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後悔
しおりを挟む一目惚れだった。
いや。度々見かけていた顔のはずだった。
けれどその日、フェリを見て
何故、それまで気にしたことがなかったのか分からないほどに心を奪われた。
小さな町だ。
仕事帰り、買い物中……他にも
フェリを見かければ飛んでいって話しかけ口説いた。
最初は相手にもしてくれなかったフェリが俺に笑顔を見せてくれた時は、天にも登る気持ちだった。
会うたびいろんな顔を見せてくれるフェリが可愛くて仕方なかった。
プロポーズを受けてくれた日は嬉しくて興奮して夜寝られなかった。
フェリを幸せにしたいと思っていた。
なのに。どうしてだろう。
―――いつから狂った?
結婚して
すぐにフェリが妊娠して
悪阻が重くて体調が悪いフェリは仕事を続けられなくなって
俺が……フェリと生まれてくる赤ん坊――二人を養っていくことになって。
―――焦った。
それまで仲間と楽しく遊んでばかりいた俺には貯金なんか全くなくて
楽することだけ考えて働いていた俺の稼ぎは少なくて
俺たちはフェリの貯金を切り崩してどうにか生活していた。
情けなくて
《金なんてなくてもなんとかなるさ》
なんて独り身だった時の考えでこの先やっていけるはずもない現実が見えて。
仕事を増やした。
少しでも多く稼ごう稼がなければならないと必死になった。
俺のせいだ。
それまで散々遊んでいたツケだ。
けれど……
仕事を増やせばミスも増えて
怒られることも増えて
疲れた俺はそれをフェリのせいにした。
フェリが妊娠なんてするから、と。
妊娠なんて病気でもないはずなのにフェリが体調を崩すから、と。
なんてことを
妊娠は喜ぶべきことなのに
フェリの体調が悪いなら夫の俺が助けてやらなきゃいけなかったのに
俺は―――――
苛々していたんだ。
毎日毎日、働くだけで遊ぶことも出来なくなって
遊び仲間は付き合いが悪くなった俺を見限り離れていって
楽しそうに遊んでいるそいつらを見かければ自分が惨めに思えて。
仕事から疲れて帰ってくると、そこには笑顔で俺を迎えるフェリ。
憎らしくなった。
俺がこんなに嫌な思いをしているのにフェリは笑って暮らしている。
そう思うと憎らしくて
何か言われれば腹が立った。
娘が産まれてからもそうだ。
その日の娘の様子を報告してくるフェリに腹が立った。
大したこともない話をいちいちなんだ、としか思わなかった。
娘の寝顔を見るだけだった俺に、フェリがどんな思いで娘の様子を伝えてくれていたのかなんて思いやる余裕はなかった。
育児の不安を口にされればいっそう腹が立った。
子どもなんか見たことのない俺に言うことか?と。
娘の話だ。
俺たち二人の。
なのに俺は―――
俺を煩わせるなよ
一人で解決しろよ、大人だろう
ただ家にいるだけのくせに、何故それができない?
ふざけるなよ。
俺に頼ってばかりで。
―――夫婦は協力し合うものだろう?
そう思った。
協力しなかったのは俺だ。
望んだのは俺だ。
頼って欲しかった。
甘えて欲しかった。
フェリには何の憂いもなく暮らして欲しいと思っていた。
フェリにはいつも笑っていて欲しいと思っていた。
なのに
いつの間にか。
俺は自分の鬱憤をフェリにぶつけるのが当然になっていた。
どこで間違えたんだ。
二度と妊娠しないようにさせるほど
――「あの人に何の感情も持たず、期待せず、ただ感謝するの。
生活を支えてくれる人。
《お金を持ってきてくれる人》だって」――
ああ言わせてしまうほど追い詰めた。
好きでたまらない女性のはずだったのに
誰よりも幸せにしたい女性のはずだったのに―――――
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