4 / 9
18歳になって
しおりを挟む
あれから2年がたち、私は18歳になった。
18歳は、この国では成人になる年齢だ。
そして、あと半年で、私はアルゴ様と結婚し、アルゴ様はこの家に婿入りしてくることになっている。
お母様は、はりきって屋敷内を模様替えをして、アルゴ様を迎えるための準備に忙しそうにしている。
私には、ぎこちない感じで接してくるお母様だけれど、アルゴ様とは楽しそうで、本当の息子のように仲がいい。
政略結婚をすることでしか、今までの恩を返せない私は、お母様の望む人と結婚することは当たり前のこと。
そこになんの不満もない。
そう頭では考えているのに、最近、心の奥のほうが、ざわざわすることが多くなった。
その大きな理由は、出会ってからの二年間で、アルゴ様がおおいに変わったことかもしれない。
まず、最初に変わりだしたのはアルゴ様の見ためだった。
といっても、本人自身が変わっていくというよりは、着る服や持ち物があうたび豪華になっていく。
この服は、人気のあるデザイナーにつくってもらったとか、高級な店で買ったとか自慢げに言うようになった。
一体、その資金はどこからきているのか、そのほうが気になり、それとなく聞いてみると、ミルトン侯爵夫人がだしているよう。
もしかして、婿入りしても、そんなに衣服にお金をかけるつもりなのかしら? と、ルバーチ子爵家のあとを継ぐ者としては心配になる。
もちろん、アルゴ様に商才があって、自分で稼いだお金ならどう使おうと自由だけれど、この家のお金をあてにしているのなら、一代で成り上がったお父様になんと言われるか……。
あ、でも、愛人を別邸に囲っている人がどうこう言えないわよね。
会うたび、アルゴ様は見るからに豪華な服を見せびらかすようにして私の意見を聞いてくるけれど、正直、衣服や装飾品にまるで興味がない私にとったら反応が難しい。
その場にお母様がいるときは、服好きのお母様が絶賛したりして、ふたりは楽しそうにしているからいいけれど。
私だけの時は、とりあえず、「いい色ですね」とか、気づいたことを言ってみる。
すると、アルゴ様は、あからさまに不満そうな顔をする。
しかも、最近では、「この前、僕の服が素敵だと夜会で令嬢たちに褒められたよ」とか、「僕がいつも最新の服を着ていると令嬢たちの間で噂になっているらしい」とか、女性からの意見を誇らしげに言うことが多くなってきた。
私からしたら、どんどん派手になっていくアルゴ様より、最初のころの自然な服装のほうがよほど好感が持てたんだけど、今の流行とか興味がないから、他の令嬢たちとは感覚が違うのかもしれない。
婚約者でありながら、私たちは、ふたりそろって出かけたりはしない。
そのかわり、アルゴ様は男友達と色々遊びに行っているよう。
出会った頃のアルゴ様は友達はいなかったようだけれど、派手になったアルゴ様は、今や沢山のお友達がいるとご自分で自慢している。
アルゴ様と婚約した時は、これから時間をかけていけば、穏やかな結婚生活ができると思っていた。
でも、月日がたつごとに、アルゴ様は、私にとって、どんどん理解しがたい人になっていった。
そのきっかけはなんだったんだろう……と考えてみる。
婚約した後、すぐの頃は、ミルトン侯爵夫人のご友人や、私のお母様のお知り合いに呼ばれて、ふたりでお茶会や夜会に参加したことが何度かある。
でも、アルゴ様は、何故か私と一緒に行くのを嫌がるようになったのよね……。
何かしてしまったのか思い当たることはないけれど、人として感情が乏しい私だから、アルゴ様が嫌がることを、知らないうちにしでかしたのかもしれない。
そう思って、「私、アルゴ様のお気に障るようなことをしましたか?」と聞いてみた。
「キャロリーヌには関係のないことだ」
と、返ってきた。
つまりは言いたくないほど気に障ったんだと思う。
でも、教えてくれない限り、謝罪もできないし、直しようもない。
結婚したら、ふたりでお茶会や夜会に行く機会もあるだろうし、さすがに、このままでいいのかと心配になった。
ある日、私は思い切ってアルゴ様に聞いてみた。
「私のことが嫌いになられたのなら、婚約を解消しますか?」
アルゴ様の顔色が変わった。
「キャロリーヌは僕との婚約をやめたいのか……?」
「いえ、そうじゃないですが、アルゴ様がおつらそうだから……。まわりに迷惑をかけることになるので、婚約を解消するのなら早いほうがいいですから……」
「僕は婚約解消なんてしないからな!」
