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婚約解消
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「婚約解消してくれ」
ピンク色の巻き毛の女性が、男性の腕にぶらさがっている。
小さい子どもなら、かわいいだろうけれど、大人の女性がすると、…おもしろすぎる。
しかも、男性は彫刻のような美貌で、無表情。
シュールな絵面で、笑えてくるわね…。
なんて、考えていると、
「聞いているのか? アリス」
と、その男性は、ピンク色の女性を腕にぶらさげたまま、無表情な顔で私に言った。
あ、いけない。婚約解消が嬉しすぎて、その後の話は、まったく聞いてなかったわ。
が、そこは、嘘も方便。
「はい、聞いています」
と答えながら、改めて、その男性を見る。
私、公爵令嬢アリス・ヴァルドの婚約者である、第二王子のルイス殿下。
私より5歳年上で、御年20歳。
背が高く、輝く金髪に、恐ろしく整った美貌は無表情でつくりものみたい。
そして、美しい青色の瞳は、今日も今日とて冷静な光を放っている。
とうてい、恋におぼれているようには見えない…。
それにしても、この女性、よく、こんな怖い人にぶらさがってられるわね…。
ま、それだけ愛されている自信があるんでしょう。
だって、私を見る目が、そりゃあもう、優越感にあふれている。
が、そんな目つきも、かわいく見えるほど、私としてはありがたい。
だって、王子妃なんて面倒すぎる。ずーっと嫌だった。
が、愛のためにというなら頑張れるのかもしれないが、あいにく、私はルイス殿下が苦手だ。
いつも無表情で、何を考えているのかわからないから。
おそらく、私に関心がないんだと思う。
初めて会ったのは、私が7歳。ルイス殿下が12歳のとき。
お人形のような、きれいな少年だったルイス殿下。
ドキドキしながら、一生懸命に挨拶したら、
「ちびだな」
と、無表情で返された。
挨拶をしたら、挨拶がかえってくると思っていた私。
まさか、悪口がかえってくるとは思わなくて、大泣きしてしまった。
はっきり言って、これが、トラウマになり、しばらくの間は、人と挨拶する時、どんな言葉がかえされるのか、変なドキドキにおそわれた。
もう会うことはないと思ったのに、まさかの婚約。
泣いていやがったけれど、王命で仕方ないと、私を溺愛しているお父様に散々謝られた。
それから月1回、お互いを知るためという名目で、二人だけのお茶会に強制参加させられた。
8年続いたが、ルイス殿下のことは、まったくわからなかった。
なぜって、会話というものがほぼないから。
会うたびに言われる挨拶の言葉は、
「小さいな」
だ。
どうやら、ルイス殿下にとって、私は背丈くらいしか目にとまるところがなかったんだと思う。
その後は、ほぼ無言。
たまに殿下が口をひらくのは、用意されたお菓子を指で差し、
「これ食べろ」
と、命令する時のみ。
私は指さされたお菓子を、無言で食べた。そう、修行のような、お茶会だったわね…。
こんな状況で好きになれというのは、いくら美形でも無理でしょ?
私としては、私を好きになってくれて、あたたかみのある人と結婚したい。
だから、ピンクさん、ほんと、ありがとうございます!
とりあえず、
「婚約解消、承りました。どうぞ、お二人でお幸せに」
と、微笑んで見せる。
ピンクさんは、うれしそうに、「ごめんねえ、アリスさん」と言いながら、
さらに強く、ルイス殿下の腕にぶらさがった。
反して、ルイス殿下の目は、更に冷たく光ったように見えた。
ピンク色の巻き毛の女性が、男性の腕にぶらさがっている。
小さい子どもなら、かわいいだろうけれど、大人の女性がすると、…おもしろすぎる。
しかも、男性は彫刻のような美貌で、無表情。
シュールな絵面で、笑えてくるわね…。
なんて、考えていると、
「聞いているのか? アリス」
と、その男性は、ピンク色の女性を腕にぶらさげたまま、無表情な顔で私に言った。
あ、いけない。婚約解消が嬉しすぎて、その後の話は、まったく聞いてなかったわ。
が、そこは、嘘も方便。
「はい、聞いています」
と答えながら、改めて、その男性を見る。
私、公爵令嬢アリス・ヴァルドの婚約者である、第二王子のルイス殿下。
私より5歳年上で、御年20歳。
背が高く、輝く金髪に、恐ろしく整った美貌は無表情でつくりものみたい。
そして、美しい青色の瞳は、今日も今日とて冷静な光を放っている。
とうてい、恋におぼれているようには見えない…。
それにしても、この女性、よく、こんな怖い人にぶらさがってられるわね…。
ま、それだけ愛されている自信があるんでしょう。
だって、私を見る目が、そりゃあもう、優越感にあふれている。
が、そんな目つきも、かわいく見えるほど、私としてはありがたい。
だって、王子妃なんて面倒すぎる。ずーっと嫌だった。
が、愛のためにというなら頑張れるのかもしれないが、あいにく、私はルイス殿下が苦手だ。
いつも無表情で、何を考えているのかわからないから。
おそらく、私に関心がないんだと思う。
初めて会ったのは、私が7歳。ルイス殿下が12歳のとき。
お人形のような、きれいな少年だったルイス殿下。
ドキドキしながら、一生懸命に挨拶したら、
「ちびだな」
と、無表情で返された。
挨拶をしたら、挨拶がかえってくると思っていた私。
まさか、悪口がかえってくるとは思わなくて、大泣きしてしまった。
はっきり言って、これが、トラウマになり、しばらくの間は、人と挨拶する時、どんな言葉がかえされるのか、変なドキドキにおそわれた。
もう会うことはないと思ったのに、まさかの婚約。
泣いていやがったけれど、王命で仕方ないと、私を溺愛しているお父様に散々謝られた。
それから月1回、お互いを知るためという名目で、二人だけのお茶会に強制参加させられた。
8年続いたが、ルイス殿下のことは、まったくわからなかった。
なぜって、会話というものがほぼないから。
会うたびに言われる挨拶の言葉は、
「小さいな」
だ。
どうやら、ルイス殿下にとって、私は背丈くらいしか目にとまるところがなかったんだと思う。
その後は、ほぼ無言。
たまに殿下が口をひらくのは、用意されたお菓子を指で差し、
「これ食べろ」
と、命令する時のみ。
私は指さされたお菓子を、無言で食べた。そう、修行のような、お茶会だったわね…。
こんな状況で好きになれというのは、いくら美形でも無理でしょ?
私としては、私を好きになってくれて、あたたかみのある人と結婚したい。
だから、ピンクさん、ほんと、ありがとうございます!
とりあえず、
「婚約解消、承りました。どうぞ、お二人でお幸せに」
と、微笑んで見せる。
ピンクさんは、うれしそうに、「ごめんねえ、アリスさん」と言いながら、
さらに強く、ルイス殿下の腕にぶらさがった。
反して、ルイス殿下の目は、更に冷たく光ったように見えた。
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