、と手を高く澄む青々とした空に伸ばす。
今日は休日であったが、朝が早いからか商店街に人はまばらだ。

のどかに辺りへとその淡く線を描いたように降り注ぐ日差しは、二階の洗濯物へ、街路樹に生い茂った緩く揺れる新緑へ、そして僕らの頬を照らしている。

今日は僕が孤児院から持ってきた荷物があまりにも少ないことに驚いたハルラスに連れられて、商店街に買い物に来ている途中だ。

シヴァン先輩を僕の部屋に誘ってから1週間と少しが経った。新歓旅行も少しづつ近づいてきている。
その準備も兼ねて、必要な物を揃えるために色々な店を回る予定だ。

どこから見ようか。そう話すハルラスに提案する。

「最初に少し服を見てっても良い?僕古いのしか無くって。」

孤児院で支給されたワイシャツやスラックス何かも今まで大事に着てきてはいたけれど。流石にもうすぐボロが出てきてしまう。

流石に新しいのが欲しいのと、やっぱり…

「フレイも新しいの欲しいよねー。もあるし、私服には気合い入れなくちゃね?」

自分の考えは見透かされていたようで。僕は何も言わず肩を竦めて見せた。

やっぱり、シヴァン先輩に会えるなら、少し新調しておきたいかな。

先程見つけた、街角にある小さめな店舗だけれど、大きく開いた出窓から覗く内装に品があるのが見て取れる服屋へ、僕たちは入って行く。

カジュアルから正装まで取り扱うこの店は安価な物もあり、僕の数少ないお金でも足りそうだった。

「ねー!フレイこっち来てよ!...見て見てこれ、中々良いんじゃない?値段も張らないし…。あっ、ほらこっちなんかも!」

オカンモードに突入したハルラスを止められる者はいない。

僕はハルラスに押されるようにして更衣室へ入り、一緒に選んだ服を試着してみる。

グレーのワイシャツに腕を通し、膝上までのキュロットを履いた。

僕はこれにループタイでも良いと思ったが、手渡されたガーターとサスペンダーを付けない訳にも行かない。

なんでも今、巷では装飾品としてガーターベルトを着用するのが流行っているとか何とか。
僕は聞いたことないけれど、エルフ情報らしい。

「フレイ着れたー?」

「まだー、あともうちょっと。」

カーテン越しにハルラスが呼ぶ声がする。
僕が選んだ濃紺のケープを羽織り、胸元で少しきつく結んだ。

鏡の前の僕は…ハルラスのセンスが中々に光っているとでも言っておこう。


「どうかな、いい感じ?」

カーテンを開け、まだ服を物色しているハルラスに声をかける。

「良いね、凄い似合ってるよ!僕もケープ買っちゃおうかな…。」

そう言われ、少し得意げに再度に映る自分を見つめる。

シヴァン先輩にも似合ってるって言われるかなぁ。



その後も僕たちは雑貨屋や貸本屋、薬屋を周って街中を歩き周った。

「やー、結構買ったね。僕お腹すいてきたよー。」

「ハルラスは買いすぎなだけでしょ笑...でも確かに、」

 通りの奥に建つ時計台をちら、と視線を向ける。  
針は昼の2刻を差しており、昼はもう随分とすぎていた。

「もうお昼過ぎてたんだね。そうだ、どこかで昼食でも食べに行こうよ!」 

僕はそう提案した。ハルラスもそれに頷く。
僕たちは近くにあるギルドに行き、そこの掲示板に掲示されていた食堂に向かった。



大通りの一角にどんと構えたその店は、昼過ぎだと言うのにほぼ満席だった。
カウンターに空きができたのでそこに僕たちは座る。

椅子に腰掛けると、空腹と歩いた疲労がぐっと押し寄せてくる。

2人は取り敢えず、言葉を交わす前に注文を済ませた。
程なくして運ばれてきた料理に手を合わせ、食べ始めた。

「この唐揚げめちゃくちゃおいひぃよ!こっちも…」

想像以上の美味しさにどんどんと箸が進んだ。

僕が今食べているのはロック鳥ではなくバシリスクを使った唐揚げらしい。
毒抜きにてはかかるけどこんなに美味しいとは思わなかった。

2人はもぐもぐと食べ進めた。昼4刻に差し掛かり、周りは徐々に空き始めている。

食後のドリンクに僕がココアを頼んだ辺りで、僕たちは口を開く。
内容は言わずもがなだった。

「…緊張するね、明後日には班決めだよ!人数は特別決まってる訳じゃ無いけど、ペアになる人が多いんだって!」

ハルラスはやや興奮気味に話し始めた。
ペアが多い、その言葉に僕のテンションも上がると同時に、この前の出来事がふと頭によぎる。

シヴァン先輩が選ぶ人は誰なのだろうか。
他の人に選ばれてしまったら…それはその先輩に失礼か。

「…あれ、そう言えばハルラスと仲の良い天鬼先輩は確か炎使いだったよね?ハルラスもしかして他に寮の先輩で仲の良い人いるの?」

純粋に疑問だった。まぁでもこれだけ社交的で美少年なら1人や2人いてもおかしくないよね。

「いや、全然いない。フレイもまだ他の先輩達と交流した事ないでしょ?その為の新歓旅行だし。でも、この旅行だからね!」

「な、なんでもアリ?」

そう含みを持たせたハルラスに乗ってあげる。
正直とても興味のある内容だった。

「そう、なんでも!まず魔法アリに拉致アリ…でも怪我とか怖がらせるのはアウトね。でも、ちゃんと生徒会が見守ってるからそこは大丈夫らしいよ!
まぁ後は寮が違うのもアリ。これはあんまり公にしちゃいけないやつだけどね。」

拉致…めっちゃ物騒な単語出てきたけど...。
ともかく、ハルラスたちは一緒になる予定なんだとホッとした。
少し気がかりだったんだよね。

「その分心配事は増えるけどね。特にフレイとか。」

「えぇ、僕?」

急に名前が出てきて変な声を出してしまった。
僕が心配事ってどういう意味なのだろうか。

「秀でた容姿や魔力の高さ、希少度なんかはモテる基準でしょ!…フレイはその点全部カバーしてるんだよ、何より希少度ね。」

それを言う目の前のエルフには呆れて物が言えない。希少度が高いのはそっちである。

その目線に気づいたのか、ハルラスはもー!と言いながら話を続けた。

「また呆れた顔して!今じゃ数少ない黒毛美人だよ!黒い毛の遺伝子が残らな過ぎてエルフよりも希少なんだからさ。まぁ、言っちゃえば他の寮からも狙われる可能性があるって事だよ。」

当日は守ってなんてあげられないからねー!そう言ってハルラスはちょっと拗ねたように、でも得意そうに言ってくる。

半信半疑でその言葉を受け取った僕はぼんやりと明後日に行われるグループ決めに思いを馳せた。

その様子を見てか、あははっと笑ったハルラスは僕に言う。

「ちゃーんと、先輩に捕まえてもらいなよ!」

少し驚いて、ハルラスを見る。ハルラスもまた誰かを想うように手元のコーヒーを見つめていた。

「…ふふっ、ハルラスもねー!」



しばらく談笑が続き、カウンター席からは小さく笑いが零れていた。

窓際に掛けられた鳩時計は、夕刻を告げ鳴いている。
もうすぐやってくる一大イベントに、僕は多少の想いと高揚感でいっぱいになった。


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