竜の庵の聖語使い

風結

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エーレアリステシアゥナ学園

学園長室  人外(その他一名)たちの悪巧み

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「毛根まで燃やすわよ」

 この周期で毛髪が全焼するのは嫌だったので、仕方がなくティノは愚痴の量と質を減らすことにしました。

「さっきは、『風刺ピアース』が当たったから良かったものの、外したら恥ずかしかったじゃないですか。まだ、動いている的なんて百回に一回だって当たらないのに」
「良いじゃない、当たったんだから。まぁ、そのお陰で、明日から楽しいことになるわよ」

 もし外れていたとしても、アリスが方術でどうにかしていたのですが。
 ティノの想像力は、いつも通りにお寝んね中です。
 結果的にティノの心の負担が少なくなった、と同時に、アリスの楽しみも奪ってしまったのですが、こちらにも気づいていないようです。

 何にせよ、ティノは自力で的に「風刺」を当てました。
 そう、当たってしまったことで、皆から買い被られること必至。
 また愚痴を言いたくなってしまいますが、今は、何を置いても問い質さなければいけないことがあります。

「ティ~ノ~、ティ~ノ~、ティノティノティ~ノ~」
「今日は一緒に居られる時間が少なかったからの。存分に可愛がってやらんとな」

 マルの言うことも尤もなので、膝の上のイオリを後ろからぎゅっと抱き締めます。
 「聖放送」で呼びだされてから、ティノはずっとアリスに突っかかっていたのですが、彼女はのらりくらり。
 喋り疲れたので、ティノは一息つくことにしました。

「ベズ先生。先ずはマルをどうぞ」
「ワヲ……?」
「どうかしたか、マル殿?」
「……尻尾ではなく頭から撫でられたは初めてだったゆえ、少しばかり驚いてしまったかの」
「私は竜だ。獣には嫌われる。獣を撫でたのは初めてだから、無作法があったのなら詫びよう」
「問題ないかの。お腹以外なら、たんと撫でておくれ」
「な~でお~、な~でお~、マジュマジュ、な~でお~」

 ベズの膝元で、大人しく撫でられるマル。
 つまらなそうに一竜と一獣を見遣るアリス。
 一塊になって、幸せ満喫のティノとイオリ。

 ある意味、勢揃いです。
 「聖域テト・ラーナ」での、慮外者たち。

「さて、『人外会議』を始めようかしらね」
「やめてください。僕を『人外』に含めないでください。って、まだ愚痴、ではなく、いえ、もう愚痴でいいです。僕の愚痴は終わっていませんよ」
「はいはい。聞いてあげるわよ。な~に?」

 投げ遣りな姿勢がムカつきますが、答えを持っているのはアリスだけです。
 いえ、ベズに聞いても答えは得られるでしょうが、マルを撫でる姿が絵になっていたので、ティノは邪魔をするのを控えました。

「何で『聖域』の人たちは、『原聖語』で『聖語』を刻んでいる、だけでなく、会話まで『原聖語』でしているんですか?」
「そんな風に言うものではないわよ。『聖語』というのは、方術と同じように『力』を発現する為のモノで、会話をする目的で創られたモノではないのよ。『原聖語』は、その為の基礎。ーーティノ。あなたからしたら、単語だけを並べられているようで半分も理解できなかったのではないかしら?」

 アリスの言う通りです。
 学園生は皆、『原聖語』で話していたので、彼らの話は「何となく」しかわかりませんでした。
 今、ティノたちは「下界」の言語である、ハルフルで話しています。
 ティノたちなら「聖語」での会話も可能ですが、「聖語」を解さないマルも居るのでハルフルで会話しています。

「イオリが『聖語』や『原聖語』で会話できるのを、今日初めて知りました。……というか、僕より上手いです」
「こんな『へんて仔竜』でも竜だもの。魔力から情報を得ているから、現在使われている言語なら、すべて話せるはずよ。もう少し問題を起こすかと思っていたけれど、ーーと、そうだったわ。教室の床、明日までに直しておいて。他の目立たない箇所は、一巡りに一度、直しておいてくれれば良いわ」
「……はい」
「ぱーばー」

