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気合を入れて

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「いやあ、これで、アンヌが変わってくれたらすべて上手くいくんだがな。ガイガー、皆に感謝し、しっかり茶会を成功させよ」
と、国王様が第二王子に命じるように言った。

「父上。それなら、わが屋敷にロイド公爵夫人に来ていただいて、アンヌを手伝ってもらうということでは……」
と、第二王子がくいさがる。

「くどいぞ、ガイガー! おまえの屋敷にこだわる必要はないではないか。マクシミリアンの申し出を有難く思え! 
だいたい、アンヌがああなったのは、おまえが頼りないせいだ。あんなに大騒ぎして皆に迷惑をかけて、一緒になった番だろうに。しっかりせんか!」

国王様が声を荒げた。
第二王子が悔しそうに唇をかむ。
どろどろとした澱んだ気みたいなものが、第二王子から発せられているのが見えるよう。

それにしても、ここまで自分の屋敷で茶会をひらくことにこだわるなんて、そこにおびきよせることに意味があるってこと……?
しかも、私を招こうとするのは、なんらか私を利用しようとしてるってことだよね。

何か企んでるとして、ルーファスのお屋敷に場所が変わっても、その企みを続行できるのかな……?
いや、無理か。だって、ルーファスのお屋敷は守りは万全だろうし。

それと、気になるのは、王子妃が一体どういう考えなのかということ。
もし、第二王子と王女様が何か企んでいたとしたら、王子妃もその仲間ってことなのか、それとも、全く知らされていないのか……。
普通に考えたら、王子妃教育を途中でやめ、ずっとひきこもっていた王子妃が、いくら王女に謝りたいからって、いきなりお茶会を開こうとするなんておかしな感じがする。

あと、もしも、そのよからぬたくらみのターゲットが私なら、万が一にも、レーナおばさまやロイド公爵様やルーファスに迷惑をかけたくない。

ルーファスのご家族に甘えて、みんなに守られているだけじゃ、いくらなんでも不甲斐ない。
しっかり目を見開いて、第二王子たちが不穏な行動をしようとしたら私が阻止しないと!

私の天敵、第二王子のことは本当は視界にも入れたくないけれど、お茶会の日は絶対に目をそらさない! 全身が拒否しようが、そこは根性で、目を見開いて、ずっと監視し続ける!
それと、当日はもしものことを考えて、武器になりそうな、できるだけ、とがった靴をはいていくことにしよう。

そう気合を入れていたら、王女様がフフと楽しそうに笑った。

「それなら、お茶会はルーファスの住むお屋敷に招いていただけるんですね! それはとっても楽しみですわ!」

「マクシミリアンの屋敷は美しいからな。王女も満足していただけるだろう」

王女様の言葉に、満足そうに答える国王様。

が、何故か、驚いた顔で、何か言いたそうに王女様を見る第二王子。

「どうしたのだ、ガイガー?」

ロイド公爵様が、すかさず第二王子に聞いた。

「あ……いえ……」

そういって口ごもったまま、目で何かを訴えるように、王女様を見続ける第二王子。

「あら、ガイガー王子、気分を害されたの? でも、しょうがないわよね。この一週間、ルーファスに本当によくしてもらったもの。ルーファスの住むお屋敷に招かれるほうが、ガイガー王子のお屋敷に招かれるよりずっと興味があるもの」

冗談っぽく言って、美しい笑みを浮かべた王女様。

「ハハッ、それはそうだろうな。頼りないガイガーより、ルーファスのほうがいい男だしな」

国王様が上機嫌で王女様に返す。

すると、王女様は第二王子に視線を合わせて、言い含めるように言った。

「ガイガー王子、心配しなくても大丈夫よ。場所はどこであっても、ガイガー王子の望まれるお茶会を開くことは可能だわ」

「……ああ、そうか……。そうだな……」
王女様の言葉にはっとしたように、そう答えた第二王子。
どこか安心したような顔をしている。

私の頭の中のアラームがビービーと鳴った。
やっぱり、どう考えても、このふたり怪しい! 

気がついたら、私は王女様に面と向かって声にだして疑問をぶつけていた。

「王女様。今言われた、望まれるお茶会とはどのようなお茶会のことなんでしょうか?」

「まあ、ララベルさん。そんなこと、決まってるじゃない。ガイガー王子の望まれるお茶会とは、招待したみなさんに喜んでもらえるお茶会よ。ねえ、ガイガー王子」

「ああ、もちろんだ」

そう答えると、ほの暗い笑みを浮かべて私を見た第二王子。
すぐに、第二王子の視線から私を隠すように体をずらしたルーファス。

「そうだぞ、ガイガー。王女をはじめ、招待した皆を喜ばせる茶会を開くよう、しっかりアンヌを支えよ。では、マイリ侯爵令嬢、無理を言うが参加してやってくれ。それと、レーナさん。アンヌを頼む」

そう言うと、国王様は王女様に向かって手をさしだした。

「では、王女。王族の席に食事を用意しておる。王妃が待っておるから、そこまでエスコートしてもよいだろうか?」

「まあ、光栄ですわ、国王様」

あでやかな笑みを浮かべて、国王様の手をとった王女様。
そうして、ふたりが立ち去り、第二王子もそのあとをついて王族の席へと戻っていった。

とりあえず、魔のような時間が終わり、私は大きく息をはいた。
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