私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

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ロイド公爵様とルーファス

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ロイド公爵様、いつの間に後ろにいたんだろう……。
全く気付かなかった。
驚きつつも、あわててご挨拶をする。

「今日はお世話になります!」

「いや、こっちこそ、変なことに巻き込んでしまってすまなかったね、ララちゃん」

「いえ、みなさんが見守ってくださっているので心強いです」

「本当は、私も茶会に参加して、ララちゃんの隣にすわって、間近で見守るつもりだったんだがね……」

「ララの隣は僕だから、父上の見守りは必要ない」

冷たい声で言い放ったルーファス。

「ララちゃんのこととなると余裕がないな。そんなことで大丈夫なのか、ルーファス?」

「余計なお世話だ、父上」

なんだか反抗的な態度のルーファス。
ロイド公爵様が「ルーファスも、まだまだ子どもだな」と、楽しそうに笑ったあと、私に視線をあわせた。

「私が茶会に参加することを、ガイガーがえらく嫌がってね。アンヌ妃が気後れするから、茶会の招待客はできるだけ男性をよびたくないとか、王女の希望だからルーファスはいてもいいが、私は遠慮して欲しいなど、うるさいことを言ってきたんだ。まあ、私がいたら、都合が悪いことでもあるんだろうな。もちろん、ガイガーの要望などつっぱねることは簡単だが、あいつらが何を企んているのか知るために、あえて、向こうの言うことにのってみることにした。
ということで、私は今日、留守だと向こうには伝えてある。別室にいるが、茶会の様子は把握できるようにしている。まあ、ガイガーは単純で浅はかだから、たいしたことは企めないだろうから、さほど心配はしていない」

ロイド公爵様の第二王子への評価に共感して、思わず、うなずきそうになる。

「鍵はあの王女……」
と、ルーファス。

「ああ。気になるのは、王女のほうだ。さすがに、他国の王弟の屋敷で危害を加えるほど馬鹿ではないだろうが、王女から目を離すな、ルーファス」

「わかってる」

そっけなく答えるルーファスに、ロイド公爵様がにやりとした。

「ルーファス、気負いすぎて、失態しないようにな。ララちゃんにがっかりされるぞ」

そう言うと、私に向かって茶目っ気たっぷりに微笑んだロイド公爵様。
思わず、私も微笑み返す。

ロイド公爵様は、いつもこんな感じで、親しみやすい方なのよね。

まあ、何があっても、私がルーファスにがっかりすることなんて、あり得ないけど。

なんて考えていたら、隣から、「は?」と、地を這うような声が聞こえた。
ええと、今のは、ルーファスの声……? 

「僕が、ララに失望されるような失態をするわけないだろう? 父上は、のんびり昼寝でもしてればいい」

冷たく言い放ったルーファス。

ロイド公爵様の冗談が、なぜだかルーファスに通じていない。
そんなルーファスを見て、ロイド公爵様が楽しそうに笑った。

「ルーファスは、いつもは取り澄ました顔をしているくせに、ララちゃんのこととなるといろんな顔をするから、おもしろいな……。ああ、そうだ、ララちゃん。ララちゃんには迷惑をかけたから、ちょっとした土産を用意している。茶会が終わったら渡すから。あのメンバーじゃあ、楽しむのも難しいかもしれないが、面倒なことは全部ルーファスに任せて、ララちゃんはレーナの選んだ美味いお茶を、楽しんでいってくれ。じゃあ、また、あとで」

そう言うと、ロイド公爵様は颯爽と去って行った。

「ロイド公爵様から私にお土産? 初めていただくけど、なんだろう……。お茶会が終わったあとが楽しみになってきた!」

わくわくしながらつぶやくと、「アシュレのイチゴのパウンドケーキだよ」と、即答したルーファス。

「え、アシュレの!? 大人気でなかなか買えないから、めったに食べられないけど、あのイチゴのパウンドケーキ、大好き! ……いや、そうじゃなくて、ルーファス? そんなにあっさり答えを教える!? 一体なんだろうね、とか、楽しみだねとか、そういう、わくわくするくだりはないの?」

「僕が用意したならそうするけど、父だから、どうでもいいかな。しかも、ララの大好物を母から聞いて用意したみたいだけど、そりゃあ、大好物なんだからララは喜ぶよね。ララを好物でつるなんて気に入らない」

不満そうに言うルーファスが、小さい頃のルーファスと重なった。
他の人が用意したものを私が大喜びすると、むすっとしていたルーファス。

すねたルーファスが、なんだか、かわいい。
うん、やっぱり、天使のままだ!

幼い頃の天使ルーファスを思い出し、一気に幸せな気持ちになる私。
ゆるんだ顔のまま、今日のお茶会が行われるお部屋に案内された。
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