全力でお手伝いするので、筆頭聖女の役目と婚約者様をセットで引継ぎお願いします!

水無月あん

文字の大きさ
7 / 106

張り切ってます!

しおりを挟む
ついに、ルビーさんがやってくる日。

気合いの入っている私は、いつもより随分早く、目がさめた。

窓をあけて、深呼吸をする。
なんて、すがすがしい朝かしら! まだ、外は真っ暗だけど、関係ないわ!
ルビーさんが、筆頭聖女になるための一歩を歩みだすのにぴったりの日ね。

早く起きすぎて、時間がたーっぷりある私は、神殿のお掃除までしてしまった。

無事、ルビーさんが、筆頭聖女になってくれますように…。
そして、婚約者様も一緒に、無事、引き継いでくれますように…。
美味しいお菓子を、沢山、食べられる日が、早くきますように…。

心の底から、祈りながら床を磨く。
あまりに力が入りすぎて、気がつくと、床はぴかぴかになっていた。

動きすぎて、しっかりおなかもすいたところで、ちょうど朝食の時間になった。
いつもは、起きるのがぎりぎりの為、歩いているように見せかけて、全力で走るという技を披露するのだけれど、今日は余裕で食堂まで歩いていけるわ!

「おっはようございまーす!」
自分でも驚くほど、大きな声がでた。

あれ? みなさん、びっくりした顔で、どうしたの?

一瞬、シーンとしたあと、
「おはよう、ルシェル。なんだか、すごく、ご機嫌のようだけど、何かあったの?」
エリカ様が不審そうに聞いてきた。

「おはよう、ルシェル。普段は、目が半分くらいしかあいてないのに、どうしたの?」
心配そうに聞いてくるのは、アリシアさん。

「おはよう、ルシェル。悩み事があるなら、エリカとぼくが聞くよ? ぼくたちは、ルシェルの両親だからね」
優しいけれど、見当違いの言葉は、ロジャー様。

そんなみなさんに、笑顔で答える私。
「今日から新人聖女のルビーさんがくるので、張り切ってるだけです! 朝が起きられなかった昨日までのルシェルとは違いますから、ご安心を!」

「…全く、安心できないわね…。ルシェルが張り切りすぎると、不安が増すんだけど? まあ、ほどほどにしてね?」
エリカ様が、なんともいえない顔をした。


私たちが食卓につくと、メイドさんたちが手際よく朝食を並べてくれた。
最初に、大聖女のエリカ様が祈り、続いて、私、アリシアさんと祈りの言葉を述べていく。
それから、みんなで朝食をいただく。

ちなみに、食卓には4人。聖女3人とロジャー様だ。
ロジャー様は、専属護衛騎士としてではなく、大聖女様の伴侶として朝食をともにされている。
他の男性たち、神官さんや、護衛騎士さんたちは、別の食堂で食事をしている。

ロジャー様は、かたときも、エリカ様と離れないからね。
ロジャー様は、大聖女の伴侶という特例として、聖女専用の食堂を使えるように、決まりを作った。
もちろん、ロジャー様が…。

いつものように、私は、目の前におかれた、ジュースに手をのばす。
みんなより、ひときわ大きいグラスに、なみなみとつがれた、どろりとした濃い緑色のジュース。

そう、これは野菜ジュース。それも、エリカ様お手製のジュースなのだ。

異世界人のエリカ様。異世界におられたときは、「健康オタク」という存在だったらしい。
なんでも、体にいいことが、大好きなんだそう。

そして、異世界でも、毎朝野菜ジュースを作り、飲んでいたとのこと。
効果はバッチリよ!と、自慢げに語るエリカ様。

でも、これが、悲しいことに、味はバッチリではない。
控えめに言っても、おいしくないのよね…。 

色々な野菜が入っているけれど、混ぜない方がいいんじゃないかしら?という組み合わせの味だ。

大聖女様お手製のジュースと言えは、大金を払って買う人も続出するような、有難さなんだろうけれど、私としては、到底、がまんできない!
ということで、不敬にも、味の改良を求め、抗議の声を何度もあげた私。

その都度、
「癒しの力が強まる最高の組み合わせのジュースだから、飲みなさい。もちろん、体にもいいのよ。ルシェルは小さいから、大きくなるように、量は倍にしてるからね」
と、エリカ様。

そう言われたら、飲むしかない…。
だって、筆頭聖女の責任がある。癒しの力は強いほどいいものね。

それに、年齢よりも子どもっぽく見えるほど、背が低い私。大きくなりたい!
エリカ様は痛いところをついてくる。

ということで、私は、朝食の時は、一番最初に、エリカ様お手製のジュースに手を伸ばす。
嫌いなものは最初に。そして、好きなものは最後にとっておくタイプだから。

私が神殿に来て3年目の時、エリカ様とロジャー様は、ご結婚された。
そして、神殿の隣にロジャー様がお屋敷を建て、エリカ様とロジャー様は住まわれた。

そう、あの時、私は、少しだけ寂しく、そして、おおいに喜んだっけ…。

だって、私はエリカ様と朝食を一緒に食べられなくなる。
つまり、お手製野菜ジュースから解放されるんだって思ったから。 

しかし、エリカ様とロジャー様は早朝から神殿に通ってきて、今までと変わらず、私と一緒に朝食を食べ続けた。
もちろん、お手製ジュースも毎朝でてくる。

エリカ様のお気持ちは、本当に、とってもありがたい。…だけど、味がね…。

「ええと、ご結婚されたのだから、私のことはお気になさらず、お二人でお食事をされたほうが良いのでは?」
やんわりとすすめた私。

「何を言うの! ルシェルは私の家族で、もはや娘よ!」
と、エリカ様。

「そうだよ、ルシェル。君は大事な家族だ」
と、優しい声で言ってくれたのは、ロジャー様だ。

お二人にそんなことを言われたら、うるっとして、何も言えなくなった。

が、私は思いついた。
ロジャー様が美味しくないと言えば、特製ジュースの味が改良されるかも?と思ったのだ。

私は、早速、朝食の時、エリカ様の前で、ロジャー様に聞いてみた。
「ロジャー様、…エリカ様のお手製ジュースはいかがですか?」

すると、ロジャー様は、それはそれは嬉しそうな笑みを浮かべて答えた。

「エリカの作るものなら、なんでも美味しいよ」

甘い…。甘すぎる…。
そして、聞いてごめんなさい。聞く人を間違えました。

ということで、私、ルシェルは、今日もエリカ様お手製野菜ジュースを涙目で一気飲みしています。

たまーに、エリカ様が不在の時もあるのだけれど、その時は、料理長さんにきっちりと伝言してあるようで、寸分たがわぬ味のジュースがでてくるのよね…。
料理長さん、たまには、アレンジも必要ですよ?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです

しーしび
恋愛
「結婚しよう」 アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。 しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。 それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・

勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです

ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。 彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。 先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。 帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。 ずっと待ってた。 帰ってくるって言った言葉を信じて。 あの日のプロポーズを信じて。 でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。 それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。 なんで‥‥どうして?

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...