106 / 125
番外編
私の悩み 11
しおりを挟む
「じゃあ、これをどうぞ! これも、ものすごく高価ですから!」
やけになったように叫ぶと、宝石だらけの令嬢は宝石がついた指輪をはずして、箱にいれた。
もはや、見合いどころか、フィリップ対宝石だらけの令嬢の、よくわからない戦いになっている。
が、フィリップが意味ありげに微笑んで言った。
「あ、これ、イミテーションだね?」
「え…? なんで…わかったの…。じゃなくて、これは、イミテーションじゃないわ! 私は本物しか持ってません!」
と、焦ったように言う宝石だらけの令嬢。
なるほど、イミテーションか…。というか、なぜ、それを隠す?
14歳なら、本物の宝石をじゃらじゃらつけているほうが変だと思うがな。
しかし、ほんと、フィリップは無駄に能力が高い。
宝石だけじゃなく美術品や骨董品にも目がきく。
ふと、フィリップが8歳だった頃のことを思いだした。
あれは、急な賓客があり、慌てて土産を用意することになった時だった。
なんでも、その賓客は骨董品が好きで、特にカップを集めているとか。
とはいえ、王宮で骨董品を買うことはない。急遽、馴染みではない骨董品の商人が呼ばれた。
やけに口の上手い商人で、言っていることがまるで信用ならない。
すすめられる物は、どれも高価なものばかりだ。
が、時間がない。この中から、できるだけいい物を選ばないと…。
しかし、私は骨董品の良し悪しがまるでわからない。
ということで、野生の勘が働く王妃に、「ミラベルは、どれがいいと思う?」と、聞いてみた。
「わざわざ、がらくたを高額な金で買う意味がわからん。カップは飲めればいい。強いて言えば、古い物だから、せめて、頑丈そうな物がいいだろう」
と、言いきった王妃。
そう、王妃は私以上に骨董品を見極める目はない。というより、その意志もない。まあ、物欲すらないしな…。
骨董品選びに同席してもらっても、まるで頼りにならない存在だと身に染みた。
王妃はすぐに騎士団の訓練に戻っていった。
すると、今まで黙っていたフィリップが、商品のそばまで歩いていき、ひとつのカップを選んだ。
「このカップがいいですよ、父上」
ものすごく目立たないカップ。
商人は思わず笑った。
「王太子様。これは、たいした物じゃないですよ。見た目も地味ですし。それより、こっちのカップは、100年前…」
と、説明をはじめたのを、ぶったぎるように、フィリップが言った。
「他のはいらない。これを買う!」
ものすごい目力で商人を見据えるフィリップ。
商人の顔色が変わった。王太子といえど、子どもだと高をくくっていたのだろう…。
「え…あの…」
動揺しまくっている商人。
「いくらだ」
と、フィリップ。
「2000…ラベルです」
商人がすすめていたカップとは桁が違う。安い…。
「じゃあ、倍の4000払いましょう、父上」
え? なんで、倍払う? しかも、なんで、フィリップが仕切ってるんだ?
と、混乱している間に、フィリップと商人との間で話しはすすみ、結局、そのカップを土産にした。
結果、その賓客は、ものすごい喜んだ。
なんでも、とても珍しいカップで、手に入らない逸品だそう。
それ以来、美術品など、王宮で買う必要がある場合は、必ず、フィリップに助言をもらうようになった。
などと、つらつら過去に思いをはせていると、フィリップの煽るような声が聞こえてきた。
はっとして、過去から現実に意識を戻す。
「へえ、君って、そんなに宝石をつけてるのに、見る目がないんだね? しかもこれは品質がよくないイミテーションだから、とても換金はできない。いらないから返すね」
そう言って、箱から指輪をとりだして、令嬢の前に置いた。
だから、言い方を考えろ、フィリップ!
そう思った瞬間、宝石だらけの令嬢が声をあげて泣き出した。
※ 不定期な更新のなか、読んでくださっている方、本当にありがとうございます!
お気に入り登録、ご感想、エールもありがとうございます! 大変、励みになります!
やけになったように叫ぶと、宝石だらけの令嬢は宝石がついた指輪をはずして、箱にいれた。
もはや、見合いどころか、フィリップ対宝石だらけの令嬢の、よくわからない戦いになっている。
が、フィリップが意味ありげに微笑んで言った。
「あ、これ、イミテーションだね?」
「え…? なんで…わかったの…。じゃなくて、これは、イミテーションじゃないわ! 私は本物しか持ってません!」
と、焦ったように言う宝石だらけの令嬢。
なるほど、イミテーションか…。というか、なぜ、それを隠す?
14歳なら、本物の宝石をじゃらじゃらつけているほうが変だと思うがな。
しかし、ほんと、フィリップは無駄に能力が高い。
宝石だけじゃなく美術品や骨董品にも目がきく。
ふと、フィリップが8歳だった頃のことを思いだした。
あれは、急な賓客があり、慌てて土産を用意することになった時だった。
なんでも、その賓客は骨董品が好きで、特にカップを集めているとか。
とはいえ、王宮で骨董品を買うことはない。急遽、馴染みではない骨董品の商人が呼ばれた。
やけに口の上手い商人で、言っていることがまるで信用ならない。
すすめられる物は、どれも高価なものばかりだ。
が、時間がない。この中から、できるだけいい物を選ばないと…。
しかし、私は骨董品の良し悪しがまるでわからない。
ということで、野生の勘が働く王妃に、「ミラベルは、どれがいいと思う?」と、聞いてみた。
「わざわざ、がらくたを高額な金で買う意味がわからん。カップは飲めればいい。強いて言えば、古い物だから、せめて、頑丈そうな物がいいだろう」
と、言いきった王妃。
そう、王妃は私以上に骨董品を見極める目はない。というより、その意志もない。まあ、物欲すらないしな…。
骨董品選びに同席してもらっても、まるで頼りにならない存在だと身に染みた。
王妃はすぐに騎士団の訓練に戻っていった。
すると、今まで黙っていたフィリップが、商品のそばまで歩いていき、ひとつのカップを選んだ。
「このカップがいいですよ、父上」
ものすごく目立たないカップ。
商人は思わず笑った。
「王太子様。これは、たいした物じゃないですよ。見た目も地味ですし。それより、こっちのカップは、100年前…」
と、説明をはじめたのを、ぶったぎるように、フィリップが言った。
「他のはいらない。これを買う!」
ものすごい目力で商人を見据えるフィリップ。
商人の顔色が変わった。王太子といえど、子どもだと高をくくっていたのだろう…。
「え…あの…」
動揺しまくっている商人。
「いくらだ」
と、フィリップ。
「2000…ラベルです」
商人がすすめていたカップとは桁が違う。安い…。
「じゃあ、倍の4000払いましょう、父上」
え? なんで、倍払う? しかも、なんで、フィリップが仕切ってるんだ?
と、混乱している間に、フィリップと商人との間で話しはすすみ、結局、そのカップを土産にした。
結果、その賓客は、ものすごい喜んだ。
なんでも、とても珍しいカップで、手に入らない逸品だそう。
それ以来、美術品など、王宮で買う必要がある場合は、必ず、フィリップに助言をもらうようになった。
などと、つらつら過去に思いをはせていると、フィリップの煽るような声が聞こえてきた。
はっとして、過去から現実に意識を戻す。
「へえ、君って、そんなに宝石をつけてるのに、見る目がないんだね? しかもこれは品質がよくないイミテーションだから、とても換金はできない。いらないから返すね」
そう言って、箱から指輪をとりだして、令嬢の前に置いた。
だから、言い方を考えろ、フィリップ!
そう思った瞬間、宝石だらけの令嬢が声をあげて泣き出した。
※ 不定期な更新のなか、読んでくださっている方、本当にありがとうございます!
お気に入り登録、ご感想、エールもありがとうございます! 大変、励みになります!
25
お気に入りに追加
1,780
あなたにおすすめの小説

本日より他人として生きさせていただきます
ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

公爵令息は妹を選ぶらしいので私は旅に出ます
ネコ
恋愛
公爵令息ラウルの婚約者だったエリンは、なぜかいつも“愛らしい妹”に優先順位を奪われていた。正当な抗議も「ただの嫉妬だろう」と取り合われず、遂に婚約破棄へ。放り出されても涙は出ない。ならば持ち前の治癒魔法を活かして自由に生きよう――そう決めたエリンの旅立ち先で、運命は大きく動き出す。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ
ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる