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第五章

第四十三話 騒乱の幕開け

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 ぶよぶよとした、水気をたっぷり含んだその身体は、一般的なスライムに酷似している。
 
 その身体から突起を突き出し、ゆっくりと近くにある物体に触れているようだが、取り込めるものがないせいか、ナヴ・グロワは少しずつ移動していた。

 全体の半分ほどをイーリスが持ち去った事と、その緩慢な動きから、ウォルフは少しだけ警戒を下げて考える余裕が出来た。
 ガラス製の容器さえあれば、そこに封印するのは容易いのではないか?そう思えるほどに。

 流れが変わったのは、ナヴ・グロワが武器を収納した木箱に触れた時だ。

「なに!?」

 今までのゆっくりとした動きはどこへ行ったのか、木箱に触れた瞬間、ナヴ・グロワは猛烈なスピードで移動し、その木箱を取り込んだ。
 そして、あっという間に木材を取り込むと、その分だけサイズが大きくなっていく。

「こいつは…植物性のものも取り込めるのか?」

 ウォルフは呟いて、最悪の事態に気付く、エルフ領ティターニアはその大部分が木々や植物に覆われた大森林だ。
 もしこのナヴ・グロワが外へ出れば、瞬く間に森を食い尽くし、一気に巨大化するだろう。
 その過程で取り込む生物の事も計算に入れれば、たちどころに国を食い尽くす大きさになりかねない。
 やはりなんとしても、それほどの大きさでもない今の内に封印しなければ…

 ウォルフは近くにあった木箱から、適当な剣を取り出し、ナヴ・グロワを斬り付ける。
 さほどの抵抗もなく、すんなりと刃は通るが、すぐにくっついて元通りだ。次に突起状の部分を切り落としてみたが、やはりあっという間に本体に取り込まれて元に戻ってしまった。

 幸い、ガラスや金属、石などは取り込めないようだが、この場にある木箱だけでも相当な量がある。さらに、取り込んだものの吸収出来ていない武器の類いがナヴ・グロワの体内に溜まっているようだ。
 こうしている間にも、ナヴ・グロワは次々に木箱を取り込み、ゆっくりと肥大化していく。抑え込むにしても道具がなければ難しい。逃げ場が無くなる前に、一旦ここから出るべきかもしれない。

 ウォルフはゆっくりと後ずさりしながら、最初にセグインが歩いてきた方へ向かうことにした。だが、その時、ナヴ・グロワの進行方向に、倒れ込んだセグインが居る事に気付いた。

 まだ息があるのかは解らないが、このまま彼が取り込まれるのを、指を咥えて見ているわけにもいかない。
 だが、セグインの身体を確保するのは危険が伴う行為だ。ここまでの事をしでかし、自分を裏切った相手を助けるべきなのか、ウォルフは迷った。
 だが、迷っている間にも、ナヴ・グロワはじわじわとセグインに迫っている。
 
「仕方ない…!」

 ウォルフは気合を入れて、セグインの身体を確保することに決めた。生きているにしろ、死んでいるにしろ、彼が取り込まれればその分、ナヴ・グロワは肥大化する。出来るだけそれは避けなければならない事だ。

 先程の木箱に対する動きからして、ナヴ・グロワは獲物を見つけた時は、突然俊敏な動きに変わるようだ。今は動きが遅くても油断はできない。ウォルフは剣を握り締め、セグインに近づいた。

 これまでの動きからして、ナヴ・グロワには目がついていないようだが、音や振動を感知する可能性はある。
 剣で試し切りした時のように、焦らず静かに近づきセグインの身体を持ち上げようとした時だった。

 ナヴ・グロワから伸びた突起が、セグインの髪に触れた。瞬間、獲物を認識したナヴ・グロワは猛烈な動きでセグインを取り込もうと襲い掛かってくる。

「ちぃっ!!」

 ウォルフは咄嗟に、剣でその突起を斬り落とし、セグインの身体を片手で強引に引っ張った。斬られた突起を再度取り込む動きの分、ナヴ・グロワの動きが遅れ、間一髪でセグインの身体を引き上げる方が早い。

 セグインを肩に担ぐと、ウォルフはすぐに身を翻して、木箱の間を走る。すると、ナヴ・グロワもまた、爆発するかのような勢いで、ウォルフ達に飛び掛かってきた。

「うおわっ!」

 襲い来る気配を感じ、スピードを上げてギリギリでそれを回避する。ナヴ・グロワは積み上げられた木箱にぶつかり、それらを勢いよく取り込み始めた。
 
「セグインはこっちから歩いてきた。こっちに出入口があるはずだ…!」

 ウォルフは木箱を取り込むナヴ・グロワに構わず、さらに速度を上げて走った。予想した通り、ナヴ・グロワは音か振動を感知することが出来るらしい。だが、のんびり出口まで歩いている余裕はない。
 ナヴ・グロワはどんどん木箱を取り込みながら、肥大化を続け、なおもウォルフ達を追ってくる。

 そのまま数十m走ると、金属製の扉が見えた。ウォルフは背後に迫りくる気配を振り切るように走り、扉を開けてそこを抜けて、勢いよく扉を閉めた。
 その直後にドンッという大きな音を立てて、扉に何かがぶつかった。まさに紙一重のタイミングである。

「ふぅ…あ、危なかった…!」

 ウォルフは冷や汗を拭いながら、一息ついた。一刻も早くナヴ・グロワを封じる手立てを用意しなくてはならないが、奴はもうすでにかなりの大きさに成長している。
 大きなガラス容器に押し込むにしても、小分けにする必要があるだろう。剣で上手く斬り落とせればいいのだが…

 そう考えながら、一本道の通路を進んでいると、背後に何かの気配を感じる。
 ウォルフが振り向くと、そこには石の壁の隙間から染み出してくるナヴ・グロワの姿があった。

「な…バカなっ!?」

 こんな形で壁を抜けることも出来るのか。これでは、建物に閉じ込めておくのも不可能だ。
 染み出してくるスピードは遅いが、こちらを追ってくる意志のようなものは感じられる。ウォルフは再び走り出した。

「このままコイツを連れて外に出るのも危険だ…一体どうすればいい!」

 焦るウォルフの叫びと共に、突如、通路を走るウォルフの頭上、天井に人一人分ほどの穴が開いた。

「ヌシ様ぁー!無事かっ!?」

「アイテール!」

 ウォルフの姿を見たアイテールは、すぐに状況を察したようだ。人間体のままで大きく息を吸い込み、徐々に染み出てくるナヴ・グロワに向かって、強烈な熱線を吐きかけた。

「喰らえぃ!!」

 通路の幅ピッタリに放出された熱線は、ナヴ・グロワを完璧に捉えて焼き尽くした。
 しかし、瞬間的には黒く焦げたようになったものの、すぐに表面は内側に取り込まれ、元の姿に再生していく。
 
「ちっ!やはり本当に不死身か!」

 「忌々しい」と吐き捨てるように付け加えながら、アイテールはウォルフを引っ張り上げた。外に出てみれば、ここはオーベロンの外れにある倉庫街の一角だったようだ。
 あまり人はいないように見えるが、倉庫のいくつかは木造のものがある。奴がここで暴れれば危険な事に変わりはなさそうだ。

「助かった!アイテール、すまない!」

「構わん、儂もまさかヌシ様が直接攫われるとは思ってもみなかった、すまぬ。それよりも、そのクソガキはどうした?死んでおるのか?」

 抱きかかえていたセグインを睨みつけるアイテール。どうやら彼が犯人だと気付いているらしい。ウォルフはセグインの手首を掴み脈を取ると、わずかだが、鼓動が感じられた。

「見捨てなくて正解だったな。彼はまだ生きている。…ボルド様の所へ連れていこう」

 ウォルフがそう言うと、アイテールはふんと鼻をならしてそっぽを向いてしまった。相当怒っているのは間違いない。
 それでも、アイテールはウォルフの言う事を聞き、ボルドの居城へ向かってくれた。そこにはボルドと共にヴァレイも待機している、状況は全て伝わっているようだった。

「おお、ウォルフ殿!無事でなによりだ。息子がとんでもないことをしでかしてしまった、申し訳ない…全くなんということを…」

 城の中庭に降りて、セグインを引き渡す。かろうじて生きている状況なので予断を許さないが、あとはエルフの医者に任せるしかないだろう。

「ボルド様、こちらこそ申し訳ありません。ナヴ・グロワの復活を許してしまいました。どうやら、イーリスが裏で一枚嚙んでいたようです。…奴は自らをダークエルフと名乗り、セグイン様もそう仰っていましたが、ダークエルフとは?」

 ウォルフは頭を下げ、失態を詫びる。セグインの犯した罪ではあるが、イーリスに唆されたのはこちらも一緒である。その責任の一端はあると、ウォルフは感じていた。

「ぬぅ、イーリスがダークエルフだったとは…実を言うと、私も奴の事は詳しくないのだ。昔から傍にいたような気もするし、かといって、いつから共にいるかの記憶があるわけでもない。完全にしてやられたようだな」

 ボルドは口惜しそうに嘆き、そして語り出す。

「ダークエルフとは、かつて存在した黒い竜を信奉するエルフ達の事だ。力を追い求めるあまり、黒竜の力を分け与えられ、その証として黒い髪と黒い肌を持ったとされている。自然を尊重する従来のエルフとは反りが合わなくてな。それでも決して悪ではなかったはずなのだが…」

 ボルドの口から、黒竜という言葉が出た瞬間、アイテールがわずかに顔を歪めた。同じドラゴンとして、何か思う所があるのだろうか?

 その時、倉庫街の方向から、激しい爆発音が鳴り響いた。
 
 アイテールはすぐに飛翔し、城の屋根からそちらを見やる。
 その瞳に映ったのは、遠目にも解るほどに肥大化したナヴ・グロワの姿だった。
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