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番外編 未婚の男女にまつわるすれ違い、または溺愛を描く短編集

鎧の姫 最終話  呪いの果てに

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「キミがチェルシー姫?ホントに鎧を着ているんだね」

昔初めて会った時、ジオルドがチェルシーに言った言葉だ。

「重くないの?動き辛くない?」

好奇心からかジオルドが様々な質問をしてくる。

でもチェルシーは少しも嫌じゃなかった。

何故なら彼から感じる“気”は悪意を全く感じなかったから。

純粋にチェルシーに興味を持ち、自分を知ろうとしてくれているジオルドに、チェルシーも興味を持った。

それから直ぐにオリオル王国側から婚約の打診が来て、チェルシーはジオルドの婚約者となったのだった。

共に成長し、共に歩んで来た。

ジオルドは鎧姿を物怖じもせず、チェルシーの為人を好きになってくれた。

誰よりもチェルシーを大切にし、「大好きだよ」と言い続けてくれた。

そんな人に、どうして惹かれずにいられるだろうか。

チェルシーの鎧の中には、幼い頃から大切に育んできたジオルドへの恋心も沢山詰まっているのだった。



◇◇◇◇◇


「チェル、卒業おめでとう!」

卒業式が終わり、ジオルドに答辞のスピーチがとても素敵だったと熱弁を奮っていたチェルシーの直ぐ隣に、いきなりチェルシーの魔術の先生が転移して来た。

先生の名はツェリシア=ジ=コルベール。

大賢者バルク=イグリードの弟子の妻で、彼女自身もイグリードに精霊魔術を師事した優秀な魔術師だ。

「ツェリ先生!」

転移して来たと同時にガッツリと腕にしがみ付かれて、チェルシーは驚いてツェリシアを見る。

「無事に卒業出来て何よりだわ。ジオルド殿下もご卒業おめでとうございます」

その祝いの言葉に、ツェリシアとは何度か面識のあるジオルドが返した。

「ありがとうございます。だけどどうしてここへ?わざわざお祝いを述べに来て下さったんですか?」

「ううん、違うの。ちょっとチェルを拉致ろうと思って♪」

「「え?」」

チェルシーとジオルドの声が重なったと同時にツェリシアは転移魔法に移行する。

ジオルドが慌ててツェリシアに問うた。

「ちょっとっ?どこへ連れて行く気ですかっ?」

「チェルと一緒にオリオルの王宮に先に行ってるわ~、殿下も直ぐに帰って来てね~」

そう言ってツェリシアはチェルシーを連れて転移して行った。

ツェリシアがあのような行動に出るという事は呪い関連なのは間違いないだろうとジオルドは判断するが……

ーーあ、もしかしてと関係しているのか?

