上 下
14 / 121
番外編

ムルダー王太子 5

しおりを挟む
今日は、ぼくの17歳の誕生日を祝うパーティーだ。
毎年のように、王宮の広間には大勢の貴族たちが集まっている。

そんななか、いつも以上に、目立っているクリスティーヌ。

というのも、ぼくが贈った華やかなブルーのドレスを着ているから。
もちろん、ぼくの瞳の色だ。

輝く銀色の髪に似合い、はっとするほど美しい。

多くの貴族の男たちが、クリスティーヌの姿に目を奪われていた。
その様子に、優越感のようなものがわいてくる。

だれもが憧れるクリスティーヌは、ぼくだけを愛している。
ぼくだけのクリスティーヌだってね。

が、ふと、国王の後方、目立たないところで控えている赤い髪の騎士が見えた。

ライアンだ…。

国王を警護するため、あたりを警戒するように見ているライアン。

だが、緑色の瞳が、一瞬だけ、クリスティーヌを捕らえた。
その瞬間、冷徹な目に熱がこもったように思えた。

ぼくの、高揚していた気持ちは一気に冷える。
かわりに、真っ黒い怒りがわいてきた。

ぼくのクリスティーヌを見るな!
ライアンだけは、ぼくのクリスティーヌを見ることを許さない!

ぼくは、ライアンの視線から遮るように、クリスティーヌの隣に立った。


その時だ。
いきなり、あたりが明るくなった。

広間の中央で、まぶしいほどの光がとびちっている。

なんだ、あの光は…?!

だれもが動けないなか、真っ赤な髪が、真っ先に、国王の前にかばうように立ったのが、目の端に入った。
それを見たのか、ぼくの護衛騎士たちも、あわてて、ぼくを守るように、そばに立つ。

すると、光の中から、一人の少女が現れた。

華奢な少女は、驚くことに髪も瞳の色も真っ黒だ。
この国では、見たことがない。

しかも、なんだ、あの服は? 

変な形をした、丈の短い衣服を着ている。
その下に、投げ出された細い足。

この国で、足が見えるほど短い衣服を着る女性なんていない。

一体、この少女はどこから来たんだ?!

大勢の人たちが息をのんで、少女を観察している。
その視線に気づいた少女は、怯えたような顔で震えはじめた。

目があった。

涙でうるんだ漆黒の瞳が、すがるようにぼくを見つめてくる。
まるで、ぼくだけが味方のように。

その瞬間、なんともいえない喜びがわきあがってきた。

なんだ、この気持ちは…?

「これは、異世界からの聖女様ですな」
と、近くで大神官の声がした。

まわりが、一気にざわつきだす。
が、ぼくにとったらどうでもいい。

それより、少女から目が離せない。
少女のほうも、ぼくを必死に見つめてくる。

と、少女の漆黒の瞳から、涙がこぼれおちた。

頼りなくて、愛らしいな…。

クリスティーヌは、どれだけ辛くても泣かない。
出会ったばかりの幼い頃は、王太子妃教育が辛くて泣いていたけれど、すぐに泣かなくなった。
クリスティーヌは強い。

それに比べて、この少女は、なんて、かよわいんだ。
ぼくがいないと死んでしまう…。

そう思ったとたん、自然と、口の端があがった。

ああ、ぼくが、この子を守らないといけないな…。






※ 沢山の方に読んでいただいて、本当に嬉しいです。ありがとうございます! お気に入り登録、エール、ご感想もありがとうございます! 大変、励みになります。

王太子視点、イライラしたり、気持ち悪かったら、すみません…(-_-;) 

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:681pt お気に入り:6,439

きむらななの波乱万丈な日々

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:674pt お気に入り:0

秋物語り

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:724pt お気に入り:1

さて、このたびの離縁につきましては。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,375pt お気に入り:260

破戒聖者と破格愚者

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:312pt お気に入り:2

奥手過ぎてごめんなさい。 でも、勇気をだすよ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:759pt お気に入り:0

【完結】嫌いな婚約者を抱いたら好きになってしまったらしい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:681pt お気に入り:916

離縁するので構いません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:41,854pt お気に入り:1,545

処理中です...