私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

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受けて立つ

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心の中で全力で拒否する私に向かって、国王様が頭をさげた。

はあ!?
驚きすぎて、思わず目をむいてしまった。

「国王様! おやめください!」 

お父様が語気を荒くして止める。
まわりのざわつきが一層大きくなった。

いくら中身が猛獣といえど、見た目はただの小娘。
そんな私に体の大きい国王様が頭をさげている姿は異様としかいいようがない。

さっき、お父様に国王様が頭を下げた時以上のざわめきが、あたりに広がっていく。

こんな沢山の人たちの前で、国王様に頭を下げられるなんて、ある意味、叱られるよりもいたたまれない。
本気でやめてほしいんですけど!?

「ララが困ってますから、やめてください。国王様!」

我慢できなくなったのか、ルーファスが国王様と私の間に入るように立った。

「なら、了承してくれるか? マイリ侯爵令嬢」

そういって頭をあげた国王様。

その時、背後から、「いたいけな令嬢相手に、姑息な手段を使わないでもらえるか、兄上」と、聞きなれた声がした。

振り返ると、ロイド公爵様! 
ルーファスのお父様で、国王様の弟でもある。

「ララちゃん、気にしなくていいからな。兄上は命令するよりそっちのほうが有効だと思った相手には、息をするように頭を下げられる。兄上にとって、頭を下げることなど、単なる手段でしかない」

そういって、国王様をあきれたように見たロイド公爵様。
国王様がバツの悪そうな顔をした。

「ハハッ。マクシミリアンにはかなわんな……。だが、親として、マイリ侯爵令嬢に頼りたい気持ちは本当だ。なんとか、茶会に参加してもらえないだろうか?」

遠巻きに見る人たちの好奇心に満ちた視線が、痛いほど突き刺さってくる。
ここで長引けば長引くほど、妙な噂が流れそうな雰囲気だ。

今すぐ、ここをでて帰りたいけど、どうしたらいいんだろう……。
お父様も国王様がすぐに頭をさげるためか、何を口にしていいか考えている様子。

それぞれの思いが入り混じった沈黙をやぶったのは、ロイド公爵様だった。

「おおまかな話は聞いた。ガイガーがそれほど茶会を開きたいのなら、茶会の場所として我が屋敷を提供することにしよう。主催をアンヌ妃にしたらいい。わが屋敷なら、ララベル嬢も安心して参加できるだろうしな」

ルーファスが、鋭い視線をロイド公爵様に向けた。

「父上! なんでララが王子妃の茶会に参加しないといけないんですか!?」

「まあ、落ち着け、ルーファス。こう見えて、兄上はしつこい。最後は結局、王命を使ってでも思うようにするだろう。なら、これ以上ここでもめて、皆の好奇の目にさらされることは、ララちゃんのためにならない。我が屋敷なら、ララちゃんにとったら自分の家も同然だから、ガイガーの屋敷より安心できるだろう。なあ、マイリ侯爵」

そう言って、お父様に顔をむけたロイド公爵様。
お父様は少し考えたあと、ロイド公爵様に向かってうなずいた。

「ロイド公爵様のお屋敷の茶会であれば、私も安心です」

「おお、そうか! それならば、マクシミリアンの屋敷で茶会を開かせてもらえ、ガイガー!」

国王様が嬉しそうに言うと、何故だか、第二王子が慌てた様子で反論した。

「それはダメです! 叔父上の屋敷ではなく、茶会は私の屋敷で執り行いたいんです!」

かたくなに嫌がるその態度がこれまたひっかかる……。
自分の屋敷でないとダメな理由って一体なに?
なんだか胡散臭さが満載だわ……。

「何故、そこにこだわる、ガイガー? はっきり言うが、貴族と交流してこなかったアンヌ妃がいきなり茶会を開くのは難しいぞ。私の屋敷であれば、レーナがいるから手伝える。もちろん、主催はアンヌ妃にしたらいい。それになにより、マイリ侯爵は安心できる場所でしか、ララベル嬢を参加させないと言っている。悪いが、ガイガーの屋敷では安心できないのも仕方がないだろう。私にとっても、ララベル嬢は娘同然。マイリ侯爵の気持ちはよくわかる」

「ですが、それだと……」

そう言いかけて、第二王子がぐっと言葉をのみこんだ。

「ガイガー、何が不満だ? マクシミリアンの提案は願ってもない。それに、マクシミリアンの言うとおり、いきなり、アンヌだけで茶会は無理だろう。レーナさんに手伝ってもらいなさい。頼めるか、レーナさん?」

「喜んで、お手伝いさせていただきます」
と、優雅な声が横からした。

いつの間にか、ルーファスのお母様で公爵夫人のレーナおばさまが私のすぐ傍に立っていた。
その隣にはお母様もいる。

レーナおばさまが私に、小声でささやいた。

「ララちゃん、大丈夫よ。うちの屋敷なら守れるから」

ロイド公爵様も私の顔を見て安心させるように微笑んだ。

いつのまにか、私はルーファス、お父様、お母様、レーナおばさまとロイド公爵様に囲まれている状態になっていた。
ほっとしたら、なんだか体の力がぬけた。

天敵の第二王子や、なにやら敵意まるだしの王女様に、ひとりで立ち向かわなくてもいいんだ。

だったら、茶会だろうとなんだろうと受けて立とう。
なにを企んでいるかわからないけれど、逃げたと思われたら悔しいからね。




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