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番外編

ムルダー王太子 2

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それから、ライアンは、ぼくたちの集まりにこなくなった。

王妃である母上に、それとなく聞いてみた。

「ムルダーの側近になることを辞退してきたの。なんでも、騎士になりたいそうよ。ロンバルディア公爵は、王弟でいらっしゃるし、ご子息のライアン様は、ムルダーの従兄弟。側近になってくれたら、心強かったのだけれど…」
と、母上は残念そうに言った。

どうやら、ライアンは、いじめられていたことを言ってないみたいだ。
ちょっと、ほっとする。

それにしても、ライアンが騎士? 
あんな弱いライアンが?!

まあ、でも、これで、ライアンは王宮に来なくなる。
そうなると、ライアンがクリスティーヌを見かけることもない。

なら、良かった…。

ライアンが、あんな目でクリスティーヌを見るのは、どうしても許せないからね。


そう思ったのに、なんで、王宮にライアンがいる?! 
しかも、隣にいるのは、クリスティーヌ?!

窓のむこうの中庭で、真っ赤な髪と銀色の髪が並んで立っているのが見えた。
ふたりは何か話しているみたいだ。

ぼくは、思わず、手にもっていた教科書を床にたたきつけた。

そばにいたロスが、驚いたようにぼくを見る。

「…ロス。なんで、ライアンは王宮にいるんだ?」
ぼくの問いに、ロスが答えた。

「ライアンは、騎士団で稽古をつけてもらっているようです」

「騎士団?」

「ライアンの父であるロンバルディア公爵が、親友の騎士団長に頼んだみたいです。空いた時間に稽古をしてくれって。ほんと、笑っちゃいますよね? あんなに弱いライアンが、厳しい稽古なんてできるわけないのに…。また、泣いて逃げるんじゃないですか?」
そう言って、ロスは、意地悪い笑みをうかべた。

確かに、そうだ。あんな弱いライアンが、騎士になんてなれるわけない。
稽古だって、すぐにやめるだろう。

でも、騎士団に通うのなら、また、庭でクリスティーヌと会うかもしれない。

さっきのふたりが目に浮かぶ。

絶対に許せない! クリスティーヌは、ぼくの婚約者だ!

あっ、そうだ! いいことを思いついた…。

母上に頼んで、クリスティーヌに、庭に出ないようにしてもらえばいいんだ。
そうすれば、騎士団に通うライアンと接点はなくなる。

早速、ぼくは、クリスティーヌの教育を監督する母上にお願いした。

「クリスティーヌの休憩時間なんだけど、庭に出ないようにしてほしいんです」

驚いた顔をする母上。

「何故、そんなことを言うの、ムルダー? クリスティーヌは一生懸命がんばってるわ。短い休憩時間くらい好きにさせてあげなさい」

「だって、庭に出ると、変な奴に会うかもしれない。クリスティーヌが危ないよ」

「まあ、ムルダーったら!」
そう言うと、母上はクスクスと笑いだした。

「クリスティーヌがそんなに心配なの? …王宮の庭に危ない人はいないし、もちろん、護衛もいるわよ?」

「でも、心配で…。ぼく、勉強が手につかないんです!」

「それは、困ったわね…。しょうがないわ。クリスティーヌには、ムルダーが心配するから、一人で庭にでないように言っておくわね。休憩は部屋の中でしてもらいましょう」

「ありがとうございます、母上!」

これで、ライアンがクリスティーヌに会うことはない。
そう思ったら、やっと心が落ち着いた。

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