声を荒げたアルゴ様。
それからだ。
「沢山の友達がいる僕と違って、キャロリーヌは友達がいないんだな」
「おしゃれもしないし、本にしか興味がないなんて、キャロリーヌって、つまらないよな」
「キャロリーヌは、ご両親にも放っておかれてるみたいだし、寂しい人間だね」
「誰にも愛されていないキャロリーヌを、僕がもらってあげるんだよ。感謝して」
など、私を批判するようなことを、会うたびに言い始めたのは……。
まあ、確かに、友達もいないし、本ばかり読んでいるし、親にも放っておかれているし、はたから見たら寂しい人間かもしれない。誰にも愛されていないのも事実だし。
アルゴ様の言い方はきついけれど、間違ったことを言っているわけではない。
だから、私は何も言い返せない……。
でも、お母様の前になると、アルゴ様は私に向かって絶対にそんなことは言わない。
好青年の笑みをうかべて、私をほめるアルゴ様。
そんなアルゴ様を見て、お母様は満足そうな顔をする。
「アルゴ様は本当に優しくて素敵な方ね。キャロリーヌの幸せを思って選んだけれど、私の目に狂いはなかったわ。キャロリーヌのことをあんなにほめてくれるんだもの。キャロリーヌは幸せね。私も、こんなすばらしい方が婿入りしてくれるなんて、本当に嬉しいわ。アルゴ様がこの屋敷に婿入りしてくださる日が待ち遠しいわね、キャロリーヌ」
と、毎回、言い含めるように私に言ってくる。
今更、娘を思う母親を演じたいのか、その意図はわからないけれど、私にとったらどうでもいいこと。
私の役目は、お母様の気に入った方と結婚をするだけだから。
そう思ってきたのに……。
シャルルからもらった言葉をしまっている胸の奥が、最近、チリチリと痛んでしょうがない。
18歳は、この国では成人になる年齢だ。
そして、あと半年で、私はアルゴ様と結婚し、アルゴ様はこの家に婿入りしてくることになっている。
お母様は、はりきって屋敷内を模様替えをして、アルゴ様を迎えるための準備に忙しそうにしている。
私には、ぎこちない感じで接してくるお母様だけれど、アルゴ様とは楽しそうで、本当の息子のように仲がいい。
政略結婚をすることでしか、今までの恩を返せない私は、お母様の望む人と結婚することは当たり前のこと。
そこになんの不満もない。
そう頭では考えているのに、最近、心の奥のほうが、ざわざわすることが多くなった。
その大きな理由は、出会ってからの二年間で、アルゴ様がおおいに変わったことかもしれない。
まず、最初に変わりだしたのはアルゴ様の見ためだった。
といっても、本人自身が変わっていくというよりは、着る服や持ち物があうたび豪華になっていく。
この服は、人気のあるデザイナーにつくってもらったとか、高級な店で買ったとか自慢げに言うようになった。
一体、その資金はどこからきているのか、そのほうが気になり、それとなく聞いてみると、ミルトン侯爵夫人がだしているよう。
もしかして、婿入りしても、そんなに衣服にお金をかけるつもりなのかしら? と、ルバーチ子爵家のあとを継ぐ者としては心配になる。
もちろん、アルゴ様に商才があって、自分で稼いだお金ならどう使おうと自由だけれど、この家のお金をあてにしているのなら、一代で成り上がったお父様になんと言われるか……。
あ、でも、愛人を別邸に囲っている人がどうこう言えないわよね。
会うたび、アルゴ様は見るからに豪華な服を見せびらかすようにして私の意見を聞いてくるけれど、正直、衣服や装飾品にまるで興味がない私にとったら反応が難しい。
その場にお母様がいるときは、服好きのお母様が絶賛したりして、ふたりは楽しそうにしているからいいけれど。
私だけの時は、とりあえず、「いい色ですね」とか、気づいたことを言ってみる。
すると、アルゴ様は、あからさまに不満そうな顔をする。
しかも、最近では、「この前、僕の服が素敵だと夜会で令嬢たちに褒められたよ」とか、「僕がいつも最新の服を着ていると令嬢たちの間で噂になっているらしい」とか、女性からの意見を誇らしげに言うことが多くなってきた。
私からしたら、どんどん派手になっていくアルゴ様より、最初のころの自然な服装のほうがよほど好感が持てたんだけど、今の流行とか興味がないから、他の令嬢たちとは感覚が違うのかもしれない。
婚約者でありながら、私たちは、ふたりそろって出かけたりはしない。
そのかわり、アルゴ様は男友達と色々遊びに行っているよう。
