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聞いていい?
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グレンに正論で注意され、さすがのモリナさんも気まずそう。
そのまま退散してほしい……。と思ったら、今度は、一気に早口でしゃべりはじめた。
「とにかく、私が言いたいのは、ルーファス様もそろそろ番に気づかれる時がくるってことよ。竜の獣人は番が出会える範囲内にいることが基本。遠い他国にいるなんてありえない。だから、王女様ではないわ! それに、ルーファス様は竜の血が強いでしょうから、番は絶対に同じ竜の獣人に決まってる。だから、この国で竜の獣人で年頃がちょうどで、血筋もふわさわしく、すべてに似合うのは私しかいないでしょう? 小さいころ、初めてお会いした時から、私が強くひかれてしまったのもルーファス様の番は私だって証拠よ!」
番、番、番って……。
私の嫌いな言葉が連呼されて、だんだん、むかむかしてきたわ。
「ちょっと、モリナさん! あなたが番だなんてわからないわよね? 私だって、ルーファス様にすごくひかれてるもの。竜の獣人の番が獣人というのは納得だけれど、竜の獣人である必要はないと思うわ!」
文句を言うコルネさん。
「竜の獣人は特別だもの! ほら、ずっとまえ、第二王子様が結婚式当日に運命的に番に出会われた時があったでしょう? 平民のメイドの女性が番だったけれど、うっすら竜の獣人の血が流れていたらしいもの」
なにが運命的ですって……!?
番どころか、私の天敵の話までだすとは!
うん、靴がぬぎたい。
ちょっとくらい投げつけてもいいんじゃないかしら?
私の気持ちを察したアイリスがささいてきた。
「ダメよ、ララ。ララの素敵な靴がもったいないから、やめときなさい。それに、今、これに靴をなげつけたところで、あの時の悔しい気持ちはすっきりしないわよ」
うっ……。それはそうなんだよね。
結局、私たちそっちのけで、ふたりの言い争いはヒートアップしていく。
「ちょっと、竜の獣人だからって、うさぎの獣人である私を馬鹿にしてるの?」
「馬鹿にはしてないけど、序列はあるわよね。竜の獣人は獣人のトップだもの!」
「竜の獣人っていっても、なんの特徴もないくらい、血がうすいくせに」
「は? 例え血がうすくても、私は竜の獣人。血が濃いうさぎの獣人よりは、ずっと上よ!」
「なんですって!」
こうして、ふたりは、お互いをののしりあいながら立ち去っていった。
「はあー、本当に迷惑なふたりよね。グレン、ふたりのララへの暴言、しっかりもらさず書いて、ルーファスに報告しといて」
「うん、まかせといて。ルーファス、怒るだろうね」
と、にこにこしながらグレンが言った。
「いや、ルーファスは怒らないけど、私が第二王子の話を聞いたと知ったら心配するだろうから、さっきのは書かなくてもいいよ」
私の言葉に、アイリスがまたもや、はーっと大きなため息をついた。
「ララ。あの男は怒るわよ。間違いなく」
ルーファスが怒る? 想像してみる。想像してみる。
「……想像できない」
「洗脳が深いわ……。ねえ、ララ。ちょっと聞きたいことがあるけど、嫌だったら答えなくていいから」
と、ふいに真面目な顔で言ったアイリス。
改まって、なんだろうと思いながら、うなずいてみせる。
「もし、ルーファスに番が現れたら、ララはどうする?」
「え……?」
「あ、ごめん。さっきの迷惑な人たちの話でちょっと気になって。もちろん、竜の獣人の番は竜の獣人だ、とか、都合のいいように思い込んでるところはあるけれど、ルーファスは確かに、竜の獣人の血が濃い。だから、番が現れる可能性が高いのは本当だから」