 むずかしい話になったので、イオリは「日向ぼっこ」状態です。
 ティノはイオリの頭を撫でながら、今後のことについて考えます。

 「庵」と違い、ここは学園です。
 イオリの責任は、ティノの責任。
 当然、イオリが壊した物は、ティノが修復するのですが。
 勉学や鍛錬の時間が削られる。
 そんな懸念を抱いていたら、思わぬ方向から助け舟が遣って来ました。

「私は地竜ゆえ、『治癒』や『修復』は得意だ。ティノ君の勉学の時間を奪うことは、教師としても忍びない。一日に一度、学園の敷地内を巡回して直しておこう」

 破格の申し出でした。
 この瞬間、ティノランキングの順位が入れ替わりました。

 一位イオリ(イオラングリディア)、二位ランティノール、三位マル、四位ベズ、五位サクラニル、六位スグリ、七位村長、八位以降ーー割愛。
 神様であるサクラニルよりも上位になったので。
 今日から、食事の前のお祈りの度に、ベズに感謝することに決めました。

「ふむ。私は竜だが、君を取って食ったりはしない。そのように緊張しなくても良い」
「あ、いえ、その……」
「どうかしたか?」

 魔力や気配は抑えているはずでしたが。
 感覚の鋭い者なら、竜の存在自体に怯える。
 ティノの様子に違和感を抱いたベズは、率直に尋ねました。

 ベズに正面から見られ、言葉に詰まるティノ。
 確かに、ベズに対し、不自然な態度を取っていたのは事実なのでティノは正直に言うことにしました。

「その、ベズ先生は、僕がなりないと思っている大人、そのものなんです。なので、竜だから緊張しているとかではありません」

 ティノの言葉を聞き、ベズは。
 ティノの頭の天辺から靴の先まで見てから、淡々と所感を述べました。

「性格はともかく、容姿は無理だろう」
「ぷっ」
「ワプっ」
「ぱーぷー」

 アリスとマルが吹きだしました。
 ティノ自身、ベズのようになれないことは自覚していますが、自分で言うのと他人に言われるのでは、また別のこと。
 未熟な少年の心は、素直に受け容れることなんてできません。
 ティノが膨れていると、今度はベズが尋ねてきました。

「ティノ君の『感知』は見事なものだ。学園生たちの言葉も、おおよそのところは理解している。どうやってそこまでの『感知』を身につけたか教えて欲しい」

 ティノの「感知」。
 それが、ティノが学園生たちと問題なく会話できていたことの理由です。

 「聖語」は魔力を集め発動します。
 ティノの優れた「感知」は、「原聖語」に宿る魔力を読み取って、彼らの「言葉」というより「思考」を受け取っていたのです。

「『お爺さん』に言われて、毎夜、魔物退治をしていました。毎日欠かさずにやっていたことなので、今では手を動かすのと同様に発動することができます」
「ほう。では、ティノ君から見て、学園生同士の会話をどのように見た?」
「はい。正直に言うと、どうやって皆が『原聖語』で会話を成立させているのか、不思議でなりません」

 ここで暇を持て余した、ではなく、学園長の沽券に係わるので、アリスは会話に交ざることにしました。
 真面目な話になると察したマルは。
 イオリの肩に移動し、尻尾をイオリのお口に入れました。

「彼らはね、生まれてからずっと『原聖語』を使っているのよ。逆に言うと、『原聖語』しか使っていない。人種っていう生き物は柔軟性があって、大抵のことは何とかしてしまうものなの。ティノ、以前にも言ったでしょう。もっと彼らの言葉を、注意深く聞いてみなさい。ティノは『感知』でわかるから、見逃しているのよ。発音、強弱、順序、組み合わせ、身振り、ーーそれらを総動員して、『会話』まで昇華させているの」