と思いを巡らせるジオルドだが、とにかく自身も早く帰城しようと足早に卒業式会場を後にした。




ツェリシアがチェルシーを連れて転移んだのはオリオル王宮内の一室だった。

そこはチェルシーが好きな淡いクリームベージュピンクの壁紙が可愛らしい部屋だった。

置かれた調度品もチェルシー好みの素朴で愛らしい物ばかりだ。

「ここは……?」

「ジオルド殿下がチェルの為に用意した王子妃の部屋よ」

「わたしの部屋……?」

「そう。チェルへの想いがいっぱい詰まった部屋。愛されてるわね♡」

「………」

部屋を見渡し、チェルシーは感じた。

ーーなんだかジオ様に包まれて、守られているみたい。


「チェル」

ツェリシアがふいにチェルシーの名を呼んだ。

「バルちゃんからの伝言よ。どうして鎧を着たままなんだい?だって」

「………」

「本当はもう、いつでも呪いは解けるんでしょう?」

ツェリシアの問いかけに、チェルシーはこくんと頷いた。

チェルシーにとって、呪いはもう脅威でもなんでも無くなっていた。

イコリス王家特有の類い稀なる高魔力、そしてツェリシアを介しての魔術の会得。
加えて生まれ落ちた瞬間から付き合ってきた異界の魔物の魔力との調和……

それら全てが合わさって、チェルシーの魔力は魔物により穿たれた呪いを軽く凌駕し、調和した事により簡単に相殺出来るまでになっていた。

「ツェリ先生……わたし、怖いんです……」

「怖い?何が?」

「生まれた時からわたしは鎧の姫として生きて来ました。この鎧がわたし本来の姿であると言ってもいいくらい、鎧と共に生きて来たのです。確かに本当のわたしはこの鎧の中身なのでしょうが、今この鎧を纏っているのも間違いなくわたしなのです。それが全て失ってしまいそうなのがたまらなく怖いんです……わたしがわたしでなくなるようで……」