出会った頃のアルゴ様は友達はいなかったようだけれど、派手になったアルゴ様は、今や沢山のお友達がいるとご自分で自慢している。
アルゴ様と婚約した時は、これから時間をかけていけば、穏やかな結婚生活ができると思っていた。
でも、月日がたつごとに、アルゴ様は、私にとって、どんどん理解しがたい人になっていった。
そのきっかけはなんだったんだろう……と考えてみる。
婚約した後、すぐの頃は、ミルトン侯爵夫人のご友人や、私のお母様のお知り合いに呼ばれて、ふたりでお茶会や夜会に参加したことが何度かある。
でも、アルゴ様は、何故か私と一緒に行くのを嫌がるようになったのよね……。
何かしてしまったのか思い当たることはないけれど、人として感情が乏しい私だから、アルゴ様が嫌がることを、知らないうちにしでかしたのかもしれない。
そう思って、「私、アルゴ様のお気に障るようなことをしましたか?」と聞いてみた。
「キャロリーヌには関係のないことだ」
と、返ってきた。
つまりは言いたくないほど気に障ったんだと思う。
でも、教えてくれない限り、謝罪もできないし、直しようもない。
結婚したら、ふたりでお茶会や夜会に行く機会もあるだろうし、さすがに、このままでいいのかと心配になった。
ある日、私は思い切ってアルゴ様に聞いてみた。
「私のことが嫌いになられたのなら、婚約を解消しますか?」
アルゴ様の顔色が変わった。
「キャロリーヌは僕との婚約をやめたいのか……?」
「いえ、そうじゃないですが、アルゴ様がおつらそうだから……。まわりに迷惑をかけることになるので、婚約を解消するのなら早いほうがいいですから……」
「僕は婚約解消なんてしないからな!」
声を荒げたアルゴ様。
それからだ。
「沢山の友達がいる僕と違って、キャロリーヌは友達がいないんだな」
「おしゃれもしないし、本にしか興味がないなんて、キャロリーヌって、つまらないよな」
「キャロリーヌは、ご両親にも放っておかれてるみたいだし、寂しい人間だね」
「誰にも愛されていないキャロリーヌを、僕がもらってあげるんだよ。感謝して」
など、私を批判するようなことを、会うたびに言い始めたのは……。
まあ、確かに、友達もいないし、本ばかり読んでいるし、親にも放っておかれているし、はたから見たら寂しい人間かもしれない。誰にも愛されていないのも事実だし。
アルゴ様の言い方はきついけれど、間違ったことを言っているわけではない。
だから、私は何も言い返せない……。
でも、お母様の前になると、アルゴ様は私に向かって絶対にそんなことは言わない。
好青年の笑みをうかべて、私をほめるアルゴ様。
そんなアルゴ様を見て、お母様は満足そうな顔をする。
「アルゴ様は本当に優しくて素敵な方ね。キャロリーヌの幸せを思って選んだけれど、私の目に狂いはなかったわ。キャロリーヌのことをあんなにほめてくれるんだもの。キャロリーヌは幸せね。私も、こんなすばらしい方が婿入りしてくれるなんて、本当に嬉しいわ。アルゴ様がこの屋敷に婿入りしてくださる日が待ち遠しいわね、キャロリーヌ」
と、毎回、言い含めるように私に言ってくる。
今更、娘を思う母親を演じたいのか、その意図はわからないけれど、私にとったらどうでもいいこと。
私の役目は、お母様の気に入った方と結婚をするだけだから。
そう思ってきたのに……。
シャルルからもらった言葉をしまっている胸の奥が、最近、チリチリと痛んでしょうがない。
127
お気に入りに追加
408
あなたにおすすめの小説



【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。

母が病気で亡くなり父と継母と義姉に虐げられる。幼馴染の王子に溺愛され結婚相手に選ばれたら家族の態度が変わった。
window
恋愛
最愛の母モニカかが病気で生涯を終える。娘の公爵令嬢アイシャは母との約束を守り、あたたかい思いやりの心を持つ子に育った。
そんな中、父ジェラールが再婚する。継母のバーバラは美しい顔をしていますが性格は悪く、娘のルージュも見た目は可愛いですが性格はひどいものでした。
バーバラと義姉は意地のわるそうな薄笑いを浮かべて、アイシャを虐げるようになる。肉親の父も助けてくれなくて実子のアイシャに冷たい視線を向け始める。
逆に継母の連れ子には甘い顔を見せて溺愛ぶりは常軌を逸していた。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる