36 / 121
番外編
ムルダー王太子 27
しおりを挟む
結局、ダグラスの保護を受けられなかったルリ。
平民になっても暮らしていけないだろうということで、父上がもうひとつの案をだした。
が、それは、ぼくにとったら、全く納得のいかないものだ。
父上は、ロバートが王太子をつぐことを、準備が整うまでは、王宮内でもごく限られた人間にしか知らせない。
そのために、ぼくはお飾りの王太子をさせられる。
その間、ルリもまた同様に王太子の婚約者のふりをして過ごすという案だ。
王太子の婚約者として、ルリは王宮で生活し、その暮らしは保障される。
ただ、王太子の婚約者だと思っている人間が大半のため、王太子妃教育を形だけでも受けることが条件だ。
つまり、ぼくたち二人が囮となり、ロバートから目をそらさせ、その間に、着々と準備を進めるということだ…。
ロバート、ロバート、ロバート…
やっぱり、父上は、愛しているロバートを王太子にしたかったんだ…!
黒いもやもやしたものが、心のなかで、一気に大きくなった。
と、そんなぼくを不満げに見たルリ。
「私、お飾り王太子のムルダー様の婚約者だなんて、嘘でも嫌なんですけど!」
「はあ?! それは、こっちのセリフだろ?!」
にらみあうぼくとルリ。
父上はため息をつき、言った。
「ルリ、そなたはムルダーと違って罰を受けてるわけではないから、強制ではない。これは、あくまで提案だ。嫌なら、断ってくれて良い。まあ、そうなれば、即刻、平民として生きることになるがな」
「平民なんて嫌…!」
ルリが悲鳴をあげた。
すると、ダグラスが、さっきの冷たい態度はなかったかのように、ルリに優しく微笑んだ。
「ルリ嬢。王宮内には、色んな考えを持つ人間がおります。ちょっとのほころびで、ロバート様が王太子の座に就くことを邪魔されてはならない。ロバート様が王太子になる準備が万全に整うまでの間、ルリ嬢には、ムルダー様の婚約者の役割を担っていただき、まわりの目をごまかすことに協力いただきたい。もちろん、ロバート様が無事に王太子になられた後には、ルリ嬢には、独身の貴族の中から、あなたにぴったりの良き結婚相手をご紹介しましょう」
「え、ほんとに? なら、ダグラスさんみたいな、すごい素敵でお金持ちな人がいいな…」
と、頬を染める、ルリ。
さっきのあの恐ろしい態度をみても、まだ、ダグラスにたぶらかされているなんて、ルリの危機意識のなさが信じられない…。
ダグラスは、意味ありげに微笑んだ。
「私のような者など、おすすめしませんが…。ですが、無事、役目をはたしていただければ、ルリ嬢のお好みに合う男性を紹介します。私にお任せください」
「なら、私、やります! 完璧に、ムルダー様の婚約者をやってみせます!」
急に、元気になったルリ。
まあ、でも、そっちのほうがいいか…。
ルリが近くにいるのなら、短剣さえ手に入れば、すぐにでも異世界に送り戻せるし。
ルリを異世界に戻し、クリスティーヌが戻って来たら、ぼくは、クリスティーヌにぼくの気持ちを伝える。
クリスティーヌは、喜んで、婚約者に戻ってくれるだろう。
そうなったら、父上も、完璧な婚約者のいるぼくを無下にはできない。
たとえ、ロバートを愛していても、ぼくを王太子にするしかないんだ!
そう、もともとの形に戻るだけだ。
それまで、ぼくは、大人しく、お飾りの王太子をつとめているふりをしよう。
クリスティーヌが戻ってくるまでの我慢だ!