チェルシーはそう言って俯いた。

ツェリシアはチェルシーに近付き、鎧の胴部分を軽く小突いて言った。

「バカねぇ、どうして分けて考えるの?どちらもチェル、あなたじゃないの」

「……え?」

チェルシーが思わず顔を上げる。

「鎧姫としてのチェルも、鎧を脱いでただのイコリス王女となったチェルも、どちらもあなたよ。わたしの可愛い教え子。わたしの可愛いチェルシーよ」

「ツェリ先生……」

「チェルシー、これを見て」

ツェリシアはそう言って部屋の窓際に置いてあった何かに近付いて言った。

それは何かに白い布をかぶせているような物だった。

ツェリシアがその被せてあった白い布を取る。

「……こ、これって……!」

布の下から出てきた物にチェルシーは目を見張った。

それはトルソーに飾られた淡いアメジスト色…ジオルドの瞳の色のドレスだった。

ツェリシアがドレスを眺めながら説明してくれた。

「このドレスはね、わたしがアドバイスしてジオルド殿下がもしも、の為に作ったドレスなのよ」

「もしも?」

「チェルシーが卒業式のプロムまでに解呪をして、このドレスを着るかもしれない…というもしも」

チェルシーはドレスをまじまじと見つめた。
とても華奢な体型に合わせて作られたドレスだ。

「でもわたし、鎧を脱いだとしてもこんな繊細なドレスが着れるとは思えないわ」

「多分大丈夫よ。チェルのお母様やお祖母様達のドレスの寸法から推測して考えたサイズだから。それにもし合わなくても魔術でチョチョイと直してあげるわよ♪」

「……綺麗……」

繊細なレースとスミレの刺繍が施された美しいドレスだ。
チェルシーは鎧を纏った手でそのドレスにそっと触れる。

「新しい人生を、そのドレスを着て始めてみたいと思わない?」

「………」

「チェル、あなたの人生はこれからなのよ。目の前にどこまでも行ける道が続いている。怖がらないでその道を進んでみなさい。他ならぬジオルド殿下と一緒に」

「どこまでも、続く道……」

「そうよチェル、世界はあなたが思った以上に広く、面白いんだから!ね、そうよねジオルド殿下?」

「え?」

ツェリシアに言われて初めて気付く、いつの間にかジオルドが部屋の入り口の所に立っていた事を。

「チェルシー」

ジオルドはチェルシーの名を呼んでゆっくりと側に来た。

そしていつものように優しくチェルシーの手を取る。

「チェルシー。不安なら無理する事はないよ。いつでも呪いを解けるなら脱ぐのもいつでもいいじゃないか。私はどんな時もキミの側にいるから」

ジオルドはそう言って懐からリボンを取り出した。

ドレスと同じ色のリボン。

以前イヴェットにアドバイスを受けてジオルドがプロムの為に用意すると言っていたリボンだ。

ジオルドはチェルシーの鎧の手首にそのリボンを結んだ。

リボンにも繊細なスミレの刺繍が施されていた。

「………」

チェルシーは手首に巻かれたそのリボンを胸元に引き寄せる。

自分は何を恐れていたのだろう。

こんなにも愛されているのに。

チェルシーにとって何よりも大切なのはジオルドなのに。

彼の隣で、彼に相応しい自分でありたい。
それが鎧姿でもそうでなくてもどちらでもいいじゃないか。

変化は怖い、怖いけどきっと大丈夫。
ジオルドもツェリシアも家族も友人も、みんながいてくれるならきっと大丈夫。

チェルシーは心から素直にそう思えた。

「ジオ様……このリボンでわたしの髪を結っても似合うと思う?」

「!……ああ。キミは銀髪らしいから、淡いアメジスト色もきっと似合うだろうね」

「ふふ、良かった」

チェルシーは大きく深呼吸をした。

そして、強い意思を感じさせる声で告げた。


「解呪します」


ツェリシアは頷いた。

「何が起こるか予測出来ないから一応この部屋と殿下に結界を張るわね」

「お願いします。ジオ様、見守っていてね」

「チェルシー……」

心配そうにするジオルドをツェリシアは部屋の隅へと連れて行った。

チェルシーは意識を集中させた。

鎧を通して常に感じていた禍々しい気配。

母の胎内で穿たれた呪いの核に干渉せんと目に見えない力が常時チェルシーの周りにあった。

それらから守り、上手く隠してくれていたこの鎧。

チェルシーは鎧に感謝の念を込めた。

「今までホントにありがとう」

そして呪いに打ち勝つ力の動力源としてジオルドの事を思い浮かべた。

愛憎により齎された呪いは、それを上回る愛情で相殺する。
今のチェルシーの魔力量なら出来る筈だ。

もうわたしを解放して。

行く場が無く、おりのように重なり合い積もった憎しみよ、もう消えて無くなれ。

「………散れ」

チェルシーが呟いた。

その途端に鎧の中から閃光が漏れ出す。

「チェルシーっ……!」

固唾を呑んで見守るジオルドの肩にツェリシアの手が触れた。

閃光が益々強く光るその刹那、黒い霧のようなモノが光と同じく鎧から漏れ始める。

「!」

それを視認したツェリシアがローブの懐から瓶を取り出し、何やら術式を詠唱した。

するとその黒い霧のようなモノが瓶の中へと引き摺り込まれて行く。

ツェリシアは急いで瓶の蓋を閉じ、その瓶自体に強力な結界魔法を施した。

「ふぅ、これでひとまず安心、かな」

ツェリシアが持つ瓶を見て、ジオルドが尋ねた。

「それは何ですか?」

