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番外編
辺境で 5 (ルイス視点)
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※ 今回は、ルイス視点となります。よろしくお願いします。
「どう、ルイス? そのイチゴのケーキ、美味しい?」
テーブルをはさんで真向かいに座っている兄上が、目を輝かせながら聞いてきた。
「ああ。うまいな……」
「ルイスの役に立ちそう?」
「ああ。参考になる」
そう答えた瞬間、兄上は、満面の笑みを浮かべて、両手をふりあげた。
「やったー! 僕のケーキがルイスに認められたー!」
子どものようにはしゃぐ兄上を、あきれたように見るウルス。
「いやいや、フィリップ……。認められたも何も、フィリップが作ったわけじゃないだろ? というか、ルイスのための菓子探しより、仕事にその熱意をむけろ……」
そう、俺は今、兄上の執務室でケーキを食べている。
というのも、兄上が、評判のケーキを買ってきてくれて、「一緒にお茶をしよう」と呼ばれたからだ。
アリスの茶会でだす菓子作りのため、美味しい菓子の評判を聞けば、食べてみて、参考にしている俺。
そんな俺に兄上も協力してくれて、人気の菓子をよく買ってきてくれる。
人付き合いが最低限の俺と違って、集められる情報量が圧倒的に多い兄上のおかげで、いろんな美味しい菓子を知ることができ、おおいに助かっている。
そこへ、ドアをノックする音がして、最近、ここで働きだしたミカエルが顔をのぞかせた。
ミカエルはウルスの遠縁。今は、ウルスの雑用をしているが、後々、兄上の側近の一人として働いてほしくて雇ったようだ。
というのも、ウルスだけでは手が足りないけれど、兄上が信用して傍におく人間はそうはいない。
一見、人当たりがいい笑顔を浮かべているから、みんな油断して、近づこうとするが、俺からすると、そういう時ほど兄上は怖い。
見慣れた俺やウルスならわかるが、表面的な笑顔から時折のぞく、獲物を狙う猛禽類のような鋭い目で、相手を観察しているからな……。
とにかく、このままではウルスの疲労がたまる一方なので、ウルス自身がスカウトしてきたのがミカエルだ。
「ミカエルは純朴で正直で裏がない。そう、腹黒フィリップとは真逆だ。腹黒に腹黒をつれてくるのは、危険すぎるからな」
と、ウルスが腹黒を連呼しながら、ミカエルを推薦した理由を力強く語っていた。
ウルスの期待を背負ってやってきたミカエル。
頑張って兄上の側近になってもらい、ウルスの疲労を減らしてあげてほしい。
などと考えていたら、ウルスがミカエルに声をかけた。
「どうした、ミカエル? 王太子様に用か?」
「あ、いえ、ルイス様に伝言を頼まれまして。ヴァルド公爵家のマーク様が来られているそうです。ご婚約者のアリス様のことで急ぎの用だそうですが……」
ミカエルが言い終わらないうちに、俺は椅子をけって立ち上がった。
「アリスだと!? すぐに、マークを俺の部屋に通してくれ!」
そう言いながら、自分の部屋へ戻ろうとすると、兄上に呼び止められた。
「あ、待って、ルイス。マークとはここで話せばいいから。ミカエル、マークをここへ通すように伝えて」
「「は?」」
俺とウルスの声が重なった。
「だって、ほら、ルイスの部屋より、ここのほうが王宮の入り口付近からだとまだ近いよね?」
「いや、近いか? 大差ないだろ? それに、ここは、王太子の執務室だ。誰もが入れる場所じゃない」
と、ウルスが眉間にしわを寄せて答えた。
「マークは、ルイスの親友だから信用してる。それに、なにより、アリス嬢のことで緊急の話なんだよね。だったら、僕も一緒にいたほうが、何かと役立つと思うよ」
と、兄上。
確かに……。
どんな話かはわからないが、アリスが困っているのなら、すぐに対応したい。
そうなると、兄上もいてくれたほうが早いかもしれない。
「わかった。じゃあ、そうさせてもらう。ミカエル、すぐに、ここへマークを呼んでくれ」
「わかりました!」
ミカエルは部屋を飛び出していった。
「フィリップ……。休憩時間が長引いた分、今日、仕事が終わるのは遅くなるからな。……って、俺もか……」
恨めしそうに兄上に文句を言うウルス。
「大丈夫、大丈夫。その分、全力で仕事するから。予定どおりに終わらせるよ」
「なら、普段から全力でやって欲しいもんだな」
「ルイスが関わると、いつだって、僕は全力だけど?」
「いや、だから、王太子としての仕事に全力をだしてくれ……」
二人が言い合っているのを聞き流しながら、俺はアリスのことばかり考えていた。
マークが緊急に俺に会いにくるなんて、アリスに何かあったんだろうか……。
胸の鼓動が大きな音をたてる。
心配で心配で心配で、しょうがない。
待ちきれなくなった俺は、兄上の執務室の前に出て、マークがやってくるのを待った。
※ 前回、久々の更新でしたが、沢山の方に読んでいただき、本当にありがとうございました!
お気に入り登録、エール、いいね、ご感想もとても嬉しかったです!
大変、励みになりました。
次回はひきつづき、ルイス視点となります。どうぞ、よろしくお願いいたします!
「どう、ルイス? そのイチゴのケーキ、美味しい?」
テーブルをはさんで真向かいに座っている兄上が、目を輝かせながら聞いてきた。
「ああ。うまいな……」
「ルイスの役に立ちそう?」
「ああ。参考になる」
そう答えた瞬間、兄上は、満面の笑みを浮かべて、両手をふりあげた。
「やったー! 僕のケーキがルイスに認められたー!」
子どものようにはしゃぐ兄上を、あきれたように見るウルス。
「いやいや、フィリップ……。認められたも何も、フィリップが作ったわけじゃないだろ? というか、ルイスのための菓子探しより、仕事にその熱意をむけろ……」
そう、俺は今、兄上の執務室でケーキを食べている。
というのも、兄上が、評判のケーキを買ってきてくれて、「一緒にお茶をしよう」と呼ばれたからだ。
アリスの茶会でだす菓子作りのため、美味しい菓子の評判を聞けば、食べてみて、参考にしている俺。
そんな俺に兄上も協力してくれて、人気の菓子をよく買ってきてくれる。
人付き合いが最低限の俺と違って、集められる情報量が圧倒的に多い兄上のおかげで、いろんな美味しい菓子を知ることができ、おおいに助かっている。
そこへ、ドアをノックする音がして、最近、ここで働きだしたミカエルが顔をのぞかせた。
ミカエルはウルスの遠縁。今は、ウルスの雑用をしているが、後々、兄上の側近の一人として働いてほしくて雇ったようだ。
というのも、ウルスだけでは手が足りないけれど、兄上が信用して傍におく人間はそうはいない。
一見、人当たりがいい笑顔を浮かべているから、みんな油断して、近づこうとするが、俺からすると、そういう時ほど兄上は怖い。
見慣れた俺やウルスならわかるが、表面的な笑顔から時折のぞく、獲物を狙う猛禽類のような鋭い目で、相手を観察しているからな……。
とにかく、このままではウルスの疲労がたまる一方なので、ウルス自身がスカウトしてきたのがミカエルだ。
「ミカエルは純朴で正直で裏がない。そう、腹黒フィリップとは真逆だ。腹黒に腹黒をつれてくるのは、危険すぎるからな」
と、ウルスが腹黒を連呼しながら、ミカエルを推薦した理由を力強く語っていた。
ウルスの期待を背負ってやってきたミカエル。
頑張って兄上の側近になってもらい、ウルスの疲労を減らしてあげてほしい。
などと考えていたら、ウルスがミカエルに声をかけた。
「どうした、ミカエル? 王太子様に用か?」
「あ、いえ、ルイス様に伝言を頼まれまして。ヴァルド公爵家のマーク様が来られているそうです。ご婚約者のアリス様のことで急ぎの用だそうですが……」
ミカエルが言い終わらないうちに、俺は椅子をけって立ち上がった。
「アリスだと!? すぐに、マークを俺の部屋に通してくれ!」
そう言いながら、自分の部屋へ戻ろうとすると、兄上に呼び止められた。
「あ、待って、ルイス。マークとはここで話せばいいから。ミカエル、マークをここへ通すように伝えて」
「「は?」」
俺とウルスの声が重なった。
「だって、ほら、ルイスの部屋より、ここのほうが王宮の入り口付近からだとまだ近いよね?」
「いや、近いか? 大差ないだろ? それに、ここは、王太子の執務室だ。誰もが入れる場所じゃない」
と、ウルスが眉間にしわを寄せて答えた。
「マークは、ルイスの親友だから信用してる。それに、なにより、アリス嬢のことで緊急の話なんだよね。だったら、僕も一緒にいたほうが、何かと役立つと思うよ」
と、兄上。
確かに……。
どんな話かはわからないが、アリスが困っているのなら、すぐに対応したい。
そうなると、兄上もいてくれたほうが早いかもしれない。
「わかった。じゃあ、そうさせてもらう。ミカエル、すぐに、ここへマークを呼んでくれ」
「わかりました!」
ミカエルは部屋を飛び出していった。
「フィリップ……。休憩時間が長引いた分、今日、仕事が終わるのは遅くなるからな。……って、俺もか……」
恨めしそうに兄上に文句を言うウルス。
「大丈夫、大丈夫。その分、全力で仕事するから。予定どおりに終わらせるよ」
「なら、普段から全力でやって欲しいもんだな」
「ルイスが関わると、いつだって、僕は全力だけど?」
「いや、だから、王太子としての仕事に全力をだしてくれ……」
二人が言い合っているのを聞き流しながら、俺はアリスのことばかり考えていた。
マークが緊急に俺に会いにくるなんて、アリスに何かあったんだろうか……。
胸の鼓動が大きな音をたてる。
心配で心配で心配で、しょうがない。
待ちきれなくなった俺は、兄上の執務室の前に出て、マークがやってくるのを待った。
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