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番外編

ムルダー王太子 3

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9年後。ぼくは、17歳になった。

1年後には、クリスティーヌと結婚する。

小さいころは、ぼくもクリスティーヌも同じようなものだった。
なのに、クリスティーヌは教師たちも舌をまくほど優秀で、どんどん、その能力を伸ばし、反対に、ぼくは伸び悩んだ。

今や、クリスティーヌは目をみはるほど美しく成長し、だれもが賞賛する完璧な令嬢となった。

「クリスティーヌ様が、王太子妃になられるのなら安心です」
と、教師たちは口々に言った。

「クリスティーヌを見習って、ムルダーも、もっとがんばりなさい」
と、王妃である母上は何度も言った。

「クリスティーヌ様のご意見をお聞きしたいのですが…」
と、クリステーヌにばかり意見を聞きたがる文官たち。

みんな、クリスティーヌ、クリスティーヌ、クリスティーヌ…。
ぼくのことなど、クリスティーヌのおまけくらいに思っているんだろう。

そんなクリスティーヌが自慢だったのに、クリスティーヌばかりほめられると、心に針がささったような痛みが走る。

そんな時、ぼくには手におえない問題が起こった。

「ねえ、クリスティーヌ。ぼくはどうしたらいい?」
思わず、クリスティーヌに泣きごとをこぼした。

すると、クリスティーヌは、澄んだ紫色の瞳を心配そうに揺らした。

「私もお手伝いしますから」
そう言って、クリスティーヌは、ぼくのために奔走した。

普段は、隙のない、完璧なクリスティーヌが、なりふり構わず走り回り、事をおさめてくれた。

ぼくは、その姿にゾクゾクした。
みんなが憧れるクリスティーヌが、ぼくだけのために動いてくれることに…。

それから、ぼくは、クリスティーヌを都合よく使うことにした。

王太子のぼくに与えられる面倒な仕事や、難しい課題を前に、ぼくは、すがるような顔をして、クリスティーヌに問う。

「ねえ、クリスティーヌ。ぼくはどうしたらいい?」

クリスティーヌは、そのたびに、必死でがんばった。
どんなに難題でも、どんなに面倒でも、どんなに疲れていても、ぼくのためだけに動いてくれた。

その姿を見ていると、ぼくの心は、どんどん満たされていく。
みんなが褒めたたえるクリスティーヌに愛されているのは、ぼくだけだってね。

王宮で賞賛されるクリスティーヌなのに、愚かな家族からは冷遇されていた。
ぼくは、そのことを知っていたけれど、救うために動かなかった。

だって、クリスティーヌには、ぼくだけしかいない。
そう思ったままでいて欲しいから。

クリスティーヌの人生は、ぼくのものだ。
ぼくだけを愛して、ぼくだけのために生きたらいい。



来週、ぼくの17歳の誕生日を祝うパーティーがある。
その打ち合わせのため、ぼくは、王妃である母上に呼ばれた。

母上の部屋へ向かうため、廊下を歩いていると、真っ赤な髪が目に入った。

ライアンだ。

昔のひ弱な姿が嘘だったように、背が高く、鍛えられた体をしている。

騎士団長自ら稽古をつけたライアンは、そのまま騎士団に入団。
めきめきと強くなり、頭角を現した。

そして、国王である父上の護衛騎士に抜擢された。
そのため、王宮内で見かけることが多くなった。

今も、王である父上のそばで、護衛として、つき従っている。

すれ違った。

整った顔で、温度のない表情を向けられた。
形式的な目礼をされる。

見たくもないのに、ライアンの冴え冴えとした美貌には、目が吸い寄せられる。
今日も、切れ長の緑色の目は、悔しいくらいに澄みきっていた。

その目を見るたび、何故か、クリスティーヌを思う。
清廉なふたりが、まるで対であるかのような思いがわきあがってくるんだ。

しかも、子どもの頃に見た、赤い髪と銀色の髪が庭で並んで立っている光景まで思い出してしまう。

ぼくは頭をふって、もろもろをかき消した。

くそっ、ライアン…。いまいましい奴だな…。

ぼくが王になった暁には、絶対に王宮から遠いところへ飛ばしてやる。
クリスティーヌを二度と目にすることができないところに…。




※読んでくださっている方、本当にありがとうございます!
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王太子視点、続きます…(-_-;)
いらいらすることもあろうかと思いますが、よろしくお願いします。



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