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ミニ番外編
書籍発売記念番外編 フェリックス、アパートへ来る
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今回も書籍発売の記念としまして番外編を。
(番外編の番外編になるな)
今回のお話は本編のワンシーンを掘り下げてみました。
フェリックスが魔力欠乏症のるちあんを救って、その後初めてハノンとるちあんのアパートに来た時のシーンを細かく覗いてみましょう。
──────────────────
「ここなの」
ハイレン中央病院からハノンの自宅アパートへと共に戻ったフェリックス。
ルシアンを抱っこしながら、フェリックスはアパートの外観を見上げた。
「ここが……」
侯爵家の息子であるフェリックスにとってはアパート全体が自邸の納屋くらいの大きさの建物にハノンとルシアンが暮らしていたという事に複雑な気持ちになる。
フェリックス自身は学生時代には平民の学友もいて、彼らに連れられて市井の至る所へと足を運んだので平民には小さなアパート暮らしをする者もいると知ってはいた。
なのでそこまでのカルチャーショックはなかったが、それでもやはりセキュリティ面などに不安を感じて内心唸り声を上げていた。
───知らなかったとはいえ大切な二人がここで暮らしていたとは……。
「狭い所でびっくりするでしょうけれど、どうぞ」
ハノンがそう言いながら玄関のドアを開けた。
「おじゃまします」
フェリックスはそう告げて室内へと足を踏み入れた。
アパートの外観とは違い、部屋の中は狭くはあるが驚くほど綺麗だった。
美しい壁紙が貼られ、使い勝手の良さそうな棚があちらこちらに取り付けられている。
フェリックスの視線に気付いたのだろうか、ハノンが説明するように答えてくれた。
「メロディのパートナーのダンノさんが腕利きの大工さんなの。だから室内を綺麗に設えてくれるのよ。ちょっとした家具なんかもすぐに作ってくれるの」
「そうか……相当腕の良い職人なんだろうな」
家具や棚の仕上がりを見てフェリックスはそう思った。
材質は安価なものなのだろうが丁寧に手の込んだ作りになっている。
「ええ。本当にそうなの」
頷くハノンがバックを壁にかける。
そのカバン掛けのフックもきっとダンノ氏が作ったものなのだろう。
これは何かきちんと礼をせねばならない。
「ぱぱ!こっち!」
ルシアンがくいっとフェリックスの手を引いた。
そしてダイニングと兼用になっているリビングのソファーの横に置いてある小さな棚からクマのぬいぐるみを手に取ってフェリックスに見せた。
「ぼくのくまたん!」
「そうか。可愛いな、ルシアンの宝物なのか?」
「うん!」
そう返事をしてルシアンは次々に自分の宝物を見せてくる。
「くまたんの絵本!」
「すごいな」
「くまたんのちょちんばちょ!」
「貯金箱?」
「うん!ちってともらった!」
「ちって?」
「ふふ、切手を買いに郵便局へ行った時に受付のお姉さんに貰った貯金箱なのよ」
ハノンがエプロンをかけながら補足してくれた。
「そうか」
そして次にルシアンは枕を自慢げに父親に差し出した。
「くまたんのねんねの!」
「ルシアンはクマが好きなんだな」
「うん!あとね、ぱんちゅ!」
そう言ってルシアンは穿いていたズボンを下ろしてお尻を向けた。
ルシアンのパンツにはプリントされた可愛いクマが笑っていた。
自慢げにお尻を見せる息子が微笑ましくて愛らしくてフェリックスの心にズキュンと何かが刺さった。
そして天井を仰いで思わずつぶやいていた。
「可愛すぎる……天使だ、俺の息子が天使だった……」
「ぱぱ!」
ルシアンはそう嬉しそうに何度もフェリックスを呼ぶ。
自分にも「ぱぱ」と呼べる存在がいるのがたまらなく嬉しいようだ。
対するフェリックスもルシアンに「ぱぱ」と呼ばれる度に胸がズキュンとして多幸感に満たされた。
キッチンとダイニングが併用された居間と寝室、あとは小さなトイレと浴室のみのアパートの一室。
これまで此処で母子が寄り添って暮らしてきたのだと思うとフェリックスの心に堪らない愛しさとやるせなさが込み上げる。
これからは自分が二人を守り、幸せにするのだ。
良い暮らしをする事だけが幸せではないとわかっているが、それでも少しは贅沢な暮らしもさせてやりたいとフェリックスは思った。
───そのためにも必ずハノンにプロポーズを受けてもらわなくては。
夕食の調理をしているハノンの後ろ姿を見て、フェリックスはそう強く思った。
その後は三人で初めての食事をとり、フェリックスは初めてルシアンと共に入浴した。
全てが初めて尽くしですでにフェリックスの幸せメーターは振り切れそうになっているが、ルシアンを寝かしつけた後のハノンとの話し合いに向けての英気を養った気持ちにもなる。
───絶対にハノンと結婚する。絶対に妻にする。そしてルシアンと三人で王都で暮らすんだ。
そういった面持ちでフェリックスはハノンとの話し合いに臨んだのであった。
──────────────────
お読み頂きありがとうございました。
来週のお話は書籍のレーベルであるレジーナのサイトで読める番外編SSのために考えたお話の別パターンをお届けします。
……来週までにはサイトに番外編がアップされているかな?
(番外編の番外編になるな)
今回のお話は本編のワンシーンを掘り下げてみました。
フェリックスが魔力欠乏症のるちあんを救って、その後初めてハノンとるちあんのアパートに来た時のシーンを細かく覗いてみましょう。
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「ここなの」
ハイレン中央病院からハノンの自宅アパートへと共に戻ったフェリックス。
ルシアンを抱っこしながら、フェリックスはアパートの外観を見上げた。
「ここが……」
侯爵家の息子であるフェリックスにとってはアパート全体が自邸の納屋くらいの大きさの建物にハノンとルシアンが暮らしていたという事に複雑な気持ちになる。
フェリックス自身は学生時代には平民の学友もいて、彼らに連れられて市井の至る所へと足を運んだので平民には小さなアパート暮らしをする者もいると知ってはいた。
なのでそこまでのカルチャーショックはなかったが、それでもやはりセキュリティ面などに不安を感じて内心唸り声を上げていた。
───知らなかったとはいえ大切な二人がここで暮らしていたとは……。
「狭い所でびっくりするでしょうけれど、どうぞ」
ハノンがそう言いながら玄関のドアを開けた。
「おじゃまします」
フェリックスはそう告げて室内へと足を踏み入れた。
アパートの外観とは違い、部屋の中は狭くはあるが驚くほど綺麗だった。
美しい壁紙が貼られ、使い勝手の良さそうな棚があちらこちらに取り付けられている。
フェリックスの視線に気付いたのだろうか、ハノンが説明するように答えてくれた。
「メロディのパートナーのダンノさんが腕利きの大工さんなの。だから室内を綺麗に設えてくれるのよ。ちょっとした家具なんかもすぐに作ってくれるの」
「そうか……相当腕の良い職人なんだろうな」
家具や棚の仕上がりを見てフェリックスはそう思った。
材質は安価なものなのだろうが丁寧に手の込んだ作りになっている。
「ええ。本当にそうなの」
頷くハノンがバックを壁にかける。
そのカバン掛けのフックもきっとダンノ氏が作ったものなのだろう。
これは何かきちんと礼をせねばならない。
「ぱぱ!こっち!」
ルシアンがくいっとフェリックスの手を引いた。
そしてダイニングと兼用になっているリビングのソファーの横に置いてある小さな棚からクマのぬいぐるみを手に取ってフェリックスに見せた。
「ぼくのくまたん!」
「そうか。可愛いな、ルシアンの宝物なのか?」
「うん!」
そう返事をしてルシアンは次々に自分の宝物を見せてくる。
「くまたんの絵本!」
「すごいな」
「くまたんのちょちんばちょ!」
「貯金箱?」
「うん!ちってともらった!」
「ちって?」
「ふふ、切手を買いに郵便局へ行った時に受付のお姉さんに貰った貯金箱なのよ」
ハノンがエプロンをかけながら補足してくれた。
「そうか」
そして次にルシアンは枕を自慢げに父親に差し出した。
「くまたんのねんねの!」
「ルシアンはクマが好きなんだな」
「うん!あとね、ぱんちゅ!」
そう言ってルシアンは穿いていたズボンを下ろしてお尻を向けた。
ルシアンのパンツにはプリントされた可愛いクマが笑っていた。
自慢げにお尻を見せる息子が微笑ましくて愛らしくてフェリックスの心にズキュンと何かが刺さった。
そして天井を仰いで思わずつぶやいていた。
「可愛すぎる……天使だ、俺の息子が天使だった……」
「ぱぱ!」
ルシアンはそう嬉しそうに何度もフェリックスを呼ぶ。
自分にも「ぱぱ」と呼べる存在がいるのがたまらなく嬉しいようだ。
対するフェリックスもルシアンに「ぱぱ」と呼ばれる度に胸がズキュンとして多幸感に満たされた。
キッチンとダイニングが併用された居間と寝室、あとは小さなトイレと浴室のみのアパートの一室。
これまで此処で母子が寄り添って暮らしてきたのだと思うとフェリックスの心に堪らない愛しさとやるせなさが込み上げる。
これからは自分が二人を守り、幸せにするのだ。
良い暮らしをする事だけが幸せではないとわかっているが、それでも少しは贅沢な暮らしもさせてやりたいとフェリックスは思った。
───そのためにも必ずハノンにプロポーズを受けてもらわなくては。
夕食の調理をしているハノンの後ろ姿を見て、フェリックスはそう強く思った。
その後は三人で初めての食事をとり、フェリックスは初めてルシアンと共に入浴した。
全てが初めて尽くしですでにフェリックスの幸せメーターは振り切れそうになっているが、ルシアンを寝かしつけた後のハノンとの話し合いに向けての英気を養った気持ちにもなる。
───絶対にハノンと結婚する。絶対に妻にする。そしてルシアンと三人で王都で暮らすんだ。
そういった面持ちでフェリックスはハノンとの話し合いに臨んだのであった。
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お読み頂きありがとうございました。
来週のお話は書籍のレーベルであるレジーナのサイトで読める番外編SSのために考えたお話の別パターンをお届けします。
……来週までにはサイトに番外編がアップされているかな?
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