「多分これがチェルの体内に有った呪力なんだと思う。こんなもの、わたしの手には負えないから持ち帰って夫に処理してもらうわね」

「お願いします。何の憂いも残らないように抹消して下さい」

「任せといて(夫に)」

そんなやり取りをしながらも、ジオルドはチェルシーから目を離さなかった。

全てを見届ける、彼の強い意思を感じる。

そして光は少しずつ弱まってゆき、やがて何事も無かったかのように静まり返った。

解呪は無事に終わったのだろうか。

チェルシーは微動だにしない。

不安になったジオルドがチェルシーの名を呼んだ。

「……チェルシー……?」

やはりチェルシーは何も答えない。

ジオルドはまたチェルシーに話しかけた。

「チェルシー、解呪は終わったのか?」

チェルシーはガチャリと音を立てて頷いた。

その瞬間、兜を残す全ての鎧がチェルシーの体から崩れ落ちる。

ツェリシアが事前に用意していたバスローブで瞬時にチェルシーの体を隠した。
鎧の中でチェルシーは裸体だったからだ。

ジオルドから隠すように二人の間に立ち、ツェリシアはチェルシーにきちんとバスローブを着せた。
そしてそれが終わると傍に引いた。

ジオルドの前に再び兜だけ被ったままのチェルシーの姿が晒される。

そこにはジオルドよりも頭一つ分以上は小さい、華奢な女性が立っていた。

チェルシーは黙ったまま俯いている。

どうしていいのか分からず、固まったままでいるジオルドにツェリシアは声を掛けた。

「……チェルは恥ずかしがって戸惑っているのよ。貴方が兜を取ってあげて」

ジオルドは静かにチェルシーに一歩近付いた。

びくっとチェルシーの細い肩が揺れる。

ジオルドは少し震える手でチェルシーの兜に触れた。

それから「チェルシー、取るよ?」と告げて兜をゆっくりと上に引き上げた。

途端に銀糸のような輝く銀髪が広がり落ちた。
腰の辺りまである美しい髪だった。


そして、瞼を閉じた美しい娘の顔が露わになる。

「……チェルシー……」

ジオルドは取り外した兜を床に置き、今度は優しくチェルシーの頬に手を添えた。

ゆっくりと、チェルシーが目を開けた。

「……!」

 チェルシーの瞳はまるで全てを見透すような透明度の高い瑠璃色だった。

チェルシーは絶世の美男子と謳われ、麗しい自身の顔を見慣れているジオルドでさえ息を呑むような美しい顔立ちだったのだ。

チェルシーは消え入るような声で呟いた。

「ジオ様……お顔がスースーするわ……」

それを聞き、ジオルドは顔をくしゃりとさせてチェルシーを抱きしめた。

小さく震える肩から、彼が泣いているのか分かる。

「ジオ様……」

チェルシーはそっと背中に手を回し、ジオルドを抱きしめ返した。

「チェルシーっ……チェルシー……!」

「ジオ様、温かい……人の身体って、こんなにも温かいものなのね……」

「そうだよチェルシー。そしてキミの身体もとても温かい。生きている、生きてそこに居るのだと実感出来るよ……」

「本当ね。温かくて安心出来る……こんな温もりがあるなんて、わたし知らなかった……」

「チェルシー……」

ジオルドは一層、強くチェルシーを抱きしめた。


当たり前だがその後はもう大変な騒ぎとなった。

おそらく今日チェルシーが呪いを解くだろうと踏んでいたツェリシアが、イコリスに居たチェルシーの家族もここに呼んでいたのだ。

初めて見る娘の本当の姿に、十八年目にしてようやく胸に抱く事の出来る本来の娘に、両親や異母兄はここが他国の王宮である事も憚らず大いに号泣した。

「あぁ……チェルシー……本当だ。本当に美しい銀色の髪の可愛らしい娘だっ……」

生後すぐのチェルシーを一瞬だけ見たイグリードからチェルシーの容姿を聞いていた両親がこれまた感激して咽び泣く。

ジオルドの両親であるオリオルの国王夫妻も無事の解呪を喜んでくれた。

そしてチェルシーの美しさを褒め称えたのだった。


その後チェルシーは生まれて初めて生身の体での入浴をした。

魔術を用いて、イヴェット曰く乾燥機能付き全自動洗濯機で常に清潔にはしていたものの、やはり直接湯に浸かる心地よさにチェルシーはうっとりとした。

そして王宮の侍女達に全身を磨き上げられ、ジオルドが用意していたあのドレスに身を包んだ。

姿見の前でチェルシーは自身の姿に瞠目する。

「これがわたし……?まるで歌劇に出てくるお姫様みたい……」

それを聞き、ツェリシアは吹き出した。

「チェルったら、あなたは本物のお姫様じゃないの」

「そうでしたわね」

一心に鏡を見ながらそう返事したチェルシーを、ツェリシアと母は顔を見合わせて微笑んだ。

そしてプロムの為に王族の盛装に着替えたジオルドが入室して来た。

以前、ジオルドの兄王子の立太子式典でジオルドの正装姿は見た事があったが、パーティーや夜会などで着用する王族の盛装もこれまた素敵だとチェルシーは見惚れた。

しかし見惚れているのはチェルシーばかりではない。

あのアメジストのドレスに身を包んだチェルシーの輝くような美しさに、ジオルドもまた見惚れたまま固まってしまっている。

互いに見惚れ合う二人に、ツェリシアが笑いながら声を掛けた。

「ハイハイお二人さん、見惚れ合うのはその辺にしておいてそろそろ会場に行かないとプロムの開始時間が遅れてしまうわよ?最高位の王子の到着を待たないと始められないんだから」