 ティノの思考がとまりました。
 わかっていたことを、強制的にわからされました。
 多めに吸った空気に、何かが混ざっていたのでしょうか。
 胸がつかえて、問いかける為の言葉も消えてしまいました。

 ティノの様子に、一拍置いてから。
 アリスは「聖語使い」たちの「宿痾しゅくあ」について語り始めます。

「今のティノにはわからないでしょうけれど。『聖語』というのはね、後戻りのできない『言語』なのよ。今、『原聖語』から脱することができない『聖語使い』たちは、袋小路に入っている。本来なら、一致団結してこれを打破しないといけないというのに、『八創家』は足を引っ張り合っている。このままでは、行き詰まって『聖語』は行き場を失う。そうなれば、彼らは『聖語』を刻めなくなる。ーー可哀想じゃない。ハルフルを喋れない学園生たちは、『聖域』の人々は、『聖語』を刻めなくなったまま、世界の中心に放りだされることになる。そうなれば、世界はきっと、酷いことになる」

 ティノには、アリスの言っていることが正しいのかどうかすらわかりません。
 でも、ティノは係わってしまいました。
 知ってしまいました。
 今日、多くの人と出会い、多くの人と話しました。

 楽しかった。
 大変なこともありましたが、心が弾みました。
 明日からも、この生活が続くのです。

 結局のところ。
 わからないのであれば、信じるしかありません。
 ーーアリスを信じる。
 それは、自分を信じることにもつながります。
 今のティノができる、最大限のことです。

「ティノ君。私は初期の初期から『聖語』と係わってきた。はっきりと言ってしまうと、私のほうが学園長より『聖語』に詳しい。『聖語』についてわからないことがあったなら、私に聞くと良い」
「え、あ、はい」

 アリスを信じると覚悟を決めたところで、ベズが善意の申し出ーーアリスを挑発しました。
 「挑発」に気づけなかったティノは、マルが視線で注意喚起したにも拘らず、あっさりと頷いてしまいます。

「あら、私の玩具を奪うつもりかしら?」
「そんなつもりはない。だが、ティノ君が二人の教師の内、どちらを頼りとするかは、彼が決めるべきことだろう」
「ちょっ!? アリスさんっ、これくらいで『発火』しないでください!!」
「ティノ。わしがるときは、心配ないと言ったかの」

 慌ててティノが魔力を纏うと、マルは彼を安心させる為に欠伸をしました。
 自分以外に誰も騒いでいないことを知って、ティノは納得、いえ、諦めます。
 あとはマル頼みということで、左手でイオリ、右手でマルを撫でていたのですが、両手でマルを撫で回しました。

「ティノ君。君には言っておこう。私が学園の教師を引き受けたのには、いくつか理由がある」
「理由、ですか?」

 学園長室は方術で「強化」されているので、アリスの炎で燃えることはありません。
 当然、竜であるベズは「発火」程度で驚くことはなく、平然と語ってゆきます。

「学園長と同じく、私も、ここで『聖語』が行き詰まってしまうのは惜しいと思っている。『分化』し、男となっていることからもわかる通り、私は永く人種と係わってきた。私は『亜人戦争』のような動乱期よりも平和な世界を望んでいる」

 優しい地竜。
 同じ地竜である、イオラングリディアの面影に触れたような気がしたティノでしたが。
 早とちりでした。
 ティノはまだ、竜という存在のことを理解していません。

 いえ、理解できるはずがないのです。
 遥かな星霜を纏う、役割に殉ずる魂。
 何もかもが人では届かない。
 イオラングリディア。
 近づいたようで、実は遠ざかっていたのかもしれない。
 及ばない存在を前に、ティノは思い知らされます。

「ティノ君は、大陸マースの『最強の三竜』を知っているか?」
「え? あ、え~と、スグリは魔竜王だから、そうなのかな? あとは、アリスさん?」
「正解だ。もう一竜が誰か、知らないのか?」
「はい。知りません。もう一竜は、ベズ先生ですか?」

