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「おはようございます、クロヴィス様」
「! フルール!!」
私を見た途端、クロヴィス様がぎょっとしたように目を見開いた。そして自身の体に目を遣り、縛られていることに気づくと顔を青ざめさせた。
「フルール! これはどういうことだ! 昨日俺に何も言わないで会場から帰ってしまったと思ったら、急に何を……! この縄は君がやったのか!?」
「ええ。だってクロヴィス様、こうでもしないと私のお願いを聞いてくださらないと思ったんですもの」
「お願い……? お願いってなんだ? 人を縛り付けてまでしなければならない頼みなのか」
クロヴィス様は警戒した顔つきで言う。
「実はクロヴィス様にこれを飲んで欲しいのですわ」
「なんだそれは……?」
クロヴィス様の顔の警戒の色が一層濃くなる。私は昨日会った魔術師のように、口をにんまり歪ませて笑った。
「これは惚れ薬です」
「はぁ!?」
クロヴィスが目を見開いて、私の手の上の小瓶を凝視した。
「おい、まさかそれを俺に飲ませる気じゃないだろうな」
「せっかくクロヴィス様がお屋敷を出て騎士団の訓練場に向かわれるところを攫って来て拘束したのですよ。飲ませないわけないじゃないですか。あ、騎士団にはちゃんと今日はクロヴィス様は遅れますと連絡を入れてあるので心配なさらないでくださいね」
「何勝手なことしてるんだ! やめろよ、俺は絶対飲まないからな!!」
クロヴィス様はそう言うと、口をぎゅっと引き結んでそっぽを向いた。
ああ、なんて可愛い仕草……!
子供っぽい表情をする彼の顔に見惚れながらも、私は小瓶の蓋を開ける。そして、クロヴィス様の顎を掴んで上を向かせ、口元に近づけた。
「クロヴィス様、私いつも寂しかったですわ。クロヴィス様は全然私のことを見てくれないんですもの。でも、これで私たちやっと両想いになれますね」
「何が両想いだ。そんな薬で俺の心を操ったって……」
クロヴィス様はこちらを睨みながら文句を言っている。
クロヴィス様に罵られるのは悪くない気分だけれど、今日は一刻も早く惚れ薬を飲んでもらいたかったので、口を塞ぐように小瓶の中の液体を流し込んだ。
「ぐ……っ、ごほっ」
液体を流し込まれたクロヴィス様は苦しそうに咳き込む。私は少し申し訳なくなりながらもその様子を見守った。
咳き込んでいたクロヴィス様が、突然顔を俯ける。それから体から力が抜けたように動かなくなってしまった。
大丈夫なのかしらと慌てて近づくと、クロヴィス様はぱっと顔をあげる。
「……フルール……」
私を見上げるクロヴィス様の目には、今までとは違う熱が宿っているような気がした。心なしか彼の顔が恍惚として見える。
これは、薬が効いたのだろうか。
思わず言葉に詰まる私に、クロヴィス様はかすれた声で言う。
「フルール、縄を解いてくれないか」
「え? は、はい……!」
妙に落ち着いた声で頼まれ、私は薬の効果も確認しないうちに、無意識にロープを解いていた。
ロープが解き終わると、突然がばりとクロヴィス様に抱きしめられる。
「ク、クロヴィス様!?」
「フルール、君はなんて可愛いんだ……!」
クロヴィス様はそう言って痛いほど強く私を抱きしめる。
こんなこともちろん今までにないことで、私は固まってしまった。
「! フルール!!」
私を見た途端、クロヴィス様がぎょっとしたように目を見開いた。そして自身の体に目を遣り、縛られていることに気づくと顔を青ざめさせた。
「フルール! これはどういうことだ! 昨日俺に何も言わないで会場から帰ってしまったと思ったら、急に何を……! この縄は君がやったのか!?」
「ええ。だってクロヴィス様、こうでもしないと私のお願いを聞いてくださらないと思ったんですもの」
「お願い……? お願いってなんだ? 人を縛り付けてまでしなければならない頼みなのか」
クロヴィス様は警戒した顔つきで言う。
「実はクロヴィス様にこれを飲んで欲しいのですわ」
「なんだそれは……?」
クロヴィス様の顔の警戒の色が一層濃くなる。私は昨日会った魔術師のように、口をにんまり歪ませて笑った。
「これは惚れ薬です」
「はぁ!?」
クロヴィスが目を見開いて、私の手の上の小瓶を凝視した。
「おい、まさかそれを俺に飲ませる気じゃないだろうな」
「せっかくクロヴィス様がお屋敷を出て騎士団の訓練場に向かわれるところを攫って来て拘束したのですよ。飲ませないわけないじゃないですか。あ、騎士団にはちゃんと今日はクロヴィス様は遅れますと連絡を入れてあるので心配なさらないでくださいね」
「何勝手なことしてるんだ! やめろよ、俺は絶対飲まないからな!!」
クロヴィス様はそう言うと、口をぎゅっと引き結んでそっぽを向いた。
ああ、なんて可愛い仕草……!
子供っぽい表情をする彼の顔に見惚れながらも、私は小瓶の蓋を開ける。そして、クロヴィス様の顎を掴んで上を向かせ、口元に近づけた。
「クロヴィス様、私いつも寂しかったですわ。クロヴィス様は全然私のことを見てくれないんですもの。でも、これで私たちやっと両想いになれますね」
「何が両想いだ。そんな薬で俺の心を操ったって……」
クロヴィス様はこちらを睨みながら文句を言っている。
クロヴィス様に罵られるのは悪くない気分だけれど、今日は一刻も早く惚れ薬を飲んでもらいたかったので、口を塞ぐように小瓶の中の液体を流し込んだ。
「ぐ……っ、ごほっ」
液体を流し込まれたクロヴィス様は苦しそうに咳き込む。私は少し申し訳なくなりながらもその様子を見守った。
咳き込んでいたクロヴィス様が、突然顔を俯ける。それから体から力が抜けたように動かなくなってしまった。
大丈夫なのかしらと慌てて近づくと、クロヴィス様はぱっと顔をあげる。
「……フルール……」
私を見上げるクロヴィス様の目には、今までとは違う熱が宿っているような気がした。心なしか彼の顔が恍惚として見える。
これは、薬が効いたのだろうか。
思わず言葉に詰まる私に、クロヴィス様はかすれた声で言う。
「フルール、縄を解いてくれないか」
「え? は、はい……!」
妙に落ち着いた声で頼まれ、私は薬の効果も確認しないうちに、無意識にロープを解いていた。
ロープが解き終わると、突然がばりとクロヴィス様に抱きしめられる。
「ク、クロヴィス様!?」
「フルール、君はなんて可愛いんだ……!」
クロヴィス様はそう言って痛いほど強く私を抱きしめる。
こんなこともちろん今までにないことで、私は固まってしまった。
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