その言葉に我に返ったジオルドがようやくチェルシーに手を差し出した。

「本当に綺麗だよチェルシー。今夜、ドレス姿のキミをエスコート出来て、私は幸せ者だ」

「ジオ様……」

手を差し伸べられてエスコートされるのも、優しく淑女として接してくれるのも初めてではない筈なのに、チェルシーは恥ずかしくて堪らなかった。

そしてその気恥ずかしさは別の感情となってチェルシーの身に襲いかかる。

「ジオ様、やはり今日のプロムには鎧を着て出席します……!」

「ちょっ!?チェルシーっ?」

ようやく脱いだ鎧をまた身につけようするチェルシーを皆で止めた。
そして不安で顔色を悪くするチェルシーを慌てて馬車に乗せる。

馬車の中でもチェルシーは、
「よ、鎧を……せめて兜だけでも……」とか
「みんなに変だと笑われたらどうしよう」とかブツブツと言っていた。

その度にジオルドはチェルシーの手を握り、大丈夫だと宥めたのだ。
こうしてとうとうチェルシーは観念して、ジオルドのエスコートで会場入りをした。

イヴェットをはじめとする皆が瞠目してチェルシーを見ている。
それを意に介せず、ジオルドはどんどんと会場内を進んで行く。

そしてチェルシーを伴ってホールの中央に立ち、声高らかに告げた。

「お集まりの諸君にこの場を借りて発表する。長く呪いの内にあり、防護の為に鎧を身に纏っていた我が婚約者だが……本日とうとう、呪いの解呪に成功した!そして今日という記念すべき日に、本来の姿で諸君らの前に立つ事が出来たのだ。では改めて紹介しよう。私、オリオル王国第二王子オリオル=オ=アズベルト=ジオルドの婚約者、イコリス=オ=ルル=チェルシー王女だ」

ジオルドの紹介を受け、チェルシーは震える足を叱咤してカーテシーをした。

今まで何十回と、鎧姿であっても執ってきた礼だ。
体の隅々にまでその所作は染み付いている。

その瞬間、イヴェットや同クラスの生徒達から拍手が起こった。

そしてそれはあっという間に伝播し、会場中が割れんばかりの拍手に包まれた。

皆、この世のものとは思えないチェルシーの美しさに驚愕し、魅了されている。

今までチェルシーの事を、ジオルドに相応しくないと陰口を叩いていた一部の人間達も気まずそうに拍手をしていた。

リリアンナは歯茎から血が出ないかと心配するほどにハンカチを歯噛みしている。
そして「鎧の中が美少女だなんてテンプレ過ぎるぅぅーー!!」と、地団駄を踏んで悔しがっていた。

そして拍手が鎮まり、パーティーが始まる。

イヴェットがチェルシーに抱きついて来た。

「チェルシー様っ!!良かった……!おめでとうございますっ!!」

目に涙を浮かべながら無事に解呪出来た事を喜んでくれた。

「イヴェット様、ご心配をおかけしましたわ。本当にありがとうございます」

チェルシーはイヴェットの涙をハンカチでそっと押さえながら感謝の気持ちを伝えた。
そして髪と一緒に編み込まれたリボンを指して言う。

「イヴェット様がアドバイスして下さったリボン、髪に結ぶ事にしましたの。これがそのリボンですわ。このリボンで結えるのもイヴェット様のおかげです」

「私は何も……チェルシー様とジオルド殿下の愛の力ですわっ!愛の力で呪いに打ち勝つ!これもまたお決まりの展開で良きっ!!そしてお約束の鎧の中身は実は美少女だったパターンっ!!最高ですわっ!いただきますっ!美味しすぎますっ!そしてご馳走様でしたっ!もう本当にありがとうございますっ!!」

と大興奮で一気に捲し立てた。

「からの~、その美貌を見て悔しがる聖女!
ざまぁ展開万々歳ですわーーーっ!!」

そう叫んだイヴェットの声が会場中に響き渡る。

それを皆で笑い合う。
その後もチェルシーはクラスメイトや同好会の仲間と和気あいあいと談笑し、学生生活の最後を楽しく締め括る事が出来た。


帰りの馬車の中でチェルシーはプロムに行って本当に良かったと、連れて来てくれて、そして皆の前できちんと紹介してくれてありがとうと何度もジオルドに感謝の気持ちを伝えた。