 直後。
 ティノはイオリを持ち上げ、後ろに隠れました。

 ベズは動いていません。
 ただ、砂色の瞳を向けられただけです。
 磨り潰されるような何か。
 ティノは、穏やかな佇まいのベズから、アリスと似たものを感じ取って魂を軋ませました。

「すまない。竜には抑えがたい闘争心がある。ーー大陸の『最強の三竜』の残りの一角は、イオラングリディアだ」
「え? 本当ですか、アリスさん」
「ええ、本当よ。『最強の三竜』と言ってもね、実際に戦って得た称号ではないわ。大陸リグレッテシェルナの『最強の三竜』は、戦えば強いだろうとの予想から成り立っている。大陸こちらは少し変わっていて、大陸の全竜から認められたのがスグリ。……最も暴れ回ったのが私ーーって、そんな目で見るんじゃないわよ」
「えっと、大丈夫です。アリスさんが強いことは知っているので、続けてください」
「まぁ、良いわ。それから、最も頭が固くて竜から恐れられているのがイオラングリディア。スグリが『調停』、私が『執行』、イオラングリディアが『説教』と、そんなところかしらね」

 ざっくりとしすぎて、ティノにはよくわかりませんでしたが。
 ベズにとって、大陸マースの三竜の「役割」は都合の悪いものでした。

 ベズは、アリスではなくティノを見ました。
 なぜでしょう。
 ベズ自身、ティノにーー人種に話そうとした理由に思い至らないまま。
 降り積もった心の内のおりを、風化した岩を削り取るように言葉にしてゆきました。

「マースグリナダは魔竜王。また、優しい竜であるがゆえに、これを倒したところで、マースグリナダが全力をだしていなかったと言われることになる。次に、イオラングリディア。こちらも倒したところで意味がない。『恐怖』で上回らなければ『最強の三竜』とは認められない。そうなれば、あとは一択。学園長ーー『最熱の炎竜』エーレアリステシアゥナ。敗北と無縁なる炎竜を倒してこそ、大陸の竜は、私を『最強の三竜』の一角と認めることになる」
「そういうことね。ーー二学周期。あなたたちが卒園するまで教師を引き受けることの報酬が、私と戦うこと。正しく言うと、決着がつくまで戦うこと。対地竜戦においては、最高火力の炎竜でも、防御に徹せられたら倒せない。つまり、勝負がつかないってことね」
「一口に地竜と言っても、属性には幅がある。私の属性は、『砂』だ。ーー地竜は攻撃が苦手。私はその属性ゆえに、その軛から解き放たれた。もう一つの軛は、私が中古竜だと言うこと。竜の魂から解放されずとも、『個性』を獲得せずとも、古竜を上回れるのだと、自身の存在の証明をしてみせる」

 自然と、魔力が溢れ、鬩ぎ合う二竜。
 殺し合いが始まる。
 そんな予感を切り刻む、荒れ狂う魔力の奔流で。
 初耳の言葉もでてきて、半分も理解できなかったティノは。
 とりあえず、世界の平和だけは守ることにしました。

「えっと、戦うときは、大陸に被害がでない、海の上でやってくださいね」
「それは駄目だ。地竜に不利すぎる。『僻地』の端で、知り合いの竜らを集め、『結界』を張らせた上で行う」
「海上なんて駄目よ。炎竜を何だと思っているの? 海竜王アグスキュラレゾンが横槍を入れてくるかもしれないわ」
「えっと。どちらも海の上だと不利なので、やりたくないと?」

 二竜は顔を逸らしました。
 そこでティノは、折衷案を提示することにしました。

「無人島でやってください」
「心得た」
「仕方がないわね」

 大陸の安寧は守られました。
 合意が成った二竜は、「殺気」という言葉が号泣しながら逃げだすような魔力を抑え、普通に会話を始めました。

「ね、ティノは面白いでしょう?」
「ふむ。始め見たときは普通すぎ、落胆したが、さすがは学園長が見つけてきた逸材ということか」
「私やマルっころと戦って、もちろん勝てなかったけれど、逃げださなかったし、生き残っているのよ。こんな人種、そうそう見つからないわ」
「あのー、アリスさん。ベズ先生以外に手伝ってくれる竜は居なかったんですか?」

 このままだとおかしな方向に向かいかねないので、話を逸らす為に、ティノは気になっていたことを尋ねました。

「学園長が声をかければ、興味を持った竜が両手の指の数より多く遣って来るだろう。ただ、それらの竜は、人種に配慮などしないーー言い方を変えるなら、使い物にならない者たちだ」
「ティノは運良く、人種に理解ある竜と出逢ってきたけれど。私たちのほうが例外なのよ。うっかり竜を見つけたからといって、ついていっては駄目よ」
「えっと、まぁ、竜が危険だというのはわかりますけど」

 ティノはアリスをジト目で見ました。
 まるで覚えていないらしいアリスは、不思議そうにティノに尋ねました。

「何? もしかして、私たち以外の竜に逢ったことがあるの?」
「いえ、そうではなくて。僕がアリスさんに逢ったとき、話しかけようとしたら、『邪魔』とか言って殺されかけました。つまり、『普通』の竜は、あんな感じなんですよね?」
「……そんなこともあったわね」

 これ以上言うと、アリスが「爆発」してしまうので、ティノは視線でアリスを責め立てるに留めました。
 分が悪いと察したアリスは、早々に今後の予定を語ることにします。

「人員も、竜員もまだ不足。そういうわけで私は忙しいから、ティノには私の奴隷、ではなく、下働き、いえ、『お手伝いさん』をしてもらうわ」
「いえ、僕にも日々の鍛錬とか色々あるんですけど」
「そんなもの、授業中にやれば良いのよ。今周期、ティノが学園で学ぶことなんて何もないのだから、少しは学園の運営で大変な『お姉様』を労わりなさい」

 炎竜の言いつけであれば。
 決定事項。
 逆らっても無駄なので、ティノが無言でいると、調子を取り戻したアリスは更に畳みかけてきました。

「あと、これからの鍛錬の課題も私がだしてあげるわ」
「え? それは、『お爺さん』の課題があるし、……たぶん、『お爺さん』の課題をやっていったほうが、効率がいいと思うんですけど」

 ティノは少しだけ、反撃してみました。
 自分が未熟であることはわかっていても、すべてを上から押しつけられるのは面白くありません。
 何より、このままだとアリスに甘えているような、頼り切っているような気がして、周期頃の少年の心が、どうにも収まりがつかないのです。

「あら、わかっているじゃない。私より、ランティノールの課題をやっていたほうが、効率が良いわよ」
「だが、ランティノールは学園長が学園を創ることを予見していなかったはずだ。ティノ君がいずれ世界に旅立つ。それよりも早く、事態は進行している。つまり、修正が必要であるゆえ、現時点では学園長のほうが彼を上回っている」
「ぅ……、わかりました」

 二竜に言われては、引き下がるほかありません。
 それに、ここで頷いておかないとアリスが拗ねてしまうので、引き際は重要。
 でも、アリスは効率よりも面白さを優先する嫌いがあるので、逃げ道は必要です。

「ベズ先生。『聖語』にも様々な解釈があるので、アリスさんだけでなくベズ先生にも色々話を聞きたいので、そのときはよろしくお願いします」
「構わない。魔力の扱いは、炎竜より地竜のほうが上手だ。『聖語』だけでなく、魔力操作のコツなども教えてあげよう」

 男同士の友情というものでしょうか。
 果たせるかな、アリスは拗ねてしまいました。

「ワンっ」

 見ていられない。
 仕方がなくマルは。
 「仔犬」となって、アリスの手が届くところまで移動しました。

「な~でお~、な~でお~、マジュマジュ、な~でお~」

 「マル撫ぜ歌」を聞きながら、素っ気ない素振りで手を伸ばすアリス。
 同時に、マルのお腹を狙ってイオリが動きだしていたので。
 このときばかりは「イオリ優先」のティノも、頭の中で「10」数え終わるまでイオリを捕まえておいたのでした。
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