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まどわされないで
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馬車から降りて、お屋敷の方を見た瞬間、びくっとした。
がっしりとして、とても背の高いふたりが、玄関を挟むようにして、立っていたから。
ひとりは、茶色の毛の大きな耳があり、もうひとりは、長いしっぽが見えた。
ジャナ国の護衛の方たちだ……。
無意識に緊張してしまう。
その時、さっと近づいて来たのは、ロイド公爵家の執事長、キリアンさん。
「お待ちしておりました、ララベル様」
いつもと同じ優しい笑顔に、ほっとした。
「今日はよろしくお願いします、キリアンさん」
「公爵様の指示で、今日は、ここで働く者はみな、ララベル様を見守らせていただきます。なにかありましたら、なんなりとお申し付けください」
「ありがとうございます。心強いです!」
お母様の言ったとおりだ……。
ルーファスのご家族だけじゃなくて、キリアンさんをはじめ、このお屋敷で働く方々も見守ってくれている。
感謝の気持ちでいっぱいになって、思わず、うるっときた。
「キリアン、もう、王女が来てるのか?」
ルーファスがジャナ国の護衛の方をちらりと見て、声をおさえて、キリアンさんにたずねた。
「いえ、まだ来られておりません。先に護衛の方がふたりこられ、屋敷内と庭を確認した後、今は、王女様の到着を玄関先で待っているようです」
「わかった。で、第二王子と王子妃は?」
「いえ、そちらもまだ到着されていません」
「まだ? やはり、茶会を主催するどころか、ふり、すらしないのか……」
と、ルーファスがつぶやいた。
キリアンさんに先導されて、お屋敷内に入ろうとしたら、護衛の方々の視線が一気に私に集中した。
射るような鋭い視線で、ものすごく見られている。
やっぱり、緊張する……。
そう思った時、護衛の方の大きな耳が、くいっと私のほうを向いた。
うわ、ふかふかした耳が動いている!
耳だけ見たら、なんだか、かわいい……。
と思ったら、もうひとりは、しっぽが動いている。
しかも、しっぽの先がふさっとしていて、こちらもかわいい!
うん、緊張が一気にとけたわ。
そうなると、自然と笑顔になってしまう。
気が付いたら、ふたりに向かって、声をかけていた。
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」
私の言葉に、驚いたように固まってしまったふたり。
まるで、未知の生き物を見るような目で私を見ている。
が、すぐに、ぴきっとした態度で頭をさげた。
その間も、やたらと耳としっぽが動いている。
私のことを探っているのかな……?
耳としっぽの動きがほほえましくて、思わず、顔がゆるんだ。
そうなると、耳としっぽの持ち主である、ふたりにも親しみがわいてくる。
不審に思われるかもしれないけれど、にまにましつつ、ふたりの前を通り過ぎ、屋敷の中にはいったとたん、ルーファスが小声で言った。
「ララ、知らない男に、簡単に笑いかけないで」
「え……? 何、言ってるの、ルーファス?」
「あのふたり、王女の連れてきた護衛の中でも特に腕のたつふたりなんだ。1週間、一緒にいたけど、獣人のふりをしたサイボーグかと思うくらい無反応だったのに、さっき、ララの笑顔に、完全に目を奪われてたよね。あんな間近で、ララの笑顔を見せたくなかったな」
悔しそうに言ったルーファス。
真顔で何を言っているんだろう、ルーファスは……。
「あのね、ルーファス。あのふたり、いきなり、私が声をかけたから、驚いただけだよ。危険人物かどうか、探っているようだったけれど、目を奪われてはいなかったよ?」
「ないわけないよ、ララ。だって、ララの笑顔は最高だから、目を奪われずにはいられないよ」
「いや、ルーファス……。それ、幼馴染のひいき目だから、他の人の前では絶対に言わないで。恥ずかしくて、私が一瞬で消滅するレベルだからね……。でも、あのひとたち、耳としっぽが動くだけで、一気にかわいく思えるよね」
思い出して、くすっと笑うと、ルーファスが真剣な口調で言った。
「ララ、耳としっぽにまどわされないで。あれは、かわいい動物とはまるで違って、ちっともかわいくない男たちだ。それにね、ララ。知らない男にむやみに笑いかけたらダメだよ。ララのかわいい笑顔に魅了されるからね。特に、獣人の男は警戒して。好きになったら、執念深いからね。ララを好きになって、ララを追いかけまわすに違いないから……」
「ルーファス。何を、ぐちぐちと言っているんだ? それは自分のことだろうが。うっとうしいぞ。なあ、ララちゃん」
と、後ろから声がした。
ふりむくと、ロイド公爵様が立っていた。
がっしりとして、とても背の高いふたりが、玄関を挟むようにして、立っていたから。
ひとりは、茶色の毛の大きな耳があり、もうひとりは、長いしっぽが見えた。
ジャナ国の護衛の方たちだ……。
無意識に緊張してしまう。
その時、さっと近づいて来たのは、ロイド公爵家の執事長、キリアンさん。
「お待ちしておりました、ララベル様」
いつもと同じ優しい笑顔に、ほっとした。
「今日はよろしくお願いします、キリアンさん」
「公爵様の指示で、今日は、ここで働く者はみな、ララベル様を見守らせていただきます。なにかありましたら、なんなりとお申し付けください」
「ありがとうございます。心強いです!」
お母様の言ったとおりだ……。
ルーファスのご家族だけじゃなくて、キリアンさんをはじめ、このお屋敷で働く方々も見守ってくれている。
感謝の気持ちでいっぱいになって、思わず、うるっときた。
「キリアン、もう、王女が来てるのか?」
ルーファスがジャナ国の護衛の方をちらりと見て、声をおさえて、キリアンさんにたずねた。
「いえ、まだ来られておりません。先に護衛の方がふたりこられ、屋敷内と庭を確認した後、今は、王女様の到着を玄関先で待っているようです」
「わかった。で、第二王子と王子妃は?」
「いえ、そちらもまだ到着されていません」
「まだ? やはり、茶会を主催するどころか、ふり、すらしないのか……」
と、ルーファスがつぶやいた。
キリアンさんに先導されて、お屋敷内に入ろうとしたら、護衛の方々の視線が一気に私に集中した。
射るような鋭い視線で、ものすごく見られている。
やっぱり、緊張する……。
そう思った時、護衛の方の大きな耳が、くいっと私のほうを向いた。
うわ、ふかふかした耳が動いている!
耳だけ見たら、なんだか、かわいい……。
と思ったら、もうひとりは、しっぽが動いている。
しかも、しっぽの先がふさっとしていて、こちらもかわいい!
うん、緊張が一気にとけたわ。
そうなると、自然と笑顔になってしまう。
気が付いたら、ふたりに向かって、声をかけていた。
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」
私の言葉に、驚いたように固まってしまったふたり。
まるで、未知の生き物を見るような目で私を見ている。
が、すぐに、ぴきっとした態度で頭をさげた。
その間も、やたらと耳としっぽが動いている。
私のことを探っているのかな……?
耳としっぽの動きがほほえましくて、思わず、顔がゆるんだ。
そうなると、耳としっぽの持ち主である、ふたりにも親しみがわいてくる。
不審に思われるかもしれないけれど、にまにましつつ、ふたりの前を通り過ぎ、屋敷の中にはいったとたん、ルーファスが小声で言った。
「ララ、知らない男に、簡単に笑いかけないで」
「え……? 何、言ってるの、ルーファス?」
「あのふたり、王女の連れてきた護衛の中でも特に腕のたつふたりなんだ。1週間、一緒にいたけど、獣人のふりをしたサイボーグかと思うくらい無反応だったのに、さっき、ララの笑顔に、完全に目を奪われてたよね。あんな間近で、ララの笑顔を見せたくなかったな」
悔しそうに言ったルーファス。
真顔で何を言っているんだろう、ルーファスは……。
「あのね、ルーファス。あのふたり、いきなり、私が声をかけたから、驚いただけだよ。危険人物かどうか、探っているようだったけれど、目を奪われてはいなかったよ?」
「ないわけないよ、ララ。だって、ララの笑顔は最高だから、目を奪われずにはいられないよ」
「いや、ルーファス……。それ、幼馴染のひいき目だから、他の人の前では絶対に言わないで。恥ずかしくて、私が一瞬で消滅するレベルだからね……。でも、あのひとたち、耳としっぽが動くだけで、一気にかわいく思えるよね」
思い出して、くすっと笑うと、ルーファスが真剣な口調で言った。
「ララ、耳としっぽにまどわされないで。あれは、かわいい動物とはまるで違って、ちっともかわいくない男たちだ。それにね、ララ。知らない男にむやみに笑いかけたらダメだよ。ララのかわいい笑顔に魅了されるからね。特に、獣人の男は警戒して。好きになったら、執念深いからね。ララを好きになって、ララを追いかけまわすに違いないから……」
「ルーファス。何を、ぐちぐちと言っているんだ? それは自分のことだろうが。うっとうしいぞ。なあ、ララちゃん」
と、後ろから声がした。
ふりむくと、ロイド公爵様が立っていた。
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