私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

文字の大きさ
上 下
14 / 90

聞いていい?

しおりを挟む
グレンに正論で注意され、さすがのモリナさんも気まずそう。
そのまま退散してほしい……。と思ったら、今度は、一気に早口でしゃべりはじめた。

「とにかく、私が言いたいのは、ルーファス様もそろそろ番に気づかれる時がくるってことよ。竜の獣人は番が出会える範囲内にいることが基本。遠い他国にいるなんてありえない。だから、王女様ではないわ! それに、ルーファス様は竜の血が強いでしょうから、番は絶対に同じ竜の獣人に決まってる。だから、この国で竜の獣人で年頃がちょうどで、血筋もふわさわしく、すべてに似合うのは私しかいないでしょう? 小さいころ、初めてお会いした時から、私が強くひかれてしまったのもルーファス様の番は私だって証拠よ!」

番、番、番って……。
私の嫌いな言葉が連呼されて、だんだん、むかむかしてきたわ。

「ちょっと、モリナさん! あなたが番だなんてわからないわよね? 私だって、ルーファス様にすごくひかれてるもの。竜の獣人の番が獣人というのは納得だけれど、竜の獣人である必要はないと思うわ!」

文句を言うコルネさん。

「竜の獣人は特別だもの! ほら、ずっとまえ、第二王子様が結婚式当日に運命的に番に出会われた時があったでしょう? 平民のメイドの女性が番だったけれど、うっすら竜の獣人の血が流れていたらしいもの」

なにが運命的ですって……!?
番どころか、私の天敵の話までだすとは!

うん、靴がぬぎたい。
ちょっとくらい投げつけてもいいんじゃないかしら?

私の気持ちを察したアイリスがささいてきた。

「ダメよ、ララ。ララの素敵な靴がもったいないから、やめときなさい。それに、今、に靴をなげつけたところで、あの時の悔しい気持ちはすっきりしないわよ」

うっ……。それはそうなんだよね。


結局、私たちそっちのけで、ふたりの言い争いはヒートアップしていく。

「ちょっと、竜の獣人だからって、うさぎの獣人である私を馬鹿にしてるの?」
「馬鹿にはしてないけど、序列はあるわよね。竜の獣人は獣人のトップだもの!」
「竜の獣人っていっても、なんの特徴もないくらい、血がうすいくせに」
「は? 例え血がうすくても、私は竜の獣人。血が濃いうさぎの獣人よりは、ずっと上よ!」
「なんですって!」

こうして、ふたりは、お互いをののしりあいながら立ち去っていった。


「はあー、本当に迷惑なふたりよね。グレン、ふたりのララへの暴言、しっかりもらさず書いて、ルーファスに報告しといて」

「うん、まかせといて。ルーファス、怒るだろうね」
と、にこにこしながらグレンが言った。

「いや、ルーファスは怒らないけど、私が第二王子の話を聞いたと知ったら心配するだろうから、さっきのは書かなくてもいいよ」

私の言葉に、アイリスがまたもや、はーっと大きなため息をついた。

「ララ。あの男は怒るわよ。間違いなく」

ルーファスが怒る? 想像してみる。想像してみる。

「……想像できない」

「洗脳が深いわ……。ねえ、ララ。ちょっと聞きたいことがあるけど、嫌だったら答えなくていいから」
と、ふいに真面目な顔で言ったアイリス。

改まって、なんだろうと思いながら、うなずいてみせる。

「もし、ルーファスに番が現れたら、ララはどうする?」

「え……?」

「あ、ごめん。さっきの迷惑な人たちの話でちょっと気になって。もちろん、竜の獣人の番は竜の獣人だ、とか、都合のいいように思い込んでるところはあるけれど、ルーファスは確かに、竜の獣人の血が濃い。だから、番が現れる可能性が高いのは本当だから」

「あ、そうか……。そうだよね……。わかってたんだけど、考えないようにしてたみたい……。さっき、モリナさんが18歳までに竜の獣人は番に気づくって言ってたけど、そうなると、あと少しか……」

自分の声が一気に沈む。

「ごめん、ララ、嫌なこと言って……」

「あ、ううん。アイリスなら大丈夫。でも、そうだね……実際、そうなったら、どうなんだろう。やっぱり、すごく寂しいと思う。番が現れたら、あまり会えなくなるんでしょ?」

「まあ、一般的には番にべったりになるからね」

「ルーファスとは小さいころから一緒だったから、ずっと会えないって考えられないんだよね……。でも、それよりも、ずっと怖いのは、ルーファスが変わってしまうことかも」

「ルーファスが変わる?」

「うん。あの第二王子みたいに、番に会ったとたん、番しか見えなくなって、一瞬で全てを手放してしまうかもしれない。そうなったら、私たち4人で過ごした思い出も全部捨てるのかなって……。第二王子のときは、怒りしかわいてこなかったけど、もし、ルーファスがそうなったらと考えると、怖くてたまらないんだよね……」

「僕は番のことは全然わからないけど、ルーファスがそうならないことだけはわかるよ。だから、安心して、ララ」
と、グレンがにっこり微笑んだ。

その笑顔に心の中のもやもやとした黒いものが、すっと消えた。

「グレンのおかげで、なんか安心した! ぐちぐち悩んでもしょうがないよね。私も覚悟を決める! もしも、ルーファスが番と出会って、その番もいいひとで、みんなに迷惑をかけるようなこともせず、ちゃんとふたりで心の絆を育んでいけるようなら、私はルーファス離れをする。すごく寂しくなるし、沢山泣いてしまうだろうけれど、ちゃんと祝福する!」

「え、ララ……? なんで、急に、その覚悟……? あ、グレン。この会話、ルーファスに絶対に報告しないでよ。私、殺されるから……」

あわてた様子のアイリス。
 
「でも、もしも、ルーファスが第二王子みたいになったら、今度こそ、靴をなげつけるわ! もちろん、怒りのためじゃなく、番の呪いからといて正気に戻すために」
と、私は力強く宣言した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そういうとこだぞ

あとさん♪
恋愛
「そういえば、なぜオフィーリアが出迎えない? オフィーリアはどうした?」  ウィリアムが宮廷で宰相たちと激論を交わし、心身ともに疲れ果ててシャーウッド公爵家に帰ったとき。  いつもなら出迎えるはずの妻がいない。 「公爵閣下。奥さまはご不在です。ここ一週間ほど」 「――は?」  ウィリアムは元老院議員だ。彼が王宮で忙しく働いている間、公爵家を守るのは公爵夫人たるオフィーリアの役目である。主人のウィリアムに断りもなく出かけるとはいかがなものか。それも、息子を連れてなど……。 これは、どこにでもいる普通の貴族夫婦のお話。 彼らの選んだ未来。 ※設定はゆるんゆるん。 ※作者独自のなんちゃってご都合主義異世界だとご了承ください。 ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

誰も残らなかった物語

悠十
恋愛
 アリシアはこの国の王太子の婚約者である。  しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。  そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。  アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。 「嗚呼、可哀そうに……」  彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。  その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

処理中です...