上 下
89 / 144
ミニ番外編

書籍発売御礼番外編 ルシアンのクッキー

しおりを挟む
今回は書籍発売を直前に控え、これまた皆様に御礼としまして番外編をお届けしたいと思います。

このお話は書籍化に伴い加筆したものの、ページ数の関係で載りきれなかったお話です。

今回担当編集者さんの許可を得て、お蔵入りになるところをこうやって皆様にお届けできる事となりました。

本編の間に、挿話として書いたこのお話。
時系列でいえばファビアンが北と西の騎士団の合同練習の打ち合わせでハイレンに来た頃です。

るちあんと初顔合わせをして、ニアミスしたフェリックスを見たファビアンに「コシアン」と苦し紛れに誤魔化したあの頃ですね。

ではよろしければ最後までお付き合いくださいませ。
(短いのであっという間に終わります)



───────────────────────





兄のファビアンが任務の為にハイレン在中の間はハノンのアパートで寝泊まりをする事になった。

 その伯父とすっかり仲良しになったルシアンが動物の形をしたクッキーを食べながら、とある動物のクッキーを見てこう言った。

「くっちー、おぢたん!」

「え?」

 齧りかけのクッキーをルシアンは得意気に差し出す。
よく見るとそのクッキーはゴリラの型抜きをされたクッキーだった。

「ぷっ……ふふホントね、伯父さんにそっくりね」

「おぢたん、あげる~」

 ルシアンは嬉しそうにゴリラ型のクッキーをお皿に戻した。
まだ騎士団から戻っていないファビアンの為に取っておくようだ。

「伯父さんが帰ったら喜ぶわ」

ハノンは息子の頭を優しく撫でた。

「これ、めろりぃたん」

「メロディ?どれ?」

 次にルシアンが指差したクッキーを見てハノンは思わず「なるほど……」と納得した。
我が子ながら凄い観察眼だと感心する。ホントになかなか似ているとハノンは思った。

 ハノンはルシアンがメロディだと指差したチーターの型抜きをされたクッキーを手に取ってまじまじと見つめた。

 その時ふと思いついて、ハノンはルシアンに訊いてみた。

「ルシー、クッキーを作ってみる?」

「くっちー!ちゅくる!」

「ふふ」

ぱっと表情を明るくして元気に返事した息子の頭を、ハノンはまた愛おしげに撫でた。

 そして次の日、こうして二人でクッキー作りをしているという訳なのである。

 材料を揃えて生地作りは当然ハノンの仕事だ。
魔石で冷やす保冷庫で休ませた生地を伸ばして平らにしたところで、ルシアンの登場。
 ルシアンはハノンに渡された型を使い、熱心に型抜きをしてゆく。
さんしゃいのルシアンには難しい作業だが、とにかく何でも楽しくやらせてみる。それがハノンの子育てのモットーだった。

 そしてルシアンは次第に粘土遊びの延長のようになって、色んな形のクッキーを作り出した。
なかなかグロテスクな形のものもあったが、それもまた良し!と小さな丸みのあるお手手で懸命に何かを形作る我が子を、ハノンは微笑ましげに目を細めて見つめていた。

 オーブンの天板に型抜きした生地を乗せてゆく。もちろんパティシエルシアンが作った生地も一緒に。
 それらをオーブンの釜の中に入れて焼く。
ワクワクしながらオーブンの中を覗くルシアンがハノンに言った。

「まま、ぼくのくっちー、めろりぃたんあげる」

「メロディにクッキーのプレゼントをしたいの?」

「うん、めろりぃたんのくっちーあげるの」

「わかったわ。じゃあ明日持って行って、お仕事の時にメロディに渡すわね」

「うん!」

 ハノンは滂沱の涙を流しながらクッキーを食べるメロディの姿が容易に想像出来た。

 そして次の日、ハノンはルシアンにお願いされた通りにメロディにクッキーを渡した。
ランチタイムで食後の口直しにも丁度良いと思ったのだ。

「あらナニこれ?クッキー?」

「昨日焼いたの良かったら食べて」

「アラ嬉ちくび♪アリガト♡」

 メロディは紙袋に入っているクッキーをガサゴソと漁り一つ取り出した。

「あらヤダ動物の形をしてるのネ、カワイ~じゃない♡」
 と言いながら猫型クッキーを頭から齧り付いた。

「ウフフ♡おいちぃ♡」

それから何個かクッキーを口にして、ふいにメロディが怯えたような慌てたような、そんな様子で言った。

「エ゛、ナニコレ?何かの呪物っ?新種の魔物っ?」

 メロディが取り出して慄いていたのは、ルシアンがメロディだと言いながらチーターのつもりで作ったクッキーだった。
 ハノンは吹き出しながら種明かしをする。

「それはルシーがメロディに似てると言って作ったチータークッキーよ。呪物でも魔物でもないから安心して」

 それを聞いた瞬間、メロディが取り憑かれたようにクッキーを貪り出した。

「イヤネ!もう誰がどこから見てもチーターに決まってんぢゃないっ!!イッタダッキマァァスッ!!」

「あなた今呪物か魔物って言ってたじゃない」

 ハノンが揶揄って言うとメロディはムキになって答えた。

「ナニ言ってんのヨっ!愛しのルッシーがチーターだと言えばチーターなのヨっ!ちょっと前まで赤ちゃんエケチェンだったのにもうこんなお菓子作りが出来るようになってるなんてっ……ウッヴヴヴ……!」

「ぷ……ふふふふ」

 案の定、ルシアンの成長を肌で感じたメロディが号泣しながらクッキーを食す様を見て、ハノンは大いに笑った。






───────────────────────




最後までお読みいただきありがとうございました。

いよいよ10月30日に発売となりました。

長くお付き合いいただいている読者さま、
ぜひ「ワシが育てた」という生暖かい眼差しでお読み頂けると幸いです。

そして新たに手にしていただく読者さまは、
 「これからワシが育ててやろう」とこれまた生暖かい眼差しでお付き合いいただけますと幸いです。

皆々様、どうぞよろしくお願いします!




しおりを挟む
感想 3,302

あなたにおすすめの小説

私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。

しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。 だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。

嘘つきな婚約者を愛する方法

キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は嘘つきです。 本当はわたしの事を愛していないのに愛していると囁きます。 でもわたしは平気。だってそんな彼を愛する方法を知っているから。 それはね、わたしが彼の分まで愛して愛して愛しまくる事!! だって昔から大好きなんだもん! 諦めていた初恋をなんとか叶えようとするヒロインが奮闘する物語です。 いつもながらの完全ご都合主義。 ノーリアリティノークオリティなお話です。 誤字脱字も大変多く、ご自身の脳内で「多分こうだろう」と変換して頂きながら読む事になると神のお告げが出ている作品です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 作者はモトサヤハピエン至上主義者です。 何がなんでもモトサヤハピエンに持って行く作風となります。 あ、合わないなと思われた方は回れ右をお勧めいたします。 ※性別に関わるセンシティブな内容があります。地雷の方は全力で回れ右をお願い申し上げます。 小説家になろうさんでも投稿します。

夜会の顛末

豆狸
恋愛
「今夜の夜会にお集まりの皆様にご紹介させてもらいましょう。俺の女房のアルメと伯爵令息のハイス様です。ふたりはこっそり夜会を抜け出して、館の裏庭で乳繰り合っていやがりました」

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。