夫婦にまつわるすれ違い、または溺愛を描く短編集

キムラましゅろう

文字の大きさ
42 / 44
番外編 未婚の男女にまつわるすれ違い、または溺愛を描く短編集

鎧の姫 ⑦

しおりを挟む
魔法学園での学園生活も残すところあとひと月となった。

来月には卒業である。

ジオルドは卒業と同時に本格的に政務に携わるようになるらしい。

臣籍には降りず、兄王子が即位した後も“王弟”として、そして王族の一人として責務を全うしてゆくのだそうだ。

そしてイヴェットは卒業してすぐに婚約を結んでアデリオールへ移り住むという。

お相手はアデリオール建国以来の名家で、その次期当主となられる方だとか。
爵位は侯爵。
銀髪に赤い瞳が印象的な超イケメンらしい。
そしてとても優しい方なのだそうだ。

初めての友人となってくれたイヴェットが幸せになれるよう、チェルシーは祈らずにはいられなかった。

写経同好会のみんなもプリンの角に頭をぶつけて死ねるのかを考察する同好会のみんなも卒業後の進路や身の処し方が決まっていて、それに向かって邁進しているようだ。


迷っているのは自分だけか……

このままいけば放っといてもジオルドと結婚する。

ジオルドがそれで良いと言ってくれているのだから、
呪いが解けようが解けまいがそれは変わらないらしい。

チェルシーだってジオルドの事が大好きだ。
出来る事ならば彼のお嫁さんになりたい。

でもそれにはやはり鎧は脱いだ方がいいのだろう。

ジオルドは後継の事やその他の柵は一切気にしなくていいと言ってくれている。
ただチェルシーが側に居て共に生きてくれるだけで幸せなのだとも言ってくれた。
だけど臣下達はそうは思うまい。

いくらジオルドが良いと言っても、王子の妻が呪い持ちの鎧女なんて国内外問わず外聞が悪いのは間違いないのだから。


呪いを解き、鎧を脱ぐ。

かつてチェルシーにこの鎧を授けてくれた大賢者イグリードは言っていた。

チェルシーに掛けられた呪いを解けるのは他ならぬチェルシーしかいないのだと。

「鎧がないわたし……」

チェルシーはポツリと呟いた。



◇◇◇◇◇


「チェルシー様ぁ~。ワタシぃ、にドレスをプレゼントして貰いましたのぉ~♡」

魔法薬実験の授業中、班に分かれて作業をしている時にもうすぐ“元”が付く聖女リリアンナがチェルシーに話しかけてきた。
余程縁があるのか、チェルシーはリリアンナとイヴェットと同じ実験班である。

リリアンナはチェルシーを貶めんとした事とその他様々な罪に問われた。
そしてその罰として血反吐が出る程の重労働を含む、大陸縦断奉仕活動行脚を終えて先日ようやく復学したばかりだった。



チェルシーはリリアンナに返した。

「まぁ、素敵ですわね!卒業式のプロムに着られるドレスですか?」

「もちろんそうですぅ~。彼ったら独占欲モロ出しでぇ、自分の瞳の色のドレスを贈ってくるんですよ~もぉ愛され過ぎて困ってるんですよねぇぇ」

身をクネクネさせながらそう言うリリアンナに、イヴェットがジト目で言った。

「……困っているようには見えませんわね」

「ヤダァ、イヴェット様てっばぁ~!でもそう言うイヴェット様だって婚約者()の方からドレスを贈られたんでしょ~?」

「(仮)を強調しましたわね……ええまぁ、頂きましたわ。彼の髪の色のドレスを」

「やっぱりぃぃ~♪えーでも~じゃあチェルシー様はどうするんですかぁ?」

リリアンナの言葉にチェルシーは首を傾げた。

「どうするとは?」

「だぁってぇ~。ジオルド殿下ってばチェルシー様にぃ、ドレスを贈りたくても贈れないじゃないですかぁ、チェルシー様はドレスが着られないわけだしぃ?だからプロムはどーするのかなぁ?と思ってぇ。やっぱりその鎧のままで出席されるんですかぁ?」

「ダ、ダメなのでしょうか?」

確かプロムにはドレスコードは無かった筈だ。
ドレスアップして着飾るのが暗黙の了解となっているが、別に制服や普段着で出席してもいい。

だけどリリアンナのもの言いにチェルシーは不安になった。

チェルシーの問いかけにリリアンナではなくイヴェットが答えてくれた。

「ダメじゃありませんわチェルシー様。どのような姿でも良いのです。チェルシー様の鎧姿は勇壮でとても素敵でいらっしゃるから何も気にされず出席されればいいですわ。でもそうですわね、もし何か婚約者と繋がりの物を持ちたいのであれば、手首にジオルド殿下の髪か瞳の色のリボンを巻かれるのはどうかしら?」

「まぁそれは素敵ですね!」

チェルシーの様子がパッと明るくなったのを感じ、イヴェットは微笑んだ。

「ジオルド殿下とご相談されて、お二人で揃いにされるのも宜しいかと思いますわ」

「そうします!ありがとうございます、イヴェット様」

「ふふふ。お役に立てて何よりですわ。
っていうかリリアンナ様、ドレス一着くらいでマウントを取るなんてセコいですわねーー」

チェルシーに微笑み、返す刀でイヴェットはリリアンナを睨め付けた。

それに対してリリアンナがわざとらしくぷぅと頬を膨らまして言う。

「えーーマウントなんてとってませんよぉ~」
「ぶりっ子しても可愛くありませんわよ?」


二人のその様子を見ながらチェルシーは思った。

ジオルドと揃いのリボンかぁ。それは特別な感じがしてプロムにぴったりだ。

ーー後でジオ様に相談してみましょう



◇◇◇◇◇


放課後、帰りの馬車の中でチェルシーは先ほどイヴェットから受けたアドバイスについて説明した。

ジオルドは嬉しそうに微笑んで言う。

「それはいい考えだね。さすがはイヴェット嬢だ。じゃあチェルシー、もし良かったらそのリボンを私に贈らせてくれないか?」

「まぁジオ様が?」

「うん。私がキミの為に心を込めて選んだリボンを身につけて欲しいんだ」

「身につけて……分かったわ、楽しみにしているわね!」

チェルシーが快諾したのを見て、ジオルドはより一層嬉しそうにした。

その様子を見てチェルシーは思う。

やはりジオルドも婚約者にちゃんとしたドレスを贈りたかったのだろうかと。

きっとジオルドは……

贈りたかっただろうし、贈らなくてもよい、そう思っているだろう。

ーー大切なのはわたし自身の気持ち、ジオ様はいつだってわたしの考えを尊重してくれた。

でも、だからこそチェルシーは怖いのだ。

チェルシーは馬車の窓に映る鎧兜の顔を見た。

自分の顔といえばこの兜の顔だ。

中にある本当の自分の顔を見てもきっと違和感しか感じないだろう。

その時、周りの皆もそう思うのかもしれない。

本物のチェルシーの筈なのに以前までのチェルシーとは別人だと、そう認識されるのではないだろうか。
これまで生きて来た全てが無くなってしまうような感じがした。

それがチェルシーにはどうしようもなく怖いのだ。

鎧を脱ぎたくない……

誰にも明かした事はないが、それがチェルシーの本心であった。

鎧を脱がずにいてはダメだろうか。

しかし鎧を脱がないのであれば、一生をこのままで過ごすと決めたのなら、やはりジオルドの側にはいられない……これはもうずっと自分の中にある迷いで、チェルシーはずっとその答えを出せずにいた。

しかしいよいよ答えを出さねばならないだろう。

そんな思いを抱えながらも日々は過ぎてゆく。

呪いを解くのかどうするべきか、自分の中で答えを見出せないながらも残り少ない学園生活を悔いのないように送った。

 

そしてとうとう、卒業の日を迎えた。


魔法学園卒業記念式典は学園長の挨拶に始まり、学園の理事や来賓貴族達が祝辞を述べてゆく。

そして学年最高位であり、成績も主席のジオルドが卒業生を代表して答辞を述べた。

その姿は王族らしく堂々としていてカッコよくて、チェルシーは思わずぽ~っと見惚れてしまう。

一年間だけだったが楽しい学生生活を送れた。

これも全てジオルドのおかげである。

心配性の父王を説得し、チェルシーが伸び伸びと過ごせるように学園内での環境も配慮してくれた。

ジオルドが婚約者だったからこそ、こんなにもありのままの自分でいられたのだ。

ジオルドがいてくれたからこそ、運命を呪う事なく平穏な日々を過ごしてこれたのだ。

チェルシーは壇上に立つ婚約者を見つめた。

ーージオ様……



そして無事に卒業式は終了した。
卒業のプログラムも、あとは夜に開催されるプロムナードパーティーを残すだけとなった。


その夜の学園内の大講堂はプロム会場となり、卒業生やその関係者で賑わっていた。

イヴェットは今夜のエスコートは二年前にこの学園を卒業した兄に頼んだ。

会場入りをし、見かけた他の友人達と会話をしている時に後ろからネットリと耳障りな声が聞こえた。

「あらぁ~、イヴェット様じゃないですかぁ~もう来られていたんですね~」

イヴェットは思わず眉間にシワが寄ったが、振り向く時には笑顔を貼り付けた。

「……ご機嫌よう、リリアンナ様」

声をかけて来たリリアンナにイヴェットは挨拶をした。

「きゃ~イヴェット様ってばお綺麗ですわぁ~!まぁワタシほどではないですけどね~♡」

「……婚約者の方の瞳の色のドレスを贈られたって言っていましたわよね?……婚約者の瞳は黒なんですのね」

イヴェットはリリアンナのドレスを一瞥して言った。

リリアンナは全身真っ黒のドレスを身につけていた。

ラメ入りの生地にビジューでキラッキラしているので喪服ではないと分かるが……リリアンナらしからぬドレスの色を見て、イヴェットは『これは一癖も二癖もありそうな婚約者ね』と思った。

その時、ホールの入り口付近が俄に騒がしくなった。

どうやらジオルド殿下が到着されたらしい。

学生以外の客もいるのでさすがに護衛二名という訳にはいかないだろう。

数名の近衛騎士達が先にホールへ入って周囲を確認している。

そしてややあってジオルドが入場して来た。

ジオルドは王族の盛装姿だった。

さすがは美貌の王子。
まさに完璧な美しさであった。

しかし……

ーーあら?チェルシー様のお姿が見えないわ。

隣に並んで入場する筈のチェルシーの姿がどこにもない。

どうかしたのだろうか。
体調を崩した?それとも何か不測の事態が?とイヴェットの胸に不安が過ぎったその時、

ジオルドが後ろを振り返り、その視線を向けた方へと手を差し伸べた。

「……ほらチェルシー。大丈夫だから、怖がっていないでおいで」

その声が聞こえ、イヴェットは胸を撫で下ろした。

良かった。
ちゃんとチェルシーも会場に来たのだ。

しかしジオルドの大きな手にそっと乗せられた細い指の小さな手に、イヴェットは瞠目した。


ジオルドに手を引かれて姿を見せた人物を見て、会場中が息を呑む。

何故ならジオルドは、下手をすれば彼の美貌さえ霞んで見えてしまうほど美しい娘を連れていたからだった。




     次回、鎧の姫の最終話です。
   

















しおりを挟む
感想 635

あなたにおすすめの小説

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

裏切りの街 ~すれ違う心~

緑谷めい
恋愛
 エマは裏切られた。付き合って1年になる恋人リュカにだ。ある日、リュカとのデート中、街の裏通りに突然一人置き去りにされたエマ。リュカはエマを囮にした。彼は騎士としての手柄欲しさにエマを利用したのだ。※ 全5話完結予定

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

その日がくるまでは

キムラましゅろう
恋愛
好き……大好き。 私は彼の事が好き。 今だけでいい。 彼がこの町にいる間だけは力いっぱい好きでいたい。 この想いを余す事なく伝えたい。 いずれは赦されて王都へ帰る彼と別れるその日がくるまで。 わたしは、彼に想いを伝え続ける。 故あって王都を追われたルークスに、凍える雪の日に拾われたひつじ。 ひつじの事を“メェ”と呼ぶルークスと共に暮らすうちに彼の事が好きになったひつじは素直にその想いを伝え続ける。 確実に訪れる、別れのその日がくるまで。 完全ご都合、ノーリアリティです。 誤字脱字、お許しくださいませ。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

処理中です...