私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

文字の大きさ
上 下
15 / 96

王宮へ

しおりを挟む
その日の夕食、お父様が渋い口調で言った。

「急なんだが、今週末に王宮でパーティーがある。今回はララにも行ってもらうことになる」

「え、私も?」

びっくりして聞き返した。

お父様とお母様がパーティーに行くことはよくあるけれど、私は滅多にない。
というのも、両親が、私にはまだ早いから行かなくていいと招待状がきても断ることが多いから。
私も特に行きたいとも思わないし。

「実は今、ジャナ国の王女様が来られてる。そのことは知ってるか?」

「うん。ルーファスから聞いたけど」

「ああ、そうか。今、ルーファス君が、案内をさせられているからな。ジャナ国の王女様は純血の竜の獣人。もし、何かあったら対応できるのは、竜の獣人しかいない。当初は王女様と面識がある第二王子が案内をする予定だったが、王子妃が、未婚の王女様を案内するのは絶対にやめてほしいと嫌がってな」

「あ! アイリスが、第二王子からルーファスに案内がかわったのは、王子妃が関係してるかってルーファスに聞いたのは、このことだったんだ! さすがは、アイリス! どんぴしゃであててる!」

「ほお……。あの王子妃は近頃は公にはでてこないし、王家も情報を隠しているようだが、よくわかったな。さすがは、リンド子爵の自慢の娘さんだ」

「そうでしょ! そうでしょ! アイリスはね、頭もいいし、優しいし、かっこいいし、いろんなこと知ってるし……とにかく、色々すごいんだから!」

褒めたい気持ちがあふれでて、言葉で言い表せない! もどかしい!
そんな私を見て、笑いながらお母様もうなずいた。

「アイリスちゃんは多才よね。センスもいいから、アイリスちゃんの意見で採用されたっていうリンド商会の商品はどれも人気だものね。アイリスちゃんなら、リンド商会は安泰ね」

お母様がアイリスをほめると自分事のように誇らしくて、にまにましてしまう。が、さっきお父様が言った王子妃のことを思い出したとたん、もやもやした気持ちに変わった。

「王子妃が嫌だって言ったからルーファスに変わったって、お父様は言ったけど、そんなことが通るのは、番だからってこと……?」

「ああ、そうだ。獣人でない私からしてみれば、全く納得いかん理由だが、番だからしょうがないと王も認められた。他国の王女を案内するのは公務だ。王子妃がいちいち嫉妬してどうする。なら、王子妃と一緒に案内すればいいだろうと提案しても、王子妃はそれも拒否したそうだ。第二王子は普段からたいして役に立たな……いや、仕事が少なめなのに、こんな時くらい役立って欲しかったが……」

「あなた、第二王子の話はそのくらいに。ララをあおらないで」

お母様がとめたけれど、もう遅い。

「つ・ま・り、第二王子だけじゃなくて、あの王子妃も一緒にルーファスに迷惑をかけてるのね! やっぱり、番って最悪だわ!」

「確かに、今回のことはルーファス君に一番迷惑がかかったな。急な変更で色々大変だったろうと思う。結果的には、ルーファス君の案内で王女様は大変喜んでおられるらしい。それで、今週末は、その王女様のためにパーティーを急遽開くことになった。女王様の訪問は公にしないていなかったから、王族との晩餐会だけで歓迎のパーティーとかはする予定はなかったんだ。だが、王女様がルーファス君に親しみをもったせいかもしれんが、ルーファス君と同じ学園に通う貴族の子女に会ってみたいと言い出したんだ。だから、ララにも声がかかった。ララを行かせるのは本当は気が進まないんだがな……」

「なんで? 同じ学園だったら、アイリスもくるだろうし、知ってる人も多いよ」

「ああ、そうだろうな。だが、ララは私たちからあまり離れないように」

「お父様……。私、小さい子どもじゃないんだから、大丈夫だよ」

私があきれて言うと、お父様は首を横にふった。

「いや、ダメだ。ジャナ国は獣人だけの国。我が国の獣人とはちがって、みな、純血だ。どんな能力があるかわからない。特に私たちは獣人じゃないからな。それと、ララ。王女様の近くにルーファス君がいても、近づいていったらダメだぞ」

その後も、過保護なお父様から、事細かい注意事項が沢山あり、聞くだけで疲れてしまった。


 ◇ ◇ ◇ 


そして、パーティー当日。

「お嬢様を飾りたてられるのは、腕がなりますわ!」
と、はりきるのは、私を小さいころから面倒みてくれているメイドのルビー。

お母様を中心に、ルビーと他のメイドたちも一緒になって、わいわいと私を磨き上げていく。

「くれぐれも地味に。ララはただでさえ可愛いんだ。変なのに目をつけられないよう地味にな」
とは、お父様。

ほんと恥ずかしすぎる!
お父様は大好きだけれど、こういう親バカ全開で発言するのだけはやめてほしい。

まあ、でも、そんなお父様もお母様には適わない。

「わざわざ、ララの魅力を消すような装いを、この私がさせるわけないでしょ? ちゃんとその場にあった、ララに似合う装いにさせますから、あなたは黙ってて」
と、お母様に一瞬で黙らされていた。

結局、私の瞳の色にあわせて、淡いブルーのドレスを着せられた私。
金色の長い髪はおろしたままがいいという皆の意見で、水色の小さな宝石アクアマリンがうめこまれた花の形をした髪留めをつけることになった。

この髪留めは、ライナ国に住むおばあ様からいただいた私の宝物。
とても大事にしているから、滅多に使わないけれど、使う時はいつも幸せな気持ちになる。

こうして、お父様とお母様と私は馬車にのり、王宮に向かって出発した。


 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

今日、大好きな婚約者の心を奪われます 【完結済み】

皇 翼
恋愛
昔から、自分や自分の周りについての未来を視てしまう公爵令嬢である少女・ヴィオレッタ。 彼女はある日、ウィステリア王国の第一王子にして大好きな婚約者であるアシュレイが隣国の王女に恋に落ちるという未来を視てしまう。 その日から少女は変わることを決意した。将来、大好きな彼の邪魔をしてしまう位なら、潔く身を引ける女性になろうと。 なろうで投稿している方に話が追いついたら、投稿頻度は下がります。 プロローグはヴィオレッタ視点、act.1は三人称、act.2はアシュレイ視点、act.3はヴィオレッタ視点となります。 繋がりのある作品:「先読みの姫巫女ですが、力を失ったので職を辞したいと思います」 URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/496593841/690369074

貴方誰ですか?〜婚約者が10年ぶりに帰ってきました〜

なーさ
恋愛
侯爵令嬢のアーニャ。だが彼女ももう23歳。結婚適齢期も過ぎた彼女だが婚約者がいた。その名も伯爵令息のナトリ。彼が16歳、アーニャが13歳のあの日。戦争に行ってから10年。戦争に行ったまま帰ってこない。毎月送ると言っていた手紙も旅立ってから送られてくることはないし相手の家からも、もう忘れていいと言われている。もう潮時だろうと婚約破棄し、各家族円満の婚約解消。そして王宮で働き出したアーニャ。一年後ナトリは英雄となり帰ってくる。しかしアーニャはナトリのことを忘れてしまっている…!

『完結』番に捧げる愛の詩

灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。 ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。 そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。 番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。 以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。 ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。 これまでの作風とは違います。 他サイトでも掲載しています。

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

処理中です...