【本編完結】いらない存在だった私を必要と言ってくれるのは誰ですか?

水無月あん

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18歳になって

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あれから2年がたち、私は18歳になった。
18歳は、この国では成人になる年齢だ。

そして、あと半年で、私はアルゴ様と結婚し、アルゴ様はこの家に婿入りしてくることになっている。

お母様は、はりきって屋敷内を模様替えをして、アルゴ様を迎えるための準備に忙しそうにしている。
私には、ぎこちない感じで接してくるお母様だけれど、アルゴ様とは楽しそうで、本当の息子のように仲がいい。

政略結婚をすることでしか、今までの恩を返せない私は、お母様の望む人と結婚することは当たり前のこと。
そこになんの不満もない。
そう頭では考えているのに、最近、心の奥のほうが、ざわざわすることが多くなった。

その大きな理由は、出会ってからの二年間で、アルゴ様がおおいに変わったことかもしれない。

まず、最初に変わりだしたのはアルゴ様の見ためだった。
といっても、本人自身が変わっていくというよりは、着る服や持ち物があうたび豪華になっていく。

この服は、人気のあるデザイナーにつくってもらったとか、高級な店で買ったとか自慢げに言うようになった。

一体、その資金はどこからきているのか、そのほうが気になり、それとなく聞いてみると、ミルトン侯爵夫人がだしているよう。
もしかして、婿入りしても、そんなに衣服にお金をかけるつもりなのかしら? と、ルバーチ子爵家のあとを継ぐ者としては心配になる。

もちろん、アルゴ様に商才があって、自分で稼いだお金ならどう使おうと自由だけれど、この家のお金をあてにしているのなら、一代で成り上がったお父様になんと言われるか……。

あ、でも、愛人を別邸に囲っている人がどうこう言えないわよね。

会うたび、アルゴ様は見るからに豪華な服を見せびらかすようにして私の意見を聞いてくるけれど、正直、衣服や装飾品にまるで興味がない私にとったら反応が難しい。

その場にお母様がいるときは、服好きのお母様が絶賛したりして、ふたりは楽しそうにしているからいいけれど。
私だけの時は、とりあえず、「いい色ですね」とか、気づいたことを言ってみる。

すると、アルゴ様は、あからさまに不満そうな顔をする。

しかも、最近では、「この前、僕の服が素敵だと夜会で令嬢たちに褒められたよ」とか、「僕がいつも最新の服を着ていると令嬢たちの間で噂になっているらしい」とか、女性からの意見を誇らしげに言うことが多くなってきた。

私からしたら、どんどん派手になっていくアルゴ様より、最初のころの自然な服装のほうがよほど好感が持てたんだけど、今の流行とか興味がないから、他の令嬢たちとは感覚が違うのかもしれない。

婚約者でありながら、私たちは、ふたりそろって出かけたりはしない。
そのかわり、アルゴ様は男友達と色々遊びに行っているよう。

出会った頃のアルゴ様は友達はいなかったようだけれど、派手になったアルゴ様は、今や沢山のお友達がいるとご自分で自慢している。

アルゴ様と婚約した時は、これから時間をかけていけば、穏やかな結婚生活ができると思っていた。
でも、月日がたつごとに、アルゴ様は、私にとって、どんどん理解しがたい人になっていった。

そのきっかけはなんだったんだろう……と考えてみる。

婚約した後、すぐの頃は、ミルトン侯爵夫人のご友人や、私のお母様のお知り合いに呼ばれて、ふたりでお茶会や夜会に参加したことが何度かある。

でも、アルゴ様は、何故か私と一緒に行くのを嫌がるようになったのよね……。

何かしてしまったのか思い当たることはないけれど、人として感情が乏しい私だから、アルゴ様が嫌がることを、知らないうちにしでかしたのかもしれない。

そう思って、「私、アルゴ様のお気に障るようなことをしましたか?」と聞いてみた。

「キャロリーヌには関係のないことだ」
と、返ってきた。

つまりは言いたくないほど気に障ったんだと思う。
でも、教えてくれない限り、謝罪もできないし、直しようもない。
結婚したら、ふたりでお茶会や夜会に行く機会もあるだろうし、さすがに、このままでいいのかと心配になった。

ある日、私は思い切ってアルゴ様に聞いてみた。

「私のことが嫌いになられたのなら、婚約を解消しますか?」

アルゴ様の顔色が変わった。

「キャロリーヌは僕との婚約をやめたいのか……?」

「いえ、そうじゃないですが、アルゴ様がおつらそうだから……。まわりに迷惑をかけることになるので、婚約を解消するのなら早いほうがいいですから……」

「僕は婚約解消なんてしないからな!」

声を荒げたアルゴ様。

それからだ。

「沢山の友達がいる僕と違って、キャロリーヌは友達がいないんだな」
「おしゃれもしないし、本にしか興味がないなんて、キャロリーヌって、つまらないよな」
「キャロリーヌは、ご両親にも放っておかれてるみたいだし、寂しい人間だね」
「誰にも愛されていないキャロリーヌを、僕がもらってあげるんだよ。感謝して」
など、私を批判するようなことを、会うたびに言い始めたのは……。

まあ、確かに、友達もいないし、本ばかり読んでいるし、親にも放っておかれているし、はたから見たら寂しい人間かもしれない。誰にも愛されていないのも事実だし。

アルゴ様の言い方はきついけれど、間違ったことを言っているわけではない。
だから、私は何も言い返せない……。

でも、お母様の前になると、アルゴ様は私に向かって絶対にそんなことは言わない。
好青年の笑みをうかべて、私をほめるアルゴ様。

そんなアルゴ様を見て、お母様は満足そうな顔をする。

「アルゴ様は本当に優しくて素敵な方ね。キャロリーヌの幸せを思って選んだけれど、私の目に狂いはなかったわ。キャロリーヌのことをあんなにほめてくれるんだもの。キャロリーヌは幸せね。私も、こんなすばらしい方が婿入りしてくれるなんて、本当に嬉しいわ。アルゴ様がこの屋敷に婿入りしてくださる日が待ち遠しいわね、キャロリーヌ」
と、毎回、言い含めるように私に言ってくる。

今更、娘を思う母親を演じたいのか、その意図はわからないけれど、私にとったらどうでもいいこと。
私の役目は、お母様の気に入った方と結婚をするだけだから。
そう思ってきたのに……。

シャルルからもらった言葉をしまっている胸の奥が、最近、チリチリと痛んでしょうがない。
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