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おおげさすぎない?

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気がつけば、もう、授業がはじまる時間。

「ちょっと、ルーファス、遅れるよ!」

私のほうがあせって急かすと、ルーファスは「じゃあ、次の休み時間にまたくるね、ララ」と、にっこり微笑んで、さわやかに去っていった。

朝からどっと疲れが……。

「笑顔で威圧して、一瞬でこのクラス全員を掌握するなんて、さすが、ルーファスね……。これで、ララに直接、昨日のことを聞いてくるような猛者はひとりもいないわね……」
と、あきれたようにつぶやいたアイリス。

「あのね、アイリス。確かに、今日のルーファスは変だったけど、あの笑顔は、やっぱり天使だったよ。威圧なんてしてないよ」

私が訂正すると、はあっと大きなため息をついたアイリス。

「ララ。残念ながら、ララ以外で、ルーファスのことを天使だって思っている人は、このクラスにいないわよ。あの男は、全然、天使じゃないからね。さっきのルーファスの笑った顔だって、造形としては美しいけれど、いろいろ内面がもれだしてて、怖さのほうが勝ってるからね。ルーファスを見ていると、美しさって凶器にもなるんだなあと実感するわ……」

「さっきのルーファスの笑顔も無邪気だったよ?」

「視覚まで洗脳されてるのね、ララ……」

悲しそうにアイリスが言ったところで、授業のはじまりの鐘がなった。



次の休み時間、ルーファスはいつも以上に早く教室にやってきた。

アイリスがびっくりしたように、ルーファスに言った。

「早すぎて、こわっ……。どう考えても、授業が終わる前から、こっちに向かわないと、こんなに早く、ここにはこれないわよね……」

「まあ、授業の内容は全部理解してるから、授業にでなくても問題ないし、本当はずっとララのそばにいたいんだけどね。それより、ララ。昨日のパーティーで、僕と離れていた間のことを、くわしく教えてくれる?」

「あ、私も聞きたい。それと、ララ。昨日はララから離れてしまって、本当にごめんなさい」

「あっ、あれは、私が勝手に行動しただけだから。こっちこそ、心配かけてごめんね! みんなに近づかないよう注意されていたのに、結局、王女様にはつかまるし、あの第二王子にまで話しかけられるなんてね。ひとりで、うろうろしたのが失敗だった」

「ううん。私がグレンにまかせて商談にいったから。グレンも、あとでララにあやまりたいって言ってたわ」

「違うよ、アイリス。私がグレンをおいて、化粧室に行っただけだから、グレンはちっとも悪くないからね!」

「いや、僕なら化粧室の前までついていくし、ララが化粧室に入る前に、王宮のメイドを呼び止めて、中を確認してもらうし、化粧室の前でララがでてくるまで待ってるけどね」

「ルーファス……。不満そうに言うけど、さすがに、それをグレンに求めるのは無理だから」

アイリスがあきれたように、ルーファスを見る。

「わかってるよ、アイリス。グレンのせいじゃない。ララが絡まれたのは、全部、僕のせいだ。そもそも、僕が王女の案内を拒んで、ララのそばにいれば良かったんだ。本当にごめんね、ララ。だけど、これからは、絶対に離れないからね、ララ」

ルーファスのサファイア色の瞳が、私をとらえる。
一瞬、すいこまれそうになって、よくわからないまま、うなずきそうになった。

でも、ちょっと待って。 
いくらなんでも、おおげさすぎない?

「あのね、ルーファス。絶対に離れないとか、そこまでしなくてもいいよ」

そう言ったとたん、ルーファスがぐっと顔をよせてきた。
まわりのクラスメイトたちが、ざわめきはじめる。

「ちょっと、近いよ、ルーファス……!」

「ねえ、ララ。僕が、そばにいたら嫌?」

ルーファスのサファイア色の瞳が、悲し気にゆれた。

うっ……。
ルーファスに、こんな、顔をされたら弱い。

「嫌なわけないでしょ! いくらでもそばにいていいよ!」

慌てて言うと、ルーファスが、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。

「ララに受け入れてもらえて良かった」

「あざといわね……。しかも、ララが簡単に言質を取られてる……」
と、アイリスがあきれたようにつぶやいた。


にこにこしたルーファスが、ひっつくように私のそばに寄ってくる。
ものすごく近い……。でも、さっきそばにいていいって言ったもんね……。

ということで、距離感の近さにとまどいつつも、気にしないようにして、私は、昨日のパーティーでのことを思い出しながら、話し始めた。




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