「色んな人間がいるからチェルシーが不安に思う気持ちも分かるんだけど、キミの周りにはキミを大好きな人間の方が多いからね。無闇に怖がらなくていいと分かって貰いたかったし、キミのその姿をみんなに見て貰いたかったんだ」

「そうだったのね。ジオ様にはホント敵わないわ」

「まぁでも本音を言うと、チェルシーのその美しさは誰にも見せずに私一人のものにしたかったんだけどね」

「え……」

ジオルドはチェルシーの手を掬い取り、指先にキスをした。

「チェルシー、半年後には挙式だよ。私はもう待ちきれないよ」

「ジ、ジジジ…ジオ様っ……」

チェルシーは顔を真っ赤にしてしどろもどろになった。

そんなチェルシーに待ったなしでジオルドは畳み掛ける。

今度はそっと顎を掬い取り、その唇に軽く触れるだけのキスをした。

ジオルドは至近距離でチェルシーに告げる。

「もしキミがイヤだと言っても絶対に離さない。一生私に愛されて甘やかされて暮らす覚悟をしておいてくれ………って、チェルシー?」

卒業式の催し物に呪いの解呪。
人生初の抱擁に入浴にドレス姿の披露。

その挙げ句の果てがジオルドからのキスだ。

チェルシーの一日で許容出来る範囲をオーバーしても仕方ないだろう。

「チェルシーっ?」

チェルシーはジオルドの胸に突っ伏して気絶してしまった。



そしてそれから一週間後に、オリオル国王は第二王子とイコリス王女の挙式の日取りを正式に発表した。

呪いを乗り越えての二人の成婚は物語となり多くの国々で語られるようになった。

呪いを受けゴツい鎧姿の姫君と麗しい王子との恋物語。

その主役の二人は今日も仲良く笑い合っている。


「チェルシー。髪を切ったね?」

「え?どうして分かるの?毛先をほんの2センチほどカットしただけよ?」

「チェルシーの事ならなんでも分かるんだ」

「ふふ。それならわたしも負けませんわ。ジオ様、爪を切られたでしょう?」

「凄いねチェルシー。その通りだ」

「だって昨日と少しだけ手の動きが違いますもの」

「さすがだね」「ジオ様こそ」


これからも二人はこうやって互いだけを見つめて生きてゆく。

やがてそこに新たな家族も増えるのだろう。

そしていつか、子どもたちに鎧姫だった事を話してみたい。

その時の子ども達の反応が今から楽しみだと思うチェルシーであった。


              

              終わり



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

これにて鎧の姫、完結です。

最後までお付き合い頂きありがとうございました。

そしてこの短編集も一旦終了させたいと思います。

でも完結設定はしません。
またお話が思い付いた時に短編という名の文字数の暴力作品を投稿するつもりですので、その時はまたよろしくお願い致します!

さて。
次回作ですが、しばらくは文字数少なめのあっさりした物語を……と考えております。

「無関係だった……」でもお知らせしましたが、作者の作品二つの書籍化が只今進行しております。


まだどの作品が…とか、どちらのレーベルさんから、とかお知らせは出来ませんがその書籍化作業の為に投稿がスローペースになりそうです。

それでも宜しければお付き合い頂けますと幸いでこざいます。

新作のタイトルは
『お荷物だと思って婚約者の元を去ったのに何故か連れ戻された令嬢のお話』です。

内容はタイトルのまんまです☆

婚約者だった王子が王太子になった事により激変した二人の関係。その婚約者の為に身を引きたいのに引かせて貰えないヒロインのお話です。

以前いずれ書くと言っていたおっとりヒロインの登場です。

ボケっぷりはチェルシーよりも凄いかも?

そしてこちらも以前短編集の方で呟いた、苦労人トーマス君が出ますよ。

一体どんな話やねん、と思って頂けましたら是非お付き合い頂けますと光栄です。

投稿は木曜日からとなります。

よろしくお願いします!











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