ある雪の降る日に

喜市

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27話

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「あれ、もうこんな時間か。流石に長居し過ぎたからそろそろお暇するよ。」

もうそんなに時間が経ったんだ。

そう言うシヴァン先輩を見れば、先輩の腕に巻かれたミサンガのような飾りがぼぉっと淡く水色に光っている。

「それ、時間を知らせているんですか?」

部屋の時計を見てみれば、今まさに針は夕刻を示していた。
ものの数秒で消えたその淡い光に、興味がそそられる。

「そうだ。携帯できる時計が欲しいが、懐中時計はかなりの高級品だから中々手が出せなくてな。まぁ試しに作ってみたけれど悪くはないぞ。」

内手首をこちらに向ける先輩の話に耳を傾ける。
凄い、こんな技術も使えるのか先輩は!

尊敬の眼差しを向ける。向けられた先輩も満更でも無さそうなのでまぁ良かったのだろう。

コップを片付けてくれようとするシヴァン先輩を何とか止め、帰りの時間を惜しみながらも玄関へと通す。

「今日は楽しかったよ、クッキーも美味しかったし。フレイから誘われるなんて珍しいから、誘ってもらえて嬉しかった。」

ありがとう、そう言われれば僕は内心踊り出したい気持ちでいっぱいだった。
良かった、勇気を出して先輩を誘って。

「僕も、先輩と沢山お話出来てよかったです。…また、来てくださいね。僕待ってますから。」

ドア前に立つ先輩へ向けて、やっぱり気恥しいそのセリフを伝える。

「あぁ、また来るよ。でもその前に新歓で旅行だなー。」

「?...りょこう、ですか?」

ドアに手を掛けた先輩は気になる発言を残していこうとする。

旅行行くとか言ってたよね?

思わず袖を引っ張って止めてしまう。失礼だとは思ったけれど、先輩は気にしていなそうだったから良かった。

「フレイは聞いた事無いのか?…そうか。ちなみに新入生歓迎会で旅行に行くんだ。半月後にね。」

多分伝え忘れだ、と言われた。
まぁ、まだ半月もあるので余裕があるうちで良かったと思おう。

「そうだったんですね!でも僕、旅行とか行ったことが無いので楽しみです。...ちなみに、当日先輩とは一緒に居れたりするんでしょうか?」    

正直、旅行の計画があると伝えられた時からわくわくとテンションが上がっている。
最後にした質問は途中で恥ずかしくなってきてしまい、蚊の鳴くような声で呟いた。

「俺も一緒に居たいけど、グループ決めってのがあってな...。」

うっ、やっぱりそうだったんだ。恥ずかしさで赤くなった頬を隠すように別を向いてやり過ごす。

でも、シヴァン先輩も一緒に居たいっていてくれていた。その言葉がじんわりと心の中に染みていくのもわかった。


「まぁ、簡潔に行ったら1年の取り合いだな。」

「…えっ?」

可能性が低いんだと心の中で嘆いていれば、先輩はそんな事を言ってきた。

「うん、争奪戦だなーあれは。1週間前にグループ決めがあるんだけど、1,2,3年生を4,5,6年が誘ってグループを作るんだ。早い者勝ちね。」


そこまで聞いて、ある疑問がふと頭の中に浮かんだ。
それなら先輩が来てくれれば良いのにと思っていたが、が居るのだろうか?


だから、一緒のグループは難しいってことなのかな。

「あ...そ、そうなんですか。」

盲点だった。確かに、先輩の人脈は多いだろうと話していれば分かる。

そっか、そうだよね。
僕だけが、一方的なものじゃ、駄目だったな。

一緒に過ごす時間が増える内に何となく、最初に出会ったあの時の気持ちが何だったか、今抱くこの気持ちが何なのか、それが理解出来る前にその気持ちに蓋を閉じる。

「...どうした、俺の事信用してないな?」

もう顔の赤みは消えて、誰にかは分からない芽生え始めの嫉妬心と少し沈んだ思いを抱えていた。

そんな僕を知ってか知らずか、最初よりもずっと馴染んできたその手が頭を撫でる。

部屋の一角、本当の外の景色を写す窓にはオレンジ色の西日が強く差し込んできている。

時間だ。もうちょっと先輩と居たかったけど。

カチャン

子気味の良かったはずのその音も、少し重苦しく感じる。

「1年争奪戦は魔法アリだから今から鍛えとかなくちゃいけねーな。まぁ、大丈夫だから。」

僕を慰めるようにシヴァン先輩はそう言う。
そんな言葉に僕も少し笑が零れた。

「ふふっ、先輩招集かかるくらい強いんだからぶっちぎりですよ!」

そう言い終われば、先輩は開けたドアの先から1歩こちらに向き、僕の耳元に顔を寄せた。

「そう、だから信じて。」

そう言って僕の前髪を少しすくって、離れていく。

「じゃあ、またね。」

かろうじて僕も先輩に手を振り返し、扉が閉まるのを見送る。


ガチャン
閉じた扉の音は部屋中に反響した。

残された僕は1人、うずくまるようにしてその場にへたり込む。

顔から火が吹きそうなほどの熱さを感じる。
信じて、そんな言葉と心の中にある不安とが混じりあって、僕を思考の渦へと苛んだ。
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