「あ、そうか……。そうだよね……。わかってたんだけど、考えないようにしてたみたい……。さっき、モリナさんが18歳までに竜の獣人は番に気づくって言ってたけど、そうなると、あと少しか……」
自分の声が一気に沈む。
「ごめん、ララ、嫌なこと言って……」
「あ、ううん。アイリスなら大丈夫。でも、そうだね……実際、そうなったら、どうなんだろう。やっぱり、すごく寂しいと思う。番が現れたら、あまり会えなくなるんでしょ?」
「まあ、一般的には番にべったりになるからね」
「ルーファスとは小さいころから一緒だったから、ずっと会えないって考えられないんだよね……。でも、それよりも、ずっと怖いのは、ルーファスが変わってしまうことかも」
「ルーファスが変わる?」
「うん。あの第二王子みたいに、番に会ったとたん、番しか見えなくなって、一瞬で全てを手放してしまうかもしれない。そうなったら、私たち4人で過ごした思い出も全部捨てるのかなって……。第二王子のときは、怒りしかわいてこなかったけど、もし、ルーファスがそうなったらと考えると、怖くてたまらないんだよね……」
「僕は番のことは全然わからないけど、ルーファスがそうならないことだけはわかるよ。だから、安心して、ララ」
と、グレンがにっこり微笑んだ。
その笑顔に心の中のもやもやとした黒いものが、すっと消えた。
「グレンのおかげで、なんか安心した! ぐちぐち悩んでもしょうがないよね。私も覚悟を決める! もしも、ルーファスが番と出会って、その番もいいひとで、みんなに迷惑をかけるようなこともせず、ちゃんとふたりで心の絆を育んでいけるようなら、私はルーファス離れをする。すごく寂しくなるし、沢山泣いてしまうだろうけれど、ちゃんと祝福する!」
「え、ララ……? なんで、急に、その覚悟……? あ、グレン。この会話、ルーファスに絶対に報告しないでよ。私、殺されるから……」
あわてた様子のアイリス。
「でも、もしも、ルーファスが第二王子みたいになったら、今度こそ、靴をなげつけるわ! もちろん、怒りのためじゃなく、番の呪いからといて正気に戻すために」
と、私は力強く宣言した。
そのまま退散してほしい……。と思ったら、今度は、一気に早口でしゃべりはじめた。
「とにかく、私が言いたいのは、ルーファス様もそろそろ番に気づかれる時がくるってことよ。竜の獣人は番が出会える範囲内にいることが基本。遠い他国にいるなんてありえない。だから、王女様ではないわ! それに、ルーファス様は竜の血が強いでしょうから、番は絶対に同じ竜の獣人に決まってる。だから、この国で竜の獣人で年頃がちょうどで、血筋もふわさわしく、すべてに似合うのは私しかいないでしょう? 小さいころ、初めてお会いした時から、私が強くひかれてしまったのもルーファス様の番は私だって証拠よ!」
番、番、番って……。
私の嫌いな言葉が連呼されて、だんだん、むかむかしてきたわ。
「ちょっと、モリナさん! あなたが番だなんてわからないわよね? 私だって、ルーファス様にすごくひかれてるもの。竜の獣人の番が獣人というのは納得だけれど、竜の獣人である必要はないと思うわ!」
文句を言うコルネさん。
「竜の獣人は特別だもの! ほら、ずっとまえ、第二王子様が結婚式当日に運命的に番に出会われた時があったでしょう? 平民のメイドの女性が番だったけれど、うっすら竜の獣人の血が流れていたらしいもの」
なにが運命的ですって……!?
番どころか、私の天敵の話までだすとは!
うん、靴がぬぎたい。
ちょっとくらい投げつけてもいいんじゃないかしら?
私の気持ちを察したアイリスがささいてきた。
「ダメよ、ララ。ララの素敵な靴がもったいないから、やめときなさい。それに、今、これに靴をなげつけたところで、あの時の悔しい気持ちはすっきりしないわよ」
うっ……。それはそうなんだよね。
結局、私たちそっちのけで、ふたりの言い争いはヒートアップしていく。
「ちょっと、竜の獣人だからって、うさぎの獣人である私を馬鹿にしてるの?」
「馬鹿にはしてないけど、序列はあるわよね。竜の獣人は獣人のトップだもの!」
「竜の獣人っていっても、なんの特徴もないくらい、血がうすいくせに」
「は? 例え血がうすくても、私は竜の獣人。血が濃いうさぎの獣人よりは、ずっと上よ!」
「なんですって!」
こうして、ふたりは、お互いをののしりあいながら立ち去っていった。
「はあー、本当に迷惑なふたりよね。グレン、ふたりのララへの暴言、しっかりもらさず書いて、ルーファスに報告しといて」
「うん、まかせといて。ルーファス、怒るだろうね」
と、にこにこしながらグレンが言った。
「いや、ルーファスは怒らないけど、私が第二王子の話を聞いたと知ったら心配するだろうから、さっきのは書かなくてもいいよ」
私の言葉に、アイリスがまたもや、はーっと大きなため息をついた。
「ララ。あの男は怒るわよ。間違いなく」
ルーファスが怒る? 想像してみる。想像してみる。
「……想像できない」
「洗脳が深いわ……。ねえ、ララ。ちょっと聞きたいことがあるけど、嫌だったら答えなくていいから」
と、ふいに真面目な顔で言ったアイリス。
改まって、なんだろうと思いながら、うなずいてみせる。
「もし、ルーファスに番が現れたら、ララはどうする?」
「え……?」
「あ、ごめん。さっきの迷惑な人たちの話でちょっと気になって。もちろん、竜の獣人の番は竜の獣人だ、とか、都合のいいように思い込んでるところはあるけれど、ルーファスは確かに、竜の獣人の血が濃い。だから、番が現れる可能性が高いのは本当だから」
「あ、そうか……。そうだよね……。わかってたんだけど、考えないようにしてたみたい……。さっき、モリナさんが18歳までに竜の獣人は番に気づくって言ってたけど、そうなると、あと少しか……」
自分の声が一気に沈む。
「ごめん、ララ、嫌なこと言って……」
「あ、ううん。アイリスなら大丈夫。でも、そうだね……実際、そうなったら、どうなんだろう。やっぱり、すごく寂しいと思う。番が現れたら、あまり会えなくなるんでしょ?」
「まあ、一般的には番にべったりになるからね」
「ルーファスとは小さいころから一緒だったから、ずっと会えないって考えられないんだよね……。でも、それよりも、ずっと怖いのは、ルーファスが変わってしまうことかも」
「ルーファスが変わる?」
「うん。あの第二王子みたいに、番に会ったとたん、番しか見えなくなって、一瞬で全てを手放してしまうかもしれない。そうなったら、私たち4人で過ごした思い出も全部捨てるのかなって……。第二王子のときは、怒りしかわいてこなかったけど、もし、ルーファスがそうなったらと考えると、怖くてたまらないんだよね……」
「僕は番のことは全然わからないけど、ルーファスがそうならないことだけはわかるよ。だから、安心して、ララ」
と、グレンがにっこり微笑んだ。
その笑顔に心の中のもやもやとした黒いものが、すっと消えた。
「グレンのおかげで、なんか安心した! ぐちぐち悩んでもしょうがないよね。私も覚悟を決める! もしも、ルーファスが番と出会って、その番もいいひとで、みんなに迷惑をかけるようなこともせず、ちゃんとふたりで心の絆を育んでいけるようなら、私はルーファス離れをする。すごく寂しくなるし、沢山泣いてしまうだろうけれど、ちゃんと祝福する!」
「え、ララ……? なんで、急に、その覚悟……? あ、グレン。この会話、ルーファスに絶対に報告しないでよ。私、殺されるから……」
あわてた様子のアイリス。
「でも、もしも、ルーファスが第二王子みたいになったら、今度こそ、靴をなげつけるわ! もちろん、怒りのためじゃなく、番の呪いからといて正気に戻すために」
と、私は力強く宣言した。
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