39 / 62
まどわされないで
しおりを挟む
馬車から降りて、お屋敷の方を見た瞬間、びくっとした。
がっしりとして、とても背の高いふたりが、玄関を挟むようにして、立っていたから。
ひとりは、茶色の毛の大きな耳があり、もうひとりは、長いしっぽが見えた。
ジャナ国の護衛の方たちだ……。
無意識に緊張してしまう。
その時、さっと近づいて来たのは、ロイド公爵家の執事長、キリアンさん。
「お待ちしておりました、ララベル様」
いつもと同じ優しい笑顔に、ほっとした。
「今日はよろしくお願いします、キリアンさん」
「公爵様の指示で、今日は、ここで働く者はみな、ララベル様を見守らせていただきます。なにかありましたら、なんなりとお申し付けください」
「ありがとうございます。心強いです!」
お母様の言ったとおりだ……。
ルーファスのご家族だけじゃなくて、キリアンさんをはじめ、このお屋敷で働く方々も見守ってくれている。
感謝の気持ちでいっぱいになって、思わず、うるっときた。
「キリアン、もう、王女が来てるのか?」
ルーファスがジャナ国の護衛の方をちらりと見て、声をおさえて、キリアンさんにたずねた。
「いえ、まだ来られておりません。先に護衛の方がふたりこられ、屋敷内と庭を確認した後、今は、王女様の到着を玄関先で待っているようです」
「わかった。で、第二王子と王子妃は?」
「いえ、そちらもまだ到着されていません」
「まだ? やはり、茶会を主催するどころか、ふり、すらしないのか……」
と、ルーファスがつぶやいた。
キリアンさんに先導されて、お屋敷内に入ろうとしたら、護衛の方々の視線が一気に私に集中した。
射るような鋭い視線で、ものすごく見られている。
やっぱり、緊張する……。
そう思った時、護衛の方の大きな耳が、くいっと私のほうを向いた。
うわ、ふかふかした耳が動いている!
耳だけ見たら、なんだか、かわいい……。
と思ったら、もうひとりは、しっぽが動いている。
しかも、しっぽの先がふさっとしていて、こちらもかわいい!
うん、緊張が一気にとけたわ。
そうなると、自然と笑顔になってしまう。
気が付いたら、ふたりに向かって、声をかけていた。
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」
私の言葉に、驚いたように固まってしまったふたり。
まるで、未知の生き物を見るような目で私を見ている。
が、すぐに、ぴきっとした態度で頭をさげた。
その間も、やたらと耳としっぽが動いている。
私のことを探っているのかな……?
耳としっぽの動きがほほえましくて、思わず、顔がゆるんだ。
そうなると、耳としっぽの持ち主である、ふたりにも親しみがわいてくる。
不審に思われるかもしれないけれど、にまにましつつ、ふたりの前を通り過ぎ、屋敷の中にはいったとたん、ルーファスが小声で言った。
「ララ、知らない男に、簡単に笑いかけないで」
「え……? 何、言ってるの、ルーファス?」
「あのふたり、王女の連れてきた護衛の中でも特に腕のたつふたりなんだ。1週間、一緒にいたけど、獣人のふりをしたサイボーグかと思うくらい無反応だったのに、さっき、ララの笑顔に、完全に目を奪われてたよね。あんな間近で、ララの笑顔を見せたくなかったな」
悔しそうに言ったルーファス。
真顔で何を言っているんだろう、ルーファスは……。
「あのね、ルーファス。あのふたり、いきなり、私が声をかけたから、驚いただけだよ。危険人物かどうか、探っているようだったけれど、目を奪われてはいなかったよ?」
「ないわけないよ、ララ。だって、ララの笑顔は最高だから、目を奪われずにはいられないよ」
「いや、ルーファス……。それ、幼馴染のひいき目だから、他の人の前では絶対に言わないで。恥ずかしくて、私が一瞬で消滅するレベルだからね……。でも、あのひとたち、耳としっぽが動くだけで、一気にかわいく思えるよね」
思い出して、くすっと笑うと、ルーファスが真剣な口調で言った。
「ララ、耳としっぽにまどわされないで。あれは、かわいい動物とはまるで違って、ちっともかわいくない男たちだ。それにね、ララ。知らない男にむやみに笑いかけたらダメだよ。ララのかわいい笑顔に魅了されるからね。特に、獣人の男は警戒して。好きになったら、執念深いからね。ララを好きになって、ララを追いかけまわすに違いないから……」
「ルーファス。何を、ぐちぐちと言っているんだ? それは自分のことだろうが。うっとうしいぞ。なあ、ララちゃん」
と、後ろから声がした。
ふりむくと、ロイド公爵様が立っていた。
がっしりとして、とても背の高いふたりが、玄関を挟むようにして、立っていたから。
ひとりは、茶色の毛の大きな耳があり、もうひとりは、長いしっぽが見えた。
ジャナ国の護衛の方たちだ……。
無意識に緊張してしまう。
その時、さっと近づいて来たのは、ロイド公爵家の執事長、キリアンさん。
「お待ちしておりました、ララベル様」
いつもと同じ優しい笑顔に、ほっとした。
「今日はよろしくお願いします、キリアンさん」
「公爵様の指示で、今日は、ここで働く者はみな、ララベル様を見守らせていただきます。なにかありましたら、なんなりとお申し付けください」
「ありがとうございます。心強いです!」
お母様の言ったとおりだ……。
ルーファスのご家族だけじゃなくて、キリアンさんをはじめ、このお屋敷で働く方々も見守ってくれている。
感謝の気持ちでいっぱいになって、思わず、うるっときた。
「キリアン、もう、王女が来てるのか?」
ルーファスがジャナ国の護衛の方をちらりと見て、声をおさえて、キリアンさんにたずねた。
「いえ、まだ来られておりません。先に護衛の方がふたりこられ、屋敷内と庭を確認した後、今は、王女様の到着を玄関先で待っているようです」
「わかった。で、第二王子と王子妃は?」
「いえ、そちらもまだ到着されていません」
「まだ? やはり、茶会を主催するどころか、ふり、すらしないのか……」
と、ルーファスがつぶやいた。
キリアンさんに先導されて、お屋敷内に入ろうとしたら、護衛の方々の視線が一気に私に集中した。
射るような鋭い視線で、ものすごく見られている。
やっぱり、緊張する……。
そう思った時、護衛の方の大きな耳が、くいっと私のほうを向いた。
うわ、ふかふかした耳が動いている!
耳だけ見たら、なんだか、かわいい……。
と思ったら、もうひとりは、しっぽが動いている。
しかも、しっぽの先がふさっとしていて、こちらもかわいい!
うん、緊張が一気にとけたわ。
そうなると、自然と笑顔になってしまう。
気が付いたら、ふたりに向かって、声をかけていた。
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」
私の言葉に、驚いたように固まってしまったふたり。
まるで、未知の生き物を見るような目で私を見ている。
が、すぐに、ぴきっとした態度で頭をさげた。
その間も、やたらと耳としっぽが動いている。
私のことを探っているのかな……?
耳としっぽの動きがほほえましくて、思わず、顔がゆるんだ。
そうなると、耳としっぽの持ち主である、ふたりにも親しみがわいてくる。
不審に思われるかもしれないけれど、にまにましつつ、ふたりの前を通り過ぎ、屋敷の中にはいったとたん、ルーファスが小声で言った。
「ララ、知らない男に、簡単に笑いかけないで」
「え……? 何、言ってるの、ルーファス?」
「あのふたり、王女の連れてきた護衛の中でも特に腕のたつふたりなんだ。1週間、一緒にいたけど、獣人のふりをしたサイボーグかと思うくらい無反応だったのに、さっき、ララの笑顔に、完全に目を奪われてたよね。あんな間近で、ララの笑顔を見せたくなかったな」
悔しそうに言ったルーファス。
真顔で何を言っているんだろう、ルーファスは……。
「あのね、ルーファス。あのふたり、いきなり、私が声をかけたから、驚いただけだよ。危険人物かどうか、探っているようだったけれど、目を奪われてはいなかったよ?」
「ないわけないよ、ララ。だって、ララの笑顔は最高だから、目を奪われずにはいられないよ」
「いや、ルーファス……。それ、幼馴染のひいき目だから、他の人の前では絶対に言わないで。恥ずかしくて、私が一瞬で消滅するレベルだからね……。でも、あのひとたち、耳としっぽが動くだけで、一気にかわいく思えるよね」
思い出して、くすっと笑うと、ルーファスが真剣な口調で言った。
「ララ、耳としっぽにまどわされないで。あれは、かわいい動物とはまるで違って、ちっともかわいくない男たちだ。それにね、ララ。知らない男にむやみに笑いかけたらダメだよ。ララのかわいい笑顔に魅了されるからね。特に、獣人の男は警戒して。好きになったら、執念深いからね。ララを好きになって、ララを追いかけまわすに違いないから……」
「ルーファス。何を、ぐちぐちと言っているんだ? それは自分のことだろうが。うっとうしいぞ。なあ、ララちゃん」
と、後ろから声がした。
ふりむくと、ロイド公爵様が立っていた。
615
お気に入りに追加
1,982
あなたにおすすめの小説
竜人の王である夫に運命の番が見つかったので離婚されました。結局再婚いたしますが。
重田いの
恋愛
竜人族は少子化に焦っていた。彼らは卵で産まれるのだが、その卵はなかなか孵化しないのだ。
少子化を食い止める鍵はたったひとつ! 運命の番様である!
番様と番うと、竜人族であっても卵ではなく子供が産まれる。悲劇を回避できるのだ……。
そして今日、王妃ファニアミリアの夫、王レヴニールに運命の番が見つかった。
離婚された王妃が、結局元サヤ再婚するまでのすったもんだのお話。
翼と角としっぽが生えてるタイプの竜人なので苦手な方はお気をつけて~。
君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです
【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
【完結】私の番には飼い主がいる
堀 和三盆
恋愛
獣人には番と呼ばれる、生まれながらに決められた伴侶がどこかにいる。番が番に持つ愛情は深く、出会ったが最後その相手しか愛せない。
私――猫獣人のフルールも幼馴染で同じ猫獣人であるヴァイスが番であることになんとなく気が付いていた。精神と体の成長と共に、少しずつお互いの番としての自覚が芽生え、信頼関係と愛情を同時に育てていくことが出来る幼馴染の番は理想的だと言われている。お互いがお互いだけを愛しながら、選択を間違えることなく人生の多くを共に過ごせるのだから。
だから、わたしもツイていると、幸せになれると思っていた。しかし――全てにおいて『番』が優先される獣人社会。その中で唯一その序列を崩す例外がある。
『飼い主』の存在だ。
獣の本性か、人間としての理性か。獣人は受けた恩を忘れない。特に命を助けられたりすると、恩を返そうと相手に忠誠を尽くす。まるで、騎士が主に剣を捧げるように。命を助けられた獣人は飼い主に忠誠を尽くすのだ。
この世界においての飼い主は番の存在を脅かすことはない。ただし――。ごく稀に前世の記憶を持って産まれてくる獣人がいる。そして、アチラでは飼い主が庇護下にある獣の『番』を選ぶ権限があるのだそうだ。
例え生まれ変わっても。飼い主に忠誠を誓った獣人は飼い主に許可をされないと番えない。
そう。私の番は前世持ち。
そして。
―――『私の番には飼い主がいる』
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる