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番外編

ムルダー王太子 28

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ロバートが王太子になるまで、ぼくがお飾りの王太子で、ルリはぼくの婚約者の役目を演じていると、父上が王宮内の誰に伝えたのかは、まるでわからない。

が、それを確認することもできない。
ダグラスの魔術にしばられているので、うっかり口にだして、確認しようとしたとたん、恐ろしいことになるからだ。

そして、父上からは、ルリが王太子の婚約者である振りをする間は、ぼくも、まわりが疑問を持たぬよう、ルリに婚約者として接しろと、命じられている。
本当は、「ぼくが愛しているのはクリスティーヌで、ルリは婚約者のふりをしているだけ」と言ってまわりたいのに。

が、クリスティーヌが戻ってくるまでは、父上に逆らえない。
ということで、一応、婚約者らしく、引っ越してきたばかりのルリの様子を見に行った。

「あ、ムルダー様!」
ぼくに向かって、ルリが上機嫌で声をかけてきた。

「やっぱり、神殿より、王宮が華やかでいいわ! ねえ、ムルダー様。私、ドレス、白い色しか持ってないの。神殿をでたわけだし、華やかな色のドレスが着たいな」
と、ぼくの腕をつかんで、すりよってきた。

思わず、腕をふりほどき、一歩後ろにさがった。
なんだ、こいつ…。
お飾り王太子のぼくの婚約者なんて、嘘でも嫌だと言っていたくせに!

「もう、ムルダー様ったら、恥ずかしがって! 私たち、婚約者なんですから!」
と、侍女たちに見せつけるように言うルリ。

そんなアピールはやめてくれ…。

はしゃぐルリを見る侍女たちの目が一層冷たくなった。

それだけではなく、皆一様に、悲しい雰囲気をまとっている。

それもそのはず。
王太子の婚約者として、クリスティーヌが王宮にいる間は、そばについていたベテランの侍女たちだ。

それに、悲しんでいるのは侍女たちばかりではない。
王宮全体が悲しみに包まれているように沈んでいる。

王宮で働く者たちに、なにかと気を配っていたクリスティーヌ。
クリスティーヌが消えて、みんなが悲しんでいるのが、痛いほど伝わってくる。

そして、ルリだけではなく、ぼくを見る目も冷たい。

今朝、文官のアランが、ぼくのところに書類を届けにきた。

いつもは笑みをたたえ、軽口を言う、明るい性格。

だけど、今日は、にこりともせず、ものすごい勢いで、必要最低限のことだけ言い、立ち去ろうとした。
その際、一瞬だけ、目があった。

ぎくっとした。

普段のアランとは別人のような目…。憎しみのこもった目を向けられたからだ。

そう言えば、文官のなかでも、特にアランは、クリスティーヌを尊敬し、よく意見を聞いていたな…。

それにしても、まだ、今日は半日しかたっていないのに、心身がくたくただ…。
針のむしろにいるよう。

まあ、ルリは気にもしていないようだが…。

「やっぱり、王太子様の婚約者なんだから、豪華なドレスがいいよね。早くつくってね、ムルダー様!」
ルリの能天気な言葉に、一瞬にして、部屋の空気が凍りついた。

侍女たちの刺すような視線が痛い。

いたたまれなくなったぼくは、早々にルリの部屋を去った。
あんなんで、いくら振りだけとはいえ、王太子妃教育を受けるなど無理だろう…。

そして、その予想は、すぐにあたることになる。




2か月がたった頃、ぼくは、父上が「お飾りの王太子」といった意味を苦々しい気持ちでかみしめていた。

というのも、ぼくのするべき仕事は、どんどん減っていった。
クリスティーヌに手伝ってもらっていた難しく重要な仕事などは、早々にまわってこなくなった。

文官に、「ぼくがしなくてもいいのか?」と聞けば、感情のない顔で、「国王陛下のご指示です。ご心配なく」とだけ返された。

今や、ぼくのところにまわってくるのは、どうでもいいような形ばかりの書類と、ルリへの苦情だけ。

そして、ぼくに仕えていた側近たちもいなくなり、幼い頃から一緒にいる、宰相の息子の侯爵家のロスと伯爵家のバリルだけが残った。

だが、そのロスも、宰相の指示で、遠く離れた国の厳しい全寮制の学園に無理やり留学させられた。
ということで、もうバリルしかいなくなった。

今や、ぼくと話しをするのは、バリルとルリだけだ。

そのルリは、王太子妃教育から逃げては、ぼくの執務室に泣きながら飛び込んでくる。
わーわーと文句ばかり言うので、うっとうしいこと、この上ない。

聞くのも面倒なので、ルリの対応はバリルに任せて、ぼくはルリがくると、自分が部屋から出るようになった。

一刻も早く、ルリを異世界へ戻し、クリスティーヌを呼び戻す!

そのためには、あの短剣がいる。
何度も何度も、あの場面を思い返してみたが、やっぱり、クリスティーヌが消えたあとも短剣は床に落ちていた。

どう考えても、クリスティーヌの一番近くにいたライアンが持ち帰ったに決まっている。

こうなったら、ライアンを問い詰めようと、王宮内を探すことにした。

父上の護衛騎士だからと、まずは、父上のところに向かう。

すると、ちょうど、廊下を歩いている父上が見えた。
が、護衛騎士の中にライアンはいない。

父上に、あわてて近づいて聞いてみた。

すると、父上は、あからさまに顔をしかめ、「おまえに教える義理はない」と言い放ち、去って行った。
取り付く島もなかった。

父上も母上も、あれ以来、ぼくとは必要最低限しか口をきいてくれない。

ライアンの居場所を他の騎士たちにも聞いてみた。が、誰も答えない。
もしかして、父上によって、口止めされているのだろうか…。

そう思っていた矢先、意外な相手から、ライアンのことを聞くことができた。

それは、公爵代理として、会議に出席するために王宮へ来ていたダグラスだ。






※ 読みづらいところも多々あると思いますが、読んでくださっている方、本当にありがとうございます!
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