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 そんなある日、とある侯爵家で開かれるパーティーに、クロヴィス様と二人招待された。

 こんな機会でもなければクロヴィス様はちっとも私と出かけてくれないので、私はうきうきしながら彼と会場へ向かった。

 侯爵家へ向かう馬車の中、クロヴィス様はしかめ面で私に忠告してきた。

「フルール、会場ではあまりべたべたくっついてくるなよ」

「どうしてですの? 私たち婚約者じゃありませんの」

「うっとうしいんだよ。人に見られたくないから離れてろ」

 クロヴィス様は容赦なくそう言い放つ。

 態度がぞんざいになるうちに、彼は口調までぶっきらぼうになった。私の言葉もばっさり否定してくる。ちなみに名前が呼び捨てなのは、私が頼み込んだからだ。

 私は仕方なく「はぁい」と返事をして、これ以上クロヴィス様を怒らせないように黙っていた。


 それでも会場につくと、クロヴィス様は私に手を差し出してエスコートしてくれた。人前では一応婚約者として扱ってくれるのだ。

 私はクロヴィス様に手を引かれながら、一時の幸せを噛みしめる。

 しかし、遠くから燕尾服に身を包んだ数人の男性がやって来ると、クロヴィス様はさっと私から離れてしまった。どうやら彼らはクロヴィス様のお知り合いらしい。

 クロヴィス様は一瞬だけこちらを振り向くと、短く言った。

「フルールはどこかで休んでろよ」

 つまり、邪魔だからどこかへ行っていろということだ。

 せっかくの貴重な一緒にいられる機会なのに。私は思いきりへこみながら、言われた通り彼のそばを離れた。



 同じ会場にいてクロヴィス様から離れているのは余計に寂しいので、一旦お庭に出ることにした。

 お庭には自由に出ていいことになっているけれど、少し肌寒いからかほとんど人はいない。私はしょんぼりとした足取りで生垣のそばに立った。


「そちらのご令嬢。少しよろしいですか」

「え?」

 突然後ろから声をかけられ、振り向くとそこにはいかにも怪しげな黒いローブを着た青年がいた。

 小柄でやけにほっそりした手足をしている。顔半分はフードで覆われていてよく見えなかった。

 恰好からしてパーティーの招待客には見えないけれど、なぜお屋敷の庭にいるのだろう。


「ええと、私に何か用かしら?」

「はい。あなたのことがどうしても気になったので声をかけさせていただきました。何か悩みがあるのではないですか? たとえば、つれない婚約者のことなんかで」

「どうしてわかるの……!?」

 私が驚くと、ローブ姿の男は得意そうににんまり笑った。

「わかりますよ。私は魔術師ですからなんでもお見通しです。お嬢さん、せっかく一目惚れした相手と婚約できたのに、相手の態度が素っ気なくてちっとも距離が近づかず、悩んでいるのではないですか? どんなに頑張っても相手は冷たい態度を取るばかりで途方に暮れていると」

「ええ、ええ、そうなの!」

 あまりにも見事に私の状況を言い当てるので、思わず勢いよくうなずいてしまった。こんなに私の悩みがわかるなんて、魔術師ってすごい。
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