結局、ぼくとルリと大神官は、ダグラスによって、ロバートが王太子を継ぐこと、そして、ぼくがお飾りの王太子、ルリがその婚約者の役目をしていることを他言しないよう、魔力のこもった書類にサインさせられた。
もし、許可なく、だれかにしゃべろうとしたら、手足がもがれるほどの激痛が走って、絶対にしゃべることができない術をかけているんだそう。
説明したあとに、「本当かどうか、試してみますか?」そう言ったダグラスの顔は、なんとも楽しそうで、ほの暗い笑みがこぼれていた。
やっぱり、恐ろしい奴だ…。
そして、翌日。
神殿から王宮へ、ルリは引っ越してきた。
平民になっても暮らしていけないだろうということで、父上がもうひとつの案をだした。
が、それは、ぼくにとったら、全く納得のいかないものだ。
父上は、ロバートが王太子をつぐことを、準備が整うまでは、王宮内でもごく限られた人間にしか知らせない。
そのために、ぼくはお飾りの王太子をさせられる。
その間、ルリもまた同様に王太子の婚約者のふりをして過ごすという案だ。
王太子の婚約者として、ルリは王宮で生活し、その暮らしは保障される。
ただ、王太子の婚約者だと思っている人間が大半のため、王太子妃教育を形だけでも受けることが条件だ。
つまり、ぼくたち二人が囮となり、ロバートから目をそらさせ、その間に、着々と準備を進めるということだ…。
ロバート、ロバート、ロバート…
やっぱり、父上は、愛しているロバートを王太子にしたかったんだ…!
黒いもやもやしたものが、心のなかで、一気に大きくなった。
と、そんなぼくを不満げに見たルリ。
「私、お飾り王太子のムルダー様の婚約者だなんて、嘘でも嫌なんですけど!」
「はあ?! それは、こっちのセリフだろ?!」
にらみあうぼくとルリ。
父上はため息をつき、言った。
「ルリ、そなたはムルダーと違って罰を受けてるわけではないから、強制ではない。これは、あくまで提案だ。嫌なら、断ってくれて良い。まあ、そうなれば、即刻、平民として生きることになるがな」
「平民なんて嫌…!」
ルリが悲鳴をあげた。
すると、ダグラスが、さっきの冷たい態度はなかったかのように、ルリに優しく微笑んだ。
「ルリ嬢。王宮内には、色んな考えを持つ人間がおります。ちょっとのほころびで、ロバート様が王太子の座に就くことを邪魔されてはならない。ロバート様が王太子になる準備が万全に整うまでの間、ルリ嬢には、ムルダー様の婚約者の役割を担っていただき、まわりの目をごまかすことに協力いただきたい。もちろん、ロバート様が無事に王太子になられた後には、ルリ嬢には、独身の貴族の中から、あなたにぴったりの良き結婚相手をご紹介しましょう」
「え、ほんとに? なら、ダグラスさんみたいな、すごい素敵でお金持ちな人がいいな…」
と、頬を染める、ルリ。
さっきのあの恐ろしい態度をみても、まだ、ダグラスにたぶらかされているなんて、ルリの危機意識のなさが信じられない…。
ダグラスは、意味ありげに微笑んだ。
「私のような者など、おすすめしませんが…。ですが、無事、役目をはたしていただければ、ルリ嬢のお好みに合う男性を紹介します。私にお任せください」
「なら、私、やります! 完璧に、ムルダー様の婚約者をやってみせます!」
急に、元気になったルリ。
まあ、でも、そっちのほうがいいか…。
ルリが近くにいるのなら、短剣さえ手に入れば、すぐにでも異世界に送り戻せるし。
ルリを異世界に戻し、クリスティーヌが戻って来たら、ぼくは、クリスティーヌにぼくの気持ちを伝える。
クリスティーヌは、喜んで、婚約者に戻ってくれるだろう。
そうなったら、父上も、完璧な婚約者のいるぼくを無下にはできない。
たとえ、ロバートを愛していても、ぼくを王太子にするしかないんだ!
そう、もともとの形に戻るだけだ。
それまで、ぼくは、大人しく、お飾りの王太子をつとめているふりをしよう。
クリスティーヌが戻ってくるまでの我慢だ!
結局、ぼくとルリと大神官は、ダグラスによって、ロバートが王太子を継ぐこと、そして、ぼくがお飾りの王太子、ルリがその婚約者の役目をしていることを他言しないよう、魔力のこもった書類にサインさせられた。
もし、許可なく、だれかにしゃべろうとしたら、手足がもがれるほどの激痛が走って、絶対にしゃべることができない術をかけているんだそう。
説明したあとに、「本当かどうか、試してみますか?」そう言ったダグラスの顔は、なんとも楽しそうで、ほの暗い笑みがこぼれていた。
やっぱり、恐ろしい奴だ…。
そして、翌日。
神殿から王宮へ、ルリは引っ越してきた。
応援ありがとうございます!
40
お気に入りに追加
4,092
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる